過酷な現状に負けない！エンジニアが考えた不況脱出法

景気が悪い。非常に悪い。不況というより恐慌に近いこの状態から抜け出す術はないものか。Ｔｅｃｈ総研が考えたのが「技術を使う」という方法。ならば読者であるエンジニアに聞くのが早いと、緊急アンケートを行った。技術で国を興してきた日本だからこそ、技術でこの不況を乗り越えたい。

（取材・文／総研スタッフ　高橋マサシ　イラスト／岸潤一）作成日:09.01.28


Ｔｅｃｈ総研では昨年の12月24～26日に緊急アンケートを実施。ハード系とソフト系を合わせた300人のエンジニア（22～45歳）に、急激な不況の影響とそこからの脱出法について尋ねた。まずは各人の雇用、給与、仕事量への影響について。昨年末の仕事納めの時期に尋ねたので、現在ではより深刻化していることも予想される。

　「技術力を使ってこの不況を脱出する方法」を次の3つの質問で尋ねた。「技術そのものを使う」「新しい製品・サービスを生み出す」「既存のシステムを新しいものに置き換える」。重複する内容もあるのでカテゴリーは別にしたが、コメントは1行程度の簡単なものから具体的かつ詳細な内容までさまざま。特徴的なのは「特になし」がほとんどなかったことだ。

派遣制度のマッチングをシステムで自動化
　派遣制度に代表されるような、IT活用がひどく遅れた中抜きビジネスのシステム化。雇用希望者と企業がWebで匿名登録して市場を作り、詳細な情報や過去の実績をデータベース化する。
　双方の内容を互いに評価できるようにすればより詳しい情報が蓄積され、企業側と労働者側の向上心を高めていくことができる。効率化の結果として痛みもあるので、最低限のセーフティーネットの整備も必要。
[インターネット関連：Web・オープン系SE：37歳：フリーの業務請負]

パッケージソフトを使った
基幹システムの同一化
　企業の総コストダウンをうたってパッケージソフトの導入を行っていきたい。世界企業に対して同じパッケージシステムの導入を進め、現状を同じ基準で可視化をさせ、世界的な最適資源配分を行えるようにする。
[コンサルティングファーム関連：コンサルタント：26歳：正社員]

自治体主導で薬の調剤から
配送までをワンストップ
　医療費など高齢化に対する費用が膨らんでいる現在、いかにその部分を安くできるかが焦点となっています。初期投資を増やし、人員削減できる福祉医療を行えば可能かと思います。
　例えば、薬の調合などは薬局単位ではなく都道府県レベルで一カ所に集約し、そこから郵便事業会社を使って配達するなどすれば、行政の赤字削減にもなるのではないでしょうか。
[製造業（自動車部品関連）：品質管理：28歳：派遣会社社員]

太陽光発電の効率向上による持ち家の購入増進
　高効率太陽光発電による、オール電化家屋の開発。持ち家は内需の筆頭なので、政府が補助金を出し、高効率化による余剰電力を売ることができれば、家にお金を消費する層が増えると思われる。
　また、家屋以外にも電化製品に太陽光発電装置が備われば、携帯ゲーム機や携帯電話が動くようになって非常に便利になる。
[製造業（精密機器・計測機器関連）：半導体設計：33歳：契約社員]

自家発電の電力売買で
消費行動を活発に
　各家庭で発電する。発電した電気を産業に安く提供すれば企業は製造コストを安くできるので、その分だけ製品の価格を下げて消費行動に結びつける。光熱費がゼロになる分でも消費を刺激して景気を回復させる。
　また、蓄電技術を確立する。それによって深夜にためておいた電気を昼間に使うことで火力発電のエネルギーを削減する。
[製造業（機械・医療機器関連）：機械・機構設計：40歳：正社員]

国を挙げて電気自動車の
普及を促進
　電気自動車や電気バイクなどEV化の推進。インフラを整備して、従来のガソリンエンジン車からのEV化へのサービスを行う。提供価格（初期投資）も大切だが、車検制度の見直しでEV車はバッテリー寿命（約10年）の半分の5年周期にするなど規制を緩和する。
　また、印刷物の電子化推進および契約者への配信サービス。特に新聞や週刊誌で、ペーパーレスによる資源節約や電子化による情報スピードアップが図れる。
[製造業（半導体・電子・電気部品関連）：品質管理：41歳：正社員]

リサイクル技術を進化させて
新しい製品市場を形成
　中古品の売買や質店で商品は動いているが、販売自体はさほどよくないと思う。
　中古品を新品同様にクリーニングする、またはリフォームするサービスで新品同様の見栄えの商品にして、中古品と新品の中間の価格帯で販売すれば利益が出ると思う。そういった用途に使えそうな化学薬品はたくさんある。
[製造業（自動車・輸送機器関連）：プロセス開発：36歳：正社員]

データ通信網の使い分けで安定・高速化を図る
　電話は携帯電話（PHS）のみとして固定電話を廃止する。空いた固定電話網をデータ通信専用回線として、2011年から始まる地デジのデータを流す。地デジ用の電波はすべて移動体通信に利用する。
[製造業（機械・医療機器関連）：機械・機構設計：41歳：正社員]

技術を使った農業の復興と市場価格の保持
　現状の冷え切った消費マインドでも需要のあるもの。食品だとか衣料、または医療や介護といった分野のブレークスルーが必要。中でも食は重要であるから、現在の化学技術やバイオを使った生産性の高い農業技術を確立する。
　さらに収穫した食料は冷凍などの技術で長期保存して市場価格の安定を図る。付加価値を高める加工や保存技術なども推進する。
[製造業（化学・素材・医薬品関連）：プロセス開発：35歳：正社員]

ゴミを資源に変えて環境に優しいエネルギーへ
　ゴミを資源化する技術の開発。日本のような資源のない国には必須だと思いますし、世界のゴミを資源と考えたら無尽蔵に近い。ゴミを安価な原材料に変化できれば、環境にも配慮できて一石二鳥。
[製造業（半導体・電子・電気部品関連）：回路設計：37歳：正社員]

　エンジニアに「この不況でいちばん困ったこと」を尋ねた。読んでもらえればわかるが切実なコメントばかりだ。こんな内容のパートで終わるのは不本意だが、同じ仲間がどんな状況にあるのかを知ってほしかった。あなたの周囲はどうだろうか。真剣に不況脱出のカギは、思い切った技術の活用にあるような気がする。

●	残業があってもつけられない妻。その弟が派遣切りになる。
●	同じ職場で同じ派遣会社から来ている人の解雇が決まり、自分は継続になった。その人に何と言って話したらよいか困っている。
●	給与の支払いが遅配した。
●	取引先が2社ほど倒産した。
●	フリーで業務請負をしているが、契約書を無視した契約の打ち切りを受けて提訴した。
●	30歳以上の希望退職者の募集。管理職以上は昇給なし（減俸はあり）。
●	備品の発注がストップ。緊急の場合を除いてのタクシーの使用禁止。接待費や会議費の禁止。
●	地方（福岡県）で仕事しているが、今の営業所が閉鎖になる可能性が出てきて、東京への転勤を打診された。断りたいが地方には待遇のよい仕事が少ない。
●	上司が常時怒り狂い、精神疾患に悩む社員が増え始めた。
●	派遣社員が不安を訴えてくるが、私（正社員）は何もしてあげられない。
●	残業時間カットでほぼ毎日定時に帰宅。周囲が全部一緒に帰るので会社の駐車場から車を出すのに30分かかる。仕方なく遠い駐車場に場所を変えた。
●	役職者の給料カットと一般社員の賞与カットで社員の働きがいが低下し、全社的に空気がよどんでいる。前線で働いている人たちの間接業務への協力が低下している。
●	強烈な残業規制。気持ちはわかるけど、こんなときだからこそ「エンジニアが知恵を出して新製品を開発しろ、歩留まりを上げろ」とか言えないものか。会社と日本の未来がとても心配。
●	小遣いで始めた株が大暴落し、小遣いだけでなくへそくりもなくなり、借金に変わった。
●	スーパーの商品が内容量と価格を維持するために品質を落としているのが困る。冷凍コロッケの中身の水分を多くしすぎたり、ベーコン1枚を薄くしすぎたり。
●	メインの取引先が「つぶれるんじゃないの？」とネットでたたかれている会社なので、失注しないかどうか不安。
●	ボーナスを出すという名目で基本給が減らされ、そのボーナスは業績不調を背景に微小だった。