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厳選★転職の穴場業界 第25回 メディカルバイオニクス ハイテクか加工技術か?最高精度のモノづくり人工臓器
臓器移植のドナー不足が世界的に深刻化するなか、人工臓器が改めて注目されている。特に技術革新により飛躍的な進歩を遂げたのが、機械式の人工臓器だ。重度の内臓疾患患者の延命だけでなく、クオリティ・オブ・ライフも高める人工臓器開発の実体に迫った。
(取材・文/伊藤憲二 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:07.6.14
業界動向:小型軽量・高性能化の進展で臓器不全治療の主役に
 病気や事故で心臓、腎臓、目、耳などの臓器・器官を失った人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を確保するための重要なデバイスである人工臓器が今、脚光を浴びている。
 なかでも医工学の進歩で実用性が急速に高まっているのが、人工腎臓(ポータブルな透析器)などの小型軽量、高性能化された機械式人工臓器だ。スパゲティシンドローム(多数のチューブを体内に挿入する様子)と表現されたのも今は昔。機械式人工臓器はドナー不足の臓器移植や、開発が難航している組織細胞・幹細胞由来の生体人工臓器や再生医療より、はるかに現実的なソリューションとして確立されつつある。
 世界市場も日欧米を中心に急拡大しており、臓器1分野につき数千億円規模になるとみられている。
注目企業:時計技術で補助人工心臓を開発したサンメディカル技術研究所
 人工心臓は腎臓と並び、潜在需要が極めて大きい人工臓器だが、技術面での困難もひときわ高い。世界中の医療機器メーカーが技術革新に取り組むなか、超精密技術を母胎とするサンメディカル技術研究所が、極めてシンプルながら高性能を発揮する画期的な補助人工心臓を生み出した。
■補助人工心臓「エヴァハート」 ■エヴァハートのチタン製ポンプ
エヴァハート エヴァハートのチタン製ポンプ
 サンメディカル技術研究所が製作した最新の補助人工心臓「エヴァハート」。心不全で機能しなくなった左心室にカニューレを挿入し、遠心ポンプで血液を上行大動脈へバイパス送血するという原理で作動する。血圧は一定ではなく、左心室の鼓動によって生ずる正負圧によって、健常者と同様に血圧の脈動が発生する。電源部、制御部は体外ユニットに設置。写真のキャリアタイプのほか、背負い型も可能。AC、DC両電源に対応。価格は1000万円以上の予定だが、保険適応されれば患者負担は3割になるという。 「エヴァハート」のコアユニットとなる体内埋め込み型の血液ポンプ。金属部分はハウジング(ケース部分)、インペラ(内部で回転する羽根車)とも生体が拒絶反応を起こさない純チタン製で作られている。極めて高い精度が要求されることから、すべてムク材からの削り出し加工品だ。また、シール材や軸受けには長期の使用においても磨耗が発生せず、また血液を効果的にシーリングする特殊なセラミックが採用されている。軸受け部のクリアランスは何と0.1μにまで詰められ、かつ完全非接触を実現していることが特徴だ。
末期心不全患者の社会復帰も可能にした「エヴァハート」

 サンメディカル技術研究所が開発した補助人工心臓「エヴァハート」の体内埋め込みポンプは、直径わずか5cm程度と極めて小型。体内の組織と直接触れるハウジング、血液を送り出すインペラとも、医療スペックを満たす純チタン製だ。変わった形の4枚羽根のインペラは一見シンプルな造形だが、山崎俊一社長はカメラを止めた。
「すみませんが、羽根車部分だけは写真に撮らないでください。この羽根形状こそが、血液を固まらせず、滞らせずに安定して送出するためのキーテクノロジーのひとつなんです」
「エヴァハート」は既に2005年5月から、パイロット治験(本格的な臨床試験の前段階の治験)を行っているが、その3例の心不全患者は全員が存命中で、うち一人は製造業への再就職を果たしているという。心不全患者の延命にとどまらず、日常生活の確保、さらには社会復帰を可能にするという実用性の高さが実証され、注目を浴びている。

 人工心臓といえば、心臓の機能すべてを機械でまかなうものを連想しがちだ。だが、フルタイプは技術的に極めて難しく、装置は大型・複雑でトラブルも発生しやすい。それに対して補助人工心臓とは、全身に血液を送り出す左心室の働きを助ける装置で、フルタイプに比べてはるかに小型軽量でトラブルも少ない。
 この補助人工心臓を体内埋め込み型にしてしまおうと考えたのは、心臓血管外科専門医の山崎健二医師。社長の実弟である。
「体内埋め込み型補助人工心臓は、理屈は簡単でも開発は非常に難しいという、モノづくりのパワーが試されるアイデアでした。私は弟のアイデアに乗って複数の企業に共同開発を持ちかけたんですが、生命にかかわる製品には手を出したくないというカルチャーがあるのか、すべて断られました。ならばいっそ、独力で作ってしまえということになったんです」

ハイテクに頼らず、超精密加工技術で高い信頼性を実現

 生命科学や流体力学についての知識や経験はほぼゼロだったという山崎氏だが、「試しに作ってみなければ始まらない」と1991年に開発に着手した。人工心臓のポンプは超小型でありながら、粘性の高い血液に、100mmHg程度の圧力に負けずに送り出す必要がある。流量は最低でも毎分4は欲しい。しかし、このスペックを満たす技術は、もちろん汎用品にはなかった。
ICMT AWARD
ロータリー型血液ポンプ技術の進展に貢献した研究者・企業に与えられる「ICMT AWARD」を2005年に受賞。
山崎俊一氏
株式会社サンメディカル技術研究所
代表取締役社長

山崎俊一氏
上智大学経済学部を卒業後、商社勤務を経て実家の生業である株式会社ヤマザキの代表取締役に就任。1991年に補助人工心臓の開発を目的にサンメディカル技術研究所を設立。
「流体力学も知らないのでは、自分で作ろうにも作れない。そんなとき、流体力学では有名な大学の先生を紹介してもらいました。その先生にスペックを話したら、『そんな流体力学の理論はNASAでも確立していない。面白いからぜひやりましょう』と乗り気になっていただきました。それで開発が進み始めたんです」
 生体が相手となる人工心臓のポンプ作りの難しさは流体力学だけではなかった。
「第1号のポンプは軸流型という形式で作りました。理論的には大丈夫と思っていましたが、実験動物に装着したらわずか数時間で止まってしまいました」
 血液は血しょうという液体と、微細な粒子である各種血球で構成されており、単なる粘性の高い液体ではなかったのだ。モーターの血液シール部分に入り込んだ血液が滞留し、固まってしまったのが停止の原因。この問題を解決するために、血液シール部分に血液が入り込まないようにする必要があった。

 その問題解決に役立ったのが、時計や光学機器などの精密機械作りを得意とする、長野県諏訪湖近辺の製造業がもつ微細加工技術だった。血液シールやモーター軸のセラミック製摺動部のクリアランスをなんと0.1μ以下にまで削減し、血液の浸入を最小限に防いだ。さらに微少に入り込む血液を常時洗い流すため、潤滑液を血液シール部に循環させる「純水循環システム」も考案。精密機械特有のシーリング技術によって、実用化のめどをつけたのだった。
「何十年もの間にトラブルなしで動く必要があるようなものは、ハイテクでは作れません。できる限り可動部やセンサー部などを削減し、シンプルに作るべきなんです。血液シールの固着を防ぐだけなら、リニアモーターで磁気浮上式にするという手もありますが、われわれはあえてそうしたハイテクを排し、加工技術の高さで勝負したのです。モノづくりの本当の原点は電子部品ではない」
 エヴァハートは既に日本で本治験を実施中。2008年には日本での治験を終了し、認可申請を行いながら、米国、欧州、アジアでも順次治験に入るという。心臓病患者や心臓外科医からも熱い視線が投げかけられている。
「日本では高度治療機器のベンチャーはほとんどない。しかし、やる気になればできないはずはない。われわれがその先駆者となりたい」
 日本の医療機器は、一部の分野を除けば、国際競争力はお世辞にも強いとは言えない。その日本から、ベンチャー企業がとりわけ難しいとされる補助人工心臓で世界に打って出る。モノづくり系エンジニアにとって、これほど痛快なことはない。
穴場求人:要素技術の複合体である人工臓器は多様なエンジニアを求む
 人工臓器には人工心臓や透析器など既に技術が現存するか実用化が間近なもの、人工眼や人工鼓膜といった将来技術に属するものなど、実に多種多様だ。製品それぞれについて異なる組み合わせの要素技術が使われており、エンジニアニーズのすそ野はかなり広い。
 エンジニアの中途採用ニーズは多くはないが、一定数存在する。リクナビNEXTでは「医療機器」「人工臓器」「再生医療」などをキーワードに検索をかけるか、医療機器メーカーを直接社名検索することで求人情報をゲットできるだろう。

 求められるエンジニアのスキルはさまざま。人工心臓のような機械色の強いものについては、金属や樹脂などの材料系エンジニア、マイクロマシンなどの設計者、流体シミュレーションの経験者などが求められる。人工腎臓などの代謝系臓器では、例えば老廃物を分離するための高分子膜などの材料化学や分子化学系エンジニア、センサー関連の技術者なども必要だ。
 聴覚・視覚障害者向けの人工感覚器では、GPUまわりの設計経験者や情報工学エンジニアなど、コンピュータ関連のエンジニアが活躍する地合がある。また、人工臓器は極めて高い信頼性が要求されるため、品質担当者、生産技術者、生産管理技術者が経験を生かせるフィールドでもある。
 参入は簡単ではないかもしれないが、エンジニアなら挑戦を考えたい。
人工臓器業界のエンジニアニーズ
・人工臓器の需要は右肩上がりと予想されており、人材ニーズ増加に期待大
・金属・樹脂材料系、シミュレーション、電気系など多くの職種が対象
・信頼性確保の点では品質、生産技術関連のエンジニアにも活躍の場が広がる
・モノづくりへの情熱とこだわり、創意工夫を大切にすることが成功への道
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
山崎社長はある大手メーカーの創業一族。その企業が上場し、株式を保有していた山崎氏は、時価総額としてかなりの財産を手にしました。「エヴァハート」の開発を考えていた山崎氏は家族会議を開いて皆の同意を得、その財産を開発資金として投入したのです。聞けば驚くような金額。エヴァハートの世界進出は始まったばかりです。

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