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No tech No life 〜この技術とともに在り〜 Vol.3 重要度を増す「コンピュータセキュリティ」の24年史
インターネットは道路や水道と並ぶ「インフラ」にまで地位を高め、その中にある「情報資産」の価値も増大している。そうした流れの中で、インターネットの普及とともに成長し高度化してきた「セキュリティ」の24年史を、その担い手のエンジニアたちの声を交えてつづります。
(文/谷川耕一 総研スタッフ/根村かやの イラスト/岡田丈)作成日:08.03.19
Part1 常に新たな脅威と戦う「コンピュータセキュリティ」
90年代前半までのコンピュータウイルスは、ゆっくりと感染した
 世界で最初のコンピュータウイルスについては諸説あるが、一般には1986年にパキスタンで開発された「Brain」だと言われている。この後、1980年代後半にはさまざまなウイルスが登場する。ほとんどのものは、フロッピーディスクなどのオフラインメディアを介し感染するため、拡大はゆっくりとしたものだった。

 機密情報を鍵を掛けた金庫にしまうという物理的なセキュリティ対策は以前からあったが、当時は軍関係や金融機関などを除けば、コンピュータシステムに対しあまり手間をかけたセキュリティ対策は施されていなかった。

 この状況が変化するきっかけは、インターネットの普及と発展といえる。日本においても1984年に大学間をつなぐJUNETが発足し、1988年には企業も加わったWIDEプロジェクトがスタートし、インターネットの利用が始まる。この時点ではインターネットは大学や企業の研究者など限られた人による利用だったが、1991年にWorld Wide Web(WWW)の技術が開発され、1992年には日本初の商用プロバイダ(ISP)であるSPIN(現在はSpinNetとしてソフトバンクテレコムに吸収)がサービス提供を開始。同年には商用プロバイダのIIJも設立している。1993年にはWebブラウザが開発されるなど、1990年代に入りインターネットが一般ユーザーにも急激に普及することとなる。

 こうしてインターネットが一般企業や個人レベルへと普及したことにより、インターネットを介して感染するウイルスが多数出現する。メールの添付ファイルやFTPによるダウンロードといった手法を用い、従来よりも短期間かつ広範囲にウイルスが広がるようになるのだ。
 しかしながら、当時のコンピュータウイルスの多くは愉快犯的な目的であり、感染してもそれほど大きな被害には発展しなかった。
コンピュータセキュリティ技術史:(1)1983〜99
セキュリティ技術史 IT技術史
1983
暗号アルゴリズムRSAが米国特許を取得
ARPANETとCSNETが相互接続
大規模なネットワーク相互接続により実質的なインターネットの誕生
アップル社が「AppleUe」を発表
国産PCメーカーがPC用統一規格として「MSX」採用を表明
1984
「JUNET」(Japan University Network)が開設
東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学を接続した日本初のコンピュータネットワーク
電電公社、INSモデル実験を東京・三鷹、武蔵野地区で開始
1985  
電気通信事業法、日本電信電話公社民営化法施行
1986
「JUNET」と米国「CSNET」(:Computer Science Network)が接続 日本初の海外接続コンピュータネットワーク
コンピュータウイルスの第一号Brain(ブレイン)が発見される
ソフトウェア生産工業化システム(シグマシステム)プロジェクトがスタート
男女雇用機会均等法施行
1987
ポーランドで最初のAntiVirusソフトが開発される
利根川進にノーベル医学・生理学賞
1988
国内で初のパソコン通信を介したコンピュータウイルス事件が報道される
WIDEプロジェクトがスタート
複数の企業からの出資を受けJUNETをもととした本格的なネットワーク構築のための研究組織
ソウルオリンピック
情報処理技術者試験に「オンライン情報処理技術者試験」を追加
1989
国産ウイルスJapanese Christmas発見される
ベルリンの壁崩壊(東西冷戦の終わり)
1990
「コンピュータウイルス対策基準」を策定(通産省)
日米スーパーコンピュータ協議が決着
1991
IPA(情報処理振興事業協会、現・情報処理推進機構)内にコンピュータウイルス対策室が設置
JNIC(現JPNIC)が発足 日本国内のドメイン名やIPアドレスの割り当てなどを行う
World Wide Webを開発(CERN)
NTT、異種コンピュータ接続インタフェース統一仕様「MIA」を発表
EC閣僚理事会、「コンピュータプログラムの保護に関する指令」を最終採択
ゴルバチョフ大統領辞任表明、ソ連消滅
1992
インターネットとパソコン通信メールで相互接続
UUCPで日本初の商用プロバイダサービスSPINを提供(AT&T Jens)
日本の商用インターネットプロバイダの草分け的存在であるIIJ設立
PKO法成立
OECD「情報システムセキュリティガイドライン」を採択
1993
日本インターネット協会(現 財団法人インターネット協会)設立
ウェブブラウザのMosaicを開発(NCSA)
国内パソコンメーカーとソフト会社約70社、「OS/2コンソーシアム」を設立
1994
ウェブブラウザのNetscapeを開発(ネットスケープコミュニケーションズ)
国内初のファイアウォールサービスを開始(IIJ)
格安の個人向けプロバイダ、ベッコアメやリムネットが登場
村山富市内閣成立
政府、「高度情報通信社会推進本部」(本部長:内閣総理大臣)を設置
1995
阪神淡路大震災で安否確認にインターネットが利用される
テレホーダイ開始(NTT東日本、西日本)
「コンピュータウイルス対策基準」改定(通産省)
ウイルスに対する予防、発見、駆除、復旧等の対策のために策定されたガイドライン
オウム真理教・麻原教祖を逮捕
CALS推進協議会(CIF)が発足
Windows95発売、ウィンドウズ・フィーバー
1996
「コンピュータ不正アクセス対策基準」策定(通産省)
情報システムへの不正なアクセスを予防、発見、防止、復旧、再発予防などをすることを目的に策定されたガイドライン
Yahoo! Japanがサービス開始
PCERT/CC(コンピュータ緊急対応センター、現 JPCERTコーディネーションセンター)が事務所を開設
情報セキュリティ対策活動のコーディネーションを行う、我が国を代表するインシデント対応組織
電子ネットワーク協議会、「パソコン通信の利用をめぐる倫理問題に関するガイドライン」を発表
文部省とNTT、全国の小中学校計1000校のパソコンに通信機能を持たせる共同計画を発表
三菱銀行・東京銀行が合併(都市銀行の再編開始)
1997
セキュリティ センター(IPA/ISEC)が設立
センター内に、ウイルス対策室、不正アクセス対策室、暗号技術調査室及び企画室を設置
DESの標準化が終了(米国標準技術局)
1977年に米国で標準化された暗号化方式
政府、高度情報通信社会推進本部に「電子商取引等検討部会」を設置
「コンピュータ西暦2000年問題関係者省庁連絡会議」を設置
1998
Melissaウイルスが世界中に広がる マイクロソフトのワープロソフトWordで動作するマクロウイルス、繁殖手段に電子メールを使った
ERP/CRMなどニューアプリケーション市場が広がる
1999
巨大掲示板「2ちゃんねる」が開設
「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(通信傍受法)」が成立
「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」が成立
ISP側で運用を行なうマネージドファイアウォールサービスを開始(IIJ)
情報公開法が成立
携帯電話の普及4割を超える(普及累積台数5411万台)
2000年代、ネットに接続しているだけで脅威にさらされる
 2000年代に入るとOSやWebサーバーなどのソフトウェアの脆弱性を利用し、自動侵入するウイルスやワームが登場する。さらに、WinnyなどのP2Pソフトウェアに感染し、ユーザーが気づかないうちに個人情報を流出させるウイルスも登場する。このころから、ウイルスやワームの伝搬や感染の方法が複合化し複雑化する傾向が出てくる。2002年に発見されたワームのBlasterは、Windowsの脆弱性を利用し感染するだけでなく、特定条件が揃うと指定されたサーバーにアクセスを集中させるDoS(Denial of Service attack)攻撃を行う仕組みも組み込まれていた。

 また2000年代には、ウイルスやワームだけでなく、不正アクセスの脅威も露見する。2000年初頭には各省庁ホームページの改ざん事件が発生し、政府は早急にサイバーテロ対策を講じることとなる。不正アクセスは、ホームページの改ざんだけでは終わらず、やがては機密情報の漏洩事件に発展する。外部からネットワークを通じSQLインジェクションなどの脆弱性を利用し情報を盗む方法や、元従業員や協力会社の社員など正当なアカウントとパスワードをもつ人間が内部から情報を不正入手する方法が使われた。さらに、入手した情報を利用し、金銭を得ようとする事件が相次ぐことになる。

 フィッシングと呼ばれる偽サイトにユーザーを誘導し、アカウントやパスワードを盗む方法が登場するのも、2000年代中ごろのことだ。この時期から、コンピュータシステムに対して性悪説に基づいたセキュリティ対策を施さなければならない状況となるのだ。
さまざまな脅威と、さまざまな「守るべきもの」
 Webやデータベースサーバー、あるいは個人のPCが各種脅威にさらされるだけでなく、近年はセキュリティを確保すべき対象が大きく拡大している。現在では、外部からの侵入やウイルス対策だけでなく、ノートPCやバックアップメディアの盗難や紛失への備えも重要なセキュリティ対策の1つだ。これらの対策は、2003年の個人情報保護法の成立前後から、一躍注目を浴びるようになる。データそのものやネットワーク経路を暗号化したり、物理的にシステムを隔離し生体認証など厳重なID管理でアクセスコントロールするといった方法の採用が拡大するのだ。

 さらに2006年に成立した「日本版SOX法」で求められる、企業における内部統制の確保も新たなセキュリティ対策を要求する。誰がいつどういう理由で情報にアクセスし、改変を行ったかといったことを、監査のために詳細に記録することが求められる。

指静脈認証システム
指静脈認証システムは、指内部の静脈パターンを人体に安全な近赤外線で撮影・画像処理して認証するシステム。手のひら静脈よりも読み取り装置はコンパクトで利用しやすい。(写真提供=日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社)
 災害対策もひとつのセキュリティ対象として、新たに注目され始めた。何らかの事故や災害が起きても、重要な情報は確実に保護しなければならない。ネットワークやコンピュータシステムが人々の生活になくてはならないインフラへと成長している現在、サイバーテロや自然災害にも強いシステムインフラの構築も、セキュリティ対策の一環として捉えることができる。

 コンピュータセキュリティは、ウイルスやワーム、不正アクセスなどに対して個別の技術的な課題として取り組んでいたものから、対象が広がり技術だけでなく制度や法律、さらには教育や啓蒙など幅広い見識を必要とする分野へと、今や大きく変化している。
コンピュータセキュリティ技術史:(2)2000〜2006
セキュリティ技術史 IT技術史
2000
内閣安全保障・危機管理室に、情報セキュリティ対策室が設置
年初に相次いだ省庁ホームページの改ざん事件への対策などを目的に、専門家チームを政府内に設置
「重要インフラのサイバーテロ対策に係る特別行動計画」が策定
日本政府としてはじめてサイバーテロ対策のための行動計画を策定
暗号アルゴリズムRSAがパブリックドメインとして公開される
ワームのCode Redが発見される
マイクロソフトのWebサーバーIISの脆弱性を利用してコンピュータに侵入する
ワームのNimdaが発見される
感染したサーバ上にあるWebページを開いたり、感染したコンピュータから送られてきた電子メールをプレビューするだけで感染
「SELinux」が公開される
Linuxカーネル2.6のLSM(Linux Security Module)機能として追加
コンピュータ西暦2000年問題、世界的にクリア
政府、「申請・届け出手続きの電子化推進のための基本的枠組み」を策定
IT戦略本部とIT戦略会議、「IT基本戦略」を策定
九州・沖縄サミット開催
2001
「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」が施行
「Bフレッツ」接続サービスが提供開始(NTT東日本)
サイバー犯罪条約が採択される
コンピュータシステム全般への不正アクセスを禁止し、組織犯罪の捜査のために、国内法に基づく刑事手続きを整備する国際条約
標準暗号としてAESが公表される(米国標準技術局)
P2PソフトWinny開発
中央省庁再編(通商産業省→経済産業省、郵政省・自治省・総務庁→総務省など)
政府が「e-Japan戦略」を決定
アメリカで同時多発テロ。ニューヨークWTCビル崩落(9.11)
米エンロン社が不正経理で破綻。
SOX法制定のきっかけ
2002
ワームのSQL Slammerが発見される
2002年7月24日にマイクロソフトによってすでに報告されていたSQL Serverのセキュリティホールを突いて増殖、対策されていないSQL Serverが稼働しているとネットワークに接続しているだけで感染
世界各国のセキュリティ緊急対応チームの集うフォーラムFIRSTに国内からIIJが加盟
Telecom-ISAC Japan 設立
国内主要ISP・通信事業者で構成されるセキュリティ団体
ワームのBlasterが発見される Windows NT/XP/Server 2003のRPCの脆弱性を利用、接続しているだけで感染する。感染したマシンから一斉にマイクロソフトのWindows UpdateサーバーにDDoS攻撃を行うような仕組みも組み込まれていた
欧州統一通貨「ユーロ」の貨幣流通開始
みずほ銀行、システム統合でシステムトラブル
日韓共催のサッカー・ワールドカップ。日本はベスト16、韓国はベスト4
米ワールドコム社が倒産
米連邦議会で「上場企業会計改革および投資家保護法(SOX法)」が成立
住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が稼働
2003
情報セキュリティ監査制度を開始(経済産業省)
民間企業や政府、地方自治体等の情報セキュリティ対策を目的とした監査制度
「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」が成立
コンピュータソフトウェア著作権協会運営のサイトから個人情報流出
コンピュータウイルスAntinny発生
Winnyを媒介に個人情報などを流出させる
Yahoo! BBの個人情報漏洩
最終的にはのべ660万件の個人情報が流出
Japan Vulnerability Notesのサイトが運営開始
経済産業省告示「ソフトウェア等脆弱性関連情報取扱基準」を受けて、日本国内の製品開発者の脆弱性対応状況を公開するサイト
架空請求に関する相談件数が多い業者名リストを公開(国民生活センター)
「安心・安全インターネット推進協議会」が設立
安田浩東京大学教授を発起人に、IIJ、NTT Comなど9社が参加、総務省もオブザーバーとして参加し、ネットワーク側でセキュリティを確保し安全なコミュニケーション目指す
スペースシャトル「コロンビア」が大気圏で分解
朝青龍、横綱昇進
米、イラク空爆を開始(イラク戦争開戦)
六本木ヒルズ開業
有事関連法(武力攻撃事態対処関連三法)が成立
家庭系使用済パソコンの自主回収および再資源化を開始
丸紅のショッピングサイトでパソコンの価格を19800円と誤表示
自衛隊、イラクへ派遣
BSE問題で米国産牛肉の輸入停止
2004
Winnyの作者が著作権法違反ほう助の疑いで逮捕
内閣官房情報セキュリティセンターを設置
知的財産基本法施行
アテネオリンピック開催
2005
DDoS対策サービスを開始(IIJ)
公開鍵暗号「HIME(R)[ハイムアール]」がISO国際標準規格に採用(日立)
フィッシング詐欺を国内初摘発
Yahoo!オークションのサイトに似せたフィッシングサイトを使い他人のIDとパスワードを不正に入手して商品をだまし取る
電子文書法施行
「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」全面施行
みずほ証券、ジェイコム株誤発注で約400億円の損失
2006
Winnyを介する情報漏洩に対する注意の呼びかけ(内閣官房情報セキュリティセンター)
特定の企業や団体などに属する個人を狙いウイルスメールやフィッシングメールを送りつける「スピア型攻撃」と呼ばれる手法が顕著に
「日本版SOX法」が成立
証券取引法抜本改正、金融商品取引法に
「サイバークリーンセンター」の開設(総務省、経済産業省)
ボット対策プロジェクトのポータルサイト
ライブドア事件
経済産業省IT戦略本部が「IT新改革戦略」「重点計画2006」を策定
トリノ冬季オリンピック開催。女子フィギュアで荒川静香が金メダル
安倍内閣が発足
Part2 セキュリティ対策エンジニアの「先見性」「広い視野」
90年代末、技術的なツールは出揃った
 齋藤衛氏が初めてインターネットに触れたのは1989年ごろのこと。学生だった斎藤氏は、この新しい仕組みにすぐにほれ込んだ。1995年にインターネットイニシアティブ(IIJ)に入社し、以来一貫してセキュリティ関連の業務に携わっている。

「入社当時は、一般企業がインターネットを業務に利用し始めたころです。多くのシステムに脆弱性があり、ハッカーがいたずら的にそれを攻撃をする。当時はそれに対し利用者自身がセキュリティ情報に注意し、不具合の修正をする必要がありました」(齋藤氏)

 しかしこのような個別のセキュリティ対策では、利用者の数やサーバー数が増えれば対応しきれない。効率よく対策を施すには、プロバイダ側で境界防御を行う必要がある。IIJでは、1994年に国内では初のファイアウォールサービスの提供を開始している。

齋藤衛氏
齋藤衛
株式会社インターネットイニシアティブ
技術開発本部 プロダクトマネージャ
 1996年〜1998年くらいの間で、プロトコルや暗号化などインターネットを安全に利用するための技術的ベースが固まる。以降は、環境をセットアップしリモートで監視するという基本的なセキュリティ対策から、顧客の負担を減らすために顧客システムの環境すべてを管理する総合的なサービスに変化しているという。
2000年代、セキュリティ対策の「仕組み」づくりへ
 齋藤氏は、2002年ごろからネットワーク上の事件に対処するために事案情報や関連技術情報の共有、分析を行なう団体「Telecom-ISAC Japan」の立ち上げに参画する。この団体には、複数のISPが参加している。

「ISP同士はビジネス上競合関係ですが、これは通信インフラ全体に影響を及ぼす事態に対し、インフラ提供者で協力して対策しようという活動です」(齋藤氏)

 この時期はネットワークワームが数多く出現し、ワーム感染行動の副作用でネットワーク負荷が高まる状況が頻発していた。さらに、すでに2000年ごろからはDDoS(分散DoS)という新たな脅威も出現していた。ネットワークに分散する大量のコンピュータが特定サーバーへ一斉にパケットを送出し、サーバーに負荷をかけたり、通信路をあふれさせたりすることで機能停止させる攻撃だ。2004年のスポーツイベント開催時には、対戦相手の関係サイトや政府サイトが攻撃され、2005年には日本の主要ドメインに対し一斉攻撃を受ける事件も起こる。これらに対応し、IIJでは2005年10月DDoS対策サービスを開始している。

「最初のころは特定サイトが攻撃されていたのですが、ボットの登場でいまではごく普通の企業サイトも狙われるようになりました」(齋藤氏)

 ボットは、ウイルスやワームを用い、感染したPCを攻撃者がインターネット越しに遠隔操作できるようにしたもの。攻撃者は数十台から時には数万台というボットを管理し、「ボットネット」といわれる巨大ネットワークを形成する。齋藤氏は2005年から、各社が協力して行ったボットネットの調査に携わることに。その結果が、政府主導のボット対策プロジェクトである「サイバークリーンセンター」の活動につながる。

 このときの調査で「ボットネットは本当によく運用されている。日に3回もアップデートするようなものもある」といったことがわかったという。現在はボットを作る人、ハーダー(羊飼い)と呼ばれるボットを飼う(運用する)人、そしてハーダーにスパムメールの配信などの悪事を依頼する人がいて、そこにはお金をやり取りする流れができ上がっているとのことだ。ボットネットへの対応は技術的な対策だけではなく、世界各国のISPやときには警察組織などとも協力し対策を講じるべき新たな問題へと発展している。

「インターネットは日常的に利用されるようになりましたが、まだまだ過渡期にありさまざまなすき間があります。ユーザーが安心安全に利用できるようにするのが、われわれインフラ提供者の役目だと考えています」(齋藤氏)

 インターネットは、いまや重要な通信インフラだ。災害時などにインターネットが活躍する場面も増えている。堅牢なインフラを提供するには、いったいどうするべきか。技術者は目先の現象にとらわれず、その1つ下のレイヤーにあることに注目し、中身を正確に理解するべきであろう。ネットワークやセキュリティなど、実際には仕様に厳密に動いているとは限らない。セキュリティ技術者も今後はこういった現実を踏まえ、従来のセキュリティの枠を超えたさらに広い視野が必要となると齋藤氏は指摘する。
90年代後半、暗号化製品リリースは「早すぎた」?
 日立ソフトウェアエンジニアリングの鮫島吉喜氏がセキュリティ関連の業務に携わったきっかけは、1992年にロンドン大学に留学した際に欧州のセキュリティプロジェクトに参加したことだ。そこでは、認証局や公開鍵についての研究を行った。
 1994年には帰国し、鮫島氏は職場に復帰する。翌1995年は、Windows95が発売されインターネットがビジネスの領域に一気に拡大する。インターネットのビジネス利用の状況を受け、鮫島氏は当時普及していた「ロータス cc:Mail」の暗号化メールの開発を行うこととなる。

「製品にセキュリティ機能を追加すると使いにくくなる。なるべく利便性を損なわないことが課題でした。」(鮫島氏)

 cc:Mailのファイル添付のインタフェースに手を加え、なるべくユーザーの使い勝手を変えずに添付ファイルを暗号化するようにした。また、WindowsのWinSockインタフェースをフックし暗号化、復号、認証するようにして、TCP/IP通信を暗号化する「秘文/SC」という製品も開発。しかしながら、このころは一般にセキュリティに対する意識は低く、費用を掛けてまで対策を施す動きはあまりなかったという。

鮫島吉喜氏
鮫島吉喜
日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社
技術開発本部 研究部
チーフITアーキテクト
 2000年になり、鮫島氏は「秘文/SAFE」という製品の開発を行う。これは、PCの中のファイルを自動的に暗号化するもの。現在も提供している「秘文AE」の元祖といえる製品だ。このころから金融機関などでセキュリティに対する意識が高まりを見せ、2002年に発生したデータベースの脆弱性を攻撃するワームのSQL Slammerや、2003年の個人情報保護法成立が、情報漏洩の脅威が注目されるきっかけとなる。

「最初に『秘文』を出した際は、まだ市場的には早すぎました。その後市場で支持されますが、研究者の立場としては数年早く開発を行ったからこそ優位性が出せたと考えています」(鮫島氏)
2006年「日本版SOX法」以降のセキュリティ管理機能
「秘文」を製品化した当時は、特定のフォルダだけを暗号化できればよかったが、個人情報保護法の施行以降は、ハードディスク全体の暗号化が要求される。さらに、USBデバイスなどを安全に利用する仕組みも求められる。

「特に最近は、日本版SOX法への対応で、暗号化ができるだけでなく管理者がセキュリティを一元的に管理できる仕組みが必要とされています」(鮫島氏)
 OSパッチや「秘文」のバージョンが最新でないPCがネットワークに接続されるとアラートを発生させるなど、内部統制のためのシステム全体のセキュリティ管理機能が求められるという。

 鮫島氏はまた、日本でも最も早い2001年ごろからセキュアOSのSELinuxの研究を開始した。この研究成果として、2007年12月に1台のPCで機密用と一般用の同時利用が可能なセキュリティソフトを開発する。これは、SELinuxと仮想化技術のVMwareを利用し、機密と一般の2系統のOSを1台のマシンで稼働させ、双方間の安全な情報のやり取り用にゲートウェイを組み合わせた構成をとる。この仕組みであれば、仮に未知のウイルスが一般系統に侵入しても、機密系統にある情報は保護される。

 サーバーからクライアントにセキュリティの対象が拡大し、今後は家電や携帯電話など組込みシステムにもセキュリティ対策が必要になるだろうと鮫島氏は言う。研究者としては、上記のSELinuxを用いた2系統端末のように、未知の攻撃に対応できる技術の開発に注力していきたいとのことだ。
次回の掲載は4月17日、「カーナビ技術の18年史」(仮題)です。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
コンピュータセキュリティの取材をしていていつも感じるのは、エンジニアがインターネットやコンピュータを愛し、それを損ね傷つけるものから守ろうとする思いを抱いていることです。インターネットやコンピュータにかかわるすべてのエンジニアが、インターネットの世界全体を育ててきたのと同時に、セキュリティという技術を育ててきたのかもしれません。

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