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化学エンジニアも刺激的な環境を求めて動き出した ぬるま湯状態に見切りをつけ大手に転職したH.Aさん
ITや機械・電気出身に比べ、推薦で新卒入社するエンジニアが多いせいか、転職市場では少数派だった化学系エンジニア。しかし近年はキャリアアップを求めた転職が増えてきた。H.Aさんもその一人。彼が転職で得たものと失ったものは……。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:07.05.21
化学系のエンジニアは、ほかの技術領域に比べて大学における専攻が重要視される傾向にある。大手メーカーでは、大学院修了の採用を重要視していることも多い。それゆえ、いまだに学校推薦や教授推薦の新卒入社が多いと聞く。必然的に学閥ができやすく、安定した研究・開発環境が築ける半面、人材流動の活性化による新しい技術の導入や実力を発揮しやすい環境づくりという面ではデメリットも少なくない。
H.Aさんも学校推薦で、中堅合成樹脂メーカーに新卒入社した。彼の出身大学は社内の本流で、学閥に組み込まれたそうだ。それなのにH.Aさんは4年目に転職という選択を選んだ。理由は本編を見ていただきたいが、化学エンジニアのキャリアアップの例として、同分野のエンジニアが参考にできる場面は多いだろう。
Profile 大手電機系部品メーカー チームリーダー H.Aさん(29歳)
大学工学部卒業後、中堅合成樹脂メーカーに学校推薦で就職。化学エンジニアとしてのビジョンに疑問を感じ、4年目に大手電機直系の部品メーカーに転職。現在、チームリーダーを務める。
転職前
(熱硬化樹脂の開発・27歳)
転職後
(精密部品の量産技術担当・29歳)
年収500万円 給与 年収500万円
8時間〜9時間
年間休日107日前後
勤務時間 12時間〜15時間
年間休日125日
工場内のR&D部門。100人規模の会社 職場環境 生産工場に隣接した生産技術部門。著名メーカー直系だけに、子会社でも3000人規模
学閥に組み込まれ、年功序列であり、のんびりとした人間関係 職場の
人間関係
実力主義の競争風土ゆえ、年齢や社歴に関係なく、オープンに話し合える人間関係を築いている
今回の注目!
熱硬化樹脂の開発 仕事の中身 親会社の主力製品の主要部品を、高速大量かつ高品質・低コストに製造していくための技術開発
上司から言われたとおりに開発スケジュールをこなしていく 仕事の
進め方
チームリーダーとして、自ら技術改良や課題解決の方針を決め、メンバーに指示を出しながら実行
ひとつの製品改良に集中。材料研究や試作・実験を通して、目標どおりの特性が出ることを目指す 仕事の役割 上から常に生産効率のアップや装置の小型化、コストダウン、生産品の耐久性向上など、多くの指標が下りてくる。それをクリアしつつメンバーへの指示や教育をこなしていく。
転職前編 学閥に組み込まれたものの、見えてきた将来に魅力がなかった。
地方にある国立大学の工学部で高分子化学を専攻した。母校は産業界から基礎技術が高いと言われているだけあって、就職には困らなかった。労せず学校推薦で中堅化学メーカーの開発職に収まったのだ。100人くらいの小規模の会社ながら技術力が評価されていて、経営も安定している企業である。推薦枠に応募した理由はもうひとつあった。母校の先輩がたくさん活躍していると聞いたからだった。

実際に入社してみると、評判や事前情報にうそ偽りはなかった。実際に開発製品である熱硬化樹脂の市場での評判は高く、その開発も面白かった。ただ、想像以上だったのは、研究開発部門で勤務している母校の先輩の数の多さである。人数だけではない、主要ポストは母校出身者で占められていた。いわゆる学閥が存在していたのである。もちろん、この学閥に自分も組み込まれるのだろう。この先、技術力や勤務評価に関係なく自動的に昇進するはずだ。他校出身者から見れば恵まれていると映ったに違いない。
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だが、自分としてはこの学閥とやらにうれしさは感じなかった。あらかじめ決まった役割やポスト、年功序列でそれが移行していくだけ。到底、若いうちからどんどん仕事をさせてもらえるという風土ではない。つまり、会社のことを知れば知るほど学閥の弊害ばかりが目立ってきたのである。

樹脂の開発自体は面白さを感じていたが、先輩の言われたとおりに進める仕事には充実感や達成感を得られなかった。数年間も我慢すれば、いずれ自分も伸び伸びと開発ができるポストが与えられるだろう。他校出身者よりはかなりマシである。しかし、それまで待てなかった。刺激の少ない決まりきった未来にも魅力を感じなかった。化学エンジニアとしてツマラナイ人生を送りたくない。月日がたつにつれ、ますます転職したいと考えるようになった。
転職活動編 こんな大手メーカーに書類が通るなんて!!
最初に転職サイトにアクセスして、化学系エンジニアの募集状況をチェックした。けっこうな求人数があることを知った。自分はまだまだ若い。急に目の前が開けた気分になった。そして、そのサイトにリンクされていた人材紹介会社のバナーをクリックした。

首都圏に近いとはいえ、地方勤務の自分にとって、公募での応募活動は時間と金がかかるうえ、面倒くさい作業である。その一連の活動を無料で専門的にフォローしてくれて、面談のうえで最適な応募先を紹介してくれる人材紹介会社は、まさに強力な助っ人だった。すぐにアクセスしたのは言うまでもない。

転職アドバイザーとの最初の面談で自分のスキルチェックをしながら、応募する職種をウレタン樹脂や合成ゴムの開発職に絞った。そして、その後のアドバイザーからの提案に驚いた。著名タイヤメーカーや自動車メーカーに書類を出してみましょうと言うのである。そんな有名企業の書類審査が通るのだろうか……確かにタイヤはゴムが主原料だし、樹脂も使用される。自動車も樹脂製品の使用が少なくない。半信半疑ながら、「ぜひ!」と了解した。

数日後、某タイヤメーカーは通らなかったが、なんと自動車メーカーは通過したとのこと。急いで面接準備に取り掛かった。そして、さらに2社の応募をアドバイザーと相談して決めた。
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結局、件の自動車メーカーは二次面接で落ちたが、今も勤務する大手電機会社直系の部品製造のB社からは内定をもらうことができた。ウレタン樹脂製品を製造している企業だ。ただ、開発職ではなく、生産技術担当のエンジニアである。少々疑問もあったが、先方の期待度は高いらしい。年功序列などない実力主義で、個人の成果や成長をきちんと評価する人事考課方針だと聞いた。少なくとも今よりは納得できる環境だろう、そう考えて入社を決断した。
転職後編 機械と電気のスキルを吸収。開発職ではないがステップアップを実感。
B社に入社し目まぐるしい日々が過ぎた。生産技術職は素材開発に関連する化学のスキルだけをテリトリーとするわけにはいかない。製造装置は大型の機械であり、電気で動き電気で制御される。今までまったくタッチしなくてもよかった機械と電気のスキルが求められるのだ。もともと物理は苦手だったのだが、甘えたことは言っていられない。とにかく懸命に勉強した。装置を見て、触って、壊して、勉強を続けた。何年ぶりの猛勉強だろう。ここ数年、積極的にスキルを磨くことを怠っていたので、自分がエンジニアとして活性化していくのを強く感じられた。1カ月後には、この会社を選んで正解と思えるようになった。

1年半ほどたって機械や電気に関するスキルもひと通り身につき、業務の大部分を任されるようになっていた。本当に年功序列や学歴などまったく関係ない環境なのである。努力のかいがあって、スキルの高い先輩たちからも一目置かれるようになった。周囲は機械や電気出身のエンジニアばかりだから、化学や素材に関してよく質問をされるのである。自分が必要とされていることを感じる瞬間だ。さらにメンバーを指導監督する立場にも抜擢された。努力の結果による成果が認められて評価されるのは気持ちがいいものだ。
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今も上司を通して親会社のメーカーサイドから難度の高い課題解決要求が寄せられる。いかに効率よく、高品質の部品を大量かつ短時間・低コストで製造するか……このテーマには終わりがない。だからこそ、自分ももっともっとスキルを高められると思っている。
H.Aさんの転職考察 開発職から生産技術職にスキルチェンジして成功
転職して良かった点
・チャレンジしがいのある仕事と頑張った結果としての成果を認めてくれる環境を得た。
・化学だけではなく機械や電気のスキルを磨けた。自分の市場価値が高まったように思う。
・上司から期待され、同僚やメンバーから頼られることがモチベーションになっている。
・休日の日数が増えた。
転職して悪化した点
・生産技術は面白いが純開発職からは遠のいた。
・気楽で平坦な出世街道から一転、忙しく、プレッシャーの多い日々になった。
・残業がかなり増えた。
H.Aさんの転職は、開発職から生産技術職へのスキルチェンジである。モノづくりというキーワードで人気の開発職だが、彼は開発そのものの面白さよりも、日々の刺激的な業務や実力を正当に評価してくれる環境を優先したのである。恵まれながらも物足りない毎日を、転職を利用して抜け出したと言える。このように前向きで明快な理由をもった転職は成功を収めやすい。退職理由が純粋な向上心に根差していることから採用側の評価も高いからだ。人材紹介会社もクライアントに紹介しやすかったことだろう。
自分の中にあるエンジニアとしての向上心が環境変化を求めているなら、転職活動でそれをストレートにアピールしてはいかがだろう。
今回の転職ノウハウ
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