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No tech No life 企業博物館に行ってみた Vol.2 ASIMOの祖先・兄弟10体が休息する空間
日本を代表する2足歩行ロボットとして、ASIMOを知らない人はいないだろう。そのASIMOに至るまでのHondaのロボット開発の歩みを、順を追って見られるのが、栃木県の「ツインリンクもてぎ」にある「ファンファンラボ」である。〔タイトル写真:ファンファンラボに並ぶ歴代の2足歩行ロボット〕
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:08.08.21
初号機は「自分の脚の採寸」から始まった
 もはや「歩く」のは当たり前。軽やかに踊る、最高時速6qで走る、走りながらスムーズに方向転換するなどのパフォーマンスをこなし、今年初めには、複数体のASIMOが協調・連携して、道順を自分たちで判断しながらお客さんを案内し、飲み物をサーブするといった高度な技も披露してみせた。そんなASIMOに至るHondaの2足歩行ロボットの生みの親と言えるのが、ロボット開発のチーフを務めてきた広瀬真人氏。中途採用でHondaに入社したとたん「鉄腕アトムを作れ」と言われて驚いた、というのは有名な話である。

 「正直『できるわけがない』と思いました。でも、やらせてもらえるなら面白いとも思ったんです。
 最初に書いた企画は大失敗で、当時の社長にかなり怒られました。人型ロボットなんてものを考えたこともない。とりあえず人の輪郭を描いて、その中に適当にメカを描き入れてみたんです。そうしたら『設計図になってない、動くはずがないだろう!』って。まあ、当然ですよね(笑)。
 けれど、前の会社なら社長なんて雲の上の人。そんな人が、直接あれこれ言ってくれるのがうれしくもあった。その後、悶々として部屋で考え込んでいると、突然社長がやってきて、『どうだ、進んでるか。だいたいな、身体で考えないとダメなんだよ』と、また怒られたんですが」

 そしてなんとか作り上げたのが、1986年のE0である〔写真1〕
「どんな寸法バランスで作ればいいのかも手探り。実はこのE0は、私自身の脚をメジャーで測って作ってあるんです。あとから『短いですね』と言われたり……」
 まだ姿勢制御のコントロールはなし。身体の重心が常に接地した足裏にある「静歩行」で、しかも一歩に約5秒もかかった。それでも、ここにHondaのロボットは「第一歩」を踏み出したのである。
写真1
▲写真1
写真2 E0に続き、関節の位置や動きを研究・解析したE1、E2
▲写真2
E0に続き、関節の位置や動きを研究・解析したE1、E2
「脚型ロボット」から、ついに「人型」へ
 その後のE(experimental)シリーズ開発の中で、Hondaのロボットは歩行の理論を掘り下げ、E2、E3において人と同じように重心がなめらかに移動する「動歩行」を実現。続くE4〜E6で、なめらかで安定した動きを得る制御技術を確立していく。
「Eシリーズ後期から『そろそろ発表したいな』と思い始めていました。けれど当時の社長に『お前らが開発したいのは人型だろう? 下半身しかないじゃないか』と言われて」

 こうして開発されたのが、人型を実現したP(prototype)シリーズである。すでにEシリーズ後期で、将来荷物を運搬することも考え、50s程度の鉛板を乗せた試験もしていたので、上半身の搭載自体にあまり不安はなかった。「初めての人型」P1〔写真3〕は、写真で比較すればわかるように、下半身はほぼE6のまま〔写真4、5〕。しかし、上半身の機能については、かなりの議論があったという。

広瀬真人氏
広瀬真人
株式会社本田技術研究所
基礎技術研究センター
第2研究室 室長 上席研究員
「私は、身体をひねったりかがんだりできるよう、腰の関節をぜひ入れたかった。しかし、周りは『上半身を支えられない』と猛反対。リーダーの一存で進めては士気にかかわるので多数決をとったんですが、結果は、賛成は私だけ、私に気を使ったか副リーダー格の2人が意見保留、あとは全員反対です。
 口惜しくてねえ(笑)。『なんでみんなわからないんだよ』ってね。通勤途中、考え込んで普段と違う駅で降りちゃって、15分くらい歩いて、やっと気付いたり。
 ただ、『今回は付けないが、次は付けるぞ。オナカは空けとけ』と言い張って、だから、P1はそこがスカスカ。いわば次期開発予定地になってるんですよ。けれどそれを除けば、新たに付けた手を使ってドアの施錠もできる。消火器も扱えた。当時としてはとてもよくできたロボットでした」

 次のP2〔写真7〕こそ、1996年、Hondaが初めて2足歩行ロボットの開発を発表、世界を驚愕させたモデルだが、広瀬氏によれば、これはP1の“マイナーチェンジ”。
P1を発表してもよかったんですが、『これじゃ悪役顔だ』〔写真6〕と。『こんなところに目がある人間がいるか。だいたい、技術屋たるもの、視線は高くないとだめだろう』なんて、わかったようなわからないようなことを言われましてね(笑)。そこでカメラアイを上部に移動、より人間らしい形にして、各部もカバーをかぶせた。コンピュータ、電源も内蔵しましたが、機構はP1とさほど変わらないので、開発もP1から1年と間を置いていません」
 ちなみに広瀬氏がこだわった腰の関節は、P4(P3改良型)と呼ばれるモデルで試験され、その成果を元に2005年のASIMO改良時に実装された。P4は「ファンファンラボ」には置かれていないが、後々につながった意義のあるモデルだと広瀬氏は言う。
写真3
▲写真3
写真4 E6脚部
▲写真4 E6脚部
写真6 P1上半身
▲写真6 P1上半身
写真5 P1脚部
▲写真5 P1脚部
写真7
▲写真7
まさに「一発勝負」だった紅白出場
 1997年には、各部を洗練、軽量化したP3が完成〔写真8〕する。しかし一方で、開発チームは一つの壁に当たっていた。確かに、なめらかに人間の動きを再現できるロボットはできた。では、「ロボットに何をさせたいのか、どんなロボットが作りたいのか」――。
「当時、われわれの間で『松竹梅構想』というのがあったんです。ロボットの大きさを松竹梅にランク付け。松は大人サイズで、人のできる仕事を何でも代行できる。竹は身長120p前後の小学生サイズ。梅はもっと小さい玩具サイズです。
 振り返って『われわれが作りたかったもの』は何かと言えば、人の身近なところでお手伝いをしてくれる存在。けれど、人は異質なものには恐れを抱く。身近なロボットとして、大人サイズは大きすぎる。一方で、100p以下では生活の中で必要な場所に手が届かない。『よし、小学生サイズでいこう』と――そこにたどり着くまで、開発から離れて約1年半、議論を繰り返していました」

 そんな議論が、2000年のASIMO〔写真9〕登場に結びつく。ロボットは重く、ゴツいというイメージを覆し、サイズだけでなくデザインも子供らしいかわいらしさを実現。もちろん、そのサイズに収めるための要素開発に加え、よりスムーズな歩行を行うための予測運動制御など、新たに盛り込まれた技術は多い。ASIMOは11月の発表直後、年末の紅白歌合戦にも出場、SMAPとの競演も果たした。
 もちろん、今でこそさまざまなパフォーマンスを軽々とこなすASIMOも、当時はまだ「生まれたばかり」。十数人のチームがF1ばりのサポート体制を組み、開発ツールも持ち込んで、この大舞台に挑戦したのだった。

「当然、動かすと不具合が出る。徹夜で対処して、次の練習を迎える。3日間、ほとんど眠っていません。そして30日の最終リハーサルになるのですが、ここで、床の柔らかさに気付いて愕然です。本番では60人のダンサーが一緒に踊る。当然、床が揺れる。『こんなとこ、ASIMOは歩けないよ』と言っても、今さら変更は利かない。
 なんとかお願いして、出るときはダンサーの列で隠し、その後はサポート役が横に付く。それ以外のダンサーはなるべく遠くで踊ってもらう……それでも、まさに一発勝負。本当に手に汗握りました。しかし結果は見事に成功。あの日のことは忘れられません」
写真8
▲写真8
写真9
▲写真9
写真10
▲写真10
「おーい、ASIMO、ビール取ってきて」
 その後のASIMOは、自在歩行技術やインタフェースの向上、知能化技術の搭載など進歩を重ね、さらに2005年には、より機敏な運動や、人に合わせた行動が可能になった新型のASIMO〔写真10〕が誕生した。今や世界中で、20体以上のASIMOが、さまざまなイベントなどで活躍中。冒頭に述べたように、高度な連携プレーなども可能になった。
「紅白出演でつくづく感じたのが、『これでは、人の社会で使えるなんてまだまだだ』ということ。そこで、徹底的に外に出す戦略を立て、機能を磨いていったのです。その結果、今は、例えば米ディズニーランドで“レギュラー出演”していますし、洞爺湖サミットでも案内に活躍。かつての紅白出演のときとは大違い。今なら『頼むぞ』と安心して送り出せるんですから」

 初代ASIMOのデビュー当時、「自分がリタイアするころには、家にASIMOがいて、用事を果たしてくれる世の中に」と語っていた広瀬氏。その夢は実現できそうだろうか。
「あきらめていませんよ。まだ10年近くありますからね。『ASIMO、ビールを頼む』と言えば、冷蔵庫を開けて、ちゃんとビールを見極めて取ってきてくれる(笑)。
 もちろん、実現までには多くのハードルがあります。人の生活の中で、一緒に活動するロボットであるからには、そこにいて誰も不自然とは思わない存在でなければならない。それには『ASIMOがいて違和感がない空間』のあり方そのものから考える必要があるし、とはいえ、ASIMOの側もそれに甘えてはダメ。まだまだ、考えるべきこと、すべきことはたくさんあるんです」
▼写真11 歴代のHonda2足歩行ロボット
▼写真11 歴代のHonda2足歩行ロボット
見学情報
ツインリンクもてぎ ファンファンラボ
公開・非公開の別
公開
公開時間
平日
土・日・休日
9:30〜17:00
9:30〜17:30または18:00
利用できない日
メンテナンス休業日
(年2回、1月下旬・6月下旬)
利用料
大人(15歳以上)
子ども(小・中学生 6〜15歳未満)
幼児(3〜6歳未満)
1200円
500円
300円
所在地
〒321-3597 栃木県芳賀郡茂木町桧山120-1
電話番号
0285-64-0001(代表)
HPアドレス
http://www.mobilityland.co.jp/fanfunlab/
最寄駅
真岡鉄道 茂木駅 JR 宇都宮駅 JR 水戸駅
取材協力
本田技研工業株式会社
株式会社本田技術研究所
次回予告 次回の掲載は9月18日、「街の神話・サーキットの伝説をつくった二輪車の名機」(仮題)です。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
「ファンファンラボ」に展示されているのは、すべて試験などに使われた実機。「転んだ?」と思われる傷を補修した跡があったり、後ろに回ってみるとコネクタにラベルがついていたりするのが、なんともリアルです。「ASIMO頑張ったんだなあ」と擬人化するより、傷を補修するエンジニアの姿、コネクタにラインをつなぐエンジニアの姿が思い浮かびます。

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