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2010年に家庭用コンセントで充電できるクルマが街を走る!?
充電可能なエコカー!トヨタの次世代ハイブリッド開発
トヨタが97年に初めて量産型ハイブリッドカー、プリウスが世に出てからすでに10年以上。より高効率なシステムや外部電源から充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)などの開発、コスト低減など、ハイブリッドカーのさらなる高機能化を目指す。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:08.12.16

Part1 充電可能なハイブリッド、PHVが拓くモータリゼーションの未来


目指しているのはユーザーにコストメリットで選ばれるPHV作り

 環境問題や資源・エネルギー問題が21世紀の世界の発展への大きなバリアとして立ちはだかる中、大量の資源・エネルギーを消費する道路交通セクターにおいて、省エネルギー、電気エネルギーを含む代替エネルギー利用技術の必要性が強く叫ばれるようになった。先端分野ではバッテリーに電気エネルギーをためて走る純電気自動車(EV)、水素エネルギーを利用する燃料電池車(FCV)などが注目されているが、エンジンと電気モーターを併用することで高い効率を実現するハイブリッドカー(HV)は、普及型の低燃費技術としてそれらに大幅に先行する形で社会に浸透しつつある。

 HVで世界のトップランナーとなっているトヨタ自動車は今日、ガソリンへの依存度をさらに減らすため、HVをベースにバッテリーを増載したうえで外部からの充電を可能にした、いわゆるプラグインハイブリッド(PHV)の開発を強力に推し進めている。
「昨年、プリウスをベースとしたプラグインハイブリッドの公道試験車を発表しました。今はもう毎日のように乗っていますよ」
 開発責任者を務める田中義和主査は語る。
「電気はいろんな資源から作ることができるのでエネルギー多様化につながります。また、原子力発電や再生可能エネルギーを使えば、総CO2排出量も低く抑えられる。2009年末までにフリートユーザーに向けたリース販売を開始する予定ですが、私たちの目標はそこに止まらず、将来的に一般のユーザーの皆様にコストメリットを求めて買っていただけることなのです」

トヨタ自動車 トヨタ第2乗用車センター 製品企画 主査 田中義和氏

外部電力で充電し、モーターによるEV走行距離を拡大外部電力で充電し、モーターによるEV走行距離を拡大

単に電池をたくさん乗せればPHVの出来上がり―ではない

 PHVの市販車は、現在テストを行っている試験車両とはまったく別の、新しいボディ、新しいパワーパッケージが与えられたモデルになる見通しだ。最も異なるのは、バッテリーが今日のトヨタの主力ハイブリッドシステム、THSUのニッケル水素電池ではなく、よりたくさんのエネルギーをためられ、軽量コンパクトなリチウムイオン電池が採用されるということであろう。

 もっとも、ガソリンエンジンと2基のモーターを使って動力を発生させ、また減速エネルギーやエンジンの余分なエネルギーを電気エネルギーに変えてバッテリーに蓄えるという原理は同じ。バッテリーをリチウムイオン電池に換えて、バッテリーの搭載量自体も増やせばPHVなど簡単にできるのではとも思える。

「PHVはEVに比べるとずっとHV寄りのクルマですが、単にバッテリーを増載して充電器を乗せれば出来上がりというわけではないんです」(田中氏)
 通常のハイブリッドカーと最も異なるのは、充電や発電で得られた電気エネルギーのマネジメントであるという。

「普通のハイブリッドカーの電気エネルギーマネジメントは、バッテリー充電状態(State of Charge 以後SOC)が、あるSOCを中心に比較的安定的に推移するよう制御されています。高効率を実現するため広いSOC幅を積極的に使うことはありません。PHVの場合は、外部から電力をより多く取り込み、充電した電気を出来る限り多く使うことにより、つまりより広い範囲のSOCを効率的に使うことにより燃費を向上させています。充電状態を正確に把握し、充電にどれだけの電気を外部から取り込めるか、どれだけの電気エネルギーを使うことができるかを正確に把握して、充電時に過充電になったり、放電時に過放電となり電池を傷めたりすることがないよう、エネルギーの監視とマネジメントは高いレベルが求められるんです」(田中氏)


忘れてはいけない“コストパフォーマンス”

 難しいのはエネルギーマネジメントだけではない。どのようなバッテリーをどれだけ積むか、また電気モーターだけでどれだけの距離を走れるようにするかといった仕様策定も慎重に行う必要があるという。
「現在、電気エネルギー利用技術で大きなネックとなっているのはバッテリーです。性能は電気を自在に使うには遠く及ばず、価格は高い。公道試験車のバッテリーを使った走行距離は、10・15モード走行時で13kmに設定しています。人によっては短く感じられるかもしれませんが、日本での乗用車ユーザー日当たりの走行距離は20km程度が一番多いですし、一般のユーザーにも買ってもらえるようなコストパフォーマンスを考えると、現時点ではそのくらいが良いバランスになっていると思います。」(田中氏)

 実はバッテリーのチューニングは使用目的によって大きく異なっている。HVはエンジンも積んでいるため、バッテリーはためられる電力量がある程度少なくても支障はなく、かわりに加速時などには大きなパワーを発生させられることが求められる。それに対してEV用は、瞬発力をある程度抑え、そのかわり電力を多く蓄えられるようなチューニングが要求されるのだ。

「出力密度、エネルギー密度の両方を高次元でバランスさせるようなバッテリーはまだありません。HVとEVの両方の特性が求められるPHV用バッテリーはどのようなチューニングが理想的なのか、今も追求している最中なんです」(田中氏)
 トヨタがPHVの仕様策定をこれだけ念入りに行っている背景には、PHVを単なる環境技術のアドバルーンではなく、実際に社会に普及させ、CO2削減やエネルギー消費抑制に貢献できる商品に仕立てていきたいという強い思いがある。

「私がとくにこだわっているのは、ユーザーメリットを最大にすること。たとえば13kmはEV走行が可能といっても、EV走行に固執しているわけではありません。もしトータルでよりエネルギー効率が高くなるのであれば、バッテリーに電気がある程度残っている状態でもエンジンを併用したほうがいいという状況も考えられるわけです」


家庭用電源エネルギーで走行すると、燃料代が節約できる家庭用電源エネルギーで走行すると、燃料代が節約できる

PHVには大いなる可能性があると思う

 PHVというと、HVにEVまがいの走行機能を実装したクルマととらえられがちだが、トヨタはあくまで使う人に喜ばれる、実ユーザー向け商品を作ることを目指しているというのだ。
「エアコンは冬場でもEV走行ができるよう、エンジンの冷却熱を利用したヒーターではなく電気暖房に変更して快適性を高める必要があります。また、運転していてPHVの効率の高さを実感し、楽しめるようなインターフェースの仕掛けも考えています。使って楽しいクルマを作りたいんです」(田中氏)

 現時点では、PHVはバッテリーコストが相当に高いこともあって、通常のHVより高価になることは避けられないが、現時点での台あたりコストが1億円を超えるといわれているFCHVはもちろん、数百kgものバッテリーを積む必要があるEVに比べれば、コスト競争力は格段に高い。

「私たちはEVを否定しているわけではありません。バッテリーの技術革新が進み、性能向上とコスト低減が両立すれば、EVの価値は高まると思います。しかし、バッテリーの技術革新にはまだ長い時間がかかる可能性が濃厚であることを考えると、ガソリンと電池の2系統のエネルギーを持ち、充電が可能なPHVは、普及させやすいという点で大いなる可能性があると思います。バッテリーの性能が上がったら、EV走行の距離を伸ばしていくこともできますし、充電インフラもEVと共通のものが使えます。PHVが将来的に、EVの普及の後押し役にもなれるのではないかと期待しているんです」(田中氏)

 クルマにおける電気エネルギー利用は、今後もますます盛んになっていくことは確実とみられているが、バッテリーに溜めた電気エネルギーと内燃機関や燃料電池などの主機が発生するエネルギーをうまく混合させて使うハイブリッド技術は、電気利用のコアテクノロジーであり続けるというのがトヨタの考えだ。

 PHVは、現行のHVよりさらに積極的に電気エネルギーを使う次世代技術のなかで、もっとも普及に近いテクノロジーであることは間違いない。最近、多くの自動車メーカーがトヨタに続く形でPHVの開発に着手すると続々と表明した。果たして今後、PHV技術開発がどのように進展するか、要注目である。


トヨタハイブリッドシステム「THSU」

 ハイブリッドにはいくつかの種類があるが、THSUはエンジンを車輪の駆動、発電の両方に使う2モーター式のハイブリッドシステムである。エンジンの一番効率のいい領域を使い、パワーが車を走らせるうえで多すぎれば電気エネルギーとして蓄え、足りなければバッテリーからの電力で補助。バッテリーだけで走れる時には停止する――と、きわめて柔軟性の高いシステムだ。

プリウスPHVのエネルギーモニター
プリウスPHVのエネルギーモニター

エンジンとモーターの様子をビジュアルで知らせるエネルギーモニターは市販車のプリウスにも装備されているが、PHVでは写真のように、充電表示、EV走行に使える電力の残量表示など、様々な表示機能が追加されている。

100V充電プラグ
100V充電プラグ

PHVの車体左側には燃料タンクの給油口、右側には写真のような、充電プラグの差し込み口が装備されている。写真の電源は一般家庭用の100Vコンセント。プラグを差し込んでも火花ひとつ飛ばない安全設計。


Part2 ハイブリッドカーの将来と開発の魅力

 自動車業界において、電気エネルギー利用は一過性のものではなく、技術開発のメインストリームであり続ける公算がきわめて高い。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関は近い将来、効率の理論限界値近くを達成するレベルに到達するとみられており、さらなるエネルギー効率の向上は内燃機関以外の技術に頼らざるを得なくなる。そのなかで、最もフレキシブルで、かつ効率が高いのが電気エネルギーなのだ。

 電気エネルギー利用の最大のネックは、上記でも触れたようにバッテリーの性能である。バッテリー技術の進化について、ある大手家電メーカーの電池開発担当者は「画期的なものになる可能性がある技術はいくつもあるものの、どれもまだ萌芽的な段階で、当分は大幅な進歩は難しい状態」と、語る。現在注目されているEVはバッテリーにエネルギーのすべてを依存するため、現時点ではシティコミューターのような小型・近距離モデルに用途が限定される。その点、ガソリンとバッテリーの2系統をエネルギー源に持つEVやPHVは、当分のあいだ環境対応技術の主役であり続けるだろう。


 バッテリーと内燃機関や燃料電池など、2系統以上のエネルギー源を使い分けるハイブリッド技術は、バッテリーの技術進化を待たずに、より大きなサイズの自動車においても電気エネルギーを導入することを可能にする技術として、自動車工学の中でも重要なポジションを占めつつある。内燃機関を主機とする現在のHVをベースに、バッテリー技術の進化に応じて電気エネルギーへの依存度を段階的に引き上げていくことができるPHVは、CO2削減ソリューションのひとつとして注目され続けることだろう。


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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
プラグインハイブリッドのデザインがステキでした。社内で募集して採用されたデザインだそうです。家庭用コンセントで充電しているときのメーター画面なども、見るだけでワクワクします。市販化されるときには、さらに驚きの機能が加わるらしいので、乞うご期待ですね。

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