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時代を創った元経営トップに聞く「今こそ日本の逆襲」
元ソニー会長出井氏が語る〜デジタル時代の日本進化論
なぜ、日本発の新しいモノが出てこないのか。2005年までソニーの社長、会長兼グループCEOを務めた出井伸之氏に、日本の製造業弱体化の要因と、エンジニアの果たすべき役割について話を伺った。エンジニアはチェンジすべきと語る出井氏の真意とは?
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:08.06.11

日本の製造現場で何が起きているのか 出井 伸之氏
出井 伸之氏(いでい のぶゆき)

1937年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。60年、ソニー入社。外国部に配属。2度のスイス赴任の後、68年にフランス赴任、ソニーフランス設立に従事。オーディオ事業本部長、89年取締役を経て、95年から2005年まで社長、会長兼グループCEO。06年、クオンタムリープ設立。ソニーアドバイザリーボード議長、アクセンチュア取締役、百度(Baidu)取締役も務める。多彩な趣味でも知られ、ゴルフ、オペラ、ワインなどを究める。近著に『日本進化論』。


デジタルの時代には、デジタルのマネジメントが必要

 僕にとってのエンジニアのロールモデルというのは、ソニーの4代目社長を務めた岩間和夫さんなんです。岩間さんがやったことは、まさにR&Dでした。今でいえばコンセプトからアプリケーションまで作った。トランジスタを研究し、ラジオやテープレコーダーを作り、半導体の将来を見てそのビジョンを描き、開発現場そのものまで作り上げた。創業者の井深大さんの「こんなことをしたいな」という思いを、ビデオの基本開発を手がけた木原信敏さんたちと、まさに技術で実践していったわけです。そして、こういう人たちが、次のエンジニアを育てていった。

 でも、彼らの評価と今のエンジニアの評価は別に考えなければいけないと僕は思っています。今は時代がまったく変わった。テクノロジーは変化して、デジタルの時代になった。例えばエレクトロニクスなら、これまでのエンジニアというのは、大きく2つの系統に分かれていました。電気・電子系とメカ系です。そしてデジタル時代になって、新たに加わったソフト系が増えているわけですね。でも、多くの会社はまだ、デジタルとは何か、を捉えかねているように思うんです。それはソフトウェアのパワーだ、と理解するのに時間がかかっているということです。

 例えば今、目の前にテープレコーダーと携帯電話がある。アナログとデジタルを比較するのには、とてもわかりやすいプロダクトです。テープレコーダーは4、5人いれば作れちゃうんです。ところが、携帯電話は数百人のエンジニアが必要になる。モノづくりに関して、アナログとはまったく違うマネジメントが求められてくるということです。ところが、このマネジメントができているかどうか。仕事が細分化され、ごく一部のプログラムばかり任されているエンジニアがたくさんいる。しかし、ソフトウェアというのは、大系が重要なんです。この部分だけ取ってみても問題でしょう。


 アナログ時代に優秀なエンジニアをたくさん抱えて好調だったのに、今は苦戦している会社があります。技術には対応しているんです。ところが、マネジメントの変化に対応しきれなかったのではないか、と僕は見ています。4、5人で作れるモノづくりの感覚で、「どうしてそんなに人員がいるんだ」と考えたりしなかったか。人事も、デジタル時代の新しいマネジメントをしっかり認知していたかどうか。品質管理の価値は、アナログ時代よりはるかに大きくなっているのに、その価値をうまく社内に、エンジニアに伝え切れていたか。

 それが簡単ではないことはわかります。だから僕はソニー時代、エンジニアをずいぶん大手コンピュータメーカーに出向させたんです。アナログエンジニアをデジタルエンジニアにするべく全社的に取り組んだ。見えないところで、そういう動きをたくさんしていました。実際、数千人の人をコンバートしましたから。それでいろんなことがわかりました。

 例えば、ソフト系とメカ系は似ているんです。それに対して電気・電子系は違う。電気・電子系は楽観的で、例えば、9回裏でも二死満塁で逆転ホームランを打って勝てると思っているタイプの人が多い。これはこれでいいんです。ただ、メカ系の考え方は違う。コツコツと積み上げないとメカはできない。だから、9回裏2死満塁でホームランはないと思っている。そして電気・電子系は、メカ系のそういうところをよくわかっているわけです。

 ではソフト系はどうかというと、メカ系に似ているんです。電気・電子系の人は、そこを理解しているかどうか。バグが付きものだということも、わからないといけない。バグのないソフトなんてないと、認めないといけない。でも、ソフト系のエンジニアに対して、従来型のマネジメントをしてしまう電気・電子系の管理職が少なくないんです。スペックを決めるのは、電気・電子系かソフト系か。ソフト系のエンジニアがレポートを出すのは、誰か。そういう細かいところが、実は明暗を分ける結果になっているのではないかと思う。


ソフトを社内で、もっといえば業界で共有できないか

 そしてもうひとつ、デジタル時代に欠かすことのできない発想は、モジュール化であり、オープン化、定型化です。今やひとつのプロダクトに、OSがあり、ユーティリティがあり、アプリケーションがあり、とすべて載っている。ところが、プロダクトが違うとそれぞれの部門でわざわざすべてのソフトを作っているわけでしょう。言ってみれば、事業部間で同じことを何度もやっているということ。もしOSを社内で統一できたとしたらどうか。これまで5つのOSが必要だったものが、ひとつで済むようになる。もっといえば、1社レベルではなく、業界で統一できてしまったらどうか。ますます無駄はなくなる。

 縦割りの弊害をずっと言われてきたのに、今なお日本にはLinuxのような発想は出てきません。協調してみんなが使い、みんながブラッシュアップしていけば、圧倒的にいいものになっていくのに、そういうことをしない。汎用性のあるモジュールは絶対にあるはずなのにやらないわけです。アメリカの西海岸のような考え方にはならないんですね。だから、各社がそれぞれ人を使う。だから、とんでもない数のソフト人員が必要になる。似たような仕事をする人員を社内にどっさり抱えることになる。せっかく優秀な人がたくさんいるのに、それを生かし切れていない。エンジニアも不完全燃焼が起きる。

 1社でそれなりのシェアを持っているから、1社プラットフォームで閉じちゃえばいい、という選択もあるかもしれません。しかし、ソフトは数なんです。みんながリファインするからいいものになっていく。では例えば、ヨーロッパのメーカーが全体で連携したらどうなるか。いくら1社が巨大でも全体連携には勝てない。大きな三角形が1個よりも、連携した小さな三角形100個が勝つのがソフトの世界なんです。シェアが大きいからと、ふんぞりかえっていると大変なことになるということです。


 日本の会社が世界で勝っていくためには、こうしたソフトウェアの世界の発想を取り入れて、会社を変えていかないといけないと思うんです。実際、ネット社会というのは、ハードがタダに向かい、ソフトもタダに向かい、コンテンツで勝負する時代になってきている。グーグルがそれをやっているわけでしょう。価値観念が変わってきているんです。これからはおそらく、車もプリンターもテレビも冷蔵庫も基本的にソフトの勝負になる。実際、そういう動きになっている。このままでは、新しい時代に日本は突き抜けられないと思うんです。消耗品みたいにしてエンジニアが疲れ果て、まったく新しいものが生み出せず……。そういうことが、起こりかねない。

 ソフトウェアの価値を認識すること。そして、ソフトウェアエンジニアの力をきちんと評価できる風土と仕組みを作っていくこと。ソフトウェア系の上司が少なくて理解がなかなかもらえない、と思っている人は、自分の苦労をしっかり整理して、これからいい管理職を目指すこと。もっといえば、これがリクルートのサイトだからリップサービスで言うわけではなくて、人がもっと動かないといけないと思う。

 ソフトウェアのエンジニアは、自分を求めてくれる、いろんな会社で経験を積むべきなんです。そうすれば、いろんな会社で求められているもののうち、同じものがあることがわかる。これをプラットフォーム化すればいい。大勢のソフトウェアエンジニアが、このことに気づけばいい。何かがきっと変わると思う。もしかすると、小さな会社に行くのもひとつの方法かもしれない。小さな会社の風土を変える。そこから始めて波を起こす。いずれにしても、どこかで思い切ってやらないといけないことなんです。なぜなら、時代はそういう方向に向かっているわけですから。


なぜ、日本発の新しいモノが出てこないのか

 新しいモノがなかなか出てこない、という声もよく聞こえてきます。でも、その理由を端的にひとつ挙げるとすれば、今のモノを作り続けたいから、ではないでしょうか。情報システムがわかりやすい例ですが、情報システムを入れただけでは、生産性は上がらないんです。古いプロセスのまま仕事をしているのに、コンピュータを入れたからといって、ネットワーク時代のプロセスにはならない。生産性を上げるには、本当に生産性が上がるようにしなければならない。考え方そのものを変えないといけないということです。

 よく言うんですが、アップルのiPodには外装にネジがないんです。つまり、最初の段階から、工業製品ではない、ともいえる。日本の工業製品はこうは作りません。壊れたら修理をするから、ネジが必要になる。では、iPodは何かといえば、ファッションなんです。もちろん、壊れないことが前提だと思う。でもファッションなんです。シャツは洗うけど、ほころびを縫ってまでは着ない。そういう感覚。ところが、日本企業はそう考えない。根本的な考え方がまったく違うということです。

 昔は、ほころびも縫った。でも、今は時代が変わったんです。そして、よりファッション性を支持するようになった。そういう変化を認識しないといけない。もったいないという概念のもとに、コンセプトやデザインに制限を付けてしまってはいけないんです。そういう時代なんです。ファッションだ、と体に染みこませて仕事に向かわないといけない製品もあるわけです。

 そしてもうひとつ、新しいモノの開発は何のためにあるのか、という再定義をすることでしょう。かつてのソニーは調査会社を使わなかった。問うべきは市場で求められているものではなく、潜在的に求められているものだったから。これはリサーチでは出てこないんです。僕自身も、ユーザーとして「こんなものがあったらなぁ」とは思う。でも、そんなものは市場にはないし、ないものは調べられない。会社というのは、その先を行かないといけないということです。


 ピーター・ドラッガーは「研究開発とは、新しい客を作ることだ」と言っていました。果たして、こういう感覚で商品開発が行われているかどうか。基礎研究が行われているかどうか。好きなことだけやっていてはいればいい、ではダメです。客を作らないといけない。その意識が重要です。ただ、新しいモノが出てこないから、未来を作るエンジニアが足りないのかといえば、僕はそんなことはないと思う。大事なことは、バランスだからです。

 実際、新しいモノも出てこないけれど、伝統的なモノづくりもピンチになっているわけです。かつてのようなモノづくりの精度が揺らいでいる。なぜか。今、相当に偏っているのは、エンジニアがコストダウン設計者になってしまっていることだと思うんです。たしかにこれは製造業にとって、とても大事なところです。そして、日本の強みでもある。でも、コストダウンだけでは、いいモノは生まれません。

 製造現場で何が起きているのかといえば、コストダウンのための下請け化だったりする。実際の製造を担っているのは、派遣の人たちだったりする。これでかつてのようなモノづくりのモチベーションが維持されていくかどうか。また、高学歴化が進んで、現場の軽視も進んでいる印象がある。会社によっては、工場に配属されることが左遷のように思われているところもあると聞く。こうした歪んだ意識を変え、現場を強化しないといけない。

 未来を作る研究者も強化する。一方で製造現場も強化する。その両方が必要です。いろんな人がいて、天才がいて、コツコツ努力する人がいて、本当にさまざまな力が重なって、面白いものはできていくんです。推し進めるべきは、そうした多様化であり、全体の意識改革だと思う。日本は今、あらゆる意味で、変わり目にきているということなんです。


自動車と家とテレビが一緒に作られる時代

 世の中の変化というのは、軽いところから始まっています。お金や映画や音楽。そういうものから始まっている。自動車はまだダウンロードできないでしょう(笑)。重量のあるものの変化というのは、これから先に次第に進んでいくということです。ネット時代になり、価値が変わった。技術が変わり、世の中が変わったんです。形がどうなるかは別にして、変化は止めることはできないでしょう。

 さらにアジアの新興国が勃興します。いかに安く作るか、というプロセスマネジメントは、ある時期日本が世界のトップを誇っていました。しかし、いつまでトップを続けられるか、という時期にきた。一方で、大量に安いものを作ることは、ブランドマネジメントとしてはいかがなものか、という発想もする必要がある。日本は必然的に、量ではなく、付加価値で勝負しないといけない時代になっていかざるを得ない。

 しかし、新しいモノが出てこない。人がほしいものが出ていない。だからこそ、機軸を変えて、ソフトウェア的な発想をしてみることが重要だと思うんです。そのひとつが、プラットフォーム化であり、モジュール化です。最初はひとつの業界で定型化が進むかもしれない。しかし、もしそこに利点が大きくあるならば、業界を超えて広がる可能性があります。そうすれば、さらに大きなコラボレーションにつながるかもしれない。

 例えば、商品軸から考える。ベッドは、人生の3分の1を過ごす場所ですが、果たしてこれは、眠るというだけの場所なのか。エレクトロニクスの技術を加え、ソフトウェアの技術を加え、通信の技術を加えることで、まったく違うモノにすることはできないか。


 一方、生活軸で考えてみる。ハウスメーカーとエレクトロニクスメーカーと自動車メーカーが、将来は一緒になっているかもしれない。リビングの壁は一面がLCDで、巨大なディスプレイが埋め込まれている。ロボットが部屋を掃除し、車を運転する。すべてはネットワークで一元管理され、快適で楽しく過ごすことだけに家族は集中できる。僕は、間違いなくこういう世の中になると思う。そのときに必要なものは何か、ということです。

 エンジニアは、チェンジする発想を持ってほしいと思っています。会社を替わるのもそう。また、社内で組織を変わるのもいい。僕はソニー時代、組織横断でプロダクトが出せる仕組みを作った。そこから今、面白い商品が出てきている。そういう仕組みを提案するのもいい。とにかく今の技術に固執し、しがみつかないこと。今の技術を磨きながら、次の柱を見つけること。

 考えてみれば、これだけの変化の時代に、大学時代に選択した分野で何十年も生きていくなんて、あまりにリスクが大きすぎないか、と思うんです。実は技術というものが陳腐化しやすいのは、技術者が一番よくわかっていることでしょう。10年後に入ってくる最先端のテクノロジーを身につけた新卒者と、最前線で競争する勇気が、果たしてあるか。

 アメリカでは、2つの専門分野を持つエンジニアは少なくありません。エンジニアであることに誇りを持つことは大切だけれど、それだけにとどまっていてはどうか。ならば、早く動くこと。他のものに興味を持つのが遅すぎることがよくあります。自分の技術が古くなったからMBAを取りに行くのではなく、20代のバリバリのときに取りに行くべきなんです。バックグラウンドをもとに、新しい付加価値を付けていく。経営でもいいし、経済でも、別の技術系の分野でもいい。

 思えば、僕が高く評価したエンジニアは、みんなロードマップをしっかり持っていました。自分の技術をベースに、自分なりに未来をきちんと見通していたんです。それは、エンジニアとは別の視点を彼らが持っていたからできたことだったのだと思う。もっと自分を深める。そういうエンジニアの意識が、日本には必要です。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
市場調査をしてもユーザーが本当に求める答え「新しいモノ」は出てこないというお話がとても印象的でした。これまでと同じ軸で考えるのではなく、職種、業界を越えた組織横断で、新しいモノを生み出していくべきと語る出井さん。時代を築き、さらに未来のモノづくりへの提言を欠かさないその姿勢に感銘です。

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