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企業の新たなグローバル展開、オフショア開発の定着など、ITエンジニアが海外と関わる仕事が拡大している。そこで、実際に海外と関わるITエンジニア200人の生声・取材を通して、技術力、語学力をはじめとした必要なスキル、醍醐味などを紹介する。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也)作成日:07.05.23
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かつて海外と関わるITエンジニアの仕事と言えば、外資系ベンダーなどで働くエンジニアが、本国のエンジニアと関わることぐらいだった。輸出や海外生産などをいち早く展開してきた自動車や家電など他の製造業に比べ、エンジニアが海外と日常で関わる機会が少ない業界だったと言えるかも知れない。だが、現在ではどうだろうか。約1600人のエンジニアから回答が寄せられたアンケートによれば、海外と関わる仕事をしていると応えたITエンジニアの比率は24%にもおよんでいる。実に4人に1人弱が、海外と関わっているのだ。 次に、海外と関わる仕事をしていると応えてくれたITエンジニアの中から200名をピックアップしてその仕事内容を調べたところ、依然として海外の開発スタッフとのやりとりをしているという例の多いようだ。また、オフショア開発に関連する業務を担っているエンジニアも多く、ソフトウェアの海外委託開発が一過性のブームではなく、定着したスタイルとなったことを示している。 その一方で、海外拠点を含む社内システム統合といった新しいスタイルもいくつか見られた。オフショアに関してもプログラム製造だけではなく、サーバの保守・運用といった案件に加え、さらに下請けというイメージを覆す、グローバルなソリューション・プロジェクトの一環としてオフショア開発を活用しているという例もあった。少なくとも海外と関わるITエンジニアの仕事は量も内容も拡大しているようだ。 海外出張や海外赴任をしなくても、国内企業で日本にいながらにして海外と関わっていると答えてくれたITエンジニアが一定数いたことも、新しい傾向と言えるのかも知れない。 海外と関わる仕事ともなれば、気になるのは語学力。特に英語力だろう。まずはどのようなシーンで英語が必要なのかを調べたところ、興味深い傾向が見えた。海外と関わる仕事をするITエンジニアの80%以上から回答があったのは、文章読解とメール交換。つまり英語による読み・書きの仕事である。聞く・話すが主となるプレゼンテーションや交渉といった実務は、それぞれ30%前後とそれほど高くない。コミュニケーションの多くは読み・書きによって行われているのである。 では、その英語力はどれほどのものなのだろうか。TOIECの点数分布を見てみると、900点台から200点台まで広範囲に広がっている。平均点の652点は日常会話に困らないレベル。200点台でも仕事になるのだろうかという疑問が起る一方、900点を超える準ネイティブとも言えるエンジニアも少なくない。ただ、ここで見逃せないのは、900点台のエンジニアであっても国民性や商習慣の違いに頭を悩ませているという回答が複数あったことだ。多くのエンジニアは、言葉の壁と文化の壁に苦労しているのである。 その反面、海外と関わる仕事はやりがいも大きいようだ。言葉や文化の壁を乗り越えて得た仕事上の達成感を、多くのITエンジニアが挙げている。ワールドワイドなスケール感にやりがいを見つけているITエンジニアも少なくない。総じて高いハードルではあるが、それを乗り越えた時の満足度が高い仕事と言えるだろう。 |
このパートでは、実際に海外と関わっているITエンジニアにインタビューし、その仕事の様子や海外と関わるからこそのやりがい、苦労、エピソードなどを聞いてみた。
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インフォシス テクノロジーズ 鈴木 健氏(31) インフォシス テクノロジーズは、グローバルにオフショア事業を展開するインド企業である。今やインドは中国と肩を並べる「世界の工場」だが、ソフトウェア製造に関しても世界中に顧客を持つオフショア開発の本場だ。同社はその中でも全世界に66,000人を超える社員を擁す最大級の企業であり、多くの著名企業をクライアントに抱えている。
ただし、同社は基本設計以降の下流工程だけを担う企業ではない。同社でコンサルタントとして活躍する鈴木氏は次のように語る。
インドへは顧客の視察や開発状況の確認などで出張機会も多い。入社当初に8ヶ月の導入研修をインドで行った。その時にオフショアメンバーとして入って得た開発ノウハウと経験は、今の仕事に大きく生かされていると語る。
少し前までは日本のSIerのプロジェクトリーダーが中国やインドに海外出張し、現地のプログラマに開発上の指示を出すというスタイルが多かったが、最近ではインドのプロジェクトリーダーが日本にやってきて指示を受けるというインフォシスのスタイルが主流のようだ。これによって、日本国内のエンジニアを、より上流工程に配置できるというメリットが生まれる。コスト面や技術面はさておき、もう国内のソフト開発会社に発注するケースと仕事の進め方は変わりがないのだろうか。この疑問に、鈴木氏は次のように答えた。 「オフショアの意義は、コスト面ではもうあまりありません。少なくとも当社では。世界中の顧客から高い率でリピートをいただけているのは、当社のソフトウェア開発に関する技術力と品質なのです。日本の顧客においても同様です。確かに現地のエンジニアたちのスキルは高水準ですよ。設備やトレーニング環境の素晴らしさにも目を見張るものがあります。でも、当社のインドにある開発センターにいくら高度な開発技術があっても、それだけで顧客に満足いただける品質を保証することはできません。重要なのは日本にいる私たちのような上流工程を担うコンサルタントの存在。日本独自のニーズ、顧客業務、ITに求める期待、開発手順等をきちんと踏襲した上で顧客と開発陣を齟齬なく結びつけるこのポジションが、最終的な品質を担保するのです。最先端のオフショア開発が生んだ、新しいITエンジニアの上級キャリア職と言えるでしょう」。 |
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コーポレート・マーケティング本部 今川 克己氏 横河電機は言わずとしれた日本を代表する制御機器・計測機器メーカー。同社では、長期経営構想の中で位置づけられた構造改革フェーズに続く成長フェーズが2006年度からスタートした。第2のマイルストーンとして数々の経営指標が設定されたが、その全社構想を実現する中の1つの基盤となるグローバルネットワークの構築を、情報システムセンターを中心として推進しているという。情報システムセンター長の今川氏はこのミッションの重要性を次のように解説してくれた。 「横河電機は、経営計画、生産計画、資材・部品調達、製造、販売、エンジニアリング、サービスに至る企業活動全般の流れを同期させるリアルタイム経営を、“One Global YOKOGAWA”のコンセプトに基づき、全世界レベルで推進しています。それを可能にするのが、グローバルにシームレスな情報インフラの確立です。業務効率を大幅に高めるために、拠点間、部門間のアプリケーションや情報共有を実現するネットワーク情報基盤の再構築を進めているのです。国内においてこのネットワーク構築はほぼ完了しました。そしていよいよ、昨年からスタートした長期経営構想における第2のマイルストーンに向けた重要施策の一環として、2010年のゴールに向けて世界33カ国・85拠点を結ぶ情報基盤(ネットワーク、IT環境)の再構築に乗り出したのです」。 コーポレート・マーケティング本部 椎野 彰朗氏
世界中の85拠点をネットワーキングするという壮大なプロジェクトだけに、そのやりがいの大きさは容易に想像できる。だが、このミッションにはそのスケール以上の意味があると、今川氏の下で実際に構築業務を進める椎野氏は言う。 |
株式会社リクルートエージェント
最後に、現時点の転職市場における『海外と関わる仕事』の人材ニーズについて、リクルートエージェントに聞いてみた。答えてくれたのはキャリアアドバイザーとしてコンサルティングファームを担当する石田氏である。
実際に海外業務の人材ニーズは高いようだ。では、どんなスキルを持った人材が求められているのか。そして海外と関わる仕事と言えば気になる、英語力はどれくらい必要なのだろうか。石田氏は続ける。 ここまで200人へのアンケート、実際に海外と関わる仕事に従事しているケース、そして人材市場の動向を見てきたのだが、見えてきたのは「ITエンジニアにとって海外と関わる仕事は、決して他人事ではない」ということである。そして、その役割やミッション、海外との関わり方もさまざまのようだ。ITエンジニアとして世界を意識した仕事に就きたいと考えている方にとっては、自分にあった仕事スタイルを選べることからも、今こそ転身のチャンスと言えるのではないだろうか。そこで、最後に海外と関わる仕事のやりがいとキャリア形成上のメリットをまとめてみた。 |
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