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改札に入館証、モバイル決済にキャラクターグッズや家の鍵にも…日常生活を劇的にチェンジするFeliCa開発の舞台裏
非接触ICカードの活用が、交通・小売り・レジャーなどさまざまなサービス産業で広まっている。その躍進の先頭に立つ標準技術が、ソニーが開発したFeliCaだ。国際標準規格にも準拠するその技術開発の現場を追ってみた。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.05.29
はじめに 急速に普及する標準技術『FeliCa』
FeliCa(フェリカ)は、ソニーが開発した非接触ICカード技術方式。1枚のICチップにユーザーのID情報や、決済に必要な入金(チャージ)情報が書き込まれることにより、多彩なサービス利用が可能になる技術である。こう書くよりも、JR東日本のSuicaや電子マネーEdy、おサイフケータイなどを実現させた技術プラットフォームと言えば理解しやすいだろう。
FeliCaがこの非接触ICカードにおいて国内デファクトスタンダードの位置に立てたのは、何より非接触ICカード技術の普及を優先してきたことが大きい。広範囲なサービス事業者にFeliCa規格を提供するだけではなく、モバイルFeliCaによる成功を共に目指すポジションからサービス事業者各社をバックアップ。また、カードやリーダー/ライター、セキュリティ機器などの開発メーカーにもパートナー企業として参入に必要な技術を公開してきた。
ネーミングの由来である「felicity:至福」どおり、さまざまなシーンにFeliCaが根付き、日常生活をより楽しく便利にしていこうという理念があったのである。
それでは、FeliCa発展に大きくかかわった2社の歩みと展望の紹介を通して、FeliCa躍進の舞台裏と、そこで活躍するエンジニアの様子を探っていこう。
事例1 FeliCa+ケータイで生活シーンを変える フェリカネットワークス株式会社
フェリカネットワークスは、FeliCaをベースに、携帯電話を電子マネー、クレジット、交通チケットなど各種サービスに利用できる便利な世界を構築する目的で設立された企業。モバイル分野におけるFeliCaの普及・展開を一手に引き受けている存在と言っても過言ではない。同社の事業概要と技術の特徴を知ることで、FeliCa技術の最前線が見えてくるはずだ。
携帯電話の通信機能とビューワ機能がFeliCaの可能性を広げる
関谷秀一氏
フェリカネットワークス株式会社
チーフシステムアーキテクト

関谷秀一氏
実はFeliCaと携帯電話は非常に相性がよい。モバイルFeliCaは、カードタイプのFeliCaの機能をすべてもちながら、カードタイプでは不可能だったサービスを容易に実現する。例えば携帯電話の通信機能を利用すれば入金や決済の場所を選ばない。チケットなどもモバイルFeliCaで購入すると同時にダウンロードして入手することができる。さらに、携帯電話の画面でサービス内容の確認やICチップ内の情報確認ができる。こうした機能が支持され、モバイルFeliCa ICチップを搭載した携帯電話端末は、各キャリア合計ですでに4700万台以上(2008年2月末現在)が販売された。

以上の特徴と対応端末の普及により、モバイルFeliCaはポイントサービス、映画のチケット、住宅の鍵などにも対応するなど一気にその可能性を大きく広げたのであるが、そこで主導的な役割を果たしたのがフェリカネットワークスである。チーフシステムアーキテクトを務める関谷氏は「モバイルFeliCa ICとOS、ならびに各種ミドルウェアを開発し、統合的なサービスプラットフォームとして各キャリアやチップベンダー、リーダー/ライター開発メーカーにライセンスを提供。一方でFeliCaを活用した電子マネー・交通乗車券・会員証などを発行するサービス事業者各社に対しては、ネットワークやサーバーからなるプラットフォームを構築/運営し、各社に個別エリアを提供しています」と紹介してくれた。関谷氏の言葉から、同社がエンドユーザーには意識されない黒子でありながら、モバイルFeliCaを進化・発展させる中核的存在であることを理解できるだろう。
モバイルFeliCaサービスの広がり
ICからOSまで開発。何より重視されたのが信頼性能
モバイルFeliCa IC
携帯電話に搭載するために小型化が必須だったモバイルFeliCa IC
モバイルFeliCa IC
第一世代から第二世代へと進化を続けるモバイルFeliCa IC
同社はモバイルFeliCa専用ICチップの開発企業でもあるが、その基盤となるLSIの設計技術の水準は極めて高い。すでに携帯電話端末4700万台分以上のICが出荷されたが、現在までにモバイルFeliCa OSにバグは発見されていない。仕様書を数式で書くというクリティカルな最新の開発手法を先駆的に投入した成果だが、何にもまして人々の生活を支える基盤となるシステムで障害を引き起こしてはならないとする強い理念がバグのない、完成度の高いIC開発を引き寄せたといえるだろう。

同様に、セキュリティについても厳重な対策が追求されている。従来、高度に管理された非常にセキュリティの高い工場で製造されていたICカードをモバイルでは、いつでもどこでもユーザーの手元で“作る”必要があるからだ。また、ICカードと異なり複数のサービスをユーザーが選んで1台の携帯に集約するモバイルFeliCaでは、FeliCa技術方式のもつ複数の事業者サービスに対応したマルチアプリケーション機能に加え、最大16枚のICカードを論理的に構築できる機能を実現する事で、さらに多様なサービスに対応する事ができる。難しかったのは、このようなモバイルならではのセキュリティ強化と機能の向上を、高速というFeliCa の特徴を損なわずに実現した事だ。

ほかにもICとリーダー/ライター間の無線によるデータの受送信処理の高速化や、そのためのRF技術など、ユーザー側の使いやすさと安全・確実な利用を両立させるために、自ら設定した幾つもの高い技術ハードルを乗り越えて、今日に至っているのである。
無限に考えられるアプリを想像し、具現化していく意欲が必要
関谷秀一氏
「モバイルにはカードタイプ以上のセキュリティが必要」と語る関谷氏
モバイルFeliCaを活用したさまざまな事業者の多彩なサービスを実現するためのサービスプラットフォームを企画・開発するフェリカネットワークス。そこには電気回路、IC、ファームウェア、セキュリティ、ネットワーク、サーバー、RFなど、それぞれの領域で高度なスキルをもつエンジニアが集結している。いずれかの分野における経験をもつエンジニアであれば、この生活シーンを大きく変えるプラットフォームづくりへの参加資格があるといえるだろう。しかし関谷氏は、「同社のエンジニアに求められる要件は特定の領域における技術スキルだけではない」と言う。「無限にアプリケーションが考えられるモバイルFeliCaだからこそ、今後どのようなサービスが誕生するか、そのために必要とされる技術課題は何か、それをどう克服していくか……といった、構想力とそれを具現化していく意欲こそが期待される」と語ってくれた。また、国内でのデファクトに満足せず、このプラットフォームを輸出し、世界中にモバイルFeliCaを広めていきたいとする壮大な目標に共感して動いてくれる人材にも期待しているそうである。
事例2 FeliCaの可能性の数だけ新たなリーダー/ライター開発がある ソニーイーエムシーエス株式会社 長野テック
ソニーイーエムシーエス株式会社 長野テック(以下長野テック)は、ソニーグループの一員としてVAIOの開発・設計・製造を担ってきた企業だ。そこで培ったデジタル/アナログ回路技術が評価され、2007年6月にソニーのFeliCaリーダー/ライター商品設計部門の主要メンバーが集結した。今や同社はVAIOとFeliCaというソニーの主要ブランドの二つに大きくかかわる企業として、その存在感を高めている。
FeliCa普及に不可欠なリーダー/ライターの開発を先導
池永祐一郎氏
ソニーイーエムシーエス株式会社
長野テック
FeliCa Biz部
担当部長

池永祐一郎氏
FeliCa ICが内蔵されたカードや携帯電話をかざす受け手側の装置が、リーダー/ライター。FeliCa IC内の情報を無線で読み取り(リード)、その処理結果をFeliCa ICに書き込む(ライト)機能をもつほか、FeliCa ICの駆動に必要な電力を電波で供給する役割も担う。80年代からスタートしたリーダー/ライターの開発の積み重ねは、FeliCaの進化そのものだった。

そうしたFeliCa対応リーダー/ライター開発を担ってきた主要メンバーが集結した長野テックは、次々と構想される新たなサービスに対応する装置や次世代型タイプの開発を担当する中核拠点となっている。同社FeliCa Biz部の担当部長である池永氏に、開発の様子を聞いた。

「マーケティングや商品企画、研究開発はソニー株式会社のFeliCa事業部が行いますが、実際の商品化案件ではハード設計から試作・テスト・仕入・製造・品質保証までの、設計〜量産工程は長野テックが引き受けています。そこでは回路設計のみならず、部品調達網、高精度実装技術、短納期を実現する生産方式など、VAIOで培った技術・ノウハウがふんだんに生かされています。モノづくりの大部分を担うだけあって、ソニーの研究開発や商品企画側への意見やアイデアは尊重されますよ」

また、同社はFeliCaリーダー/ライターをつくるパートナー企業に対し、設計指標をつくる立場も担っているそうだ。
幾つもの課題を乗り越えて市場投入に至る
池永氏曰く、非接触で電波法の範囲内の微弱な電波を高速でやりとりすることは、無線技術としてはかなり難しい課題の克服だったようだ。まず、周りの金属の影響を受けやすい中で、どうカードや携帯電話の微弱電波を確実に拾うか。RFに関する技術の検証が繰り返し行われた。
加えてFeliCa ICに収納されたデータを瞬時に確実に読み書きするためには、データ処理を高速で行う回路も必要になる。FeliCaリーダー/ライターの基本技術だけでも、多くの課題を乗り越えてきたものだといえる。

それでもFeliCaサービスが始まった初期のころは、ひとつの事業者のサービスに対応する製品でよかった。例えばEdy専用の装置や、自動改札機に設置されるSuica専用の装置を開発すれば事が足りたのである。ところが参画するサービス事業者が増加し、新たに店舗などに置かれるリーダー/ライターの多くは複数の種類のカード(もしくは複数のサービスに対応するモバイルFeliCa)に対応しなければならなくなっている。

加えてFeliCaの使用シーンがあらゆる場所に広がっている今、装置の小型・軽量化やさらなるセキュリティ強化といった課題も避けて通れない。サービスの内容次第で設置環境も大きく変わる。屋外だと環境変化への対策が必要だし、ポータブルタイプだと耐落下規格を定めなければならない。一方で、FeliCaの通信仕様が準拠している国際規格のNFCに対応するリーダー/ライター開発も、FeliCaの海外進出の観点から注力されている。

このように、FeliCaのサービスシーンが広がる今、長野テックでは個々のサービスに合致させるために、さまざまな課題を乗り越えながら多彩なリーダー/ライターの開発を進めているのである。
商品設計エンジニアに求められるのはあきらめない粘り強さ
モバイルFeliCaの開発同様、長野テックのリーダー/ライターの商品設計現場ではさまざまなスキルをもったエンジニアが活躍している。ハード(回路)、RF、ソフトウェア、ネットワーク、生産技術、品質管理……と、いかにも自社製品を開発・製造している企業ならではの人材ニーズがある。

ところが、フェリカネットワークス同様、またしてもエンジニアに求めるのは技術スキルだけではないと同社人事総務部人事課統括課長の宮田氏は次のように言う。「FeliCaリーダー/ライターは、まったく新しい領域を開拓している製品です。そのトップに位置する当社のエンジニアは開拓精神がなければ前に進めません。目の前の開発目標をあきらめず、粘り強く食いついて壁を突破していく気概が何よりも必要なのです」。

宮田氏は最後に、安曇野は自然が豊かで生活環境に優れ、モノづくりに集中できる場所だと同社の魅力を紹介してくれた。が、エンジニアであれば、それ以上に市場開拓型の製品をつくる醍醐味が伝わってきたのではないだろうか。
単一サービス対応のリーダー/ライター
シンプルな単一サービス対応のリーダー/ライター
マルチサービスのリーダー/ライター
複数のカードに対応するマルチサービスのリーダー/ライター
宮田斉昭氏
ソニーイーエムシーエス株式会社
長野テック
人事総務部
人事課
統括課長

宮田斉昭氏
池永祐一郎氏
「ここでは東京とまったく同じ質の開発ができる」と語る池永氏
おわりに 技術で生活シーンを変える。FeliCaの歩みは始まったばかり
2社の紹介を通して、FeliCaのサービスを実現させるにさまざまな技術が集約されており、その一つ一つがエンジニアにとって取り組みがいが大きいものであること、そして今も多彩なFeliCaサービスを実現するために、技術開発が続けられていることをご理解いただけただろうか。

モバイルFeliCaでもFeliCaリーダー/ライターでも、多彩な領域のエンジニアを必要としている。いずれの製品領域においても、新しい市場を開拓するという醍醐味は味わえるだろう。しかも、世界を見渡せば非接触ICカードの活用は日本が最も進んでいる。日本発の世界標準技術を手掛けるチャンスが、FeliCa関連の開発を通して手掛けられるかもしれない。
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ 山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
ふと気づくと普段、私も通勤の改札やコンビニの支払いなど、生活のあらゆる場面で「FeliCa」のお世話になっているシーンが確実に増えています。今後ますます可能性が広がるFeliCa開発は、多くのエンジニアにとって今、最も魅力的な業界ではないでしょうか。

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