|
|
製造業を中心とする転職市場で、機械・機構設計者のニーズが高まっている。自動車業界を中心として、業界・業種を超えた転職事例も増えてきた。単に売り手市場なのか、それとも機械技術者特有の理由や背景があるのか。大手製造4社をリサーチした。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/宮みゆき CGイラスト/Rey.Hori)作成日:08.03.26
|
リクルートエージェント高原氏によれば、機械・機構設計者の採用ニーズは2006年以降、この10年間になかったというぐらい、きわめて高い水準を維持しているそうだ。中には町の自動車整備工として働いていた人が、クルマづくりへの熱い思いを語ることで、大手完成車メーカーの開発者として採用された例もあるらしい。だからといって、転職希望者のほとんどが志望企業に入れる訳ではない。採用側は応募者のどこに注目しているのだろうか、大手製造業4社における実際の転職ケースを見ていこう。 |
大学では航空工学を専攻し、新卒入社の際には人工衛星の開発に携われるということで大手電機に入社しました。それまで学んだことを活かせるという点で、申し分のない就職先のように思われるでしょう。それでも就活時はかなり迷いました。実は写真が好きで、カメラという光学製品にもマニアックな興味があったからです。宇宙かカメラか……両者のどちらを取るか悩んだ挙句、宇宙を選択したのです。 そして入社後は、太陽電池パネルやアンテナを軌道上で展開する機構の設計等を担当。筺体の設計も任されました。そうした人工衛星の開発は取り組みがいのある大きなものでしたが、休日出勤が続くなど仕事自体はハードなものでした。また、仕事に慣れるに従って、民生品への憧れが高まってきました。人工衛星は最高度のテクノロジーが結集した製品ですが、一般の目に触れることがないものです。多くの人に評価される製品で、技術スキルを磨きたいという願望が次第に強くなりました。 |
キヤノン株式会社 |
|
民生品を手掛けるとしたら、カメラ以外は考えられませんでした。キヤノンに応募したのは、トップブランドということもありますが、大学時代の友人が勤めていて、待遇や労務面で前職よりも数段良いことを知ったからです。開発環境や仕事の進め方が異なることへの不安は、カメラの開発ができるかもしれないという期待がかき消してくれました。 現在の仕事内容は、ハイビジョン用デジタルビデオカメラのレンズ部分のメカ設計です。ズームやピント合わせ、手ブレ補正のために自動/手動で複数のレンズを動かすための機構設計を担当しています。光学担当・回路担当とチームを組み、いかに小さく・薄くつくるかという課題や、高画質を実現するミクロン単位のレンズ制御への対応など、エンジニアとして刺激的な開発環境に満足しています。 |
藤原さんの場合は業界が異なっても、複雑かつ高精度で自動制御するメカの設計という点で、仕事内容は大きく変わっていない。技術スキルもさることながら、カメラという開発対象製品に対する強い興味と意欲や、ユーザーマインドを持った柔軟な市場理解力も評価点となった。 |
|
クルマ好きの私が自動車部品の設計をしたいと思い入社した会社は、ある自動車メーカーの関連デバイスメーカーでした。担当した仕事はインパネの設計。技術者として課題解決に挑んだり機構設計上の工夫をしたりと専門性のレベルアップは実感していました。その一方、発注先のメーカーが決めた仕様に従う部分が多く、自分の意見が反映される余地は多くありませんでした。このあたりのスキルアップを求めて、自動車関連の機械・機構設計という枠の中で、仕様の検討段階から関われる企業への転職を考えるようになりました。 そんなとき、松下電器グループが、AV機器や家電だけではなく、多彩な自動車部品を開発していることも知り、意欲を持ってチャレンジしたところ、晴れて入社が決定しました。入社後に担当した製品は、ブレーキランプスイッチ。ブレーキペダルを踏むと通電する仕組みです。単純な構造ですが、担当してからは奥の深い製品であることを痛感しています。何より求められるのは耐久性です。万が一ブレーキランプが点灯しなければ、後続車に追突される可能性が飛躍的に高まるからです。実際に重要保安部品と考えられ、最低でも100万回の使用を保証しなければなりません。そのため品質は徹底的に追求されます。接触の仕方、接点の形状や素材においてベストを追求しつづける日々です。 ブレーキランプのスイッチにおいては、国内シェアトップです。国内自動車メーカーのほとんどすべてが取引先。メーカーサイドの技術者とは頻繁に接し、こちらから提案を持ちかけることも少なくありません。同じ自動車部品の設計なのに、クリアすべき高いハードルがあるだけで、これほど仕事にやりがいが感じられるようになるものかと驚いています。 |
パナソニック エレクトロニックデバイス株式会社 |
前職で活躍していた業界が異なっていても、上流工程に対する自発的な改善提案への意識や必要となるスキルの獲得意欲があれば、大手製造も採用対象と考える。吉川さんは、企業の採用ホームページからのエントリーだが、転職を通して技術を高めたいという意欲がエントリーの内容を通じて感じられたこともプラス評価となった。 |
|
大学院でロボット等の制御工学を学んでいた私が最初に就職したのは、大手電機です。そこで発電プラントの制御システムづくりを担いました。発電プラント自体は総合的な技術を必要とする開発対象でしたが、担当した運転制御のための電気的なシステム設計にはあまり醍醐味を感じませんでした。動的な部分の機構設計にタッチしたいと思いましたが、プロジェクトではボイラーやタービンの設計は別の会社が担当。横でそれをうらやましく思っていたのです。 そんなある日、先に当社に転職した元同僚から、楽しく油圧ショベルの解析や開発をしているのを聞いて、後を追いかけようと決心しました。それまで建設機械を設計するというイメージをまったく持っていなかったのですが、よくよく考えれば複雑かつダイナミックに大きなアームやバケットを動かす製品。まさに自分が設計したかった分野です。また、海外で活躍するチャンスがあると聞いて、ぜひとも英語を学ぼうと思いました。 |
新キャタピラー三菱株式会社 |
|
現在の担当は次世代に向けたハイブリッド製品の研究開発です。油圧ショベルはディーゼルエンジンを動力源とし、その出力を油圧に変えて動かしていますから、自動車と同様に省エネ・環境対策が求められています。そこで、今までは油圧を抜く動作中に捨てていたパワーを回生エネルギーとして電気的に蓄え、再利用するシステムの実現を目指しています。私はこのプロジェクトで、全体の制御を担当。機構設計や位置制御のスキルを活かし、電気や油圧担当の仲間と高いハードルに挑んでいます。 転職2年目に担当した量産モデルを、町中で見かける機会があります。やはり自分が関わった製品が使われているシーンを見るのは、設計者として格別の思いです。いずれ、今取り組んでいる次世代技術が反映された製品が販売されるはず。その時が楽しみですね。 |
佐々木さんの前職は純粋な機械・機構設計者ではない。電気やシステム面のスキルもプラス評価だが、基本は大学院で研究した機構制御の技術が認められての採用である。このケースのように、機械・機構設計の基礎技術は、業界や職種を超えて評価されることが少なくない。 |
|
前職は関東の自動車部品メーカー。そこでエンジン各部に潤滑油を送るオイルポンプの設計を任されました。ここ何十年も基本構造を変えていない成熟製品とも言えるオイルポンプですが、完成車メーカーの先行開発部門と少しでもフリクションロスの少ないポンプを求めて行う設計は面白い仕事でした。それでも転職を考えたのは、同じ自動車産業でもっと技術開発が急速に進んでいる製品を手がけたかったことと、実家が三重県だったので東海地方にUターンしたいと考えたからです。 当初からデンソーは転職先の候補に上がっていました。国内外の数多くの完成車メーカーに製品を供給しているスケール感と、技術の先進性そのものに憧れがあったからです。でも、無名会社の一機械設計者を採用してくれるとは、思っていませんでした。リクナビNEXTから応募したのは、いわゆる「ダメもと」です。ところが最終面接までスムーズに進み、入社が決定しました。 |
株式会社デンソー |
|
もっと驚いたのは、配属先です。最先端の自動車テクノロジーのひとつとされる、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置の開発部門だったからです。入社直後から、シリンダーに軽油を高圧噴射するインジェクターのノズル設計を担当。デンソーはこの分野における世界最高峰です。さらなる高圧化への対応や最適な噴霧距離と燃料の微粒化を実現する形状設計、耐久性の高い材料の研究等で奮闘しています。 配属先されたとき、嬉しさと同時に、期待に応えられるだろうかという不安がありました。転職1年後、それは杞憂に過ぎなかったと感じています。転職前に磨いた機構設計や流体に関するスキルと知識が無駄ではなかったということです。スキルをキチンと判断して採用されたことが、今になって理解できました。 |
斉藤さんが評価された理由は単純に自動車業界の経験があったからではない。機構設計、流体、材料といった幅広いスキルに加え、完成車メーカーの高い要求に応えていこうとするマインドが、転職後の成長を強く後押しすると判断されたからである。 |
|
機械・機構設計エンジニアの採用ニーズは2006年以降、きわめて高い水準を維持しています。ここ数年の採用ニーズを押し上げてきたのは、グローバルマーケットにおける自動車産業の活況です。完成車メーカー・サプライヤー共に幅広い異業種から機械系エンジニアを集めたため、家電、ロボット、工作機械、産業機械、建設機械、重電関係プラント建設などでも機械系エンジニアの需要が増え、それに伴って採用基準も緩やかになってきました。企業によっては「設計の基礎や力学を勉強したことのある人なら、実務経験は問わない」とするところも増えています。私たちが担当したケースでも、異業種からの転職は全体の2割を占めています。 採用時に期待されるのは、「どれだけ部品点数を少なくする工夫ができたか」「量産工程を考えた設計をしてきたか」といったポイントです。またプロジェクトマネジメントの経験や英語力も評価されます。一般に機械系エンジニアは、IT系のエンジニアなどと比べると、転職活動で「腰が重い」傾向があります。まずはこの絶好の機会に動いてみてほしいですね。その後にじっくりと判断すればリスクは何もないのですから。 |
リクルートエージェント |
このレポートに関連する企業情報です
自動車用システム製品(エンジン関係、空調関係、ボデー関係、走行安全関係)およびITS関連製品(ETC、カーナビゲーション等)、生活関連機器製品、産業機器製品等の開発・製造・販売続きを見る
|
||||
このレポートを読んだあなたにオススメします
2008年エンジニアが転職したい人気メーカーランキング
トヨタ自動車1位!エンジニアが転職したい企業TOP10
モノづくりエンジニアが働きたいと思っているメーカーはどんな企業か。Tech総研では、メーカーに勤めるエンジニア3092人に大調査…
短期間で成長できそう・年収100万円UPできそうetc.
モノづくり系300人に質問☆○○な企業ランキング
前回に引き続き今回はモノづくり系企業にスポットを当て、イメージ重視で給料がアップしそうな企業や異性に尊敬されそうな企業を選出して…
大手メーカーの情シス部門がスカウトしたい人材とは・松下電器編
社内SE『究極のレジュメ』職務経歴・資格はどう書く?
今やビジネスはITなしには成り立たない。そこで多くのユーザー企業ではコアビジネスの競争力向上のため、情報システムの強化を図ってい…
【シブすぎ外伝】エンジニアたちの碑(いしぶみ)
仕事は無難に適当に…安定志向のO氏を襲った謎の事件
言われたことだけやり、定時で必ず帰るO氏。将来の夢を持つなんていまの日本じゃ無理だと思い込んでいた。仕事は適当にこなし…
デバイス事業部の開発拠点を東京に設立する狙いは何か?
デンソーデバイス技術トップが明かす東京進出の真意
デンソーの車載半導体開発を担うデバイス事業部は2014年夏、東京に開発拠点を設立する。クルマの安心・安全技術に寄与する…
広める?深める?…あなたが目指したいのはどっちだ
自分に合った「キャリアアップ」2つの登り方
「キャリアアップしたい」と考えるのは、ビジネスパーソンとして当然のこと。しかし、どんなふうにキャリアアップしたいのか、…
あなたのメッセージがTech総研に載るかも