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松下の名が消える日〜パナソニックを創る350人採用の全貌
プラズマ、液晶、有機ELテレビ全制覇に賭ける松下電器
2008年10月に社名を「パナソニック」に変更する松下電器。グローバルマーケットを意識した、Panasonicブランド価値向上にむけた事業戦略のひとつが、薄型大画面ディスプレイ(FPD)。中でも注目は有機ELディスプレイを使った大型テレビだ。2010年代の実用化に向けて、エンジニア採用が活発化している。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己・設楽政浩)作成日:08.08.29

[Part1]「松下の顔」ディスプレイ事業に最大級の投資。世界ナンバーワンを目指すために

プラズマ、液晶、有機EL──全方位戦略を強める

「パナソニック」への社名変更は社名とグローバルブランドを一本化する意味がある。と同時に、グループ会社で「松下」「ナショナル」を冠する企業も一斉に「パナソニック」を冠する名称に変わる。国内外を問わず世界ブランドへの一元化で、グループ全従業員の活動を「Panasonic」ブランドの価値向上に結集するという意気込みがそこからはうかがえる。

 こうした動きと軌を一にするようにして、最近の松下の設備投資意欲は旺盛だ。ディスプレイに限ってみても、プラズマパネルでは尼崎市に第5工場を建設中。姫路市にはこの夏、約3000億円規模の液晶パネル新工場を着工した。さらに大阪市住之江区のリチウムイオン電池工場新設計画などを含めると、同社が大阪湾岸エリアで行う設備投資は1兆円に上る。なかでも姫路の液晶パネル工場は、これからの有機ELパネル生産でも設備の一部を活用できるとされる。
「これほどの投資が一挙に進むのはかつてなかった。プラズマ、液晶といった薄型テレビにおいても、グローバルシェアでトップクラスを奪取するという、強い意志の表れ」と言うのは、松下電器・グループ採用センター・キャリアリクルーティング室の蔭山陽洋室長だ。一連の投資の大きさを目の当たりにして、松下で働く社員自らも、グローバル市場に向けた本気の挑戦に、気持ちを新たにしているのだ。

 松下がこれほどまでにディスプレイにこだわるのは、「テレビ事業は松下の顔」というこだわりがあるから。プラズマ、液晶、さらに次世代の有機ELという3つにわたってディスプレイ事業を展開する企業は世界的に見ても少ないが、こうした“全方位戦略”は当分続くと思われる。超大型テレビはプラズマ、中小型は液晶、そしてハイエンドのニーズには有機ELというように、デバイスの特性を生かした商品展開が今後進むだろう。

 技術的に見ても、プラズマや液晶パネル開発の蓄積は、次世代有機ELの布石になる。とりわけ液晶と有機ELではいくつかの部分で共用できる技術がある。全方位戦略はその意味でも重要だ。

蔭山陽洋氏

キャリアリクルーティング室
室長 蔭山陽洋氏


単なるデバイスではなく、テレビを作れる面白さ

蔭山陽洋氏

 液晶については、松下、東芝、日立ディスプレイ共同出資の薄型テレビ向け液晶パネル製造会社IPSアルファテクノロジ(千葉県茂原市)を今春子会社化し、自社製造を本格化させている。

 その陣容をさらに強化するために、松下は液晶パネル、回路設計、外装設計、生産プロセス開発などの幅広い分野の技術者を数十人単位で中途採用しようとしている。国際的な事業再編が進む中で、液晶パネルを開発するメーカーは、国内外併せてもわずか数社に絞られてきたが、その中で松下の強みは、最終的にテレビというセット商品を作れることだ。

「松下は単なるパネルメーカーではなく、テレビを作れる会社。これからのテレビは、単に娯楽の中心というだけでなく、ホーム・ネットワークの中でも中核になる。そのテレビの生産に、半導体設計から機構設計、ソフト開発、デザインに至るまで源流から全体にわたってかかわることができる。そこにやりがいを見いだす技術者は多いはず」と、蔭山氏は言う。

 有機ELについても同様だ。携帯電話やカーオーディオのディスプレイなどはすでに実用化されているが、松下が狙うのはテレビ。松下からの発信はないが、「松下が2011年に40インチ級のテレビを量産するのでは」という予想が、業界内では語られている。

 松下の次世代ディスプレイ開発室にはすでに数十人規模の技術者が集結し、現在は、有機ELディスプレイ開発に全力を挙げているところだ。開発は猛スピードで進んでおり、その原動力となるエンジニアの採用も盛んだ。


[Part2]幅広い分野の技術者を総結集して、2010年代の有機ELはパナソニックがリードする

TFT、パネル、駆動など、応用できる技術を最大限生かす

「有機ELディスプレイは、超薄型・軽量で、かつ高いコントラスト比など美しさでも際だつ。次世代ディスプレイの本命で、2010年代前半からテレビ向け市場が本格的に立ち上がると予測している。当社は、グローバルマーケットにおいて、そのリーダーシップを握りたい」
 と言うのは映像デバイス開発センター・ディスプレイデバイスグループの熊川克彦グループマネジャーだ。

 有機ELとそのほかのディスプレイでは、自発光方式の有機ELには液晶のようなバックライトが不要であり、同じ自発光方式でも放電をベースとしたプラズマに対し、有機ELは電子とホールの再結合に基づくといった技術的な違いがある。しかし、熊川氏が強調するのは、TFT(薄膜トランジスタ)プロセス開発やパネル・装置の設計、さらにパネル駆動技術などは、「有機ELと液晶とでは、かなり共通の部分が使える」という技術の共通性だ。これは生産技術の面だけでなく、エンジニア採用においても強調すべきポイントである。

 実際のところ、有機ELパネルを設計した経験のある技術者は国内にも数少ない。しかし、TFT、パネル、駆動技術などの技術分野でみれば、広くFPD業界、半導体業界、有機化学業界、映像機器業界などに、経験をもつ技術者はいる。たとえ有機ELは未経験であっても、それぞれの業界における専門知識と経験は十分活用できる、というのだ(図1)。

熊川克彦氏

映像デバイスセンター
ディスプレイデバイスグループ
グループマネジャー

熊川克彦氏

図1 有機パネル開発に活用できる専門知識と経験

 しかしながら、30〜40インチ級の有機ELテレビを量産化するためには、かなりハイレベルな技術が必要となることは間違いない。有機ELディスプレイの開発でこれまでネックとされていたのは、高発光効率や長寿命を実現する材料デバイス技術、大画面を実現するプロセス技術、高画質・低電力を実現する駆動技術などであり、これらの課題を量産までに一つひとつクリアしていかなければならないからだ。

「例えば、パネル製造に欠かせないEL発光層の形成技術ひとつとっても、真空蒸着以外に、転写技術や印刷技術などいくつかの方式があり、大画面化にはどれが最適なのか、現時点ではまだ決着がついていない」(熊川氏)のだと言う。

 デバイス開発における最適技術を模索しながらの、商品化への道。険しい道のりになることは十分に予想できる。そのためにも、有機ELディスプレイを成り立たせる要素技術をもつエンジニアを、幅広い業界から採用する必要があるのだ。有機ELディスプレイ技術を要素分解してみると、図2のように技術のすそ野の広がりがわかる。まさにディスプレイは技術の集合体であり、各分野の技術者の知恵の総結集が必要なゆえんだ。

図2 有機ELディスプレイは、記述の集合体

全体を俯瞰して“違いのわかる”エンジニアが欲しい

熊川克彦氏

 とはいえ、松下が水面下で進めてきた有機ELのR&D過程で、「要素技術にたけた優秀な技術者はある程度、数がそろってきた」(熊川氏)。そこで今後の商品化・量産化の道のりを想定すると、求められるエンジニアの特性も少し変化していく。

「ひと口で言えば、デバイスやプロセスの全体がわかる人。例えば、TFT開発の全体の絵が描けて、その可能性を肌でわかっていることが大切だ。そのためには半導体の専門知識はもちろんのこと、半導体工学や業界全体の進展状況をスケッチし、その中から最適技術を選び出せるような、“目利き”が欠かせない。技術の中には、表面的にはよく似ているが、実際はかなり違っているというものがよくある。それを見極められる“違いのわかる人”がいるかいないかは、商品化の過程では決定的に重要だ」と熊川氏は言う。

 暗中模索の状態を抜け出て、他社に先んじた製品開発を行うためには、こうした“目利き”とも“コーディネイター”とも呼ばれる人たちの力が欠かせない。野球でいえば、個々の打者の打撃力だけでなく、チーム全体の打率をアップさせることができる打撃コーチ役が必要、ということになるだろうか。

 こうしたニーズの背景にあるのは、もちろん、繰り返しになるが、松下がデバイスメーカーであると同時に、テレビのセットメーカーであることが挙げられよう。松下のデバイス開発者には、自身が専門研究に身を投じるだけでなく、たえずほかの部材メーカーやセット部門と接しながら、デバイスを商品としてまとめていく力量が問われる。「泉を掘るだけでなく、その流れを集めて一本の川に変える力」(熊川氏)だ。

 また、先に述べたようにディスプレイは総合技術であることもあり、異なる分野のエンジニアとの相互協力が欠かせない。人の意見を聞いて、全体のバランスを、少し高い位置から見ることができることも重要な技術者としてのセンスだ。

「ひとつのチームを10人で構成するとすれば、要素技術のエキスパートが8人に、目利き・コーディネーター役が2人というのがバランス的にはいちばんよい」と熊川氏。映像デバイス開発センターの有機ELチームでは、この「2」の部分を担える人材にも目配りしながら、「今年から来年にかけて、全体枠で数十人規模のエンジニア中途採用を進めたい」(熊川氏)としている。


[Part3]独身寮に帰っても次世代技術の話で盛り上がる。有機ELエンジニアの興奮する日々

 映像デバイス開発センターの次世代ディスプレイ開発室。年代を超えた松下グループ内の人材に加え、最近、ほかのディスプレイメーカーから転職してきたエンジニアも数多い。異種混交の風土の中で、世界初の大型有機ELテレビに向けた開発が進む。若手エンジニアのひとり、近藤哲郎さんにその思いを聞いた。

液晶とは違う難しさを、いかにブレークスルーするか

 有機EL素子のプロセス設計にかかわっています。直接の担当は、プロセスのインテグレーション。とりわけCIM(コンピュータ統合生産)と呼ばれる生産管理システムの構築です。といっても、量産工程を管理するためのものではなく、試作工程で得られたデータを収集し、それを通してプロセスにおける技術課題を見いだしたり、将来に向けてより効率的な生産プロセスを確立したりするための準備過程という位置付けの仕事です。

 3年前の入社以来、有機ELの技術開発にかかわってきたのですが、当初は個々のプロセスについて試行錯誤しながら実験室で実験を繰り返す毎日でした。ここで実際に手を動かした経験を生かして、現在担当しているCIMシステム構築でもできるだけ具体的なプロセスをイメージしながら考えるように心がけています。

 有機ELは液晶技術の延長といわれることもありますが、個々のプロセスに関する実験やCIMを通じたプロセス全体の検討で液晶プロセスとの対比を検討するにつれ、たしかにそういう面がある半面、やはり液晶とは全く違う独自の側面もあるということも理解するようになりました。テレビを目指した技術開発では、パネルの大画面化・高画質化は人類未到の領域とさえいえると思います。

 どんな技術開発でもそうだと思いますが、私の仕事でも何か前例を参考にすればよいというものではない場合が多く、そのぶん苦労が多いことは確かです。しかし、その中で少しずつ課題が解決されてきたという実感をもっています。ほかのセットメーカーや材料メーカーの技術動向をみても、日本の有機ELの技術全体が急速に向上していることがわかります。松下はその中でリーダーシップを発揮していかなければならないし、その責任が私たちの肩にかかっているということを日々痛感しています。


映像デバイス開発センター
次世代ディスプレイ開発室

近藤哲郎さん


分野・経験・年齢を問わず、アイデアが出せる風通しのよさ

 大学院時代は、生物物理が専攻で、バクテリアの鞭毛の動きをヒントに生物モーターのような新しいデバイスの原理を研究していました。その研究がいま、直接生かされているわけではないのですが、有機ELに限らずテレビの技術というのは、物理、化学、機械、電気など多くの技術の総合であり、各分野の先端技術の集約でもあるので、私のような経歴の技術者がいても全然不思議ではありません。

 中でも有機ELは新しい技術なので、いろんなバックグラウンドをもつ技術者が始終、ディスカッションを繰り返す風景が日常的に見られます。若手の突拍子もないアイデアが、話題の中心になったり、採用されたりすることもよくあります。こういう点では松下の研究所はとても風通しがよい。技術分野や年齢・経験を問わず、発言し、実行し、成果を問うというR&Dのよさがここにはあると思います。

 忙しい中でも、労働時間は自己裁量制なので、人から「やらされている感」というのはないですね。私だけの例かもしれませんが、仕事を終えて独身寮に帰った後も、違う事業部や職種の人と会う機会が多く、寮でごはんを食べながらでもよく技術的な議論をします。ついつい夜遅くまで話し込んでしまうこともありますが、こんなときに問題解決のヒントをもらったり、何かアイデアが浮かんだりこともあるんですよ。

 職場の印象としては、多様な技術者が好き勝手を言っているように見えて、いつの間にかある方向に動き出している……といった感じですね。それもこれも、単なるデバイスやパネルを生産するだけでなく、テレビを作るんだという思いがみんなにあるから。有機ELテレビで、世の中をいい方向に変えることができるんだという確信が、私たちの原動力になっています。


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