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30mの支柱、3000tのプラントを丸ごと走らせる!?この世に運べぬモノはない!見よ、圧巻の巨大輸送技術
どんな製品も、「つくる」だけでなく、「運ぶ」技術があってこそ、われわれの生活・社会に役立つことができる。しかし、中には数百t、数千tもある超重量物といった「とんでもない荷物」も。そんな荷物を輸送するには、どんな技術が必要なのだろうか。
(取材・文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:07.10.16
■ どんな先端技術の成果も、使う現場に運ばれてこそ「優れた製品」
「運ぶ技術は、“モノをつくる”と“使う”の間にある、あくまでも過程のことだけに、昔は軽視されがちでした。けれど、いくらいいモノをつくっても、それが工場にあるままでは何の役にも立たない。運ぶ技術があってこそ、モノは生きるんです」(日本通運株式会社重機建設事業部専任部長 福島茂明氏)
 ――と、改めて言われてみれば、至極もっともなこの言葉。確かに、われわれの生活も、産業も、「運ぶ」という“血流”があって、初めて機能しているのだ。しかし、そこで言う“モノ”が、数百t、場合によっては数千tにも及ぶ代物だったとしたら?
 いくつも積み上げられた鋼板のコイルや、変電所で使われる巨大な変圧器。あるいは、プラントの大きな構造体や、分割された船舶や橋梁のパーツ……。そんな、「重く、大きく、特殊な荷物」を運ぶ技術の現場を取材してみた。

輸送の“プロ”は、運ぶためには道もつくる――日本通運株式会社
  ■ “運送屋”だが“工事屋”でもある
風力発電用のブレードの輸送風景
風力発電用のブレードの輸送風景。専用の輸送車には、ブレードを左右に振るだけでなく、必要なときには垂直に立ち上げる機構が備わっている。
「シキ車」
日通が保有する、変電所用の大型変圧器などの輸送用貨車「シキ車」(240t積み)。写真のように変圧器(灰色の部分)を前後から挟み込んで輸送する。
 産業用のさまざまな荷物だけでなく、一般家庭の引っ越し、宅配便で、われわれの生活にもすっかりおなじみなのが日本通運(日通)。総合物流の国内最大手企業として、「運ぶ」技術のエキスパートと言えるが、そんな同社の仕事の中でも、一筋縄ではいかない輸送や据え付けを請け負う部門のひとつが、重機建設事業部である。
 事業部の名前に「建設」が入っていることからもわかるように、この仕事はただ「運ぶ」だけではすまない。大型の機器の据え付けや橋梁架設では、大型のデリックやクレーンを組み上げる。最高で3000tにも及ぶ超重量物の輸送では、必要となれば新たに道をつくり、橋を架けることさえするという。プラント工場そのものの建設工事を含めて、これもまた建設である。

「われわれは“運送屋”だけれど、“工事屋”でもあるんですよ。
 重量物の輸送で多いのは、発電所や変電所などの電力関連や、石油化学などのプラント。最近はプラントを工場で巨大なモジュールに組み上げてしまってから運ぶこともあり、3000tクラスの輸送も何度か手掛けています。この場合、長大なトランスポータを何両も並列に連結し、全体で3000t以上を運べる車両をつくり上げる。この上にモジュールを載せて工場からはしけへ、はしけから設置場所へと運ぶのです。ただし、プラントは普通、モジュールの工場も設置場所も海岸沿いにあり、公道輸送の必要がないので、輸送手段やルートは比較的組みやすい。
   しかし、水力発電所や変電所は内陸にある。この場合、荷物は数十tから240t程度までの場合が多いのですが、公道を使用するので、いろいろと工夫が必要になります。
 また最近は橋梁も、ある程度組み上げてからの一体架設や、形のままの一体撤去が多くなっていますから、ここでも大きい・重い荷物の輸送のニーズが出てきます」(福島氏)
  ■ 強度計算からコンプライアンスまで、複雑な要素を含む「パズル」
「まずは、エンドユーザーから調査依頼をいただきます。水力発電所の場合は約10年前、変電所で5年前くらいに依頼されるのが普通ですね。その依頼に基づき、輸送ルートを調査・策定し、『こうすればできる』『こうしなければできない』を考える。
 ここで必要になるのは、主に土木系の強度計算のエンジニアです。道路や橋を強化・増設するにしても、何しろ長期間にわたるので、『当初は畑の中の道だったのが、いつのまにかすっかり住宅地に囲まれていた!』なんてこともあります」(福島氏)

 特に近年は、コンプライアンス(法律や規則、社会的規範や倫理を遵守すること)が厳しく問われる時代。昔のように産業優先ではなく、輸送ルート周辺に影響を及ぼさないことが求められる。
 例えば、水力発電用のランナー(水車)を運ぶ仕事では、単に重量だけでなく、その大きさが問題になる。台車をはみ出してしまうので、この場合、運ぶ台車に一工夫。前後の支持架に回転軸を取り付け、ルートの状況に合わせて、立てたり寝かせたりできるようになっている。同じく形状が課題になるのが、風力発電用の長大なブレード。通常は寝かせて運ぶのだが、その長さがじゃまになるときは立ち上げる機構が台車に備わっている。輸送計画は、ほとんどパズルを解くようなイメージだ。
福島茂明氏
日本通運株式会社
重機建設事業部
専任部長(技術・品質)
福島茂明氏
 
「台車の基本形はそのままとしても、運ぶモノに合わせてデザインを変える必要がある。特に積載装置を新規につくることが多いですね。これは関係会社の日通商事に依頼。それでも足りない特殊な車両や台車は海外メーカーに発注することもあります。逆に、比較的単純な形状であれば、自分たちで設計してしまいます。
 ひとつの仕事が終わり、無事に品物が納まると達成感がありますね。計画から現場まで自分でかかわることができ、しかも毎回、中身が違う。何かひとつのことばかりというパターンにはなりませんから、ハマってしまえば非常に面白い仕事だと思います」(福島氏)
 重い鋼材や船体ブロックを運ぶ特殊車両を製作――神鋼電機株式会社
  ■ 160tの鋼材を時速30kmで輸送
ブロック台車
建設や造船などの現場で使用されるブロック台車(100t積み)。小型の台車は通常のトラックに近い形態をもつが、このクラス以上では運転席の上も荷台が覆うフラットな形態が普通。
エレベーティング・トランスポータ
製鉄所などで使用されるエレベーティング・トランスポータ(95t積み)。車高を下げて、荷物を載せたパレットの下に潜り込み、パレットごと持ち上げて輸送する。
 超重量物用の特殊な輸送車の主要メーカーは、現在、世界に4社あり、その一角を占めるのが、神鋼電機である。同社では、最大で600tクラスの産業用運搬車両を設計・製作。これらは、主に造船所や製鉄所などで働いている。
 現在、大型の船舶はあらかじめ工場で、ある程度の大きさに分割された船体をつくってしまい、これをドックに運んでひとつの船へと組み上げていく方法が一般的。部材を一つひとつ組んでいく手間のかかる工程を工場で行えるために効率がよい方法だが、一方で、その大きなパーツをドックまで運ぶ手段が必要になる。ここで使われるのが、「ブロック台車」と呼ばれる大型の運搬車両である。

 一方で、製鉄所などで主役となるのは、「エレベーティング・トランスポータ」と呼ばれる車両。「エレベーティング」と付くのは油圧によって車高を上下できるからで、車体そのものが数十p沈み込み、鋼板や線材のコイルなどを載せたパレットの下に入って、その荷物をいわば“背中に担ぎ上げて”輸送する。主力となる160t積みトランスポータの場合で、300馬力のディーゼルエンジンを前後に2基搭載。運転席も両端に2つあり、前進・後進が区別なくできる。荷重を支えるムカデのような車輪は、前後の4組ずつがそれぞれ反対向きにステアリングでき、長大な車両が無理なく曲がれる仕組みをもつ。

  「造船所で使われる台車の場合、400t積みの車両で時速4km程度。船のブロックはそれほど次から次に出来上がってくるものではありませんから、速さよりも、巨大で重いブロックをいかに慎重に運ぶかが課題です。
 一方で、製鉄所用のトランスポータでは、160t積みの車両で時速約30kmで走行可能。それも満載状態での速度です。工場では『時は金なり』ですからね。重量物をそれだけの機動力で運ぶうえに、車高を変える機構ももつ。脚部のユニットの強度をどれだけ確保するか、そのサジ加減が、当社の、そして技術者のノウハウでもあります」(大型搬送システム営業部担当部長 谷岡孝氏)
■ 超重量物輸送車両の製作エンジニアは「宮大工」?
「車両は基本的に伊勢の自社工場で製作していますが、400tクラス、あるいはそれ以上の超大型の車両は、ここでつくると、それ自体を輸送するのが困難になってしまう。
 そこで、これらはある程度作業が進んだ段階で、パーツ状態で持って行って現地で組むか、あるいは造船会社の関係工場に運んで組んで船で運ぶといった方法をとります。この場合は、担当する技術者もしばらくそちらに行きっぱなしですね」(谷岡氏)

 いずれにせよ、それほど台数をつくるものではなく、ユーザーのニーズもさまざまで、まさにオーダーメイド。決まった図面どおりにつくればいいという仕事ではなく、ほとんど手づくりの「職人芸の世界」であるという。
「宮大工の感覚に近いかもしれません(笑)。昔の寺社を解体修理すると、屋根裏の部材にこっそり大工の署名があったりするそうですが、われわれも一両完成すると、思わずサインを書き込んでしまいたくなるくらい愛着がわきます。
 私自身、一時営業を担当していた時期を除いて30年間技術で働いてきましたが、自分が設計した車両は全部覚えていますよ」(谷岡氏)
谷岡 孝氏
神鋼電機株式会社
電子精機本部 大型搬送システム営業部
担当部長
谷岡 孝氏
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
運送業、ましてや重量物輸送となれば「力仕事」のイメージが強いもの。もちろん力も必要ですが、力任せに運んで運べるほど生やさしい相手ではないわけです。「パズルを解く」ような輸送・据え付け計画の立案、コンプライアンスへの配慮など、知的な仕事であることを実感しました。
ところでこのレポート、本文もさることながら「風力発電用ブレード輸送車」や「ブロック台車」の写真に心惹かれた方も多いのでは。そんなあなたのために、輸送、建設などの特殊車両にフォーカスした「働くクルマ伝説」を11月6日にお送りします。どうぞお楽しみに。

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