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リーダーよ、強いエンジニアチームをつくり、時間的不公平をなくせ 今日もオレだけ残業か… チームリーダーへの危険信号
同じ開発チームで働くメンバーなのに、地位や役割によって労働時間が大きく異なるケースは少なくない。そこでTech総研では、全国のエンジニアにアンケート調査を実施。労働時間の偏りはどの程度あるのか。また、解消するにはどうすればいいのか探った。
(文/白谷輝英 総研スタッフ/根村かやの イラスト/野村タケオ)作成日:08.04.16
Part1 緊急調査!労働時間は公平?不公平?
■4分の3のエンジニアが「労働時間に偏りあり」と回答
「同じ開発現場で、同じプログラマとして働いているのに、いつもアイツのほうが早く退社する……」「一般のプログラマは定時に帰ってしまうのに、チームリーダーのオレは残業続きでボロボロだ……」
 そんなふうに、労働時間の偏りに対する不満を聞かされることがある。そこで今回はまず、全国の100人のエンジニアにアンケートを実施した。

 最初の質問は、ズバリ「あなたの職場に、労働時間の偏りはありますか?」
 結果は、右のグラフのとおり。24人が「労働時間の偏りが大いにある」、50人が「多少ある」と回答した。つまり、約4分の3のエンジニアが、労働時間に偏りがあると感じているわけだ。
 なかでも最も不満を感じているのは、現場で作業も担当しながら、同時にメンバーをまとめる「プレーイングマネジャー」のようだ。「一般のエンジニアは言われたことしかせず、自分の作業が終わればさっさと帰る。管理職は管理だけしかせず、現場をプレーイングマネジャーに押し付けてさっさと帰る。結局、プレーイングマネジャーの私がすべてを引き受けてしまっている」(33歳/汎用機系システム開発)という意見が代表的。また、「管理職は残業や休日出勤をしないうえに、例えトラブルがあっても休暇を取る。一方私はほぼ終電帰宅、土・日出勤。休暇もほとんど認められず、長期休暇などはもってのほか」(30歳/Web・オープン系システム開発)のように、上級管理職に対する不満の声も多数上がっていた。
普段社内で一緒に働いているグループの中に、労働時間の偏りがありますか?
 能力の高い人に負担が集中しやすい状況に、不満を感じている人も多かった。特に目立つのが、「簡単な仕事しかしていないため、毎日さっさと帰るヤツがいる。給与の差はほとんどないのに……」(31歳/Web・オープン系システム開発)など、与えられた役割の重さが労働時間の偏りに直結しているという意見。
 ほかには、「仕事が遅い人が、たくさん残業時間をつけている。仕事のできない人のほうが給料が多いのはおかしい」(36歳/マイコン・ファームウェア・制御系システム開発)という回答もあった。仕事の負担は同じだが、業務効率のいい人のほうが結果的に給与が安くなってしまい、やる気を削がれているというわけだ。
■「労働時間は偏りなく、給与は仕事量に応じて」がエンジニアの理想

 経験や能力によって、エンジニアの作業効率には大きな差が生じるものだ。だから、メンバーのそれぞれに同じ分量の仕事を与えれば労働時間が不均衡になるし、同じ労働時間で退社できるようにすると各自のこなす仕事量が不均衡になる。
 それでは、エンジニアにとって納得感が高いのは、どういう仕組みなのか。次の質問は、「『能力の高いAさん』と『人並みの能力のBさん』が2人1組で仕事する場合、労働時間の配分であなたの理想に近いのは?」というものだ。
「能力の高いAさん」と「人並みの能力のBさん」の2人のグループでひとつの仕事をするとします。労働時間の配分で、あなたの理想に近いのはどれですか?
 結果は上のとおり。「Aさんに多くの仕事を与え、2人の労働時間が同じになるようにする。2人の給与は同額」と「2人に同じ仕事量を与える。給与は労働時間に応じて、Bさんに多く支払う」という答えは、ごく少数だった。つまり、労働時間ではなく、成果に応じた給与を望むエンジニアが多数派だということがわかる。
 そして、75%のエンジニアが選んだのは、「Aさんに多くの仕事を与え、2人の労働時間が同じになるようにする。給与は仕事量に応じて、Aさんに多く支払う」だった。つまり、皆が同じ時間に退社し、能力や実績に応じて給与に差を付ける。そんな職場を望ましいと考える人が、最も多いという結論がでた。

 しかし現状では、前述のとおり、4分の3の職場で勤務時間の不均衡が生じている。では、こうした状況を打ち破るには、どんな方法が考えられるのか。アンケートでは、エンジニア自身が考える解決案も聞いた。
Part2 チームを強くするために、リーダーは何をすべき?
 エンジニア自身がよいと思う解決案として最も多かったのは、「管理職が部下の業務量と能力を正確に把握し、仕事を常に再配分していく」(33歳/社内情報システム、MIS)「管理職が部下の仕事量を見極め、ムラがあると思えば配分を均等にすべし」(30歳/LAN・Web系ネットワーク設計・構築)という意見。やはり、仕事を割り振るリーダー、マネジャー役に、問題解決のカギは握られているようだ。では、労働時間の不均衡をなくすために、問題解決のカギを握るリーダー、マネジャーはどのような手段をとればいいのだろうか。開発手法に詳しい萩本順三氏(株)豆蔵 取締役に聞いた。
■労働時間の不均衡を3つの方法で段階的に解消しよう
「マネジャーのなかには、能力の高い部下に多くの仕事を任せようとする人がいます。短期的に見れば、そのほうが業務効率は上がりますね。ただし、そうした状況が長く続くと、優秀な人材は『このままでは使い捨てにされる』と危機感を覚え、企業から逃げ出してしまう。長期的な視点から見れば、マイナスでしかないんです。また、新人には簡単な仕事しか与えず、ベテランにばかり負担をかけていては、労働時間の偏りはなくせない。すると、チームのモチベーションは下がり、開発力も落ちてしまいます。
 エンジニアを大量採用し、急場をしのごうとするケースもあるでしょう。しかし、いくら人を増やしても、すぐに残業が減ったり開発期間が短くなったりするかというと、必ずしもそうではないんですよね。
 大切なのは、チームの総合力を底上げすること。そのためには、長期的な視点で人を育てることが大切です。メンバーの力が伸び、チーム全体の能力が高まれば、みんなでそろって定時に帰ることも可能になる。そうすれば、全員が気持ちよく働くことができるでしょう」(萩本氏)

 小手先の対症療法だけでは根本的な問題解決にならず、労働時間の不均衡をなくすにはチームの総合力を高めていくしかない、というのが萩本氏の考えだ。
 それでは、開発チームを強くするための方法を、順序立てて解説していこう。
萩本順三氏
(株)豆蔵
取締役 技術戦略推進室 室長
プロフェッショナル フェロー
萩本順三氏

オブジェクト指向方法論「Drop」の開発、Javaベースの分散オブジェクト技術HORB2.0の開発リーダなどを勤めた経験あり。現在は、(株)豆蔵にて、要求開発コンサルティング、方法論(enThology)開発・コンサルティングなどを手掛ける一方、内閣官房にてIT担当室GPMO補佐官を務め、総務省が取り組むICT地域活性化支援事業の、「地域情報評価会」のメンバーとしても活躍。著書に『要求開発』(日経BP・共著)『初歩のUMLモデリング』(技術評論社)などがある。
STEP 0 「自転車操業状態」のチーム
 目の前のプロジェクトを処理することに忙殺されているリーダー、マネジャーは、意外に少なくないもの。しかし、ろくな指導もせず、「とにかくやれ」と命じるだけでは、メンバーのモチベーションが上がるはずがない。

「仕事の進め方が下手なマネジャーは、業務を細分化して、各メンバーに割り振ります。そして、仕事の目的を部下に説明することはない。これでは仕事を与えられる側が、より優れたプログラムを書きたいと考えても、どう工夫していいのかもわかりません。その結果、メンバーは機械のように、目の前の仕事をこなすだけになる。そして、プロジェクトが始まるたびに、開発チームはスクラッチアンドビルドを繰り返すのです」
 こうして自転車操業状態でプロジェクトを処理するだけでは、スキルは積み上がっていかない。また、メンバーのやる気も盛り上がらないだろう。このまま放っておけば、チームの能力は現状維持も難しいはずだ。
STEP 1 プロジェクトの目的を明確にする
 そこで、リーダー、マネジャーがまず行うべきは、仕事の目的を明確にすることだ。

「プロジェクトには、それぞれ目的があります。最初の段階で、これをきちんと把握することが大切です。
 例えば、あるソフトウェアを、表示や出力などを担当する『ビュー』、処理の中核を担う『モデル』、ビューとモデルの仲立ちとなる『コントロール』の3つに分類します。そして、『今回のソフトウェアについては、ビューの部分は使い捨てにしてもOK。一方、モデルの部分は、今後、ほかのソフトウェアにも十分流用が利く。だから、ここには力を入れて開発しよう』などのように、明確にするのです。そうすれば、その目的を実現するためには何を最優先にすべきなのか、どの要素は後回しにしてもいいのかはっきりとします。
 プロジェクトというものは、多くの場合時間が足りないものです。その中で、いろいろな要素をすべて並行して進めようとすると、うまくいかなくなる危険性が高いのです。そうではなく、優先順位をつけて作業をしていけば、より質の高い製品を、納期までに仕上げることが可能になります」

 リーダーには、限られた時間のなかで、最大限の結果を出すことが求められる。そのためには、重要度の高い業務から順に着手するセンスが必要なのだ。
STEP 2 目的をメンバー全員に説明する
 仕事の目的をはっきりさせ、細かな業務に優先順位をつけても、それがリーダー、マネジャーの頭の中だけにとどまっていてはいけない。まずは顧客や上級管理者との間で、その方針に間違いがないか確認しておく必要がある。仮にリーダーが「この仕事で最優先すべきはAだ」と考えても、顧客や上司が「むしろBを優先すべき」と考えていたら、プロジェクトがうまく進むはずがないからだ。
 顧客や上司との間で合意を取り付けたら、次に、部下への説明を行おう。基本方針は、メンバー全員で共有しなければ意味がないのだ。

「一人ひとりに仕事の目的と、優先順位を伝えることは大切です。そうすれば、各メンバーは、どの業務に力を入れればいいか自分で判断できるようになり、業務効率はグッと上がるからです。私は、『目的なき作業は創造性を生まない』と考えています。仕事の目的がはっきりしているからこそ、こうすればもっと使いやすいシステムになるんじゃないかと、工夫する意識も生まれてくるのでしょう」
 メンバー全員にプロジェクトの基本方針が浸透すると、同僚の仕事を手伝ったり、肩代わりしたりすることも容易になる。すると、特定の個人にしかできない仕事が減るというメリットが生まれる。

「メンバーのスキルが上がり、かつ、各自の仕事の共通理解が進めば、『個人の仕事』を作らないという手法も取れるかもしれません。業務を細かいブロックに分け、手の空いた人から次の仕事に取りかかっていくようにするわけです。こうすれば、労働時間の偏りも解消しやすいと思います。
 また、仕事を一方的に割り当てられていると感じると、やる気はどうしてもしぼみます。やはり、共同でひとつの仕事をしていると感じさせることが、チーム全体のモチベーションを高めるカギですね」
STEP 3 優秀な人材を「教育係」に抜擢
 プロジェクトの目的をメンバー全員で共有し、各自がそれぞれの判断で仕事を進められるようになったら、いよいよ最後の段階。それは、優秀なベテランに任せる仕事を、思い切って減らすことだ。

「メンバーの間にスキルの格差があれば、いつまでたってもベテランに負担がかかってしまいます。そこで、思い切ってベテランを『教育担当』にし、若いメンバーのスキルアップに力を入れさせるのです」

 多少回り道に見えても、若手エンジニアの能力を底上げすることが、最終的にはチーム全体の力を伸ばすことにつながるのだ。そのためには、プログラムを書くだけでなく、後輩を育てる役割も高く評価する姿勢が大切になる。
「エンジニアの中には、いわゆる職人肌で、人に教えるのが得意ではないという人もいます。でもそういう人には、後輩に教えることの大切さを伝えて意識を変えてもらわないといけませんね」

■マネジャーに求められる「バランス感覚」と「説明能力」

 STEP1〜3のような手順を踏むことは、一見手間がかかるように見える。しかし、じっくりと人を育てることが、強いチームをつくる唯一の方法だ。そしてチームの総合力が高まったとき、メンバー全員が定時に帰れるという理想の職場が実現するのだ。

「労働時間の偏りをなくすには、チーム全体の総合力を上げ、皆が定時で帰れるような職場環境をつくることが必要だと思います。そして、そういうチームをまとめるマネジャーには、『バランス感覚』と『説明能力』が必要だと思いますね。
 バランス感覚は、定められた納期の中で、重要度を見極めてプロジェクトを進めるために必要。例え質の高いシステムを構築できても、納期に間に合わない、後の運用が難しいなどのトラブルが生じては意味がありません。重要度の低い業務を切り捨て、何にエネルギーを注ぐかという判断能力は、どんなエンジニアにも欠かせないものです。
 そして、エンジニアの皆さんに大切にしてもらいたいのが説明能力。顧客に対して、システムの優れている点をきちんと説明する。上司に、人材を育成することの重要性をアピールする。そして、部下には仕事の目的や重要性をきちんと伝える。そういうことができなければ、これからのエンジニアはやっていけないと思います。
 エンジニアの仕事には、苦労することも多いです。でも、どうせ苦労するなら、常に学び、進化するほうがいいと思いませんか? 一見遠回りに見えても、じっくりと人を育て、皆で学んでいくほうが、苦労が報われる可能性は高いと思うのです」
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
会社員時代の私の上司は、後輩を育てる仕事(STEP3)を積極的に部下に割り振っていました。当時はもちろんのこと、今考えても「自分で教えるのが面倒だっただけ」としか思えないのですが、チーム力は着実にアップ、当の上司が「いつまでも残業なんかしてないで! 帰るぞ!」と言えば「まだ作業が……」などと不平を言いつつも一斉に帰る、という職場環境も実現していました。結果オーライ、なんでしょうか?

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