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開発プロセスの機械化、OSSの台頭、中国オフショアの拡大 3年後に迫るシステム開発大変革…SEは生き残れるか
納期の短縮、品質の向上、コストの低減など、厳しい要求にさらされているIT業界。これらの課題を解決するために各企業が積極的に進めているのが、@開発プロセスの自動化、Aオープンソースの採用、Bオフショア開発である。これらの「3年後の姿」はどうなるのか、どのような影響をITエンジニアに与えるのか、取材を元に探っていく。
(取材・文/中村仁美 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:07.09.11
開発プロセスの自動化 2010年、NTTデータでは50プロジェクト以上に適用
株式会社NTTデータ
プロジェクト期間が短くなる一方で、高い品質が求められる今、NTTデータ、BMCソフトウェア、IBM、マイクロソフトなど大手ベンダーは積極的に、開発プロセスの自動化、効率化に取り組んでいる。各開発プロセスを自動化するツールが続々と登場しており、開発工程だけではなく、さらに上流のビジネスモデリングの領域まで自動化する動きもある。
開発プロジェクトの大半を占める成果物の管理作業を機械化
 要求定義からシステム分析、設計(外部、内部)、実装、テスト、運用というフェーズで流れる開発プロセス。これらを確実につないでいくために欠かせないのが、各フェーズで作成される設計成果物(ドキュメント)である。
「開発工程の約4割を占める設計フェーズの多くの作業は、ドキュメントの作成・維持・管理に費やされています」
 モデル指向開発実践を推進する専門チームを率いる、公共ビジネス推進部技術戦略部長の斉藤信也氏はこう語る。
 それらの中には、技術的に高いスキルやクリエーティビティを求められるものもあるが、仕様変更による修正を下流工程の開発成果物に定型的に反映するなど、労働集約的な単純作業も多い。これらの作業を機械化できれば、人間のミスによる間違いもなくなるうえに、開発期間の短縮や生産性の向上も期待できる。

「しかし、通常、私たちが作成するドキュメントは人間が読むのには適しているが、コンピュータが読むのには適していません。単純作業を機械化するためには、人間とコンピュータ双方が理解できる形で、ドキュメントを管理する方法が必要。そこで私たちが着目したのがikv++社の『medini base technology(medini)』です」
 mediniはドキュメントをリポジトリ内で統一的に扱い、一貫性の検証やコードの自動生成、さらにはドキュメントの自動生成を可能にする基本機能を提供するソフト。だが、これだけでは機械化できない。そこで同社独自の開発方法論「TERASOLUNA」の成果物様式と開発プロセスをmediniを用いてインプリし、開発プロセスの機械化を実現する開発ツール群「FLEXITE」を整備した。
斉藤信也氏
公共ビジネス推進部
技術戦略部長
斉藤信也氏
開発プロセスの自動化で新たに求められるスキル
「実際、あるプログラム開発プロジェクトに適用してみたところ、設計成果物よりソースコードの7割程度を自動的に生成できました。しかしこのような自動化をするためには、設計をしっかりせねばならず、そこには今まで以上に質の高い仕事が求められます」
 つまり、「FLEXITE」を導入しさえすれば、開発が効率的に行えるというものではないということだ。有効に活用するためには、SEはこのツールの使い方はもちろん、どうすれば自動化がうまくできるか、自動化できるところ、できないところをアーキテクチャ設計の初期段階で切り分けていく能力も求められていく。
「現在、いろいろな開発プロセスの自動化ツールが出てきています。その中でも、当社のFLEXITEは最先端をいくツールと自負しています。仕様変更時の変更内容の自動伝播が実現できているのは、このツールだけでしょう。今後は開発の最上流のビジネスモデリングへも自動化技術を適用します。また、総合テストまでを網羅したテスト仕様のモデルを構築し、テスト仕様の自動生成にも着手していきたい」

 2010年には、「FLEXITE」を50プロジェクト以上に適用する体制づくりを目指すという。つまり3年後には、このように開発プロセスは自動化され、改善されつつあるというわけだ。
「これが普及すると、人は創造性の求められる仕事に集中することができます。本当に面白い仕事に携われるのはこれからです。また、強力なツールを使いこなすスキルの高いエンジニアが、少人数で高い生産性を実現できるようになります。そのようなエンジニアは、当然高い収入を得ることになるでしょうね」
 3年後のITエンジニアは、創造的でかつ高いスキルが要求される専門職としての本来の姿に、より近づくことになりそうだ。
NTTデータが取り組む開発プロセス機械化の現在の範囲
Conclusion 開発プロセスの自動化はこれからどんどん進む SEは単純作業から開放され、知的作業に集中できる
OSS 2010年、エンタープライズ系で市場シェアトップに?
日本OSS推進フォーラム
オープンソースという言葉が正式に使われるようになったのは1998年のこと。この10年の間に、その代表例であるLinuxは確実に普及し、2007年には全サーバ出荷台数に占めるLinuxの比率は20%を超える。成長率は約30%という勢いだ。Linuxだけではなくデータベース、ERPやCRMなどの業務アプリケーションまでも登場。オープンソースはもはや当たり前のものとして定着しつつある。
OSS活用上の課題を解決するための取り組み
 10年前は、オープンソースソフトウェア(OSS)の開発に携わることは、個人の趣味的な活動という色彩が濃かった。しかし今では、IT業界でその活動が評価される時代となった。このような今を築いたのも、OSS採用に積極的に取り組んでいた人たちがいたからだ。日本OSS推進フォーラムもそのひとつである。
「当フォーラムは2004年の発足以来、ユーザー企業、ITベンダー、学識経験者などの有識者が組織の壁を越えて集まり、誰もが安心してOSSを利用するための技術、制度における課題に取り組んでいます」

 こう語るのはサーバー部会を牽引する鈴木友峰氏(株式会社日立製作所 ソフトウェア事業部 プラットフォームソフトウェア本部 OSSテクノロジセンタ担当部長)。同フォーラムではOSSが抱える課題を解決する場としてサーバー部会とデスクトップ部会を用意。その名のとおり、サーバー部会ではエンタープライズ分野、デスクトップ部会ではデスクトップ環境でのOSSの普及・拡大を目指している。
「既に銀行のオンラインシステムにもOSSが採用されるなど、エンタープライズ分野においてもOSSは当たり前のものとして認知されています。さらに普及させ、3年後には市場のトップシェアを目指しています」
 デスクトップ分野はサーバーと比較すると遅れて見えるが、デスクトップ部会長の前田青也氏(株式会社グッデイ 代表取締役社長)は次のように続ける。
「政府や自治体、学校など公共分野を中心に普及させていきたい。そのためにもブラウザやメールソフト、オフィススイートなどをより使いやすいよう整備していきたい」
鈴木友峰氏
サーバー部会 部会長
鈴木友峰氏
前田青也氏
デスクトップ部会 部会長
前田青也氏
ITエンジニアの強力な武器となるOSSの技術と知識
 このように急速に普及・拡大しているOSS。そのため、OSS開発に携わるエンジニア(オープンソース技術者)の価値も急上昇しているという。
「OSSの開発では、世界中から集まった優秀なエンジニアと会話し、そこで自分のポジションを確立していかなければならない。技術力に加え、コミュニケーション力も求められる。そしてこのような場で自分のポジションを確立できている人は、どの企業からも引く手あまたです」(鈴木氏)
 OSSにはセキュリティ対策や互換性チェック、サービスレベルの標準化など、まだまだ解決しなければならない問題が山積している。また、エンタープライズシステムへの採用を不安視しているユーザーもいる中、ITベンダーがさらにOSSを普及させていくためには、サポートサービスの提供も考えていかなければならない。つまり、コミュニティで活躍しているオープンソフト技術者が社内にいることが、ITベンダーの競争力のひとつとなる。
「今はOSS開発で飯が食えるだけではなく、能力があれば世界にも羽ばたける。優秀なプログラマがやりがいのある仕事に出合える場がようやく広がってきたといえるでしょう」(前田氏)
 もちろん、誰もがOSS開発に携われるわけではない。OSSを使う側のエンジニアにとっても、「OSSの知識を踏まえたうえで、顧客の要求を実現する手段として最適なモノを自分で再構成し、適合させる能力も求められていく」(前田氏)ようだ。
 逆にいえば、OSSが普及すると、優秀ではないエンジニアは淘汰されていく可能性があるということ。3年後には優秀なプログラマやSEの価値が認められる一方、そうではないエンジニアにとっては厳しい時代になるかもしれない。
拡大するLinuxサーバー市場
Conclusion オープンソースの導入はますます加速していく 優秀なプログラマやSEが評価され、活躍できる時代が到来する
オフショア開発 2010年、開発規模は2000億円まで拡大?
上海聶欣信息諮詢有限公司(SNIコンサルタンシー)
オフショア開発の急速な拡大が続いている。2007年版情報通信白書の調査でも、2005年には636億円だった開発規模が、2010年には約2000億円にまで成長すると予測している。その大半が中国へのオフショアリングである。現在、中国も人件費の高騰などがうわさされているが、オフショア開発の普及を停滞させるだけの理由にはなっていないようだ。
コスト削減と人材不足で今後も広がるオフショア開発
 コスト削減のためのオフショア開発が盛んになってきたのは、1990年代中盤になってから。当初は大手企業を中心に行ってきたオフショア開発だが、今では中堅、中小のITベンダーにも拡大している。
「中国オフショア開発は、年30%ぐらいの伸びで拡大しています」
 こう語るのは、上海でオフショア開発のコンサルテーションなどを手掛けているSNIコンサルタンシー・総経理(代表)の末富昌幸氏。同氏は日本電気で中国オフショア開発を推進、拡大する業務に携わっていたが、その経験を生かして2004年に現在の会社を設立した。末富氏は中国がオフショア先として選択されている理由を、「言葉の壁が少ないのはもちろんのこと、日本的ビジネス感覚に優れているから」だと指摘する。
「日本からの指示を受ける中国側のプロジェクトマネジャー(PM)やプロジェクトリーダー(PL)は、日本での業務経験が数年ある技術者であることが多く、日本企業の納期意識や品質意識、開発プロセスを経験的に理解しています。また、日本語会話力にも優れており、プログラマクラスでも、日本語の読み書きができる人材がいる企業が増えています」
 日本の商習慣の特徴である短納期、厳しい品質要求、頻発する仕様変更などへの理解力に加え、日本語でやり取りができるという点が、ほかのオフショア開発先では得られない中国オフショア開発のメリットだと末富氏は語る。

末富昌幸氏
総経理
末富昌幸氏
 オフショア開発が拡大する理由も、従来までのコスト削減だけではない。
「今、日本のIT業界は人材不足に陥っており、多くのITベンダーは中国に開発リソースを求めています。人材不足が続く限り、中国へのオフショア開発は拡大していくでしょう」
 もちろん、すべての開発案件がオフショア開発に向くわけではない。末富氏は「開発環境やセキュリティ上の問題がクリアできる案件であれば、オフショア開発は可能だ」という。つまり企業規模も関係なく、IT業界で働いているだれもが、オフショア開発を経験する可能性があるというわけだ。
オフショア開発本格化時代に求められるのは、PM能力
 オフショア開発が失敗したニュースも取り上げられるが、一方では成功事例も数多い。末富氏は、発注先選定の失敗と受発注者間のコミュニケーション不足が、失敗原因の大半を占めると語る。
「プロジェクトが失敗すると、一般的には受注者側の責任になります。しかし、客観的に見ると、発注者側の開発業務の進め方や指導力、管理力不足に原因がある場合も少なくありません。常時、オフショア開発を成功させている日本企業は、プロジェクト管理能力が優れている企業だと思います。そのため、SEという個人ベースで考えると、PMやPLの立場ではない人でも、今後はPMBOKなどの標準的なPM手法、開発手法などを理解しておくことが望ましいと思います」

 また、オフショア開発を成功に導くための秘訣としてよく挙げられるのが、日中間での文化や習慣の違いの理解。しかし、実情は多少異なるようだ。
「例えば中国人は、言われたことしかやらない、時間になったら仕事が残っていても切り上げる人が多いのでは、と聞かれることがあります。しかし、中国現地では、必要であれば残業も徹夜も休日出勤もするエンジニアも少なくありません。中国だから、日本だからと考えすぎる必要はなく、むしろそういう意識を捨て去ることがこれからのSEには必須だと思います」
 中国オフショアベンダー側では、日本での業務経験がある中国人エンジニアの採用に積極的である。そして、日本向けの業務経験が豊富なSEも育ちつつある。
「よく、中国オフショア開発パートナーを脅威であり、競争相手と考えがちですが、私はそんな必要はないと思います。むしろ、協力しながら一緒に開発を行う国際分業パートナーと考えるべきだと思います」
 オフショア開発の成功・失敗を決めるのはやはり人。国際的なマネジメントスキルを学び、大きな舞台で活躍できるチャンスでもあるが、そのための自己研磨は欠かせない。
急速に拡大するオフショア開発
Conclusion オフショア開発では中国委託の拡大が予測されるSEのプロジェクトマネジメント能力がより高く評価される
2010年 やりがいのある業務とその価値を正当に評価される時代に!?
 開発プロセスの自動化、OSSの普及、オフショア開発の拡大という3つのキーワードで見てきたように、3年後のITエンジニアの働き方や求められるスキルが大きく変わる可能性がある。より高いスキルが求められるようになるとはいえ、やりがいのある業務に携われ、その価値を正当に評価してもらえる環境が整いつつある。
 IT業界はほかの業界と比較して、非常に若い業界だ。そのため、業界としての構造も洗練されていなかった。しかし2010年ごろには、ようやく業界として洗練されてくるということだろう。
 NTTデータの斉藤氏をはじめ、日本OSS推進フォーラムの鈴木氏、前田氏は、これからが本当にITエンジニアとして面白い時代がやってくるという。
「能力さえあれば、世界を舞台に活躍できる。そんな時代に第一線で仕事できるのはすごくうらやましい。学生や子供たちからも憧れられる専門職として認知されるよう、SEには頑張ってほしい」(NTTデータ・斉藤氏)
 3年後には、3K職種ではない新しいITエンジニア像が生まれているはずだ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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