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松下電器・グーグルで「自分がユーザーとして楽しいもの」を創る
Googleマップ、LUMIXを創った僕らのリアルな仕事観
「世の中にないものを生み出したい」「世界中の人が喜ぶものを創りたい」。エンジニアなら誰もが憧れる働き方を実現し、世に技術革新をもたらしているエンジニアは数多くいる。今回は、松下電器でLUMIXを、グーグルでGoogleマップを開発するエンジニアたちにその仕事観を聞いた。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/平山諭 有本ヒデヲ)作成日:08.03.19

世界中のGoogleマップを創る! グーグル株式会社

仕事の視線はいつも世界に向く。だから、考え方のスケールが変わりました。
グーグル株式会社
ソフトウェアエンジニア

後藤正徳さん
2001年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修了。大学及び大学院にてコンピュータサイエンスを学んだ後、大手コンピュータメーカーの研究所へ。2006年12月Google入社。GoogleマップおよびGoogle Earthにおける大規模地理データの構築およびバックエンドシステム開発を担当。学生時代からDebian Projectへの参加やLinux Kernelドライバのメンテナ、横浜Linuxユーザーズグループの設立運営など、各種オープンソースプロジェクトにて活動。『Code Craft』などで技術書の監訳も。鵜飼文敏氏、まつもとゆきひろ氏との共訳著もある。

自分がやりたいことをやるのが、Googleのエンジニア

 実は日本って、もともと世界に類を見ないほどの高い品質の地図を持つ国なんです。だから、そんな国に見合うだけの地図サービスを作りたいといつも思っています。実際、Googleマップは、どんどん機能が充実しているんですよ。お店の情報を地図と一緒に調べられるようになっているのも、そういったさまざまな機能のひとつ。例えば、検索ボックスに「渋谷 ラーメン」と入れると、渋谷駅周辺にあるラーメン店の場所が地図上に出てきます。自分で言うのもなんですが、このサービスは、使ってみると意外に便利なんですよ(笑)。

 私は以前、大手コンピュータメーカーの研究所でストレージシステムやPCクラスタ、高速ネットワークなどのソフトウェア研究開発に従事していたんですが、そういった技術を元にして構築された大規模システムがどんなふうにしてサービスに使われるのか、興味を持っていました。とは言え、入社するまでは、そういったWeb上の地図のようなサービスを実現する上で必要になる技術や、システムの規模がどのようなものなのか、想像がつきませんでした。


アメリカ、スイス、台湾、中国のエンジニアと一緒に仕事を進める

後藤正徳さん

 でも、ユーザーとして見えるのは、ほんの一部分であることに入社してすぐに気づきました。驚くほど大量のデータを処理し、それを表示する仕組みを用意しなければならない。Googleマップを使うときにブラウザに出てくる、表示されるさまざまな画像をどう扱うのか。検索結果を返す仕組みをどう作り上げるか……。

 面白いのは、開発が世界で進められていること。いろんなシステムを作っているエンジニアが世界中にいて、みんなが機能を充実して使いやすいものにしようとトライしているんです。

 Google各国にあるGoogleオフィスはグローバルな開発を行っている、というのは本当だと入ってから実感しました。私も、アメリカの3つのオフィス、それにスイス、台湾、中国のエンジニアと一緒に仕事を進めます。時には、各国のオフィスに行って、ディスカッションすることもあります。日本でも仕事をしますが、同時に世界のチームとも仕事をする。お互いにアイディアを共有できる環境があるんです。

 Googleのエンジニアは基本的に自分がやりたいことをやるのがポリシー。同僚とよく話すのは、Googleにいると考え方のスケールが変わるということ。いつも視線は世界に向きます。だから、アプローチも仕事のスケールも変わってくるんです。いろんな人に使ってもらえること。まったく新しい価値を創り出せること。エンジニアの面白みは、まさに新しいものを創って、人をワクワクさせることだと思っています。


驚くほどの大規模システムが、本当に稼働していた驚き

 大学で行っていた研究の一つがストレージシステムでした。その時、大学の専攻がストレージシステム。学んだことが生かせると思って就職を決めた前職では、かなり面白い仕事をさせてもらっていると感じていました。新しいものをいかによくしていくかを追求し、日々、充実していました。Googleへの入社は、知人から誘いを受けたことがきっかけだったんですが、実は誘われてから入るまでずいぶん時間がかかったんです。前職の仕事が面白かったし、長期で続いていたプロジェクトを途中で放り出すのは嫌だったからです。転職は、そんなに簡単にするもんじゃない、とも思っていましたし。

 ただ、やはりGoogleへの興味はありました。サービスを実現するために桁違いの規模の台数が使われていると聞いていたからです。世界中の情報をインデックスして提供する、というGoogleが掲げるミッションにも惹かれていました。そして入社してみて、もちろん想像はしていたんですが、本当にとんでもない量のデータを扱っていることを知って、びっくりしたんですよね、改めて。本当にこんなことをやっている会社があるんだ、と思って。

後藤正徳さん

お互いを刺激し合える。いろんなことが試せる

 仕事環境も刺激的でした。同僚と話をしていても何かしら発見があることが多い。しかも、そういう同僚が世界中にいる。ネイティブの英語を話す人だけではありませんから、カタコトの英語でも十分。私もそうでしたし。

 自分の作成したコードを同僚と検証し合うコード・レビューもいい仕組みだと思います。ソフトウェアの完成度や安定性を高められますし、また互いに刺激になるからです。仕事時間の20%を好きなことに費やして良いという20%ルールが知られていますが、本当にいろんなことを試す会社です。試してダメならやめればいい。だから、どんどん試す。そこから新しいものが生まれてくる。こんなことまで試しちゃうんだ、って思えるものは、たくさんあります。ニューヨークの通りの様子が見られるストリート・ビューも私にはその一つでしたね。モノの見方に制限がないんです。

 もともと自分自身が昔からGoogleをよく使うユーザーの一人でした。だから当初は正直、仕事をしている現実感があまりなかったんですよね。本当にGoogleのサービスに自分が関わっているのかな、と。会社から戻り、家に帰って1ユーザーとして、使っているサービスが、実は自分が関わっているものだった、なんて気付くこともあった(笑)。でも、そんなユーザー視点に立ち戻って見直すと色々なアイデアが浮かんだりもします。ユーザーの意見は、だからこそ貴重だといつも思っています。


Googleマップ
Googleマップ、Google Earth

スムーズな動き、マウスでのドラッグ、拡大縮小もシームレス、日本のみならず全世界の地図が見られる…。その使い勝手の良さは、従来のマップサービスの概念を変えてしまったと言っても過言ではないGoogleマップ。しかも、地名や駅名も見られる航空写真の表示や、行き先ルート検索、店舗情報サービスも活用できる。Google Earthは、衛星航空写真、地図、地形や3Dモデルなどを組み合わせて、世界中の地理空間情報が見られるソフトウェア。


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LUMIXの手ぶれ補正機能を開発 松下電器産業株式会社

仕事の視線はいつも世界に向く。だから、考え方のスケールが変わりました。
松下電器産業株式会社
パナソニックAVCネットワークス社
DSCビジネスユニット

岸場道郎さん
2004年情報システム学専攻修了。研究テーマは3Dのバーチャルリアリティ。大学時代は機械系のロボティクス学科に所属し、ソフトウェア、電気・電子回路など幅広く学ぶ。大学院では主にソフトウェアの研究に従事。松下電器に入社後、パナソニックAVCネットワークス社に配属。デジタルスチルカメラ『LUMIX』のレンズを制御する回路設計の担当に。100万台を超える出荷も多い人気の「FXシリーズ」の手ぶれ補正機能という重要な機能の開発担当者として活躍。

どん底で苦しい時期だったから、あえて選んだ

岸場道郎さん

 入社前は電気回路の仕事をするなんて、まったく考えていなかったんです。学部ではロボティクス学科という機械系の学科にいたものの、ずっとソフトウェアをやっていましたので。でも入社して担当になったのは、レンズ制御回路。ハード、メカ制御、電気回路……。当時は意外だったんですが、今から考えると適切な配置をしてもらえたな、と感謝しています。

 もともとAV機器のソフトを作ってみたいと思っていました。特に、ポータブル機器。街中でみんなが持っているような商品に携わりたかったんですよね。松下電器を選んだのは、私が就職活動をしていた当時、ちょうどどん底から這い上がろうとしていた時期だったから。これから上がっていく会社のほうが面白いと思ったんです。自分の力でどうにかしたぞ、と少しでも思えたらいいな、と。でも実際には、その年にはV字回復してしまって。私が何もしないままに(笑)。

 デジタルカメラという商品に関わることになったのも、結果的にすごく良かったと思っています。ポータブル商品ですし。ただ、ちょうど配属が決まった直後に発売された商品「FX7」が、100万台を突破するヒット商品になりまして。またしても自分の力を発揮して貢献しないまま、社会人生活が始まっちゃったんですよね(笑)。


1mm×0.5mmのチップ。部品が詰まった機構に驚き

「FX7」の大ヒットの理由は、そのスタイルの美しさと、手ぶれ補正機能が大きかったと思っています。ジャイロセンサーが把握した手ぶれの量を逆方向にレンズを動かして映像をもとに戻す。当初、そんな手ぶれ補正の仕組みはなんとなく想像はできたんですが、驚いたのはそれを小型コンパクトサイズに押し込んだ技術とノウハウでした。これはやはり凄いと思いました。実際、1個1個の部品はとんでもなく小さい。1mm×0.5mmのチップ部品も多い。試作品を作るとき、これが人の手でハンダづけできるのかと思いましたから。実際には、できるようになるんですが。

 そして入社して最初に任されたのが、このシリーズの「FX8」「FX9」。ミッションは、制御用のICの変更と、周辺の部品の大幅な削減。上司にフォローしてもらいながら、アナログ部分の一部をデジタル化する。微妙な振動などのリスクも把握して進めないといけません。でも、この頃はまだメカの構造をよく理解できていなくて。いろんな先輩にたくさん話を聞きましたが、トンチンカンな質問もたくさんしていました。ただ、だんだん理解が深まって、一次試作でレンズが動いたのを見たときは本当にうれしかった。このとき、ICを作ったのは、同じ新人の同期でした。

岸場道郎さん

簡単に確実に、失敗せずに、いい写真が撮れるカメラを

岸場道郎さん

 以後、ずっとFXシリーズに携わり、部品点数の削減とコストダウンに挑んできました。ほぼ半年おきに新製品をリリースしましたが、2007年の夏に登場したモデルからは、実は手ぶれ補正機能が飛躍的に改善されています。先行開発、ソフト、ハードの部隊でかなり時間を割いてディスカッションし、新たな回路を設計。ジャイロセンサーの信号制御方式を変えました。機構設計担当者とも綿密なやりとりをして、ミクロンオーダーでの精度を実現させた結果です。

 ユーザーによく発生する特定の条件の性能が、飛躍的に高まったんですが、では、何が大きく変わったのかというと、それは申し上げられません(笑)。企業秘密にさせていただいているので。しかも、その後に出た最新の「FX35」では、この補正機能をさらに進化させたものになっています。

 個別の何かの特徴にフォーカスするのではなく、目指したいのは、とにかくいい写真が撮れること。もっというと、ユーザーが意識しなくても、簡単に確実に、失敗しないで、いい写真が上手に撮れるカメラなんです。目標は、とても高いんです。


自分の仕事で、会社の業績の向上に貢献できる幸せ

 パナソニックのデジタルカメラは世界中で販売されていますが、日本専用モデルは特にありません。ですから、開発では、世界を意識するのは前提ですね。私はまだないですが、海外出張に行くメンバーも多いですよ。

 開発で特徴的なことといえば、部品の内製率の高さが挙げられると思います。実は松下電器がレンズを作っていたなんて、私も入社してから知ったんです。でも、だからこそ開発スピードが速められるんですね。

 また、開発チームは先行開発もソフトも外装設計も電気設計も、みんなパーテーションのないひとつのフロアに揃っています。この環境も開発スピードや開発力のアップに大いに貢献していると思います。ちなみに、20代、30代の若手エンジニアが多い職場です。同期もけっこういますから、無理をお願いしやすかったりもしまして(笑)。逆に、無理をお願いされたりもしますが(笑)。でも、これも刺激し合えていいことだと思っています。

 1機種が100万台を超えることも多い製品ですから、開発にはプレッシャーもあります。でも充実感も大きい。仕事をして、それがきっちりと会社の業績に跳ね返る。そういう仕事ができるのは幸せなことだと思っています。

 これで100点、というものがない開発。また、これは他の商品でも同じですが、課題には常に直面します。でも、だからこそ面白いと思うんです。とりわけ大事にしたいのは、常にユーザーとして気持ちを忘れないこと。自分が楽しいと思えるものを、これからも作っていきたい。そう考えています。

LUMIX
LUMIX

2001年から販売しているパナソニックブランドのデジタルカメラ。ブランドスタート時には、独ライカカメラ社との提携による高性能レンズの搭載が大きな話題に。02年からは、独自開発の映像処理エンジン「ヴィーナスエンジン」を搭載。その後、手ぶれ補正機能のついたコンパクト機が人気となり、コンパクトシリーズの「FX7」が100万台を超える大ヒットに。薄型軽量コンパクト機はもちろん、高性能機でも高い評価を得るブランドとなっている。


エンジニアである前に、技術を楽しむユーザーであれ!

 もしかすると意外だったかもしれない。最先端の技術で新しい挑戦をしている2人のエンジニアに共通していたのは、自分が手がけた技術がたくさんのユーザーに届き、たくさんの価値を生み出していくことにこそ大きな醍醐味を感じる、という言葉だった。エンジニアである前に、技術を楽しむユーザーの視点を決して忘れない、ということだ。そこにこそ、実は新しいものの芽、さらにはブレークスルーのヒントは潜んでいるのかもしれない。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
今回ご登場いただいたお二人のエンジニアの方に限らず、自分が携わる製品やサービスを研究し、楽しんでいるエンジニアの方によく取材でお会いします。ユーザーの声に一喜一憂しているというお二人が開発しているLUMIXもGoogleマップも愛用している私にはうれしい限りでした。

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