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金融業界全体に影響を与えるPMを目指し安定した銀行直系SIerを飛び出したH.Aさん
現在31歳にして大手SIerでPMを務めるH.Aさん。大手金融機関に向け、新しいサービスの実現に向けた業務設計の段階からかかわっている。多くの若手SEが目指すキャリアに、彼はどのようにしてたどり着いたのか見ていこう。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:08.04.14
大規模システム構築プロジェクトを率いる、プロジェクトマネジャー(PM)。その中でも、大手クライアントが新たなビジネス創出に挑む際に頼るのは、一握りの有名SIerのPMであることがほとんどだ。ある意味、情報システム産業におけるキャリアの頂点であり、高収入も見込める。このポジションに到達するためには、どのようなルートがあるのだろう。やはり有名大学を出て、新卒で業界トップクラスの企業に入社するしかないのか。決してそうとは限らないことを、ここに紹介するH.Aさんは証明している。彼は文系の大学を卒業し、新卒入社したのは銀行のシステム子会社だ。そこから転職という手段で、国内でも有数の実績を誇るSIerに移り、現在は3000人月規模のプロジェクトを率いているのである。
Profile 大手システムインテグレーター プロジェクトマネジャーH.Aさん(31歳)
新卒で信託銀行のシステム子会社に入社。金融系システムの開発で着実にスキルアップと経験を重ねながらも、将来の展望に限界があることに不満を覚えて転職。
転職前(信託銀行のシステム子会社 A社 プロジェクトリーダー・30歳) 転職後(大手システムインテグレーター B社 プロジェクトマネジャー・31歳)
年俸約700万円。残業が多かったわけではなく、同年代から見ればまずまず良いほうだと思っていた。 給与 年俸約1100万円。中身が濃く、責任範囲も広いポジションといえるが、同年代ではまず得られない待遇だと満足している。
9時〜20時(月間の平均残業時間は60時間) 勤務時間 9時〜19時(月間の平均残業時間は30〜40時間)
今回の注目!
規模が小さいので、知っている人ばかり。 職場環境 業界トップクラスのスキルと実績をもつPMが多数いて、刺激を受ける。
仕事に厳しく尊敬できる上司がひとりいるが、そのほかには目標となるような先輩・同僚は見つけられず。 職場の人間関係 実力があれば一目置かれ、中途入社でもキャリアを尊重されるような大人の関係。後輩の若手SEクラスも優秀で、無駄な配慮がいらず仕事はしやすい。
クライアントである親会社から下りてくる開発要件を仕上げていく。 仕事の
中身
金融大手が新たにスタートさせるサービスを支援するためのシステムを開発。コストや導入効果について責任をもつ立場。
仕事に対する姿勢は個人次第。あえて自分のスキルアップにつながる仕事を選び取っていた。 仕事の
進め方
自らシステムを主導するポジションであり、クライアントとはコンサル段階から接し、プロジェクト時には30人前後のメンバーをマネジメント。
親会社のシステム開発におけるPL。 仕事の
役割
金融大手各社を巻き込んだ大型システム開発におけるPM。
転職前編 結果の見えた未来はつまらない。
新卒で入社した企業は信託銀行のシステム子会社のA社。一般的にはユーザー系と称され、親会社のシステム開発需要を満たすことが存在理由であることから、受託案件の獲得競争に参加する必要がない。また、社員エンジニアは常に元請けの立場でプロジェクトに参加できるとされる。それゆえ転職市場では人気が高いそうだ。何より過密なプロジェクト進行で忙殺されることが少ないのが転職希望者に支持される理由らしい。確かにA社に7年ほど在籍し、そうした見方が間違いではないことを体感した。だが、当初からそれは魅力には映らなかった。何といっても、常に親会社から完成度の高い仕様が下りてくるのが嫌だった。親会社で新しいシステムを構想するという動きがあっても、仕様が決まるまでかかわれない。これでは元請けの体裁を取りながらも、下請け体質そのものである。

それでも入社当初から全力で勉強していた。同期の仲間たちは安定を求めてユーザー系SIerを選択したと思われ、覇気が感じられなかった。だからなのか、大学卒業時にシステム開発のスキルはゼロだったが、理系出身の同期にもスキルで追いつくのにそれほど時間はかからなかった。2年目には、通常で3年かかるプログラマからSEへのステップアップを果たした。
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親会社から仕事に厳しい上司が出向してきたときも、プラスにとらえることができた。その上司は、平気で部下を罵倒するような激しい面をもっていたが、仕事はかなりできる人物だったからである。それまでぬるま湯のような風土だっただけに、多くの部員は彼の厳しさに耐えかねて距離を置いたが、罵倒されることを恐れずにあえて懐に飛び込んだ。その結果、多くのことを吸収できたし、3年目にサブリーダーとして活躍するチャンスが与えられた。

4年目、5年目と、その上司に必死で食らいついていったこともあり、どんどん仕事が任された。同時に、プロジェクトマネジメントに関する書籍を読みあさり、セミナーにも積極的に参加するなど、より上流の工程ではどのようなスキルが必要かを研究し、その習得に努めた。評価もうなぎ上り。年収は700万円に至った。

ところが6年目の年に、例の上司が本社に戻ることになった。目標となる上司を失うと同時に、もうA社から吸収できることはないことを悟った。このまま居続ければ、これまでの実績から見て部長はもちろん役員になることも夢ではないだろう。でも、そんな未来に何の魅力も感じない。むしろ決まり切った未来に閉塞感を感じる。親会社だけではなく、金融業界全体にインパクトを与えるようなプロジェクトで活躍したいという目標が固まってきた。そんな機会などA社にはあり得ない。転職を選択せざるを得ないと思った。
転職活動編 妥協をせずに機が熟すのを待つことを選択。
早速、人材紹介会社に登録した。そして、すぐに数社の面接を受けた。中には最終面接までスムーズにいった企業もあった。でも、最後の最後で条件が折り合わなかった。どの企業も、提示された年俸が、現在の収入以上を保証してくれるどころか、100万円ほど下回ったのである。別に収入アップを期待したわけではない。でも、いくら仕事内容が最優先だったとしても、収入が下がるのは納得いかない。結婚を控えていたということも大きかった。この最初の転職アプローチの結果、28歳のPLクラスのエンジニアに、700万円オーバーの待遇を用意できる企業がほとんどないということを知った。

そこでキャリア戦略を見直すことにした。A社でPMとしてのキャリアを積み重ね、マネジメントスキルを磨いて、再アプローチを図ることにしたのである。その直後、待ち構えていたようにジャストタイミングで、大規模プロジェクトのマネジャーを任された。今まで勉強したPMのスキルを投入し、A社としては異例の大型案件を難なくこなした。

このときの仕事ぶりが評価されたのか、IT業界で多数の実績をもつヘッドハンティングの会社からオファーがあった。ぜひ、大手SIer各社に売り込みたいという。もちろん大歓迎だ。すぐにリストアップされたのは国内でトップクラスの企業ばかり。その中から、金融業界で数々の大規模プロジェクトを実績として残してきたB社に応募することにした。
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面接では自分なりのプロジェクト運営手法や、今までにどのようにしてプロジェクトを最後までやり遂げたのかといった、具体的な話で盛り上がった。手応えはあったが、最後に提示された年俸を聞いて驚いた。850万円という金額である。望外の額だった。
転職後編 本当にやりたかったことを手掛けている。
B社に転職後、仕事に関しては本当に満足している。現在は大手金融で業界標準となっている自社開発のシステムパッケージの導入に、PMとして参画している。新たな金融市場をつくっていくという意識がもてる開発だ。率いるメンバーも多い。3000人月の規模であり、オフショアも活用。クライアント各社には業務設計の段階から接し、コンサルタントとしても期待されている。親会社しかクライアントとして接することができないA社では望めなかったポジションだ。かつて真剣に吸収したPMBOKなどのメソッドや企業経営に関する知識を生かす機会も多い。所属企業が変われば、これほど仕事のスケール感が変わるものかと、今更ながら驚いている。

もっと驚くことになったのは、待遇面だ。850万円は初年度だけ。2年目の現在は1000万円をオーバーした。思い返せば、勉強に相当な時間を費やした。実績になるならば、と困難な案件にもあえて手を上げて取り組んだ。その対価としては高くないのかもしれない。
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H.Aさんの転職考察 自らに課した高いハードルを乗り越えた結果が、転職の成功につながる
転職して良かった点
・転職時に年収が大幅アップ。2年目で1000万円をオーバーした。
・金融ビジネスの最前線を支援するシステム開発にタッチできた。
・3000人月規模のスケールの大きなプロジェクトでPMを任された。
・多彩なクライアントに対して提案できる立場を手に入れた。
転職して悪化した点
・同期と呼べる仲間がいないこと。
不遇を感じていたエンジニアが、転職によって実力相応のポジションに到達できることは少なくない。H.Aさんも、前職にとどまっていたら現在のような大規模プロジェクトの先頭で活躍できる機会も、1000万円オーバーという待遇も、巡ってこなかったであろう。でも、彼はラッキーだったわけではない。見過ごしてほしくないのは、H.Aさんが転職によって大手SIerでPMデビューをするために、周到な準備をしていたこと。本人は「PMはSEの延長上にあるキャリアではない」と言い切る。日々の開発業務に加え、最新のプロジェクトマネジメント手法や、企業経営、業務設計などに関する知識を貪るように勉強してきたことが、希望どおりのポジションを手に入れることにつながったのは言うまでもない。自らあえて高いハードルに挑む姿勢と不断の努力があったからこそ、実現できた転職なのである。
今回の転職ノウハウ:大手SIerでPMとして活躍したいなら周到なスキルアップ戦略が必要。転職はその集大成。
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