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経営していた半導体装置メーカーが倒産! 自らの手で倒産……転職でどん底から復活したF.Sさん
転職は企業に雇用される社員がステップアップや環境変化を求めて利用する手段とは限らない。外資系半導体装置メーカーに転職したF.Sさんは、2年前まで社員数20人の企業の社長。経営に失敗した彼が復活の手段にしたのが、転職だった。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日07.08.20
これまで何度か40代のエンジニア転職を取り上げている本企画。経験と実績に裏打ちされた技術力やマネジメント力があれば、ミドル層でもキャリアをさらに前進させる転職が可能であるという実例を紹介してきた。ところが今回の紹介案件は、キャリアプランの模範例と言えるものではない。なんと経営していた会社を倒産させてしまった元社長の転職記である。莫大な負債を背負ったF.Sさんが、どのようにして再浮上したのかを追っていく。
結論から述べるが、F.Sさんを失意のどん底から救ったのは、彼がもつ半導体製造装置の開発に関する市場価値の高い技術である。あらためて、エンジニアにとって最大の財産は技術スキルであることを思い知らされたケースでもあった。
Profile 外資系半導体製造装置企業 日本支部責任者兼開発リーダー F.Sさん(42歳)
工業高校を卒業後、半導体関連の企業で15年以上にわたりさまざまな技術系業務を経験。30代半ばで、小規模ながら自社ブランドをもつ半導体製造装置企業の社長に。倒産の整理を経て現職。
転職前
(半導体製造装置メーカー経営・40歳)
転職後
(半導体製造装置メーカー日本支部責任者・42歳)
年収1000万円 給与 年収1200万円+売上コミッション400万〜500万円
10〜17時間
(経営者ながら、自由になる時間はほとんどなかった)
勤務時間 0〜17時間
(時間の使い方は自由)
今回の注目!
社員数20人の社長。 職場環境 日本ではただ一人。自在に動けるので自宅で仕事をすることも。
社長という立場ながら外部から招かれた30代ということもあり、古参エンジニアをうまく指揮できなかった。 職場の
人間関係
本国では開発リーダー。約30人の部下を指揮するポジションだが、あえて人間関系には距離を置いている。
社長として財務・人事考課などを見ながら、営業も設計も製造管理もこなしていた。 仕事の中身 日本においてはマーケティング業務中心。本国においては設計・開発のリーダー。
会社運営上、ルーティンな業務パターンはなく、必要に迫られて多くの業務を順番にこなしていた。 仕事の
進め方
半月ずつ日本と本国を往復。国内では人脈をたどって新しいビジネスを開拓し、本国では開発・製造のマネジメントを行う。
何でも屋。 仕事の役割 日本市場進出と部材安定調達のキーマン。プラス開発責任者。
転職前編 経営していた会社が倒産。負債総額1億5000万円!
とうとうこの日がやってきた。会社を畳まなくてはならないと決断するときがやってきたのだ。思えば苦闘の5年間だった。

中堅半導体製造装置メーカーの技術マネジャーとして活躍していた35歳のとき、業務提携先だった同業の社長から業界内での立ち回りを評価され、「後を継いでくれないか」と言われたのがそもそもの発端だった。経営権の移譲に伴って発生する対価は、少しずつ分割で返済すればよいという条件も魅力だった。しかし、何より小規模ながらも自分で会社を経営できるという事実が自分を突き動かした。こんなチャンスは二度と来ない……当時はそう思ったのだ。
また、声を掛けてくれた会社は、同業といっても得意とする製品分野が異なる。それゆえ意外と簡単に円満退社することができた。送り出す側に今後の業務提携強化という深慮があったのかもしれない。すべてにおいて事はスムーズに運んだ。これからは経営者として半導体産業の中で大手装置メーカーに負けない存在感を発揮していこうと胸が躍った。
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しかし現実はそう甘くはなかった。社長といっても生え抜きではないので、何よりも古参社員をうまくまとめるのに苦労した。会社を譲ってくれた前社長は、若い感覚で市場開拓や製品開発を目指してほしいと言って引退した。当然、私も自在に会社を動かしていけると考えていた。ところが従来から働いている社員たちは「今までのやり方で何が悪いのか」と食い下がってきたのだ。

外に向けて、どんどんアプローチしていきたかったのに、内部統制に頭と時間を費やさねばならない日々が続く。そんなとき、新しい方式による装置の開発で、大規模な市場開拓ができるという構想が芽生えてきた。経営者としてはリスクの大きさからゴーサインをためらうべき内容だったかもしれない。だが、私のエンジニアマインドが、それを却下した。それに、この新規開発で社内が一致団結できると思われたのだ。

挑んだ結果は散々。開発に投資した資金は回収できず、通常業務で得られる売り上げも大幅にダウンした。それで倒産を余儀なくされたのである。負債総額は1億5000万円。そのうち私が負担する金額は数千万円ほどになった。
転職活動編 失意の日々を過ごすある日、思わぬところから声が掛かる。
会社の整理には多少の時間が掛かったが、何とか負債だけに集約することができた。それを返すには、普通に働いていては何年かかるかわからない。しかし、起業するための資金も集められない。このまま身動きが取れなくなっていくのかと考えたらぞっとした。しばらくは友人が経営する半導体関連の商社で糊口をしのいだが、展望はまったく見えなかった。

そんなある日、お世話になっている友人に、私を探している者がいるらしいと告げられた。まだ見えないところに負債が残っていたのか! とっさにそう思った。債権者が私を探しているのだと考えたのだ。

ところが事実はまったく異なるものだった。探しているのは某国の半導体商社A社の経営者。かつて社長時代に面識があることを思い出した。会ってみると、ぜひ日本支部をつくりたいので責任者になってほしいというオファーだった。併せて、半導体製造装置の開発・製造部門を立ち上げたのでマネジャーとして迎えたいと言う。報酬も新たに会社勤めしたのでは望めない額である。
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私が日本市場の開拓や技術部門の責任者として最も適任だと考えて、海を越えて業界中を探し回っていたらしい。F.Sは、今どこにいるのかと。
迷ってなんかいられない魅力的な打診だ。誠意も感じられた。焦らずに、詳細を検討し、交渉を重ねて受託した。
転職後編 新たな市場開拓と製品開発。経営者時代にやりたかったことができる!
こうしてA社の日本支部責任者兼開発・設計部門の責任者となって1年が過ぎた。日本市場に関しては開発中の製品を売り込むという構想と、競争力の高い製品製造のための部材調達という二面的なミッションが任されている。自由にアプローチさせてくれるので動きやすい。経営者時代にやりたかったことが、皮肉にも今になってできるようになった。いずれも複数の有望な商談が進んでおり、そろそろ成果が出てくるはずである。

一方の製品開発も進んでいる。本国の部下たちは全体構想をまとめる力はないが、3D-CADなど設計技術には目を見張るものがある。こちらも順調だ。近い将来には業界中が一堂に会する展示会に出展する予定である。日本市場以外の海外展開も視野に入ってきた。今はまだたった一人の日本支部だが、いずれ社員を雇い、支部から支社、そして日本法人にしていく予定である。そのときは、私自身が経営者として復活している姿を多くの業界関係者に見せられるに違いない。
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F.Sさんの転職考察 40代の転職チャンスは実績と実力のある者に降りてくる。
転職して良かった点
・以前よりも高い収入が得られた。
・半導体装置産業の最前線に復活する環境を得た。
・自分の財産として技術や人脈を再確認できた。
転職して悪化した点
・特になし
読者の多くはF.Sさんとは異なり企業経営の経験はないはず。それに、40歳まではまだ時間のある方が多いだろう。それゆえ、ストーリーとしては面白いが参考になるケースとは思えないかもしれない。でも、F.Sさんが会社を倒産させても外資系企業のマネジャーとして業界の最前線に再復活できたのは、社長になる以前にエンジニアとして十分なスキルを獲得していたからである。そこでは数々のチャレンジがあったはずだ。
A社がF.Sさんを日本支部の責任者に登用したのも、彼が社長だったからではなく、半導体装置に関しての優れた開発技術と、広大な人脈をもっていたからにほかならない。そして、それは彼が会社員時代に築かれたものなのである。転職市場では、20代なら将来性を見てもらえる。30代前半も同業ならば経験を買ってもらえる。だが、40代は真の実力が見られる。エンジニアに限らず、10年先にどんな事態が訪れるかわからない。近い将来に転職をしたいという意向がなくても、未来に備えたスキルアップを怠ってはいけないのである。
培ってきた技術や人脈は、苦境に立たされても決して裏切らない。
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