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我ら“クレイジーエンジニア”主義 vol.23 コンピュータは羽生棋士に勝てるか。人工知能「ゲーム情報学」の松原仁
人工知能研究の第一人者として知られ、「ロボカップ」サッカー立ち上げ時のメンバーの一人、さらに「ゲーム情報学」という新領域を提唱している松原仁氏。研究を進めてきたコンピュータ将棋は、2010年〜15年には、名人や竜王を破るといわれている。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:07.06.13
クレイジー☆エンジニア
はこだて未来大学教授
松原仁氏
 日本の人工知能研究の発展とともに歩んできたと言っても過言ではない。幼いころにアニメ「鉄腕アトム」に出合い、「鉄腕アトムのようなロボットを作りたい」という強い思いを抱きながら、研究を推し進めてきた。東大で人工知能の研究を始めたころは、まだ日本のコンピュータの黎明期。だが、実はそのころから今の専門である「ゲーム情報学」につながる研究を始めていた。大学院修了後は、日本のロボット研究のメッカともいえる旧通産省工業技術院電子技術総合研究所(電総研)で14年間にわたり、ロボット工学と人工知能の研究に取り組み、2000年からは、公立はこだて未来大学の開学と同時に教授に就任した。近年、大きな話題となっているのは、コンピュータによる将棋だ。チェスよりはるかに複雑なルールをもつ将棋において、人間並みに次の一手を考えるコンピュータの開発に成功。驚くべきことに、名人や竜王に迫るところまできている。
鉄腕アトムを作るには、どうすればいいか
 私はよく鉄腕アトムを作るために研究しているんだと言っていますが、そのきっかけは幼稚園のときに出合った鉄腕アトムでした。親によれば、当時は毎日、アトムの絵を描いていたそうです。人間のような心をもったロボットを作れるということが、やっぱり子ども心に驚きだったんですね。それで小学校に入って、アトムを作るのはどんな人たちなのかを親に聞くと、親も理系だったので「エンジニアだ」という答えが返ってきて。小学校で将来の夢を書く作文があると、男の子はプロ野球選手などと書く中で、僕は一人だけエンジニア(笑)。同級生からは「何だ、このエンジニアって」と追及されて。役に立つ機械を作ったりする仕事だ、なんて説明したりして。

 中学、高校は私立の進学校に進みました。当時、最も夢中になっていたのは、バスケットボール。中学では、東京都の大会で優勝。全国大会に行ったチームでレギュラーでした。高校ではちょっと熱は下がりましたが、体育の成績はどの科目よりもよかった(笑)。受験校で体育が苦手な人が多かったから。

 そしてもうひとつ、夢中になっていたのが、読書です。今思ってもちょっと変わっているんですが、中学のときはフロイトに傾倒していて。精神分析入門とか、夢判断とか。当時、フォーククルセイダーズという音楽グループのファンだったんですが、その作詞家が北山おさむさんという方で、医学部に通う精神科医の卵だったんです。それで興味をもつようになって。人の心を科学的に分析することも、アトム作りには必要だ、と。大学進学では、真剣に医学系に行こうかと迷いました。

 結局、大学にコンピュータの学科ができ始めたころで、新しいことができそうだと理学部情報科学科に進みました。ただ、当時からずっと目標は、人間を理解したい、という思いです。アトムを作るには、人間を理解しなければならない。アトムを作る過程で人間そのものがわかってくるのではないかと。そして、機械に人工知能を持たせるという研究があると知って。これこそ、人間のようなアトムを作るひとつの道だと思ったんです。
人工知能をやろうとすると、先生に止められた
 ただ、今ではあり得ないことですが、当時は人工知能を研究している人はほとんどいなくて、ちょっと白い目で見られるようなところがあったんです。大学でも、将来は何をやりたいかと聞かれて人工知能ですと答えると、これは本当の話ですが「そんなのは人間のクズだ」と言われたこともあった。コンピュータを知的にするなんて、まともな学問じゃない。本来の工学や科学は、ちゃんと目標や対象がわかっていることをやるものだ、と。そもそも知能なんてものは、対象がとても、もやもやしていているわけですね。そんなものをコンピュータに持たせようなんて、よくわからない。人によっては、怪しいオカルトに近いものにも見えていたようです。

 ただ、アトムに人間のような心を持たせたいとなれば、機械の研究も大事ですが、心的なこと、人工知能も避けて通れない研究だと思っていたんです。だから、クズだと言われようがやりたかった。実はゲームの研究も学生時代から始めるんですが、人工知能をやっている人も少ないなかで、ゲームを研究している人なんてほとんどいない。それこそ堅い人たちから見れば、人工知能で、ゲームなんてなると、それこそクズ中のクズ扱いでしたね(笑)。

 でも、僕はもともとあまのじゃくで。言われれば言われるほど、元気が出るんです。やっている人がいないと余計に興味がわいて。大学3年くらいから将棋のプログラムの研究を始めていました。そんな調子ですから、すぐに世の中に送り出せるような商品を作るようなことはとてもできないと思って、将来の方向を研究者に定めたんです。当時は、なれるといいな、という思いでしたけど。
混沌とした、わけのわからない面白さが良かった
 今でこそ人間型ロボットは、アトムの世界に一歩踏み出している印象がありますが、当時はまだ大学院のロボット研究室に、ようやく腕を模した機械がひとつぶら下がっていた時代。とても先は長そうでした。そんなこともあって、研究室以外での活動がとても盛んだったんですね。例えば、「AI-UEO」。これは、人工知能のウルトラ・エキセントリック・オーガニゼーションの略称で(笑)。若い人工知能研究者の意見交換の場として始まったんですが、後に研究発表の場にもなって組織が大きく、有名にもなりました。今もOB会がありますが、そうそうたる顔ぶれの人たちを輩出しましたね。

 また、寺子屋的に出版社の方の主催で若い哲学者と若い人工知能研究者の勉強会兼飲み会というのがありまして、これが刺激的でした。最初はお互いに何を言っているのか、チンプンカンプンでしたが、だんだんなんとなく議論ができるようになって。私もデカルトやカント、ビトゲンシュタインなどを熱心に読みました。人間の心について、いろんな角度から勉強を進めていたんです。

 今思えば、運がよかったな、と思います。たしかに「クズだ」なんて言われたり、人工知能というだけで怪しいもののように思われた時代でもありましたが、いろんなことが自由にやれたんですよね。まだ人工知能学会もできる前で、良くも悪くも権威的なものはまったくなかった。混沌とした、わけのわからない面白さがあった。そういう渦中で、研究を推し進めることができたから。

 大学を出て電総研に入ったのは、当時は人工知能研究に最も熱心だったからです。面白い人もいましたしね。画像処理の研究から、推論の研究室に移って、人工知能をメインにやるようになって。最終目標はこのときも、コンピュータに心を持たせることでした。でも、心がどうできているかもわかりませんから、いろんな研究をやっていこうと。

 その後、コンピュータに学習をさせるという研究で、複数のシステムで共通の目標に向かって何かをやるというマルチエージェントシステムに携わるようになりました。仕事の分担をどうすればいいかということ。実はこのとき、それぞれの役割をもったプレーヤーが、ゴールと勝利というひとつの目標に向かっていくというサッカーというスポーツが、この研究に向いているのではないかと気づいたんです。
机の上のアトムグッズ
 
研究室にある「鉄腕アトム」グッズは、200を超える。産業用を含め、ロボット分野では世界のトップランナーを走っているのが日本。特に、ヒューマノイド型ロボットでは、日本がダントツにある、と松原氏。その背景には、鉄腕アトムなど、ロボットアニメの生んだ影響も大きいかもしれない。「日本を前進させてきた産業が今、激しい追い上げを受けています。どんどん追いつかれている。これから10年、20年食べていくものをどうするか。日本はそれが問われている。ヒューマノイド型ロボットは、間違いなく世界でいちばん進んでいる分野のひとつです。これからの日本を支える数少ない有力候補のひとつだと思います」。
はこだて未来大学
 
公立はこだて未来大学は、2000年に開学した新しい大学。システム情報科学部一学部からなり、情報技術に根差した人材を育成、異なる領域をまたぐ学問、大学院レベルの高度のトピックスの先取りなど、特色あるカリキュラムが用意されている。複雑系科学科、情報アーキテクチャ学科があり、両学科に共通するコースとしてコミュニケーション科目群が置かれているが、学科名だけを見ても個性的。高い吹き抜けの5層の空間が広がり、全面ガラス壁の向こうに函館の街並みが広がるキャンパスのアーキテクトも話題となった。中島秀之学長は、松原氏の大学の先輩であり、電総研の先輩でもある。
精神医学、哲学
 
「中学時代は、フロイトに夢中になり、高校時代、大学時代には、デカルトやカントなどの哲学書を読みふけった。鉄腕アトムを作るための研究に精神医学や哲学は違和感があるかもしれないが、そもそも人間と同じ形をし、同じ心を持ったアトムを作るには、人間そのものを知らなければならない。人間型ロボットを作るということは、そのモデルとなる人間を研究することそのものでもある」。背景にあるのは、人間への尽きぬ興味。それが松原氏の思いだった。
ロボットにサッカーをさせるという「ロボカップ」世界大会といえば、今や参加者2000人、参加チーム数はジュニアも合わせると、300とも400とも言われる数になる、世界最大規模のロボットイベントである。この「ロボカップ」の立ち上げ時のメンバーの一人で、大会の日本委員長を務めているのが、松原氏だ。90年代前半、アメリカの人工知能研究は世界から大きな注目を浴びていた。コンピュータがチェスで人間に勝利する瞬間が、間近に迫っていたからだ(実現は97年)。アメリカで学び、実績を上げた北野宏明氏(ERATO北野共生システムプロジェクト総括責任者)らは、チェスの次の世界標準を日本発で作りたいと考えていた。そこで北野氏や松原氏ら4人が中心となって、「グランドチャレンジ」と呼ばれた次の目標を討議した。こうした議論から生まれたのが、ロボットでサッカーを行う「ロボカップ」だった。第一回は97年に開催された。
 
将棋を、遺伝学におけるハエにしよう
 一部の人は共鳴してくれていましたが、当初は「ロボットでサッカーなんて、何バカなこと言ってるんだ」という声がほとんどだったんですよ。電総研に所属しながら準備を進めた僕は、当時から実行委員長でしたが、ここまで盛り上がるとは夢にも思いませんでした。ただ、サッカーというのは世界ではメジャースポーツですし、人工知能研究の例題としては非常にいい、と外国から注目されるようになって。今や中・高校生の教育にもなると、国内では自治体の協力も盛んになってきています。

 今でこそ、センタリングしたり、フェイントをかけたり、意図的に空きスペースを作ってそこに飛び込んでくる味方にパスを出すといった連係プレーが見られるようになりましたが、正直なところ、当初は動いてくれるはずのロボットが動いてくれなかったりと大変なことの連続で(笑)。実は北野チームなど、ロボットを参加するところに何ができるかを聞いてルールを作ったり、コートの大きさを決めたりしてたんです(笑)。しばらくは、それこそいろんな開発者が手弁当で手伝ってくれて今があるんです。

 人工知能、ましてやゲームの研究なんて、と言われた時代を考えると、今では堂々と大学の研究室でサッカーやゲームが研究されていますから、それが何よりうれしいですね。電総研では、推論をテーマにしていましたから、サッカーも含めて、ゲームを研究するラボを作りました。ここで将棋や囲碁、コントラクト・ブリッジなどの研究を業務で行うようになっていくんです。もともと将棋は高校時代に将棋雑誌を買っていた時期もあったほど。チェスの研究が終わって、チェスよりも難しいゲームをやりたくて、真っ先に浮かんでいました。ただ、ゲームとしてはチェスに似ていたので、「グランドチャレンジ」ではなく、自分のチームでの研究にしようと考えたわけです。

 僕は将棋を、遺伝学におけるハエにしようと思っていました。遺伝学はハエを題材にずいぶん進んだんですね。チェスでコンピュータが勝つ過程にもたくさんの手法が学べたわけですが、将棋はチェスと同じ手法では勝てません。取った駒が使えるなど、もっともっと複雑なゲームですから。その研究過程で、またたくさんの手法が学べる。多くの研究成果を世の中に送り出せると思ったんです。
なぜ将棋が鉄腕アトムの開発につながるのか
 最初は、将棋のプロがどう考えるのか、というところから研究を始めました。将棋盤を見ながら、どう考え、どう記憶し、どう決断していくのか。アイカメラなどを付けてもらったこともある。それをプログラム作りのヒントにしていくわけです。

 もちろん、プロの棋士について分析する必要があります。ならば、タイトル戦も見なければいけないと、たくさんのタイトル戦を見られたのは、公私両面でうれしい話でしたね(笑)。ただ、多くの場合、温泉地などでの泊まりがけ。申請すると「何しに行くんだ」と言われて(笑)。近くにビジネスホテルなどはありませんから、ほとんどの場合で宿泊の予算をオーバーして自腹を切ったりして。今でこそ、たくさんのプロ棋士の方に人脈ができましたが、当時は面識のある人はいませんでした。ましてや人工知能で、将棋の名人を打ち負かそうと考えている研究者ですから、周りの方々もどう扱っていいかわからなかったと思います。

 ところが、羽生善治さんもそうですが、たくさんの棋士の方々がとても温かく迎えてくださって。若い方々は、物心ついたころからコンピュータがありましたし、チェスのことも知っていますから、関心もあったんだと思います。たくさんの協力をいただけて。もちろん反発の声がなかったわけではありません。ファンからネット上で非難をされていたという話を聞いたこともありました。

 でも、最初のころは、将棋の相手としては、もうボロボロだったんです。チェスはコンピュータの力任せで、指せる手を全部読んで勝ったんですね。持ち駒はありませんから、平均35通りくらい。なので、スーパーコンピュータを使えば、十数手先まで読める。ところが将棋は平均でも80通り、終盤になると100、200通りにもなる。とても全部は読めない。そこで、見込みの手を考えることが必要になる。羽生さんに聞くと、パッと見たとき、3手から5手くらいが直感的に思い浮かぶといいます。となると、コンピュータはまずは20〜30の手を読み、そこから上位を選ぶ必要が出てきます。この上位だけを読む精度が問われてくるんです。そして、この精度を上げ、正解の確率を高める取り組みをずっと進めてきたわけです。そして、プロに勝てる可能性が出てきた。私は、あと数年で勝てると見ています。

 鉄腕アトムを作ると言っているのに、どうして将棋なのか、とよく問われます。アトムって、将棋も強かったんでしたっけ、と(笑)。将棋は、直感の研究なんです。羽生さんにも聞きましたが、結局、直感で指しているんですね。これこそまさに、創造性などと並んで、コンピュータの苦手なもののひとつ。人間は直感で本質をパッとつかむことができる。僕はアトムにこれをやってほしいんです。

 もっというと、世の中を生きていくにはもっと難しい問題がたくさんあるわけです。人間関係をどう作るか。どれを買えばいいか、どう判断するか。これは、直感の方法が解明できていない限り、前には進めない。だから、将棋の研究の意義があるんです。
現状に悲観して、将来に楽観している
 実は将棋はある程度、見えてきたので、あとは任せようと思っています。今、まだボロボロの状態にあるのは、囲碁。ちょうど、10年前、20年前くらいの将棋のようです。でも、ここから前に進めていくのが、いちばん面白いところだと僕は思っているんですけどね(笑)。

 理系の人は、わかっちゃったつもりになりがちなところがある。僕がずっと心がけてきたのは、わかったつもりにならないことでした。いつもわからないと思っている。言葉を換えると、現状に悲観して、将来に楽観しています。事前の自己採点よりも、現実の点数が低かったことはまずないんです。すべてのことは悪いほうに起こると前提として考えている。ところが結果は、予想よりよかったりする。すべてよくなくても、ひとつでもよいものが出たりする。これで、ラッキーだった、よかったとアドレナリンが出せる。

 この逆だと、つらくなりますね。全部、自分のいいようになると思っている。でも、そんなことはあり得ないのが世の中です。それで、1個だけでも思いどおりにいかなくなると落ち込む。ショックを受け、くよくよしてしまう。1個を除いて、ほかはすべてうまくいっているのに、それを忘れてしまう。もしかすると僕のやり方は、究極のポジティブシンキングかもしれない。もちろん、最悪の状態を予想しているわけですから、準備には懸命になります。

 人工知能というのは、なかなか手強い相手です。いつもうまくいかないことを研究しているのが、人工知能だという言い方もある(笑)。しかも、人工知能研究が進み、研究がうまくいって画一的にできるようになると、すべて人工知能研究から出て行ってしまった。つまり、人工知能は、難しいことだけが残っていくんです。考えたことのほとんどはうまくいかないんですが、100個あるうちの1個見つかると幸せになれる。そんな分野です。

 それこそ深く知れば知るほど、その難しさが見えてくる。100m競争を始めたつもりだったのに、10m行ったらゴールが500m先になったとわかり、100mまで行くと1km先だとわかったり。ずっとゴールが離れていくんですね。よく言われるのは、月に行きたいといって、木の上に登って月の上に近づいたと言っているのが、人工知能の研究者だ、と(笑)。

 そんな状況で、普通は失敗ばかりするとメゲるんですが、そういうこともないんですよね。むしろ、それが当たり前だと思っています。失敗もするし、わからないからこそ面白いんです。技術というのは、そういうものです。わかってしまったら、もうやれることはないじゃないですか。もしかすると、いつも難しいことをやっていたい、という自己満足の部類に入るのかもしれませんけど。

 僕が生きている間は、鉄腕アトムはできないでしょう。でも、それでいいんです。作りたいという気持ちが次の世代に伝わり、少しでも前に進んでくれればいい。そのための場所が作れればいい。僕はそう思っているんです。
ロボカップ
 
サッカーのゲームを人工知能研究のツールにすることには、反発もあったらしい。「ゲームなんて不謹慎だ、とか。やるなら福祉や、災害救助から始めるべきだ、とか。たしかにサッカーでは予算が取りにくいというのは想像がつきますが、何より大事なことは研究を前に進めること。実際、サッカーの研究成果が、今や災害救助などの研究にも役立ってきているんです」。ロボカップは95年に構想がスタートし、97年に第一回大会が名古屋で開催された。最初は、人工知能の国際会議の付属イベントのようなものだったが、99年にはNPO組織にもなっている。松原氏は、NPOロボカップ日本委員会会長でもある。
羽生さん
 
コンピュータに将棋をさせて、プロの棋士に勝つ。そんな目標を据えてから、多くの棋士とコミュニケーションを交わしてきた。羽生善治さんには、さまざまなイベントにも協力してもらったという。「羽生さんのような棋士に勝つプログラムができれば、コンピュータも知能をもった、とある意味言えるのではないかと思ったんです」。そもそもゲームを人工知能研究のテーマとして選んだのは、はっきりとした理由がある。ルールが明確で、勝ち負けがはっきりしていること。「しかもチェスよりも、はるかに複雑。コンピュータに将棋をさせる過程で学べたことは本当にたくさんあります」。さて本当に、コンピュータは名人に勝てるのか。今後が楽しみである。
囲碁
 
はこだて未来大学の研究室では、倉庫番、囲碁、ブリッジ、詰め将棋などの研究を進めている。コンピュータ将棋が人間に勝つ可能性が見えてきた今、松原氏の関心が向かっているのが囲碁。盤上でどこに打ってもいい囲碁は、将棋以上に複雑なゲーム。「今は本当にボロボロ。まだまったく未知数で、難しいからこそ、面白いんです」。鉄腕アトムの原作では、アトムは2003年に誕生している。だが、人間の心をもったロボットを作るプロジェクトは、現実には完成はかなり先になるだろう。「人間型ロボットには、プラスの側面ばかりではない。負の問題も間違いなくある。だからこそ、来るべき時代に向けて、早くから問題点を合わせて議論し、考え、行動していくことが必要だと思っています」。
profile
松原仁
はこだて未来大学 システム情報科学部
情報アーキテクチャ学科 教授

1959年、東京都生まれ。81年、東京大学理学部情報科学科卒。86年、同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。工学博士。86年、通産省工技院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2000年、公立はこだて未来大学教授、現在に至る。専門は人工知能で、特にゲーム情報学、エンターテインメントコンピューティング、観光情報学などに関心を持つ。コンピュータ将棋協会理事。コンピュータ囲碁フォーラム副会長。NPOロボカップ日本委員会会長などを務める。著書に『将棋とコンピュータ』『鉄腕アトムは実現できるか』『コンピュータ将棋の進歩』『わくわくロボット教室』など。将棋はアマ5段。
http://www.fun.ac.jp/
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
新たな、そして未知の領域に挑むとき、何かしらの障害・困難が待ち受けているもの。そこには技術的な問題だけでなく、倫理的なことやそれまでの常識とされてきたことへの挑戦だったりもします。人工知能で人間と同じようにモノを考え、行動するロボットが、SF映画やマンガだけでなく、一般社会に共存する社会。自分が生きているうちにぜひ見てみたいですね。

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