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明日に向かってプログラめ!! vol.8/10 倉橋浩一@WebObjectsは、YS-11を心より愛す
旅客機の「YS-11」をご存じでしょうか。多くの人に惜しまれながら昨年9月30日に最終飛行を終えた、国産の双発プロペラ機です。その退役に涙したエンジニアも少なくないと思いますが、倉橋浩一さんもそのひとり。WebObjectsの第一人者が、YS-11への熱い思いを、YS-11の前で語りました。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/関本陽介)作成日:07.05.28
私は「生涯プログラマ」死ぬまでコードを書いていたい。
倉橋浩一さん
WebObjectsのセミナーにて。当時の体重は105kg!現在は73kgのスリム体形
WebObjectsのセミナーにて。
当時の体重は105kg!現在は73kgのスリム体形
テクニカル・ピットのホームページには、「WebObjects助っ人」の文字が
テクニカル・ピットのホームページには、
「WebObjects助っ人」の文字が
取材日は、所沢航空記念公園の「YS-11公開日」
YS-11のコックピットって、思ったより狭いんですね?
狭いだけじゃなく、エアコンの効きも悪かったようです。つまり、夏は猛暑で冬は極寒。パイロットの方がコートを着て操縦していたこともあるようですよ。もちろん、客室は別ですけど(笑)。
機体も近くで見ると割と小さいんですが、やっぱり双発のプロペラには味がありますねぇ。ただ、そのためか、飛行中はかなり揺れたようですね。
その揺れがいいんですよ。私は飛行機で眠れたことがなかったのですが、YS-11に乗ったらコトンと寝てしまいました。バスや電車に揺られていると、なぜだか眠たくなるでしょ。あの不思議な安心感なんです。だからいつも爆睡していたのですが、ファンとしては良し悪しだったかも。
そもそも、どうしてYS-11に惹かれたんですか?
昔、カミさんと一緒に「マイレージ修行僧」をしていましてね。マイレージをためて特別会員になる計画なんですが、その条件が1年に3万マイル以上かつ50回以上か、5万マイル以上、だったかな。最初は2日で沖縄3往復とかで「距離」を稼いでいたんですが、途中から「回数」に切り換えまして、羽田・大島間を飛んだりしていたわけです。そんなときにYS-11に出合いました。
ちょ、ちょっと待ってくださいよ。マイルを稼ぐためだけに、2日間で羽田・沖縄を3往復?
羽田から沖縄に行くでしょ、帰るでしょ、同じ日にもう一度行って現地に泊まるんです。翌日に羽田に戻って、さらにもう1往復。沖縄ソバを食べたりして、いいものですよ。羽田・大島なら1日で2往復できますし。
YS-11の話題から外れますが、お金がもったいなくないですか?
年に50万円ほどかかりましたが、会員になると、ビジネスクラスでアメリカに2往復できるんです。十分に元は取れますよ。WWDC(後述)などでときどきアメリカに行きますが、私はすべてマイレージですし、最初の2回以外はビジネスクラスです。
なるほど〜。では、YS-11のほかの魅力について聞かせてください。
乗って好き、そして音も好き。離陸滑走のとき、普通の旅客機なら「シュー」というジェット音がしますけど、YS-11は「ゴー」というプロペラ音なんです。腹の底に響くような、感情を揺さぶるような低音が、全身を満たしてくれる。思い出すだけで涙が出そうになります。運航がなくなったのは仕方がないにせよ、あのエンジン音が体感できるボディソニックなどを作ってほしいものです。
YS-11は昨年の9月30日でその役目を終えました。お聞きするのはつらいのですが、どのようなお気持ちでしょうか。
喪失感です。100回以上乗っていますし、写真を見れば思い出にもひたれますが、今でも夢に見るほどです。朝目覚めると、目尻のあたりが濡れていることもあるんです。ほかの飛行機ではダメなんです。
WebObjectsを必死で勉強して円形脱毛症に!
倉橋さんはWebObjectsの日本での第一人者と思いますが、Apple社のWebアプリケーションサーバ環境であるWebObjectsとの出合いを聞かせてください。
1990年の初めごろかな、付き合いたいと思っていた女の子がいましてね(←今の奥様です)。その子がMacユーザーだったので、付き合うキッカケになればとPowerBook100というノートPCを買ったんです。Windowsが3.1の時代でしたから、その細かなユーザビリティやドット単位の動きに感動して、「こんな世界があるのか」とびっくりしました。
こうしてMacユーザーになったら、Apple Computer(現Apple)がNeXTを買収して、NeXTのWebObjectsがAppleに移管されました。試しに使ってみたら「スゲェ!」と思って、1日18時間くらい勉強して覚えました。当時はコミュニティなんてなかったから、2000ページの英文ドキュメントに取り組んで、やりすぎて円形脱毛症になりました(←今はありません)。
WebObjectsのどこが「スゲェ!」と思ったんですか?
何より生産性が高くて、プログラミングに集中できることですね。オープンソースのツールはいろいろありますが、WebObjectsの足元にも及ばないと思っています。すべてGUIでできてしまうし、ソースの上にテンプレートをはき出す、IDE上で書いていてもGUIに反映される、SQLを全く意識しなくてもいいなど、いいことずくめですよ。
その割には普及していないと思うのですが、どうしてでしょう?
う〜ん。いちばんの理由は、将来的なロードマップが見えてこないことでしょうか。そういう意味では安定感がないので、人材が豊富な大手企業ならともかく、中小企業でWebObjectsのみの開発手法を取るのは難しいかもしれませんね。
倉橋さんは、日本で最初にWebObjectsの解説本を書かれていますよね?
以前にAppleの開発者会議(WWDC:World Wide Developers Conference)がサンノゼであって、出かけたら、隣の人とWebObjectsの話で盛り上がったんです。その人がAppleのWebObjectsの担当者で、帰国してから本を書いてくれと頼まれたのがきっかけです。
現在のWWDCで、セッション参加者の1割くらいがWebObjectsの関係者でしょうか。また日本では、月1回のミーティングを行うなどの活動をしています。今までは私がWebObjectsの広告塔的な存在だったかもしれませんが、後継者も育っていますし、そろそろ年だし(笑)、好きなことをしようかなと思っています。
プログラミングとは、不器用な人でもできるモノづくり
その好きなこととは何ですか?
プログラミングですね。私は「生涯プログラマ」ですから、死ぬまでコードを書いていたいんです。でもこれは、仕事中毒のお父さんとは違いますよ。プログラミングは趣味でもありますから、和食の料理人が日曜日に家でカレーをつくるようなものかな(笑)。
何か、好きな言語はありますか?
もともとは8080のハンドアセンブラから入って、アセンブラ、BASIC、C、C++、Smalltalk、Javaときましたが、C++が大好きです。アセンブラ出身なこともあってか、Javaは純粋なオブジェクト指向のための制約が多いと思うんです。そこを何とかしてくれればいいんですが……。
仕事に趣味にとプログラミングのご経験が長いと思いますが、どんなところに面白さを感じますか?
私の仕事は受注開発が多いのですが、お客さんの要求というのは例外だらけで、矛盾の個条書きなんですよ。ソフト開発とは、その例外や矛盾を一つひとつつぶして、秩序をもたせて、ひとつの世界をつくっていく作業だと思うんです。そんなところに魅力を感じますし、父がとび職だったこともあって、モノづくり自体がとても好きなんです。私は不器用なので実際に何かをつくるのは得意でないのですが、プログラミングって、不器用な人間でもできるモノづくりですから。
お仕事は100%WebObjectsでの開発とお聞きしましたが、どんな内容のものが多いんですか?
会計や販売などのビジネスアプリが多いのですが、最近はPDFを生成するような仕事が増えてきました。そうそう、先日は制御系の案件もありました。ゴリゴリつくったプログラムでモノが動くなんて、こんなに楽しいことはありませんよ。
いつも最後に将来の夢をお聞きしているのですが、「死ぬまでプログラマ」という答えをもらってしまいました(笑)。ほかには何かありますか?
2年前から自転車にハマっていまして、今では月に1000kmくらい走っています。おかげで105kgあった体重が73kgまで落ちました。今日も自宅からここ(所沢航空記念公園)まで自転車で来て(と、時計を見る)、19.1kmを54分で走ってますね。いえ、何が言いたいかというと、プログラマって不健康な人が多いでしょ。だから、皆さん、自転車で健康になりましょうよ!
倉橋さんが2000円で購入したYS-11の貨物室の床げた。(劣化を恐れて開けてくれませんでした)
倉橋さんが2000円で購入したYS-11の貨物室の床げた。
(劣化を恐れて開けてくれませんでした)
倉橋浩一さん 倉橋浩一さん(45歳)
1961年生まれ。コンピュータ系の専門学校在学中に受託ソフト開発の会社を起業し、そのまま現在に至る。1988年に有限会社テクニカル・ピットを設立。主業務はWebObjectsによる受託開発で、基本的には倉橋さんがひとりで担当する。案件はビジネスアプリケーションや制御系ソフトの開発などと幅広く、ほかにもコンサルティングやセミナーなどを行う。
社名の由来は「レース場のピットのように、困ったことが起きたらここで修理して送り出す」という意味から。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
埼玉県にある西武新宿線の航空公園駅。改札を出た目の前にYS-11が置かれています。たまの公開日には機体の中を見学できるのですが、当然というか、取材はその日にお願いしました。そして、上の写真にある2000円也の貨物室の床げたは、奥さまがわざわざ運んでくださいました(本人は自転車ですから……)。ありがとうございました!

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