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最大のアウトプットと最小の工期・コストを実現する科学 モノある限り“生産管理技術者”の戦いは終わらない
景気回復をリードしている製造業の世界で今、生産管理技術者が脚光を浴びている。モノづくりのプロセス全体を俯瞰し、より良い製品を効率的に作る方法を考える、極めてクリエーティブ性の高い職種だが、エンジニアの理解は意外と低い。そこで今回は生産管理技術者にスポットを当て、仕事の醍醐味、やりがいについてレポートする。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関洋子)作成日:07.02.08
「生産管理=ただの管理部門」にあらず! エンジニアにも魅力的なキャリアパス
生産システムの改革者、生産管理技術者のニーズ増大
「生産管理技術者」――最近、中途採用市場において、同職種の募集が次第に増えてきている。生産管理技術者とは、文字どおり製品の生産を管理するエンジニアのこと。調達から出荷、メンテナンスまで生産システム全体に目を配り、いいモノをより効率的に作り出すための手立てを講じる、モノづくりのコアとなるポストだ。好景気が続く中、日本企業は生産力を増強するため、内外に生産拠点を増強している。それに伴って生産管理技術者の人材需要も増えているのだ。

 生産管理といえば、かつては管理部門に位置づけられることが多く、文系色が強いセクションだった。そのイメージから、今もエンジニアには、魅力のない仕事と映りがちである。が、調達や生産の最適化をはじめ、モノづくりのシステムが急速に高度化している今日においては、単なるスケジュールや受発注の管理だけでは高質な生産管理はできない。設計、生産技術、品質管理など、エンジニアリングスキルが要求されるようになってきているのである。
要求されるスキルレベルが高いぶん、飛躍のチャンスも
「生産管理はこれまで、エンジニアの求人としてはあまりスポットが当たっていませんでしたが、求人全体が伸びている中、生産管理も間違いなくアップトレンドの職種となっています」
 転職エージェント大手、リクルートエージェントの業界担当者は最近の動向について語る。
「もちろん求められるスキルのレベルはそれなりに高い。まずはモノづくりのプロセスをしっかり理解していることが大前提ですが、それに加えて新しいシステムへの対応力や導入力、設備や工程の設計能力も求められます。また、海外の生産拠点やサプライヤーとのコミュニケーションのため、英語力もある程度必要です。甘い仕事ではない」

 決して簡単な仕事ではない生産管理だが、そのぶんキャリアパスとしての有望性もかなり高い。生産管理の経験者であれば将来の工場長、役員含みの採用が少なくなく、未経験者も生産管理部門でキャリアを積むことで、マネジメントポストに手が届きやすくなる。これまではあまり目立たないキャリアだった生産管理技術者。転職を希望するエンジニアはぜひ注目しておきたい職種だ。
モノづくりの神髄が見える生産管理のプロの仕事ぶり
 生産管理とひと口にいっても、その仕事は非常に幅広い。比較的近くにいるはずの設計、製造関連のエンジニアですらよく知らないというケースも少なくない。最大の理由は、生産管理技術者の仕事が定量的なものではないということだろう。モノだけでなく、人間の活動、場合によっては人の心や文化までを考慮に入れることも必要だという。本当にいいモノづくりとは何かという、難しい問いかけへの回答を求め続ける生産管理のプロに話を聞いた。
CASE1.半導体の製造管理
生産管理技術は全体最適を考えるという頭脳的な仕事
生産管理技術はとてもクリエーティブな仕事だと思います。工作機械の特性やラインの配置、さらに工場でモノづくりに従事している作業者の特性や行動パターンなど定量化の難しい要素をトータルに考え、部分最適にとどまらず全体最適の取れた生産システムづくりを目指すのは、極めて頭脳的な仕事。また、それらの成果から、生産管理はどうあるべきかという理論を構築していく。生産管理技術者は生産現場の人間であり、開発者であり、また研究者でもあるのです」
 システムLSI、マイコン、表示ドライバーなどを主力とする半導体ソリューション大手のNECエレクトロニクスで生産技術に長年従事し、現在はパッケージ商品の生産全般に携わる永田憲雅さんは、生産管理技術の面白さをこのように語る。
「半導体業界では今、ユーザーの求めるカスタムLSIやパッケージをどれだけ素早く供給できるかが競争力を大きく左右するポイントになっています。ウチは90年ころから、カスタム製品の短納期対応で世界一を達成するという目標を立て、生産管理技術を進化させてきました。短納期が利益を生むなどと、誰も考えなかった時代から蓄積してきた技術が、競争力の強化に役立っていると思います」(永田さん)
自動化が進んでもモノづくりの基本はやはり人間
 永田さんは1984年にNEC入社後、一貫して生産畑を歩んできた人物。中でも生産管理はモノづくりのコアテクノロジーであると考え、熱心に取り組んできたという。
 半導体チップはエンドユーザーから見れば単なる小さな黒い固体にしか見えないが、その製造にあたっては、主なモノだけで洗浄、拡散、スパッタ、露光、ドライエッチングなど複雑なプロセスを経る。さらに細分化すると、多いものでは実に700工程、製造期間は2カ月にも達する。そのような商品を多品種少量生産することが要求されるのだ。

「例えば露光工程ひとつとっても、すべての半導体が同じ工程をたどるわけではありません。微妙に工程が異なる製品があり、それらがいろんなタイミングでラインに入ってきて、何百回もぐるぐると加工工程をたどる。そのような複雑な生産工程を管理し、設備を有効に使えるよう、コンピュータで制御するのです。さらにやっかいなのはオペレーションを行う人間の管理。交代、休憩したり、一息ついたりと、そこには人間の活動がある。こうした生産活動は、実は単純な数字では到底表せません。机上の空論のデータではなく、生産や開発の現場を熟知して、生きたマネジメントをする必要があるのです」(永田さん)

 素早く生産するためには各工程での仕掛かりを減らして工程の流れをスムーズにする必要があるが、仕掛かり減で生産量自体が減っては意味がない。ヒト、モノのオペレーションの全体最適化を図るという難しい課題に挑むことは生産管理の主要任務のひとつであり、それを解き明かしていくことが生産管理技術者の喜びにもなる。
永田憲雅さん
NECエレクトロニクス
生産事業本部
実装技術事業部長
永田憲雅さん
大学ではプラズマのコンピュータシミュレーションを研究。NECに入社後、LSI製造の生産技術開発に従事。英スコットランド、米カリフォルニアの現地LSI生産工場に出向し、工場立ち上げなど生産技術を担当、また日本ではカスタムLSI生産ラインの構築なども手がけた。現在はLSIパッケージの生産を管掌。
複雑な工程管理が必要になる最先端のLSIパッケージ。多ピンフリップチップタイプのSiP(System In Package)
複雑な工程管理が必要になる最先端のLSIパッケージ。多ピンフリップチップタイプのSiP(System In Package)
永田さんが指揮するメンバーの仕事場風景。打ち合わせにより、全体最適な管理計画が作成される
永田さんが指揮するメンバーの仕事場風景。打ち合わせにより、全体最適な管理計画が作成される
永田さんの「生産管理技術者としての夢」
モノづくりの重要なファクターであるノウハウを科学へと昇華させたい
  現在、半導体製造を行ういわゆる前工程から、高密度実装などを行う後工程に移った永田さんだが、生産管理が重要な意味をもつことに変わりはない。永田さんは今後も、生産管理技術をさらに高めていきたいという。
「生産管理を考えるうえで重要なのは、製造装置や人間の実際の動きという数字で表せない部分をシステムに織り込むこと。しかし、この領域は、現場スタッフの経験と勘、ノウハウに頼っているのが現状です。というのもそれらは輪郭がハッキリしない、モヤッとしたものだからです。そのノウハウをもっと研究して、科学にしたい。20年以上前から取り組んでいることなのですが、今なおやるべきことは山ほどある。まだまだ先は長いですよ」(永田さん)
CASE2.中大型エンジンの生産管理
中大型エンジンを世界でスムーズに生産させる
 船舶、発電向け中大型エンジン、特車、ターボチャージャーなどを手がける三菱重工業汎用機・特車事業本部。神奈川・相模原にある広々とした工場の中、中大型エンジンの生産管理に携わっているのが生産管理部主任の世古洋一さんだ。
 世古さんは国内の航空機関連メーカーから三菱重工に転職してきた中途入社組。前の職場では入社当初は営業を担当し、その後工場での研修を機に生産管理に転じたという、一風変わった経歴の持ち主だ。
 現在、担当しているのは中大型エンジンの生産計画や工程管理。定格出力600〜2500kWという、自動車用や鉄道用エンジンに比べるとかなり大型のエンジンのノックダウン部品をシンガポール、オランダ、フランスの生産拠点に納入し、スムーズに生産されるようコントロールするのが主な仕事だ。
「中大型エンジンは中量産品といわれるもので、完全なワンオフ(一点もの)ではないものの、同じ製品を大量生産するのとは異なり、客先の要望にもある程度合わせる必要があります。生産管理の日常の仕事は、営業の受注情報に基づいた生産計画の立案を行い、技術部門から上がってきた設計情報を手配データに展開した上で、手配を行っていきます」(世古さん)
設計から協力工場の現場まで、何でも知ろうという意欲が大事
 一見、単純そうな仕事にも思えるが、実は非常に奥が深い。エンジンは1000点以上の部品で構成されているが、それらの部品をいかに効率よく生産につなげるかをコントロールするのは世古さんらの仕事である。
「例えば設計図の上では1個のパーツで表現されていても、実際に作るときには2つ以上の会社が絡むことも珍しくありません。生産計画を行う上では、材料がどこから調達され、それがどこで加工されているかということをよく把握していなければなりません。また、生産をスムーズに行うためには、設計、調達から生産、品質管理、さらには協力工場などの生産現場の実態まで、幅広く知っておく必要があります。そういうノウハウの積み重ねが、生産管理にはとても大切なんです。知識欲、好奇心が旺盛な人に向いていると思いますね」(世古さん)

 今どきの生産管理技術者は、技術的な知識をバックボーンにした生産のディレクターとしての能力が求められているのだ。
世古さんの「生産管理技術者としての夢」
世界の文化のいいところを採り入れた生産管理の実現を目指したい
  生産管理の難しさは、技術的な面ばかりではない。調整にあたっては、モノづくりに携わる人間の行動、さらには文化も考慮する必要があること。世古さんは世界の生産拠点と生きたコミュニケーションを取るため、しばしば現地に出向く。
 「一度、改善のために海外の工場に対して計画の変更を伝えたところ、文化や習慣の違いもあり、こちらの意図をうまく理解してもらえずに、反発を食らったこともありました」(世古さん)

 こうした軋轢が生じた際、“日本流”を押しつけるだけではうまくいかない。モノを作るのが人である以上、人間性をないがしろにしてはいい結果を生まないのは自明の理だ。世古さんは今、そうした世界における文化の違いを均質化するのではなく、お互いのいいところを採り入れた生産管理のあり方を模索しているという。
 「日本のモノづくりは現場力、柔軟性を強みとしていますが、海外にもそれぞれ良さがあります。海外と日本の考えをいい形でミックスさせて、より良い生産管理の方法を模索したい。これが当面の目標です」(世古さん)
世古洋一さん
三菱重工業
汎用機・特車事業本部
生産管理部 エンジン計画課
(中大型エンジン計画・工程管理チーム)
主任
世古洋一さん
大学では教育学部で社会学を専攻。航空機関連メーカーに入社後、営業を経て生産管理に転向。その後三菱重工に移籍し、エンジン計画課で海外拠点へのノックダウン部品供給などグローバルな生産管理に従事し現在に至る。
世古さんが管理する中大型エンジンの生産ラインの遠景(上)と実際にエンジンが組み立てられていく一場面(下)
世古さんが管理する中大型エンジンの生産ラインの遠景(上)と実際にエンジンが組み立てられていく一場面(下)
日々の仕事風景。手配データを見ながら、納期の調整などを行う
日々の仕事風景。手配データを見ながら、納期の調整などを行う
生産管理技術者は生涯現役を目指せる注目職種だ
スキル以上に重視されるシステム全体の俯瞰能力
 生産管理技術者というと、地味なイメージをもつエンジニアは多い。が、NECエレクトロニクス、三菱重工の二つの事例をみてもわかるように、実際には狭いセクションに閉じ込められることなく、モノづくりを入り口から出口まで常に俯瞰することができる魅力的な職種である。工程や設計などの部分最適にとどまらず、モノづくりの流れの全体最適化を図るというテーマは壮大で、挑戦する面白さは十分だろう。

  だからといって、敷居の非常に高い職種というわけではない。生産管理技術者に求められるスキルについては、永田さん、世古さんともに「絶対にこれを知っていなければダメというものはない」と口をそろえる。もちろん開発業務、調達、品質管理、ソフトウェア、制御など、生産に関係のある分野の知識があれば役に立つのは間違いないが、単に知識だけをもっているだけではダメで、システム全体を見渡して、どこをどう変えればどのような結果が得られるかといったことを俯瞰するクリエーター的な能力が求められる。
人材需要は今後も増大。中高年にも活躍の場が
 生産管理の現場では、技術への興味・関心が高い文系の人材も活躍していることからも、個別技術への造詣の深さ以上に、幅広い分野への興味・関心、また情報を取りまとめる能力が大切であることがわかる。
 この生産管理技術者、決して簡単な仕事ではないが、それだけにいったん仕事を覚えれば、年齢に関係なく一生の仕事にすることができるのも特徴だ。

企業が何かの生産を立ち上げるときには、生産管理技術者が必ず必要になります。これは日本だけでなく、世界どこでも同じことです。人材需要がなくなるということはあり得ません。また、中高年になってもいくらでも活躍の場があります」(リクルートエージェント業界担当者)
 ノウハウを身につければ、それこそ一生モノのスキルになり得るというのだ。生産管理技術者は、生涯現役を目指すエンジニアにとっても、注目の職種といえるのではないか。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ 関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
生産管理技術者にフォーカスした記事を作成しようと思ったきっかけは、重要な役割を担っているのにもかかわらず、なかなか注目を浴びることがない、そんな職種にスポットを当て、面白さを伝えたいと思ったことです。今回取材した2社の生産管理技術者の方々は、携わっている仕事の面白さ、大変さを生き生きと語ってくださいました。それが本記事で伝われば幸いです。これからも、これまでなかなか取り上げられてこなかった職種について、どんどん取り上げていきたいと思っています。「この職種について調べてほしい」という、皆さんからのリクエストもお待ちしております。

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