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不特定多数を相手にするBtoCの刺激的な開発に惹かれ キャリアを大胆に軌道修正したW.Aさん
勤務先に不満がなくても、時として転職したいという衝動にかられることがある。システムの受託開発会社で順調にキャリアを伸ばしてきたW.Aさんの場合もそうだった。彼の転職は、ひとつのWebシステム開発がきっかけだった。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.06.16
エンジニアに限ったことではないが、それまでの自分が培ってきたスキルや経験、立場や人脈などへの固執から離れることで、急に視野が開け、新たな成長をスタートさせられる場合がある。W.Aさんが大幅なスキルチェンジを覚悟して目指したのは、BtoCの世界。それまで企業内のシステム開発案件において、先駆的な技術をいち早く習得することで、一定のポジションを築いてきた。ところが、ひとつのBtoCサイトの構築案件を通して、広く一般を相手にするネットビジネスに対する興味が高まってきたのだった。飛び込んだのは、大手ECポータルサイト運営会社。そこで、培ってきたネット関連の技術が生きる場面もあれば、まったく通用しない場面にも遭遇するなど、刺激的な舞台だった。
Profile 大手ECポータル企業 運用チームリーダーW.Aさん(34歳)
大学を中退し、ソフトウェア開発未経験で受託開発会社に就職。約10年間にわたってスキルを磨き、32歳時で転職。現在は大学の通信課程を受講し、物流や小売ビジネスにも興味をもつ。
転職前(Webシステム開発エンジニア・31歳) 転職後(自社ECポータルサイト運用エンジニア・33歳)
年収約450万円。別に収入面に不満はなかった。 給与 年収約620万円。大手企業がバックボーンなので給与水準は高い。
9時〜20時(カットオーバー前は終電車になることも) 勤務時間 9時半〜24時(障害が発生すれば休日や深夜に会社に駆けつけることも)
いい意味で緩い雰囲気。しかし、新しい技術への取り組みには積極的な風土で、仕事はしやすかった。 職場環境 目標評価制度が浸透していて、自分自身の業績向上のために緊張感あり。
良好。10人弱の会社ということもあり、気心が通じていて、居心地はよかった。 職場の
人間関係
組織がしっかりしているので、4人の部下のチームリーダーとしてふるまう。
今回の注目!
小規模な受託開発企業だが、元請けとして受託することが多く、開発全般を任された。 仕事の中身 自社サイトの運用。新しいサービスの導入検討からネットワーク・サーバー監視、障害対応、予算管理まで担当。
ひとつの案件で、要件定義から開発、外注管理、納品まで主導的な役割を果たす。 仕事の
進め方
運用チームのリーダー。システム全体に関する決定権や主導権は企画部門やバイヤーが握っているので要求に応じた運用体制を組む。
ひとつの受託案件の実質的なプロマネ+実行部隊のリーダー。 仕事の
役割
自社ECサイトを24時間365日、安定して稼働させるための何でも屋。「エンジニア」である前に「小売店の店員」という意識。
転職前編 技術バカにはなりたくない
エンジニアとしてのスタートから苦労した。訳あって大学を中退。将来を再設計するために、アルバイトをしながら手に職がつく仕事を探した。転職雑誌で未経験可能なコンピュータエンジニア特集で見つけたA社に応募。採用されたのはいいが、従業員が10人にも満たない会社だったから、研修らしい研修もなく、いきなり現場に配属された。仕方がなく、見よう見まねで仕事を覚えた。時はWindows95が世に出る直前である。

ラッキーだったのは、何とか潜り込むことができたこのA社が実力のある会社だったことだ。創業者たちに技術力があり、元請けとして依頼されることが多い。そんな会社が、まったくのIT未経験だった自分を採用してくれたことは、今になって考えると大変な幸運だったと思える。

経験者や理系出身者に追いつくには、自分で動いて技術を磨くしかない。当時の主流だったクライアント/サーバシステムの開発技術を必死に覚えた。そうしてしばらくたったころ、国内でインターネットのサービスが始まった。それまで経験したエンジニアがほとんどいなかったから、チャンスだと考えた。
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必死でネットワークの仕組みを勉強し、自力で社内のメールサーバ、DNSサーバ、Webサーバを立ち上げた。それが契機となって、新しい技術への取り組みに関しては、けっこう任されてもらえるようになった。Linuxに取り組んだのもこのころである。PerlやPHPでちょっとしたバックアップシステムをつくり、オープンソース普及のために法人会員として参画しましょう、と社長に提案して日本Linux協会に入会。会社をあげてWebとオープンソース技術で勝負することで自分のモチベーションを高めた。もちろんJavaにも手をつけた。そして、クラサバ関連の技術をあっさり見切った。Apacheで完成度の高いサーバー構築が可能だと知り、Webとオープンソースの技術で勝負していこうと考えたのである。

それ以降、Web技術を用いたBtoBシステムの開発案件を次々に任された。病院内の電子カルテシステム、社内電子決済システムなどを手掛けた。はたからは順調なエンジニアのキャリアに見えただろう。だが、実は先端技術を追いかける毎日に疑問を感じ始めていたのだ。この先も新しい技術を追いかけ続ける、技術しか語れない人生なのだろうか……と。
転職活動編 コーディネーターを代えてほしいと直訴
そうした思いが次第に強くなってきたあるとき、はじめてBtoCシステムの開発を手掛けることになった。そして、この案件が自分自身に大きな意識の変化をもたらした。開発したのは、ある情報公開サイト。まずは1日に何万ものページビューがあり、何千人という会員がエントリーすることに驚いた。自分がつくった動的な画面を、膨大な数の人々が見てくれることに胸が躍る。BtoCシステムの醍醐味を発見したのである。すぐに不特定多数のネットユーザーを相手にする場合のサイトの見せ方や仕組みづくりに興味をもった。

その興味はさらに深化し、使いやすいシステムってどのようなものだろう、同時に何百ものアクセスがあっても軽くて落ちないシステムにするにはどうしたらいいだろうか、などと考えるのが楽しくなった。さらに、このシステムの背景にどんなサービスやビジネスが動いているのかということにまで興味が広がった。BtoBのシステムを開発しているときにはなかった興奮だった。

それで本格的にBtoCの仕事がしたくなった。ところが、A社の安定取引先にはBtoCの需要がほとんどない。転職するか、お世話になったA社に居続けてBtoBシステムをやり続けるか、二つに一つしかなかった。社長に思いのたけをぶつけると、前向きな考えだから快く送り出してあげようと言われた。感謝してもしきれない。これで腹は決まった。
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さっそくネットで人材紹介会社に登録。すぐに連絡があり、会って要望を伝えた。要望とはもちろんBtoCのWebシステムに携わりたいということである。ところがなかなか担当のコーディネーターが動いてくれない。転職の公募サイトには応募してみたい企業の求人広告がたくさん掲載されているのに……である。何となく、こちらの真剣さが伝わっていないような気がする。

そこで意を決し、人材紹介会社に電話して、コーディネーターを代えてほしいと訴えた。言ってみるものである。新たに担当となったコーディネーターは、すぐにこちらの条件に合う企業を紹介してくれた。その企業は国内のECマーケットで存在感を高めている大手ECポータルサイト運営会社B社だった。面接では自分の技術力をあえてアピールせず、コンシューマ相手のWebシステムを手掛けたいとの思いを訴えたのが奏功したのだろう。運用チームのリーダー候補として採用された。
転職後編 まだまだ勉強が足りないと痛感
開発職にはこだわっていなかったので、配属先の運用の仕事には満足している。主な業務はシステムの運用監視、障害対応、パフォーマンス向上のための施策、セキュリティー関連、運用チームの予算管理、メンバーマネジメントである。自社システムの運用だけに、ユーザー獲得企画やサイトの見せ方に関する企画にも参画した。サイトの仕組み全体が見える立場なので、ネットで受注後のリアルな商品配送の仕組みにも興味をもった。

BtoCの世界は知れば知るほど面白いと感じている。Webという、企業と膨大な数の個人を結びつけるメディアを用いて、どんなビジネスが出来上がるのかを目の当たりにしていくのは飽きることがない。また経営側の視点、ユーザー側の視点それぞれに立って最善のWebシステムを考えていくことは、知的好奇心を刺激する。

そしてB社に転職して最も変わったのは「バグや障害に対する意識」。A社のようなソフトハウスでは、バグなどの障害は瑕疵対応程度の「軽いもの」という意識だった。しかし今担当している本番サイトの運用においては、バグだろうとハード障害だろうとサーバが止まったら「終わり」。
つまり、サーバが停止することによってネットで買い物ができなくなるということは、時間当たり何百万円という受注損を発生させる大事故に直結してしまうのだ。
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またB社に転職してから、Webを軸に人やお金や商品や情報がどのように動くのか、もっと深く知りたいと思うようになった。そこで、少し前から某大学の通信課程で経済を学び始めた。ネットを取り巻く世界をより高い視点で見ることで、エンジニアとして大きく成長できると確信している。かつてのように、ただ先端というだけで新しい技術の習得に取り組んだときとは異なる充実を日々感じている。
W.Aさんの転職考察 スキルチェンジを成功させる鍵は、担当してきた開発案件を「広い視野」で理解すること
転職して良かった点
・ECにおける物流や小売に関する知識がついた。
・経営に関する興味がわき起こってきた。
・BtoCシステムの醍醐味に触れることができた。
・技術しか知らないエンジニアから脱皮できた。
・収入が3割アップした。
・会話の中で「ユーザ」という呼び方が「お客様」に変わった。
転職して悪化した点
・残業がかなり増えた。
・障害が発生すれば駆けつけなければならないのでストレスも増えた。
W.Aさんのケースは開発職から運用職への単純なスキルチェンジではない。W.Aさんから学びたいのは、自分が担った開発案件が何のために必要とされ、何を生み出し、社会のどのような仕組みに役立っているのかを、高い視点で理解しようとしたことである。そこまで視野を広げたエンジニアは、自分が次に何をすべきか、どこに挑もうか、自ずと見えてくるはずだ。仕事の枠を超えて大学の通信課程で経済を学び始めたW.Aさんは、自らのキャリアプランにおいて、いずれ大きな成果を上げることだろう。
今回の転職ノウハウ:エンジニアとして行き詰まりを感じたら、視野を広げることを意識したキャリア形成を考える
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