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“ヒーローエンジニア”を探せ!vol.14 ロボット?それともオーディオプレーヤー?
あのAIBO開発者から生まれたソニーの“Rolly”
2007年秋にソニーから発売、まったく新しい商品カテゴリー、サウンドエンターテインメントプレーヤー“Rolly”。動きを編み出すロボット制御をもち、音楽に合わせて本体と突起部分が複雑な動きで表現する。今回紹介するのは元AIBO開発者で、“Rolly”のプロジェクトリーダーを務めた大口伸彦さんだ。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:08.05.27
“ヒーローエンジニア” ソニー株式会社 オーディオ事業本部 新規ビジネス商品部 統括課長 大口伸彦さん
1970年生まれ。上智大学理工学部機械工学科卒業後、92年にソニーに入社。本社の情報システム部門で次世代設計システムの開発、導入、外部への販売にも従事。2000年、エンタテインメントロボット「AIBO」の開発部隊へ。06年からは、“Rolly”のプロジェクトリーダーとして商品開発を推進していく役割を担った。
サウンドエンターテインメントプレーヤー
“Rolly”<ローリー>
“Rolly”
2007年9月発売。およそオーディオプレーヤーとは思えない手のひらサイズの卵形デザインの本体から、水平対向配置型スピーカーによるクリアなサウンドが聴こえてくる。しかも、動きを編み出すロボット制御を付加、音楽に合わせて本体と突起部分が複雑な動きで表現する。さらに液晶ディスプレイがなく直感的に操作ができるシンプルなユーザーインターフェース。バッテリー内蔵で、いつでもどこでも楽しめる……。これまでどこにもなかった新しい商品カテゴリーだが、じわじわと支持を広げている。また、"Rolly" モーションパークでは、オフィシャルモーションが無料ダウンロードできる。
http://rolly.jp.sonystyle.com/motion/special1/0804.jsp
まったく新しい商品“Rolly”開発のプロジェクトリーダーを務める
 3年以上前にもなるという構想段階から研究開発を始め、メカ設計、電気設計、ファームウェア、ソフトウェアと、一連の商品化の工程をメンバーを統率しながらとりまとめてきた。さらに“Rolly”は、PCで“Rolly”のモーションを自ら作成したり、Webサイト「“Rolly”モーションパーク」でそれを公開したり、またサイト上のモーションファイルを無償でダウンロード、モーション再生を楽しむこともできるため、PCアプリケーションの開発やサイト構築、サーバ運用などもプロジェクトに取り込んで推進を行った。
商品化の仕事に就くはずが……
 機械工学専攻では当時、自動車メーカーへの就職が多かったんです。私自身、自動車も好きだったんですが、車はモノとしては大きすぎる気がしていまして。開発には、いろんな人がかかわることになる。コンシューマ寄りの商品で、もっと少人数で開発を行えそうなモノは、と考えたときに浮かんだのが、電機メーカーでした。自分の意見やアイデアが、早くから商品に反映できるんじゃないかと。

 実はソニーは当初、考えていなかったんです。商品は洗練されている印象でしたが、就職先としては競争が激しいし、厳しそうだと思えて(笑)。ところが先輩に会ってみると、ここは、と思ったんです。創業精神が強いというか、新しいものへのチャレンジスピリッツにあふれているというか。若い先輩でも、けっこう商品に直にかかわっているような具体的な話が多かった。世の中の身近な商品にすぐに簡単に携われそうな雰囲気でした。これはとても魅力的でした。

 ただ、最初の配属はコーポレートの情報システム部門。本社の間接部門です。仕事は、次世代設計関連システムの開発と導入。メカ系の3次元CADシステムです。3次元CADは、飛行機や自動車など大きなモノの設計にはすでに使われていましたが、家電製品のようなものは自分たちで試作ができてしまう小ささなんですね。それで導入はあまり進んでいなくて、当時はあまり普及していない状態。そこで、情報システム部門でツールを開発し、各部門に導入を推進していく役割を担うことになりました。後に外販の営業も担当。開発、運用、営業で合計8年間、携わることになりました。

 商品化にかかわりたかったのは事実ですが、ツール開発も面白い仕事でした。導入や外販では、プロジェクトマネジメントも学ぶことができました。しかも、結果的にこの部門にいたことが、次の「AIBO」の開発の仕事につながっていくことになるんです。
設計経験ゼロでAIBOの設計になった理由
 AIBOの開発部隊に設計として異動したのは2000年。前年に一号機が出ていました。当時の私は設計経験ゼロ。では、なぜ異動することになったのかといえば、設計に使う3次元CADという設計ツールを熟知していたからです。当時、設計技術に長けた人はたくさんいました。でも、設計ツールを使いこなせる人はまだ少なかった。私が期待されたのは、まさにそこだったんです。

 3次元CADを使わなくても、従来の2次元図面で設計できるモノはたくさんあります。しかし、AIBOのようなロボットは、2次元では表現しにくい動きをします。例えば、手が斜めに動いたりする。このとき、手が頭に当たるか当たらないかは2次元では書ききれません。3DによるCGで表現したほうがわかりやすいんです。

 しかも、AIBOは従来の製品とは違って、社内のデザイナーではなく、外部のイラストレーターがデザインを担当していました。それを設計に落とし込む。社内のデザイナーなら、設計も理解しながらデザイン画を起こしてくれますが、外部の方だとそうはいきません。かなりの3次元CADの技術が必要でした。

 3次元CADを開発していた前の職場では、システム導入にあたって、いろんな部署に出入りしていました。社内のいろんな技術者の方と顔見知りになったんですね。当時のAIBOの担当課長もそうでした。ソニーでは社内公募の仕組みがあって、AIBOも公募をしていて応募が殺到していましたが、私は直接、課長から声をかけられました。3次元CADを熟知している人がほしい、と。社内から人材を集めても、3次元CADが使える人は少なかった時代でした。

 実際、設計ツールには詳しいけれど、設計経験ゼロの私は、設計経験が豊富だけど、設計ツールには詳しくない同僚たちと、日々自分のノウハウをお互いに提供し合いながら過ごすことになります。おかげで、ものすごいスピードで設計の技術を高められたんです。
仕事が終わって仲良しの同僚と飲んでいて……
 AIBO開発の担当は外装デザイン。ずっと憧れていたコンシューマ商品の商品化の仕事。しかも、社会的にも大きな話題のAIBO。うれしかったですね。慣れない設計に悪戦苦闘、スケジュールが間に合わないと夜遅くまで、あるいは土曜や日曜に仕事をした時期もありました。でも、商品が世の中に出た瞬間、そういう苦労は全部吹き飛ぶと聞いていましたが、それは本当でした。

 初めて商品開発に携わったAIBO3号機「LATTE&MACARON」が出た2001年6月のことは今も覚えています。AIBOは電器店ではなく、デパートなどで販売されたんですが、二子玉川の高島屋に見に行きましたね。エレベーターの前の特設会場には人だかりができていて。うれしい一方で、自分がかかわった商品が店頭に並んでいるのは、なんだか不思議な経験でした。大変なこともあったけど、頑張って本当によかったとこのときに思いましたね。

 AIBOには5年間携わりますが、実は後半の2年ほどは同時に“Rolly”の開発も進めていました。きっかけは、仲のいい同僚と行った飲み屋でして(笑)。日々、AIBOにどんな機能を付けたら面白いか議論をしていたんですが、会社の外ですから自然に発想がAIBOから離れたんです。動物の形ではなく、もっとシンプルなものが何か作れないか。自分たちが手に持ってカッコイイものは何かないか。多くの人が使う身近な機を付けたらどうだろう……。そんな話から自然に出てきたのが音楽。一方で、音楽にかかわる商品にAIBOで培った動きの技術を付加してみたら……。有志で集まって議論して。それからAIBOの仕事をしながら、少しずつ開発を進めて、2年近くたった2006年夏、1年後の商品化が決まったんです。

 構想も入れた3年ほどの間は試行錯誤の連続でした。まずこだわったのは音。小ぶりで持ち運べる小さな本体から、想像を超える音が出る。そんな驚きを実現させたかったんです。そして音楽に合わせて本体が動く。動きでも驚かせたかった。激しく、なめらか。しかも、メカの音をさせない。そういう驚きが、AIBOの技術があればできると思いました。

 ところが、スピーカーは体積に比例します。ある程度サイズがないと、いい音にはならないのが原則。しかし、スピーカーのサイズを大きくすると、今度はモーターの数を減らさないといけない。これでは驚くような動きにならない。実は、一回り大きいサイズで全体の試作をしたこともあったんです。でも、それでは大きさが中途半端でした。このときに決断したんです。大きさは、女性の手のひらに入るサイズにする、と。これでいい音、動きを実現させようと。
“振る”と“シャッフル”する
 音、動きと並んで、“Rolly”の大きな特徴になっているのが、ユーザーインターフェースです。ここにもこだわりました。“Rolly”には液晶ディスプレイはなく、スイッチもひとつ。ここでもAIBOの技術が生きています。AIBOは持ち上げると足をすぼめたりして、抱かれたことを認識しました。これは加速度センサの技術です。これを操作に応用したら面白いのでは、と考えたんです。“Rolly”は机に置かれていることを認識します。さらに、持ち上げられることも認識する。両脇にはスピーカーのカバーにもなっているアームがありますが、このアームは、本体のどちらか上を向いているほうが開くようになっています。

 そして、ボディを一周している2つの両脇のリングを回してボリュームと曲送りを調整できますが、手に持っているときには上にあるリングが曲送り、下がボリュームになる。ひっくり返しても同じ。上が曲送りで下がボリューム。これが、直感的なユーザーインターフェースなんです。そして、本体を振ると曲はシャッフルします。“振る”と“シャッフル”(笑)。いい音、軽快な動きに加えて、こういう楽しい機能をたくさん盛り込みたかったんです。

 おかげさまで、社内外でかなりの反響をいただくことができました。改めて思うのは、いろんな経験が生きて、今があるということです。AIBOに携われたのも、3次元CADの職場にいたから。すべての経験はつながっているんですよね。自分のキャリアのいろんな偶然、必然が今を作っているんです。そしてもうひとつ、そこには人とのかかわりが必ずある。会社には、ひとりでやる仕事は実はほとんどありません。いろんな人たちと一緒に、何かを作る。必ずいろいろな人がかかわってくるということです。

 だからこそ大事にしないといけないのは、社内、社外を問わない、たくさんの人とのコミュニケーションだと思っています。会社の人とは飲みに行ったりしない、という考え方もあります。でも、そこから、かけがえのない人脈につながる可能性もある。いろんなアイデアやビジネスのヒントが出てくる可能性もある。それこそ“Rolly”だって、アイデアは会社の外で生まれたんですから(笑)。
ヒーローの野望 まったく新しいカテゴリーに、これからも挑みたい
 モノづくりの究極の夢は、誰かが考えたものではなく、やはり自分で考えたものを作ることだと思っています。もちろん、たくさんの人の協力があってこそ、ですが、“Rolly”はサウンドエンターテインメントプレーヤーという新しいカテゴリーを作り出すことができた。一度、見てもらえれば、それがわかると思います。音のよさも自慢ですが、音に対していろんなエンターテインメントが楽しめるようになっています。モーション機能は、音楽を見る楽しみに変えてくれます。また、自分でフリを作ることもできる。さらに朗読のようなものも、音が出ている“Rolly”に動きがあることで、これまでとは違ったものになっていくのではないかと思っています。

 ただ、正直なところ、新しいカテゴリーだったからこそ、大変なこともたくさんありました。どのくらい売れそうなのか、想像もつかない。こういう商品を推し進めていくには、自分の熱意や意気込み、こだわりが何より大事だと知りました。また、自分が世の中に何を訴えていきたいのか、何のためにこの商品を出すのかを、常に考え続けなければいけない。単に儲かる、儲からないという判断で前に進められない。これは、実際にはとても苦しい経験でした。

 でも、“Rolly”が動くのを見ると、驚いてくださる方々がいる。その事実を大切にしたいと思っています。今の世の中は本当に便利になりました。でも、だからこそ、今よりも生活が豊かになる、今よりも生活が楽しくなる、という商品が減っているような気もします。機能はたくさんあるけれど、実はほとんど使っていない。そういう商品で本当にユーザーは満足しているのかどうか。もちろん難しいとはわかっていながらも、これからもまったく新しいカテゴリーの商品に挑んでいきたいです。これまでとは違う軸で商品を考える。技術者には、それができる大きな可能性が潜んでいると思います。
ヒーローを支えるフィールド 技術者自身がワクワクし、楽しみながら作っていける環境
 2008年4月17日から始まった「“Rolly”モーションパーク」で、期間限定で無償ダウンロードできるバラエティモーション「“Rolly”×藤崎マーケット」ラララライモーションのデモを見せてもらった。売れっ子芸人の声に合わせて、手のひらサイズの“Rolly”が動き、“手”を広げ、回り、走る。想像をはるかに上回る精度でのモーション。そしてクリアな音。それはまさしく、これまで見たことがないような商品の姿だった。事前に資料は読み込んでいた。だが、実際に見てみると、その光景は大きな衝撃だった。

 常に時代を牽引し、新しいカテゴリーを作り上げてきたソニー。そこに何があったのかといえば、人をワクワクさせるような楽しさだったのではないだろうか。そしてなぜそんなことができるのかといえば、作っている技術者自身がワクワクしながら楽しんで作っていたからではないか。大口氏はAIBOの開発部隊に異動したとき、まさにその姿を見たという。世の中を大きく騒がせていたAIBOのアイデアを作っていたのは、自分と同年代の若者たちだった。「もっとこうやったら」「これを使ったら」……。まるで学生たちが面白いものを作ろうとしているような姿に、大口氏には見えたのだという。

 そしてそんな仕事スタイルを、大口氏は自ら受け入れる。これがまさに“Rolly”の開発へとつながっていくのだ。そしてAIBOのプロジェクトが進む過程でありながら、一方で研究開発や試作に取り組ませてくれた上司。さらに商品化が確定し、オーディオ事業部に異動してからも、そんなソニーらしさは現れた。得体の知れない新しいカテゴリーの商品。小さなボディでいい音を求めるという異端の“素人”たちに、オーディオ事業部の若手有志が熱くサポートしてくれたのだという。だからこそ、“Rolly”のさまざまな驚きは実現したのだ。面白いものを作りたいというスピリット。これだけのモノが溢れる世の中でも、それさえあればいろんなことができる可能性は十分にある、と改めて感じた。
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
“Rolly”が動き出すとめちゃくちゃカワイイんです! 踊るときはもちろんのこと曲をシャッフルするときの動きまで、繊細で綿密なそのモーションにくらくらしました。夏のボーナスが出たらさっそく買っちゃおうと思ってます。お気に入りの曲で踊る“Rolly”が今から楽しみです。

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