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オオスガさん!の生みの親、日本語プログラム、18歳天才現る 天才かオタクか?未踏ソフト出身者たちは我が道を往く
未踏ソフトウェア創造事業(以下未踏)はエンジニアにとっても狭き門。しかし、応募テーマが採択されれば開発に向けて担当PMや補助金が支援され、「天才プログラマー/スーパークリエータ」に認定されれば一躍スターだ(?)。そんな未踏出身者たちの「採択後」には興味ない?
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ)作成日:07.12.27
「日本語プログラミング言語」の次は韓国語と中国語に挑戦だ!
未踏ユース:2004年度、未踏ソフト:2005年度下期、2006年度下期
酒徳峰章さん(31歳)
高校卒業後に中国・上海の華東師範大学に留学。卒業後に帰国し、不動産関連会社にSEとして勤務。退社後はフリーのエンジニアとなり、本人いわく「どんな仕事でもやりました」。ウノウ株式会社に勤務。株式会社八角研究所の技術顧問も務める。
酒徳峰章さん
 
勤務先である「ウノウ」の第二会議室にて。ちゃぶ台が妙に酒徳さんとマッチ
 
ウノウの社内でバランスボールに乗ってもらう
アルバイトさんに使ってほしくて、日本語で言語を開発
 日本語で書けるプログラミング言語。誰もが考えそうだが誰もが実行しそうにないこの開発に取り組んだのが、酒徳峰章さんだ。きっかけは偶然かつ必然。当時、不動産関係の会社でひとり社内のシステム化を進めていた彼は、顧客管理などの仕事を効率化するためのツールを、さまざまな言語で作っていた。確かに便利だが、どうせならプログラミングを知らないアルバイトさんにも使ってほしい。そこで、データの一括コピーや抽出といった単純作業用にと、日本語でのプログラム言語開発を思い立ったのだ。
「誰でも簡単にプログラミングできることが目的で、日本語化は手段のひとつでした。ほかにもビジュアルに凝るなど使い勝手を考え、仕事の合間に機能を拡張して、完成したのが『ひまわり』です」
 酒徳さんはその後フリーとなるが、仕事先でPCを使いながらも手作業で仕事をする人を見かけるたびに、「プログラムができればもっと簡単になるのに」と思ったという。その一方で未踏を知った。

「自分の好きなソフトを好きなように作れて、しかも周りの人がアドバイスをくれるシステムなんて、最初は信じられませんでした。そこで、『ひまわり』を書き直して汎用性を高めた『なでしこ』をテーマに、2004年度の未踏ユースに応募したんです」
 採択後すぐに「仕事そっちのけ」で開発をスタートさせ、1年ほど夢中で進めたという。正式版の発表は2005年2月。今でも1カ月に1〜2回はバージョンアップを続けており、カンファレンスやコンテストなどの開催も盛んだ。
未踏のおかげでPCオタクから天才プログラマーに変身!
 未踏へのチャレンジはまだ終わらない。次に応募したのが、日本語プログラミング言語をベースにしたWebアプリの開発環境「葵」。引き続いて未踏本体の2005年度下期に採択されて開発に入る。しかし今回は、初心者ユーザーにLinuxサーバにインストールさせるなど困難が多かったという。
  この反省を踏まえて、今度はブログに貼り付けてクライアント側で稼動させる「葵」で応募。2006年度下期に、三度目の採択という快挙となった。
「2年ほど開発を続けていますが、寝食を忘れて夢中になっちゃうんです。本当に楽しくて仕方ないです。既に『葵』のβ版はできていますが、もう少しブラッシュアップしてきちんと完成させます」

 酒徳さんは「未踏は出会い系」だという。現職のウノウに入社したのは同社CTOの尾藤氏がやはり未踏出身で、成果報告会で知り合ったのがきっかけ。技術顧問を務める八角研究所も、取締役の毛利氏が未踏同期という間柄で誘われた。
「未踏の魅力はいろいろですが、ひとつは幅広い人脈です。知らない分野のさまざまなエンジニアと知り合えますし、意気投合して一緒に起業する話もよく聞きますね。仲間と話すことで、自分の実力が客観的に測れることも大きいです。それと、ひとりで悶々とプログラムを書いているのが自分だけじゃないとわかることも(笑)」
 今後の目標は日本語だけでなく、中国語版や韓国語版のプログラミング言語を作ること。酒徳さんは中国の大学で4年半ほどの留学経験があるので、決して夢物語ではない。日本語版はローカル言語のひとつであり、目指すのは「アジア制覇」だという。
「そうそう、未踏のおかげで家族の視線が優しくなりました。貧乏なPCオタクから、国が支援する天才プログラマーになったので(笑)」
酒徳峰章さん
採択テーマ 日本語プログラミング言語とWeb開発環境の開発
日本語プログラミング言語「なでしこ」  2004年度ユースは、フリーソフトとして当時から普及していた「ひまわり」の発展系「なでしこ」(画像)の「日本語プログラミング言語の開発」で採択。未踏ソフト(本体)2005年度下期は、日本語プログラミング言語をベースにした初心者向けWebアプリケーション開発環境「WEB開発に特化したプログラミング開発環境『葵』の開発」で採択。
  2006年度下期はクライアント側で稼動する「WEB開発環境『葵』:日本語で気軽に作れるリッチクライアントの開発」で採択された。
「それは無理だよ!オオスガさん」は握り寿司から生まれた!?
未踏ソフト:2007年度U期
田中泰生さん(31歳)
大学法学部卒業後コンサルティングファームに入社。約1年勤務の後にゲーム制作会社に転職。COO兼プロデューサーとして活躍した後にリヴィールラボラトリに入社。現在では同社と、同じフロアにある芸者東京エンターテインメントの代表取締役社長を務める。
田中泰生さん
 
オオスガさんと一緒に社内にて。12月19日にサービスがスタート
 
社員と一緒の社内風景のカット
会場にいるセクシーなコンパニオンを撮影せよ
 今年9月の東京ゲームショウ2007で注目を集めた携帯ゲーム、「それは無理だよ!オオスガさん」はご存じだろうか。「魔王」に絶対服従のオオスガさんは、無理難題な命令に四苦八苦している女の子だ。彼女に代わって魔王の命令を果たすというのが、ユーザーの役目となる。
 しかしその内容とは、「セクシーなコンパニオンを撮影してこい」やら「必殺技ポーズを撮れ」やらで、まさに「それは無理だよ!」。基本的には携帯のカメラで撮影して魔王に画像をメールするのだが、クリアできずに幕張メッセを駆け回った人もいたのではないか。このゲームの元になった技術が未踏で採択されたテーマなのだ。しかも、企画から応募、採択、開発、ゲームショウ出展までがわずか2カ月というから驚きだ。
「7月にワイヤレスジャパン2007に行ったら、隣にジャパンインターナショナルシーフードショーという海産物のフェアがあって、ふらりと行ったら寿司や刺し身の試食ができるんですよ。仲間と食べ歩いているうちに、『寿司を百個食え!』なんてミッションを与えられたら面白いなと思って。このアイデアを形にしたのが8月で、未踏に応募し、その前後に仲間と開発を始めて、完成したのがゲームショウ開催の3日前でした(笑)」

 小学校でファミコンに夢中になり、中学では「ゲーセン」に通ったというゲーム好きの田中さん。しかし、プログラミングを組むどころか大のパソコン嫌いで、大学の論文も手書きだったというから、未踏出身者の中では異色の存在だ。
「大学時代からビジネスに興味があり、2年間休学してベンチャー的な仕事を始めたり、会社で働いたりしていました。2001年にゲーム開発会社にマネジメント職として転職したのですが、入社して3カ月ほどは新人と一緒に開発研修を受けました。そこで初めてプログラムに触れたんです。仕事は携帯やネットワークゲームの企画や全社的な戦略立案でしたが、考えるだけでなく、手を動かさないといいものは作れないと実感しましたね」
田中泰生さん
「普通の人が喜ぶ技術」の第一歩が未踏への応募
 転職した2001年から退社する2004年はJavaアプリの勃興期であり、家庭用ゲーム機の開発競争は激化中。田中さんは「ゲーム業界20年の大枠をこの3年で勉強できた」と語る。その後、学生時代の友人が設立していた会社に「戻り」、オリジナル製品の開発と同時に、大学研究室や大手ITベンダーとの協業を広げていく。現在では2社の代表取締役を務める。
「ただ、昔から『ネットは革命だ!』などとは思っていませんでした。昨年から本格的に使い始めて、ようやく『ネットもおもろいな』と感じたくらい(笑)。そして、優秀なソフトエンジニアと接するうちに、逆に技術に遅れを取っている分だけ、普通の人が喜ぶソフトやサービスを生み出せるのかなと思い始めたんです。その第一歩が未踏への応募でした」

 未踏採択の効果は2つあるという。ひとつは世間に注目されて製品のPRなどがしやすくなること、もうひとつは「天才的な」エンジニアたちと知り合えて議論できることだ。
「合宿や懇親会、特にその後の飲み会ではざっくばらんな意見が聞けますし、『オオスガさん』にもそうした仲間のアイデアが入っています。商業的には必ずしも成功していないけれど、隠れたすご腕エンジニアはたくさんいる。そんな人たちと交流できるのが未踏のいいところですね」
 ところで、なぜ「オオスガ」なのか。ネーミングには表向きの理由もあるが、実はモデルがいるとのこと。ただ、「本人からえらい怒られてます」ので誰かは内緒。コンパニオンがセクシーかどうかを判断する方法も内緒です。
採択テーマ 日常生活における、重要でない事柄への意思決定支援システム
意思決定支援システム 「今日のランチを何にするか」といった、さほど重要でなく目的のない行動の選択は、現状の検索エンジンではサーチできない。そこで、「エージェント」(現在のオオスガさん)を携帯電話中に存在させ、そのキャラクターとの問答によって、ユーザーの意思決定を支援する。
  リコメンデーションエンジンは日本語解析機能、GPSによる位置情報、SNSやブログからの評価情報(重みづけ)などの要素で機能する。「それは無理だよ!オオスガさん」(画像)は主にこの仕組みと画像認識機能で構成されている。
最年少「天才プログラマー」は世界的なレンダラ開発者になるかも
未踏ユース:2006年度下期
上野康平さん(18歳)
小学校3年のときに米国に移住し、高校1年時に帰国。日本の高校に入学後、2年のときに千葉大学に飛び級入学し、現在は理学部先進科学プログラム2年生。趣味は料理で、朝晩の食事は自分で作る。これまでは中華が多かったが最近は和食にも挑戦中。
上野康平さん
 
弊社2Fのフロアで撮影。お茶目な一面もある上野さん
 
何となく街をぶらぶらと
正確で美しいCGを描くアーキテクチャを17歳で開発
 今年の10月に歴代最年少で「天才プログラマー」に認定された上野康平さん。東大の竹内郁雄PMを「18歳でそれありか?」とうならせた彼は、未踏ユースの採択時には何と17歳。応募したテーマは、3D-CGを生成するレンダリングを行うソフト(レンダラ)のアーキテクチャ開発だ。物理ベースレンダラに古典的レンダラを統合して、あらゆる画像の生成を可能にしただけでなく、物理ベースでのシェーダ(陰影処理)実装の課題もクリアした。
「小学校のころにPSの画像を見たら、ゲームのキャラなどのCGはまあ、しょぼかったんですけど、オープニングやエンディングに流れる映像は高品質でかっこよかった。それがレンダラを開発するきっかけでした」

 小学1年生でマイコンにプログラムを打ち込んでいた彼は、実は中学で古典的レンダラを、高校で物理ベースレンダラを完成させている。小学校3年から高校1年までを米国で過ごしており、中学時代の作品は米国の学校の自由研究として作ったそうだ。そしてこの2つを組み合せたのが未踏で採択された作品である。
 開発は昨年、大学1年時の夏休みから始めたという。そして未踏ユースに応募し、採択後はさまざまなアドバイスも受けて開発を続け、今年の8月に「nytr(ニトロ)」として公開した。
 nytrのユニークな点はGNU GPL(General Public License)で公開されていること。オープンソース志向の強い上野さんの意図もあるが、ビジネスにすると「まだ学生なのでバグなどの責任が取れない」という冷静な読みもある。
 また、nytrは上野さんのハンドルネームをもじって付けられた名前。以前に自作のレンダラの名前と同じ名前で製品が発売され、しかもそれを2回経験したため、「絶対にほかとかぶらない名前で」と命名したそうだ。
レンダリングの研究者になるのが将来の夢
 上野さんはプログラミングを独学で学んだ。当初はBASICだったが、「1枚の画像を表示するのに1日かかる」などの理由からほかの言語を覚え、現在では主にC++とRubyで書く。ただ、日本でも米国でも、プログラミングをしている友人は周囲にほとんどいなかったという。そんな彼を支えたのがネットのコミュニティであり、イベントや勉強会などへの参加だ。
 そのせいか、未踏の本体とユースを交えた出身者のイベントや会議、報告会などで受けるアドバイスがとても貴重だと語る。2006年度下期の採択者である彼は既に未踏のOBであり、こうした集まりには欠かさず参加している。

 1日3時間、休日は一日中プログラミングをするという上野さん。日本では数少ないレンダリングの研究者になるのが夢で、大学院の博士課程まで進みたいと考えている。英語が話せることもあり、米国の大学院も候補のひとつだ。また、未踏で才能と実績が評価されたこともあって、レンダリング研究者との交流も始まった。
 ただ、3D-CGが好きで始めたレンダラシステムの構築なのに、自分ではレンダラで画像を作ったりはしないそうだ。なぜ、との問いに彼はこう答える。
「絵心がないんです。nytrなどで使うデータも、知り合いに頼んで描いてもらっているくらいですから(笑)。僕にできるのはプログラミングです」
上野康平さん
採択テーマ 物理ベースのレンダリングを柔軟性を持って行えるアーキテクチャの開発
3D-CGを生成するためのソフト「レンダラ」  3D-CGを生成するためのソフト「レンダラ」は、理論的な裏づけに乏しい古典的レンダラと、方程式から導き出された物理ベースレンダラに大別される。デザインスタジオなどでは圧倒的に前者が使われているが、演算の精度には限りがある。一方、後者は写実的な表現に限定されるので、複雑な材質や陰影の調整などは難しい。
  そこで、物理ベースレンダラを基盤に古典的レンダラを統合させた環境を作り、両者の特徴を合わせた画像を生成できるようにする(画像)。
未踏ソフトウェア創造事業とは?
 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が個人またはグループを対象として、独創的なソフトウェア技術や事業アイデアを公募し、その開発を支援する制度。2000年度に始まり、2002年度には28歳未満を対象とした「未踏ユース」が加わった。応募したテーマが採択されると専門知識をもつPMと補助金で支援され、実用化に向けた開発環境が整う。担当PMから特に優秀と評価された開発者を「天才プログラマー/スーパークリエータ」と認定。本体とユースを合わせた2007年度U期までの採択総数は約700、天才プログラマーの認定者は約200人、採択倍率はおよそ3倍となっている。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
最近私、友人と「孤高居酒屋巡り会」などを立ち上げまして、レトロでノスタルジックで若い女性が入れないような安い酒場をはしごしており、それを取材対象者のひとりに何げなく話したところ「ぜひ私も」などとご希望をいただき、これも何かの縁かと感ずる一方で決心はいまだつきかねておりますが、そんな呑み方もまた楽しかろうと頬をゆるませている年の瀬でございます。

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