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5割以上を誇る即席麺プラントの世界シェア ちょっと小腹が減った、料理の時間がない、災害などで生鮮食料品が不足――私たちの生活のさまざまなシーンで活躍するのが、カップ麺や袋麺などの即席麺だ。カップ麺にいたっては「エンジニアの友」とも呼べる存在であり、今年は日清食品の故・安藤百福氏が1958年にチキンラーメンを発明・発表してからちょうど50年。即席麺は世界で年1000億食近くが消費されるという「グローバル商品」に育った。 その即席麺、もちろん手作りでつくっているわけではない。食品メーカーの工場では、小麦粉をこねるところから封入まで、基本的にすべて全自動化されている。その即席麺プラントで世界シェア5割以上を確保しているのが、群馬県にある冨士製作所だ。同社で製麺プラントの設計を手がける安部武男氏は語る。 「インスタントのラーメンは一見シンプルな製品に見えますが、おいしい麺づくりは本当に知恵と工夫の積み重ね。製麺プラントの設計をやってみて、初めてその面白さや深さを知りました」 |
即席麺の製造プロセスを簡単に紹介しておこう。まずミキサーで小麦粉をかん水と適切な比率で混ぜてこねる。こね上がった麺のもとをローラーで薄くのばし、それを重ね合わせてから麺の細さに切って生麺が完成。その生麺を糊化機と呼ばれる蒸し器に通し、人間が消化できる状態とし、さらに1食分ずつの大きさにカットする。その後は油揚げ製法の場合はフライヤー(油揚げ機)、ノンフライ製法の場合はドライヤー(乾燥機)に通し、冷却機で冷ます。こうしてでき上がった麺をスープやかやくとともに袋詰めにし、あるいはカップに封入して製品が完成する。この間、ほぼすべてオートメーションだ。 冨士製作所の売り上げのうちの約9割がこの即席麺プラントで、残り1割が菓子などの製造装置。即席麺ライン全体の価格は仕様によってかなり異なるが、袋麺の場合で7000万円〜8000万円、カップ麺の場合で1億2000万円〜1億3000万円というから、さすがに安くはない。 |
細部まで徹底してこだわる麺づくりのノウハウ 安部氏は各工程に使われる多種多様な装置の設計を手がけ、今ではつくったことのない装置のほうが少ないくらいだという。ちなみに設計担当ではあるが、生産ラインはテーラーメード。顧客である食品メーカーなどのニーズに合わせて適切な構造や仕様を考えたり、独自の改良を試みたりと、仕事内容は実際には開発に近い。 「製麺プラントは、工程全体にわたっていろいろな工夫が盛り込まれているんですよ。例えば生麺をつくる際には、ローラーでのばした2枚の薄い生地を重ね合わせて1枚にしますが、これは麺ができあがったときに食感をよくするためです。食品メーカーさんによっては、2枚の生地の間にさらに別の材料を入れて、独特の食感を出す場合もあります」 創意工夫は枚挙にいとまがない。ミキサー内では細い棒がぐるぐると回転して小麦粉をこねるのだが、断面は外側の棒が薄く、内側の棒は丸に近い形状になっている(写真右上)。こうすることでこね上がり具合がよくなるのだそうだ。 また、生麺を蒸す糊化機内では、高温の水蒸気を装置内の底面に吹き付けて全体をむらなく蒸すようになっている。「直接吹き付けると、温度が高すぎて乾いてしまったりするんですよ」と安部氏は語る。 激しい開発競争を繰り広げている食品メーカーがメインクライアントであるため、厳しい要求も多い。ある食品メーカーは、即席麺の内容量のばらつきを徹底的に抑えるため、驚くような提案をしてきたという。 「こねた小麦粉をローラーでのばしたとき、その厚さをローラーの中央部と縁辺部で0.03mm以内の差に抑えてくれというものでした。麺の生地は弾力があるため、のばした後でわずかにもとに戻ろうとする力が作用します。その厚さをきっちりそろえることはとても難しいんです。こういう高レベルの要求は結構多いですよ」 ベビースターラーメンはつくり立てがうまい! 即席麺製造の創意工夫の背景にあるのは、フレキシブルなアセンブリー技術である。使用される要素技術は多岐にわたり、ラインを動かす動力としてはモーターやアクチュエーター、糊化機やフライヤーでは温度管理、カップ容器への充填工程などでは工業製品の製造を連想させるメカトロニクス装置技術、CCDカメラによる検品も行われる。これらの技術を自在に組み合わせ、要望されるスペックに適合するもの、あるいは性能や拡張性などで顧客ニーズを先取りした製麺プラントを設計・開発する。 ノウハウの塊のような即席麺プラントの設計はどのようなエンジニアに向くのだろうか。安部さんは、転職のハードルは案外低いと語る。 「モノづくりが好きな人、機械に興味がある人であれば、実務未経験でも十分にやれるのがこの世界。弊社には文系出身の転職エンジニアもいますが、彼らも仕事を始めてから2、3年で十分仕事を任せられるようになりました」 即席麺プラントの進化に終わりはない。技術革新や実用新案が出るたびにこれまでになかった製品をつくることが可能になる。食品メーカーなどのオーダーを具現化するばかりでなく、よりおいしい即席麺を、自ら生み出すこともできるのだ。 「弊社では即席麺の独自研究を行っており、麺をきちんと理解していることが、世界トップシェアの製麺プラントに寄与していると思います。私が手がけた最近の変わり種では、ベビースターラーメンシリーズに追加された『ドデカイラーメン』。ひらべったいカリカリの食感の麺なのですが、あれをうまく揚げて味付けする製法を実現するのにウチの装置が役立ちました」 即席麺は今や、世界で年1000億食近くが消費されるという定番商品。その食文化を支える即席麺プラントづくりには、大いにやりがいを感じるという。 「機械づくり以外にもいろいろと面白い体験ができますしね。そうそう、ベビースターラーメンはつくり立てを食べると、これが実にうまいんですよ!」 |
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世界的に食の重要性が再認識されている今日、フードプラント業界の存在感はますます高まってきている。分野的にも食肉加工、製菓、製麺、冷凍食品など、食品加工機器は人間の口に入るあらゆるものに関与していると言っていい。BRICsをはじめとする新興国を中心に世界需要が大幅に増加していることから、フードプラントメーカーの求人は以前に比べて活発になっている。 リクナビNEXTでは「食品加工」「フードプラント」などをキーワードに検索をかけると求人情報をゲットできる。ただ、フードプラントメーカーがすべてキーワード検索でヒットするわけではないようだ。気になる読者はフードプラントメーカーの社名を直接入力し、求人情報をチェックしてみるといいだろう。 エンジニアに求められるスキルは、プラントエンジニアリングの全体設計と要素技術の2系統に分かれる。プラントエンジニアリングのほうはオートメーション工程設計の経験があれば、化学、機械といった分野を問わず歓迎。扱う品目が違うだけで、工程設計の考え方は似ているからだ。ハードウェアだけでなく、工程を管理するための業務系ソフトウェア経験者も知識を生かせる場面がありそう。 こうした工程設計経験がなくとも、フードプラントに使われる要素技術のスキルをもっていれば何らか生かすことができるだろう。その一部を列挙してみると、まずはプラントを動かすためのメカトロニクス、制御、機械設計、センシング技術などの経験は、ラインの詳細設計を行ううえで有用になる。 また、冷凍・冷蔵、電子レンジやヒーター、カッティング、計量など食品の加工や調理に関する技術も使える。もっとも、これらの経験がなくとも製造業の実務経験があればOKというケースも多く、未経験や経験の浅いエンジニアも積極的にトライしてみる価値は大いにある。 自分のつくった食品が世界中で量産され、笑顔で「うまい」と舌鼓を打たれるなど、想像しただけでもワクワクしてくるではないか。 |
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