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厳選★転職の穴場業界 第29回 業務用シミュレーター 鉄道シミュレーターの開発を手がけたくはないか
アーケードゲームなどでも見かける鉄道シミュレーターは、鉄道会社でも運転士養成の際に大いに活用されている。だが、ディーゼルカーから新幹線まで、すべての車両をリアルに再現する運転士養成用シミュレーターは、ゲームとはまるで別物だった。
(取材・文/伊藤憲二 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:07.10.11
憧れの鉄道運転技術が身につく驚異のシミュレーター
運転士養成用シミュレーター
鉄道シミュレーター
東急5000系鉄道シミュレーター
基本的な車両操作から路線運行教習までがこの1台で可能。50q程度の路線を製作するのに数万枚ものデジカメ画像を使用し、半年から1年という期間で開発。スクリーンに映し出される風景は実写と同等の精度をもち、ブレーキや加速のポイント把握もシミュレーター上でできる(写真は実写の風景)。
 当社が開発した運転士養成用シミュレーターは、鉄道車両の性能から運転に必要な風景情報をほぼ完璧に再現しているのが特徴です。シーナリー(3D風景)のデータを作るため、沿線風景をデジカメで何万枚も撮影し、信号、標識などの位置、駅構内の風景はもちろん、線路脇の建物や看板に至るまで、運転の目標となる物を誤差ほぼゼロで描写します。列車の動きは実車の車両の加減速性能、制御システムなどのスペックを基に作成。また操作系、運行システムなども鉄道会社の仕様に合わせ、完璧に個別対応で作ります。描画システムは高速なnVidia Ge ForceグラフィックカードのSLI駆動。これで練習すれば、誰でも運転士としての技能が身につけられますよ。(松葉映彦)
東横車輌電設:鉄道を知る者だけが作れる、本当の鉄道シミュレーター
松葉映彦氏
東横車輌電設株式会社
交通事業本部
電子開発部 課長

松葉映彦氏
工業高校にて電子を学ぶ。東急電鉄入社後、車両の保守を担当し、鉄道車両のシステムや特性についての造詣を深める。その後東横車輌電設に移籍、車両知識を生かして鉄道シミュレーターの開発を手がけ、現在に至る。
運転台から床下装置まですべてをVR再現

 鉄道シミュレーターと聞いて多くの人がまず連想するのは、ちょうど10年前の1997年に登場し、一世を風靡したアーケードゲームだろう。実はこうした鉄道シミュレーションゲームが登場する前から、既にプロフェッショナル用のものが存在していた。あくまで遊びが目的のアーケードゲームとはおよそ異なり、鉄道車両の操作から運行の方法に至るまで、すべてが本物と同じように作られた、バーチャルリアリティ(VR)の極みともいえる運転士養成用の本格シミュレーターである。
 鉄道シミュレーター国内最大手の東横車輌電設は、JR各社、大手私鉄から地方交通線に至るまで、多くの鉄道会社に向けてシミュレーターを開発、供給している。運転シミュレーターをはじめ、鉄道車両の操作、構造などを覚えるための装置、保守・整備の訓練をするための装置など、さまざまなタイプのシミュレーターなど、多彩なラインナップを誇る。
「運転士の養成を目的としたシミュレーターですから、遊びの要素はありません。その代わり、鉄道車両を動かすことに関係のある装置はすべて実機を忠実に再現しています」

 開発責任者である電子開発部の松葉映彦氏が、パソコン上で鉄道シミュレーターソフトのデモを行ってくれた。その操作は、アーケードゲームとはまったく異なる。運転台のスイッチ類はすべて本物の車両と同じように機能する。
 客室や床下の機器ケースなどもすべて開閉可能で、形状を観察したり操作することができる。要するに、すべて本物と同じように作られているわけだ。もちろんどうすれば列車がきちんと動くか、ヒントはまったく与えられない。操作間違いも含め、すべてがソフト上でシミュレートされる。
 路線や車両の違いに応じてすべて完璧にカスタマイズされるというのも特徴的。車両の操作や機器のレイアウトは、鉄道会社や車両によって千差万別で、同じものはまずないからだ。もちろん路線も、すべて実際の路線に合わせてシーナリーデータを製作する。
必要な部分は徹底的に本物を再現、不要な部分はそれなりに

 この日、松葉氏は某新幹線路線についてもデモを行ってくれたが、駅を通過するときの風景スピード感、高速で曲線区間を走るときの車両の傾き、信号の変化など、眼前の光景はまるで本物の車両の運転台に乗っているようだった。そのようにして作られたソフトウェアを本物の車両と同一のデザイン、さらに本物と同じ視界を実現すべく3つの画面を備えるコンソールに実装して、ようやく運転シミュレーターが完成するのだ。
「例えば、20‰(パーミル:この場合1000mで20m高度差が発生する)の勾配ではどれくらい速度が変化するか、あるいはマスコン(加速・減速をコントロールする運転台のレバー)を何ノッチ動かせばどのくらいの速度になるかといった動力性能の部分まで、すべてを実車と同じように再現しています。そのためクライアントである鉄道会社から、モーターの性能曲線や回路図などのデータをもらい、それらを基に列車の走行状況を演算するんです。鉄道シミュレーターといえば、単に走りを作ってしまえばいいように思われるかもしれませんが、実際には高度な動態シミュレーション技術が必要なんです」

 一方、運転技術の習得に関係のない部分については驚くほど素っ気ない。例えば遠景の山々などは、山だとわかる程度に描写されるだけ。不要なものが徹底的に省かれているのもプロ仕様たるゆえんだ。
 東横車輌電設が鉄道シミュレーターの開発に本格的に力を入れ始めたのは、1990年代前半。1993年には廃車になった本物の機関車をコンソールに使い、「鉄道用シミュレーターとしては、おそらく世界初めて導入した」というCG用ディスプレイを前面に置く、ハイテクシミュレーターを送り出した。クライアントはJRグループのJR貨物。
「鉄道シミュレーターの開発前は、われわれも東急の車両しか知りませんでした。他社の使用機材に触れたときには、その多様性に驚いたものでした。私は鉄道車両が好きということもあって、いろいろな車両を知ることができて、本当に楽しく思えます」

もっとシミュレーションの本物感を追求したい

 東横車輌電設のシミュレーターは、鉄道会社各社から極めて高い評価を得ているが、その最大の要因は、同社が鉄道会社系の企業であるということではないかと松葉氏は言う。
「鉄道シミュレーターは、ソフトの基本部分以外、すべて鉄道会社の仕様に合わせてカスタマイズされるものです。鉄道車両のエキスパートである当社は、車両の仕様や操作などについて、供給先と鉄道の専門用語を介してコミュニケーションを取ることができ、また要望を受けていない部分についても鉄道会社ならではの視点で最適化させて納入しています。ユーザーにとってはかなり使いやすいものになっているはずです」
 鉄道シミュレーターの進化に終わりはない。今後、運転士が効率よく運転技術を習得できるよう、さらにリアルさを追求していきたいという。

「グラフィック性能は上げたいですね。3DCGを高速に動かすためのノウハウをもっているという点では、ゲーム業界の方々にも参加してもらうチャンスがあると思います。バグフィックス能力に優れたエンベデッド系プログラマも必要ですし、動態シミュレーションも高度化させなければならない。いろいろな人材にかかわっていただいて、さらに本物らしさを増したシミュレーターを作っていきたいですね」
 運転士養成用の鉄道シミュレーターに、一般人が触れる機会はまずない。実車を使わずとも運転が習得できてしまうほどに精巧であるため、みだりに公開することは鉄道犯罪につながりかねないからだ。鉄道シミュレーターは運転品質、ダイヤ維持、安全性確保といった鉄道会社の生命線といえる要素を陰で支える、縁の下の力持ちなのである。
シミュレーター開発への道:ハードもソフトも今の技術が転用可能
 業務用シミュレーターは鉄道をはじめ宇宙航空、自動車、船舶、建設機械など、プロフェッショナルが運転・運航するあらゆる分野で存在している。それぞれ専門性の強い部分があるが、動態シミュレーションという点は多くの製品に共通するポイントだ。
 コスト削減や品質管理といったネガティブ要素つぶしより、独創的なアイデアをどんどん生かしていくといった上積み型のモノづくり志向が強いケースが多いため、仕事の満足感は十分に得られるだろう。エンジニア需要は決して多くはないが確実に存在する。リクナビNEXTでは「シミュレーター」で検索をかければヒットすることがある。

 業務用シミュレーターへの転職を志すエンジニアに求められるスキルは、ソフトウェア系とハードウェア系で異なる。ソフトウェアでは主として物理シミュレーション、3DCGおよびレンダリング。CADシステム開発、ゲームソフト開発など、VR関係を手がけていたエンジニアであれば親和性は高い。ちなみに一般的なソフトウェアプログラマも、基本ソフト設計に携わるチャンスはゼロではない。

 ハードウェア系では、シミュレーター本体の揺動装置向けには油圧、ガスチューブなどを用いた可動メカニズムの開発経験、配電・配線関係の専門知識、設計図を見てそれを実際の形にするという商品開発の経験、機械を動かす組み込みソフト開発経験などが役立つ。ちなみに組み込みソフトは、鉄道や建設機械などの電気エネルギーを主とした製品の動態シミュレーションのプログラムづくりにも役立ち、オールマイティに活躍できる。
 レース、航空機、電車などのシミュレーションゲームにハマった人は数多いが、開発に携われるのはエンジニアだけだ。ぜひその特権を生かしたい。
業務用シミュレーター業界のエンジニアニーズ
・  市場規模は大きくないが安定しており、人材ニーズも存在する。
・  ソフトウェア開発では物理系、3DCGなどの経験があると有利。
・  ハードウェアでは機械設計全般および組み込み系にチャンス。
・  転職後は専門知識の勉強が必須、対象への熱意が求められる。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
昨今の鉄道ブームの追い風もあって「鉄っちゃん」「鉄子」が増加中。そんなエンジニアなら垂涎ものの東横車輌電設さんですが、松葉さんいわく「う〜ん、あまりにおたく度の強い人は仕事と思わないケースもありますから……弊社では『ライトなマニアの方』を歓迎しているんです」とのこと。確かにそうですね。

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