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環境技術が注目を集めた国際海事展SEA JAPAN2008 「造船業界は構造不況業種」――ほんの数年前までの常識はもはや通用しない。造船業界はBRICsの経済成長にともなう船舶需要の激増を背景に、空前の活況を呈している。2年に一度開催される日本最大の国際海事展、SEA JAPAN2008の会場はそんな造船業界の熱気を受けてか、多くの造船・海事関係者が集まり大変な活況だった(今年は4月9日〜11日)。 船舶用エンジンや変速機、スクリュー、電気推進用インバーターなどの重工業分野、公害防止機器や環境保護対策機器、航海計器・通信機器・電波計器、コンピューターシステムや上記のようなシミュレータおよび各種ソフトウェアなど、船をつくるのに必要なあらゆる技術が集う会場の風景は圧巻。全高が人間の背丈よりはるかに大きいディーゼルエンジン、ジェットエンジンと見間違えそうな排気タービンなど、とかく巨大なモノが多く、モノづくり系エンジニアにとっては至る所が「萌え要素」という雰囲気だった。 中でも注目度が高かったのは、船のバランスを取るためのバラスト水の浄化装置や低排出ガスエンジンなどの環境関連技術。あるエンジンメーカーのスタッフは「フル操業でつくっても商品が全然足りない。開発系から生産系まで、あらゆる分野でエンジニアが足りない」と、人材不足の状況を語る。 |
船舶動力電動化のための高出力インバーター――富士電機機器制御 船舶といえば、通常はエンジンパワーを変速機、プロペラシャフトを介してスクリューに伝え、推進するというのが最もポピュラーな動力システムである。が、昨今の燃料高騰を受け、よりエネルギー効率の高い「ディーゼル・エレクトリック」方式が注目を浴びている。これはエンジンを発電に用い、モーターでスクリューを回すというもので、主に潜水艦などに使用されてきた動力システムである。 自動販売機で有名な富士電機グループの富士電機機器制御は、そのディーゼル・エレクトリックの出力制御を高精度に行うためのインバーター「FRENIC」シリーズを参考出品した。システム機器事業部駆動企画部の橋本ェ担当部長はこう語る。 「ディーゼル・エレクトリックのいちばんのメリットは通常のエンジン推進に比べ、トータルでのエネルギー効率が高いということです。メイン動力の効率向上だけでなく、エンジン推進ではパワーロスの要因にもなる油圧で舵の動作などを行いますが、これらも電動にすることができるんです」 ディーゼル・エレクトリックには通常、効率の高い交流同期モーターが使用される。インバーターはこのモーター出力制御に必須の装置であり、FRENICは最大で1基あたり1200kWの出力を持つ。それを2基並列で搭載すれば最大2400kW、約3200馬力相当の電力を供給することが可能となる。 「ディーゼル・エレクトリックのメリットは省エネルギーだけではありません。通常のエンジン推進だとエンジンからスクリューまでを一直線に配置する必要がありますが、電気方式だとエンジンとモーターは電線でつなげばいい。動力システムのレイアウトの自由度が高いというのも、大きな魅力なのです」 富士電機機器制御は船舶分野と直接関連のあるメーカーではなく、船舶の技術革新に伴い自社技術を造船分野に転用した一例だ。こういった企業は今、続々増えているという。 環境規制に備えた新型クリーンディーゼル――ダイハツディーゼル 世界の船舶は今日、大きなターニングポイントを迎えつつある。これまでほとんど規制がなかった排出ガスに、厳しい有害物質規制が課されることになったのだ。正式な実施時期は流動的だが有力視されているのは2010年ごろ。小・中型エンジンで約20%のシェアを有し、ほぼ同数のヤンマーと並んで業界世界首位のダイハツディーゼルは、その排ガス規制に対応可能な新型のクリーンディーゼルを提案した。 同社は主機関向けエンジンとして、最小956kW(1300馬力)から最大4413kW(6000馬力)までをラインナップしているが、新型エンジンは定格出力1618kW(2200馬力)と、比較的小さいクラスのエンジンである。 「船舶の排ガスはこれまで半ば野放しだったのですが、2010年に実施される可能性が濃厚な排ガス規制の数字は非常に厳しいものです。窒素酸化物を無害化する尿素SCRなどの装置を使う必要がありますが、エンジン側でもできるだけ有害物質を減らさなければなりません。このエンジンは、その排ガス規制を見据えた設計となっているのが特徴です」(東京支社・西岡道彦グループ長) 今後は排ガス規制をクリアするため、ほかのエンジンラインナップについても順次新設計のクリーンディーゼルに入れ替える計画だ。同社はこのほか、タンカーの火災事故を事前に防止するため、高圧管の破損部やシールの劣化部分などから漏れ出したオイルミスト(霧状の油成分)を検出する「オイルミストモニター」も出品した。このような安全、環境分野の開発ニーズは世界中で高まっており、既にエンジニア争奪戦が始まっている。 「弊社でも開発から生産まで、あらゆる分野で技術者が不足しています。内燃機関、電気系統、金属材料、シミュレーションなどのスキルがあるエンジニアなら大歓迎ですよ」 光触媒を使った最先端バラスト水浄化システム――アルファ・ラバル SEA JAPAN2008には多数の外資系企業も参加し、技術力をアピールすべく展示に工夫を凝らしたブースを構えていた。そのうちの1社であるスウェーデンのアルファ・ラバル社は、化学薬品をまったく使わない、光触媒方式のバラスト水処理装置を出品した。 今日では海洋汚染が世界で深刻な問題を引き起こしており、各国の造船業界はその対応に迫られている。船舶由来の海洋汚染といえば、かつてはオイルタンカーのタンク内部を清掃した際の廃物を投棄したものが海岸に漂着する、廃油ボールなどの直接汚染が主だった。しかし、近年にわかにクローズアップされている海洋汚染は、船の安定を保つためのバラスト水の放出による汚染である。 このバラスト水は海水を汲んで使用するので、特別な有害物質が混入するようなことはない。海洋汚染の槍玉に上げられた理由は生態系への影響である。大型貨物船や外洋航行型客船は世界中を航海する。例えば大西洋でバラスト水を汲み、目的地のインド洋でその水を廃棄すると、大西洋のプランクトンや水中の栄養分などがインド洋のそれと混ざってしまい、生態系に影響を及ぼすというのである。 そこで国際海事機関はバラスト水に含まれるプランクトンや砂、栄養分などの排出基準を定めた。船舶はバラスト水を捨てる際には、その基準に合うようバラスト水を浄化しなければならないのだ。 アルファ・ラバルのバラスト水処理装置「PureBallast」は、前述のとおり化学薬品をまったく使わずにバラスト水を浄化できるのが特徴で、その独創性は世界でも極めて高く評価されている。開発に携わったマネージャーのニクラス・ダール氏は、開発過程をこう振り返る。 |
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「基礎研究は1994年に開始しました。最初は光触媒さえ使えば簡単にできるだろうと考えていたのですが、つくっているうちに化学プラントのような複雑さにならざるを得ないことがわかってきたのです。それをコンパクトに設計するのがもっとも難航した部分でした。いろいろな要素が複雑に絡み合った問題を少しずつ解き明かし、対策をきちんと練らなければ、地球環境は守れません。そういう難しい課題にチャレンジし、成功させることに、エンジニアとして最もやりがいを感じます」 ダール氏は「私にとって船舶の環境技術開発は大きな喜び」と語るが、SEA JAPAN2008ではこうした新分野の技術が多数発表されていた。プレジャーボートから大型タンカーまで、船舶開発と一口に言ってもその中身は千差万別だが、海が好き、船が好きというエンジニアにとっては、一度は足を踏み入れてみたいフィールドだろう。 |
少し前までは不況の代名詞のような存在だった造船業界は、今や爆発的に増大した需要に応じるのが難しいほどの好景気である。一方で環境対応や省エネルギーなど、新技術の開発の必要性にも駆られているということもあり、エンジニアニーズは急速に拡大している。 リクナビNEXTでの求人情報検索は、この分野は少し複雑になる。ダイレクトに「船舶」をキーワードに検索すれば、造船関連の求人情報を得ることができる。だが、船造りは船体ばかりではない。エンジン、油圧装置、駆動用モーター、排ガス浄化装置やバラスト水処理装置などの環境対応、レーダーや航法装置などの電装系、消火設備などの安全装備、さらには船員や客室の艤装や空調設備など、数え上げればキリがないほどの技術の集大成なのである。 それらの技術を扱っている企業を探し、その企業が造船会社と取引があるかどうかを各社のHPなどで確認し、リクナビNEXTで企業名を入力して検索することが結局は早道になりそうだ。 さて、船舶関連業界への転職を希望するエンジニアに求められるスキルだが、基本的には「船に使われている技術なら何でもOK」ということになる。例えば、船体設計は造船学や流体力学が必須とされることが多く、かなりハードルが高い分野だ。 しかし、エンジンなどの動力系やレーダーなどの電気系、環境技術などは、それぞれの分野での開発経験さえあれば船舶での経験は不要であることも多い。現在のエンジニア不足に加えて、必ずしも転職市場の潤沢な業界ではないため、基礎的なスキルがあれば詳細は入社後の研修やOJTで覚えてもらえばOKという意向があるのだ。 また、シミュレーションやソフトウェア関連ではプログラマ、SE、ネットワークエンジニア、環境対策や塗料などの分野では化学・素材系エンジニアのニーズも高い。「船舶技術者になりたい!」と考えるエンジニアにとっては、まさに転職の絶好のチャンスである。 |
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