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SaaS(Software as a Service)やSOA(サービス指向アーキテクチャ)……。IT業界を彩るニュースは、さまざまな概念や技術を表す用語が次々と登場する。でもそれらの用語をよく見ればわかるように、まったく新しい技術や概念を表しているのではなく、これまでの概念や技術を発展、拡張させ、新しい呼び名をつけて新しいものとして普及させていることが多い。 例えばSaaS。これはユーザーが必要なソフトウェアの機能だけをサービスとしてネットワークを介して配布し、利用できるようにしたもの。「それじゃあ、ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)と、どこが違うの」といわれても、その説明は難解を極める。また大規模なシステムをサービスの集まりとして構築する設計手法であるSOAも、数年前に話題になったWebサービスや分散オブジェクト技術と言葉は違うが、考え方の大きな違いはないように見える。これはほんの一例だが、ほかを見ても「突然変異のように生まれた」技術はあまりない。 だが、見方を変えるとこの事実は変わってくる。エンジニアとしてのキャリアを考えた場合、技術のはやり廃りがあるのは現実だ。では実際、エンジニア自身は技術のはやり廃りをどうとらえているのだろうか。 |
Tech総研では読者(ソフトウェア・ネットワーク系エンジニア)300人にアンケートを行った。最初に「これは絶対、はやる」と思ったのに、今はちょっと廃れたなと思われる技術について聞いた。数々の技術が挙げられたが、答えが多かったものから順に以下に列挙する。 |
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上記以外にも、いろいろな意見が集まった。中には現在、開発の主流で使われるJavaやLinuxを挙げる人も見られた。Javaを挙げた人の廃れたかなと感じる主な理由は、「流行し技術者の数が多くて価値が低くなったから」(パッケージソフト・ミドルウェア開発/31歳)、「今では誰でもできるから」(Web・オープン系/36歳)というもの。つまり、あまりにも普及しすぎ、技術の価値が下がった感を「廃れた」と感じている人が多かった。一方のLinuxは「オープンソースで信頼性に欠ける」など、技術的な課題を挙げる人が多かった。 |
次に廃れたかもと思われる技術に携わった人に、それがキャリアにどう影響したかを聞いた。その主な回答を紹介しよう。解答数は97件と少ないが参考になるはずだ。 |
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グラフを見ればわかるように多かったのは、プラスに影響したという答え。プラスにもマイナスにもどちらにも影響していないと答えた人と合わせると、8割以上という結果になった。プラス派の中には、「よい仕組みでも必ずしも受け入れられるわけではないと勉強になった」(Web・オープン系/34歳、携わった技術:SET)というような意見も見られた。これらの回答から総括すると、たとえ携わった技術の賞味期限が切れたとしても、基礎知識や現場経験など、そこで得た何かがキャリアにプラスに働くといえるのかも。 |
とはいえ、これからわざわざ廃れた技術を覚えるよりも、やはりニーズの高い(主流になる)技術に携わりたいと思うもの。そこで読者に聞いたのが、キャリアをうまく築いていくうえで、技術のはやり、廃りを意識することは必要か? 下記結果を見ればわかるとおり、6割弱の人が必要だと答えている。あればよいという程度を含めると、ほとんどの人が「意識すべき」と思っている現実が浮き彫りになった。 では技術の“旬”を見極める目を養うにはどのような方法があるのか。読者が取り組んでいる方法を紹介する。 |
・「当該技術自身もさることながら、周辺技術との親和性、発展性などにも着目する」(Web・オープン系/30歳) ・「技術的な面だけで良い・悪いを判断するのではなく、実際に使ってみた場合の利便性などに重点をおいて考える」(運用・保守/39歳) ・「技術の質だけではなく、売り方がうまいなどマーケティング戦略にも注目する」(Web・オープン系/35歳) ・「世間の流行や話題になっていることと総合的に判断する」(パッケージソフト・ミドルウェア開発/36歳) |
「『トレンド』という言葉に惑わされない。自分が欲しいもの、望んでいるものかどうか、考える」(運用・保守/33歳) ・「今主流のものでも常に代替となる技術を探して試しておく」(Web・オープン系/36歳) |
答えで多かったのは、技術を技術的な観点から見るのではなく、ビジネス的な観点から見るという意見。確かにこれまでの流れを見ると、技術的には優れていたが、マーケティング戦略のまずさによって駆逐されていったものも多々ある。また世間の動向(技術的な視点ではない)に着目するという意見も多かった。 エンジニアが技術の“旬”を見極める目は、ビジネスという視点で技術を見る目を養うことで身についていくものなのかもしれない。 |
日進月歩で技術は進歩する。モノづくりの世界では、製品寿命はどんどん早まり、個々技術の陳腐化率も高まっているという。そんな時代に、どんな技術でも深堀りすることは、エンジニアにとって本当にムダではないのだろうか。情報処理推進機構ソフトウェア・エンジニアリング・センター エンタープライズ系プロジェクト/企画グループ研究員の神谷芳樹氏に話を聞いた。 |
「技術にあるのは賞味期限ではなく、経済循環同様の普及サイクルだ」と神谷氏。IT調査会社のガートナーが提唱したハイプサイクルはその一例だという。ハイプサイクルは、技術への認知度と技術の成熟度が、時間と共にどのように変化するかを表した図である。新技術登場間もないテクノロジの黎明期においては、期待度が急激に高まり、宣伝活動などにより、ピーク(「過度な期待」のピーク期)を迎える。しかし時間がたつに従って実態が明らかになっていくと、高まりすぎた期待のギャップにより、評価を一気に落とす(幻滅期)。さらに時間が経過すると、その技術の真の有用性や正しい適用が知られるようになり、技術的な成熟度も認知度も安定していくというものである。 |
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また「技術が普及して市場を形成するためには、3つのS字曲線による発展をたどるといいます。自分の携わっている技術が今、どのプロセスをたどっているかによって、技術の成熟度合いや普及度合いが変わる。でも携わっている間は、そのことがなかなかわからないものなのです」と神谷氏。これは弘岡正明氏の著書『技術革新と経済発展 非線形ダイナミズムの解明』(日本経済新聞社 2003年)で、実証されている理論である。3つのS字曲線の第一は、技術革新の基盤技術を発明する「技術軌道」である。その数年後に第二の基本技術の実用化を目指す「開発軌道」が表れる。そして第三にその技術を事業化し普及へと導く「普及軌道」がやってくるというのである。これら3つのS字曲線の間隔は技術によって異なる。 「その技術がモノになり、お金儲けができるようになるまでには、4〜5年、下手すると10年以上かかることもあります。このように技術が普及するには、さまざまなサイクルを経る。例えば今、注目を集めていないという技術でも、その技術の賞味期限は切れたわけではないのです」(神谷氏) |
では本当に、どんな技術も追いかけて損はしないのだろうか。 「例えばニューラルネットワークのように10年間、眠っていた技術もある。またパソコン上で複数のOSを走行させる技術として最近、活発な動きのあるVM(Virtual Machine)も、1970年代のメインフレームで既に使われていた技術。そのほかにも今、話題のSaaS(Software as a Service)も、数年前に流行ったASP(Application Service Provider)と基本的には違いはありませんし、さらにさかのぼれば、1970年代に日本電信電話公社で行われていたデータ通信サービスと概念は同じです。またソフトウェア開発管理技術などは80年代の論文が今でも通用します。NGN(世代ネットワーク)も交換機の技術と考え方が似ています。技術の表面だけを捉えると栄枯盛衰はありますが、技術を深いところまで掘り下げると追っかけ損になることはないでしょう」(神谷氏) 今、Javaのニーズは高いが、数年先もこのニーズが続くかどうかは分からない。もしかしたら、Javaに変わる新しい技術が登場しているかもしれない。だからといって、身につけたJava技術がムダになるわけではない。 「Javaは言語でもあり、実行環境や開発環境などの文化的なものも含んでいる。この特徴が受け入れられてJavaが普及したのであれば、次に出てくる新しい技術も、その特徴を継承したものが出てくる可能性が大きい。つまりJavaで蓄積した技術を、新しい技術に転用できると思うんです。これは一例ですが、携わった技術は捨てないで、大事にしてほしい。一度つかんだテーマは、深く掘り下げていってほしいですね」(神谷氏) |
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