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大人を一瞬、童心に帰らせるヒーリングのキラーアイテム、ホビー製品が今、注目を浴びている。最近、室内で飛ばすことができる超小型・超軽量のラジコンヘリが大ヒットしたことが話題となったのは記憶に新しい。ヘリ以外のホビー製品をみても、プラモデル、車や飛行機のラジコン、鉄道模型、モデルガン、また過去にこのコーナーで取り上げた天体望遠鏡など、最近になって売り上げを急に伸ばしているホビー製品は数知れない。 テレビゲームを除いた玩具業界の市場規模は2006年時点で約7000億円といわれているが、団塊世代の大量退職や景気の上昇などにより、購買力の高いユーザーは今後、大きく増えると予想されている。今後の業界の発展から目が離せない。 |
ホビー製品の中でもマニアのディープ度でトップクラスを誇るのは、ミリタリー関連だろう。東京マルイはミリタリーのコアアイテムであるエアガン作りで世界に名をとどろかせているホビーメーカー。最近は超小型「Zゲージ」鉄道模型も手がけるなど、攻めの商品開発を展開中だ。 |
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忠実にモデルを再現しながら正確な「動き」を盛り込む 「いいエアガンを作るためには、作り手がマニアでなければダメだ。自分がモデルガンの収集やサバイバルゲームの面白さを肌身で感じて、エアガンのどのようなところに感銘を覚えるのかというマニアの心を知って、初めてこだわりのエアガンを作ることができる」 エアガン、ラジコンなどホビー製品大手、東京マルイの製品開発のトップを務める岩澤辰男専務は語る。エアガンはモデルガンと同様、トイガン(おもちゃの銃)のひとつであるが、モデルガンは本物そっくりであることが命であるのに対し、エアガンはリアル感を出しながらも樹脂製の弾丸、BB弾を発射できるのが特徴。野山で模擬戦闘を行うサバイバルゲームなどに使われる。モデルガンではなく、エアガンのみを手がけているのは、東京マルイのこだわりなのだという。 「ウチが模型を作り続けて40年以上。その中で徹底的にこだわったのは、模型がちゃんと動くということ。アクションなんだ。だから、ウチが作ってきた製品は全部、何らかの動力を備えている。プラモデルやラジコンもモーターが仕込まれているし、エアガンもそう。動きがなければ模型じゃないんだよ」 模型に動きをもたせる――一見、簡単そうに思えるが、リアルな外観を忠実に再現しながら「本来は不必要」な動力を内部に実現する、その機構設計は極めて難しいものだ。エアガンといえば、昔は不燃ガスをパワーソースとするブローバックガスガンが主流だったが、東京マルイは電気モーターを使って装弾および空気の充填(コッキング)を素早く行う高性能な電動ガンを実用化。サバイバルゲームのシーンを一変させた。 「コッキングを電動でやったら面白いエアガンができると考えたのは10年ほど前だった。しかし、当時はコッキングができる小型で強力なモーターも、それを動かすバッテリーもなかった。しかし、技術が進歩すればいつか必ずできるはずだと思い、エンジニアは技術情報に日々あたり続け、モーターの技術革新とともに3年前、ようやく完成にこぎ着けることができたのです」 現在、電動エアガンは東京マルイの独壇場である。フルオート型のハンドガンから大型の自動小銃まで、幅広いラインアップをもつ。ちなみに自衛隊装備の89式小銃型エアガンは、訓練用銃として自衛隊に納入されたという。実物を見ると、デザインや銃身の肌合いなどが、不気味なほどリアルだ。 「あんまり似ていて、有事のときに本物の銃と間違えて持っていってしまうという懸念がでたほど。それで自衛隊には、実銃とエアガンを識別できるよう、色を変えて納入しているんですよ」 マニア向けホビー製品でいちばん大切なのは「熱い思い」 ハンドガンからサブマシンガン、アサルトライフルまで、リアルな形を実現させたのは小型モーターなどの技術の進歩と、絶妙な機構設計の合わせ技である。現在、機構設計の開発責任者を務めているのは、元カーオーディオの機構設計者だという。 「ホビーの世界において技術は本当に大事。しかし、その技術を生かすためには、創意工夫と情熱が欠かせない。ハンドガンの主力モデル、H&K USPも、3年ほど前までは銃身をここまで本物並みに薄くすることはできなかった。マニアを興ざめさせかねないデフォルメをなるべく少なくするために、機構設計や材料工学など、もてる技術を駆使するわけです」 形がリアルであるだけでなく、命中精度や連射性など、エアガンとしての性能も高い。特に命中精度は世界トップと評する声も少なくない。 「命中精度はエアガンマニアにとって、いちばんこだわりたい部分のひとつ。私は20m先にある直径10cmの的にちゃんと当たらない製品は出荷するなと指示している。一般的な住宅では必要ない距離ですが、遠くにいる敵の銃を持つ手に命中させることができる感動を味わえる銃でなければならない。オーバースペックではないかと思うこともあるが、マニア向けの製品というのは、それだけ熱い思いをもって開発しなければダメだと思う」 東京マルイは今、マニアックなスピリットをエアガン以外にも展開している。そのひとつが鉄道模型。Zゲージと呼ばれる線路幅わずか6.5mmの極小モデルで、4畳半の部屋でも最小限の鉄道レイアウトを敷くことが可能だ。車両は懐かしの「走るホテル」20系客車式寝台車だ。 |
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「この小ささで、機関車は客車をブルートレインのフル編成である16両をけん引できるようにしたのが、鉄道マニアのこだわりに対するわれわれの回答。前照灯や車内灯もつくようにした。暗闇で見るときれいだよね」 ホビー製品作りは面白くてしかたがないと、岩澤氏は言う。 「本当に、自分のマニアな趣味を職業にしたいという情熱が必要なんだ。そういう人にはぜひこの世界に飛び込んできてほしい」 |
ホビー系の仕事というと、どうやってその世界に飛び込んでいいかということ自体がなぞというイメージがある。が、実際には大手企業から零細企業まで、さまざまなトイメーカーがあり、それぞれ得意分野のホビー製品を作っている。日本のホビー製品作りは世界でも定評があり、小規模ながら世界の名門という企業も多い。 リクナビNEXTでは「玩具」「模型」「ラジコン」……と、自分の興味関心のあるホビー製品の名称で直接検索すると、求人情報をゲットすることができる。 ホビー製品業界は現在、徐々にファブレス化が進んでいる。エンジニアニーズも、ジャンルによって若干の違いはあるものの、おおむね製造系より開発系のほうが多い傾向にある。求められるスキルは、ラジコンにおける無線といった専門性の高い分野もあるが、一般的にはメカトロニクスや機械などの機構設計、制御系を含む電気回路設計、センシング技術など、「動きモノ」を手がけた経験があれば転職は十分に可能である。 業界的には自動車部品、精密機械、家電製品などの設計技術者は有利だろう。高級・高性能なホビー製品では、その品質、性能を支えるための高分子材料、特殊鋼、複合材などの材料系エンジニアも意外に多くのニーズがある。システム設計以外でも、デザインや流体シミュレーション、強度計算などの分野でCADエンジニアにも活躍の場がある。 それ以外のスキルでも、基本的にモノづくりにかかわるスキルであれば、何らかの活用法がある。ホビー製品作りにおいては、自分のスキルがモノづくりをどう変えるかというイマジネーション、アイデアの豊富さが求められるのだ。 |
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