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エンジニア給与WAVE! Vol.61 都心vs地方の最大格差は2割!地域別年収差を徹底比較
転職市場でも以前から、「Uターンで地方に帰れば給料は安いのは当たり前」といわれてきた。だが、本当に格差はあるのか。あるとすれば、それはどれぐらいなのか。地域間格差の実態を、ビジネスパーソン1万5000人への給与調査からみてみよう。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也)作成日:06.11.01
関東を100としたとき、東海は96、関西は93、九州は78
 日本列島は縦に長い。地方色が豊かな国である。にもかかわらず、この100年来の中央集権的政策、とりわけ高度成長以降の東京一極集中の経済政策のおかげで、首都圏とそのほかの地域の経済格差は生まれ、その差は現代においても縮まっていないとされる。むしろ格差を押し広げようとするこの数年の経済政策のために、その格差は構造的に固定化されているという指摘もある。

 地域間での所得格差は、地理的な特性や地域の産業構造などによって所得に格差が生じることをいう。また、景気の動向が地域間で差があることも、格差を生じる要因の一つとされる。例えば、いまや戦後最長になろうとしている景気拡大の傾向も、その恩恵にあずかるのは、東京、大阪、名古屋などの大都市圏のみで、北海道・東北や四国、九州といった地域では回復が遅れ、地域間の所得格差は拡大しているという指摘もされている。

 はたして企業勤務者の場合はどうなのだろうか。全国に事業所を展開する大企業に勤務していれば、勤務地による給与差はわずかだが、地場の企業に勤めていると、上述の景気動向に左右される面が多少なりともあると思われる。さらに、産業集積の点で地域的偏差がある現状では、企業活動の活発な地域は給与も相対的に高く、そうでない地域は低い、ということが言えるのではないか。こうした仮説を前提にしながら、今回の調査結果を見ていくことにしよう。

 今回の調査では全国を「北海道・東北」「関東」「北信越」「東海」「関西」「中国・四国」「九州」の7ブロックに分けている。サンプル数は全体では1万5000件を超えるが、うち関東が半数を占め、関西、東海と続き、北海道・東北、北信越、中国・四国、九州は1000に満たないことをあらかじめお断りしておく。(※北海道・東北 963件、関東 7,803件、北信越 532件、東海 1,604件、関西 2,638件、中国・四国 801件、九州 869件)

 平均年収を地域別にみると、トップは関東の523万円。以下、関東を100とした場合のパーセンテージで順位を並べると、東海(96%)、関西(93%)、中国・四国(84%)、北信越(80%)、北海道・東北(79%)、九州(78%)と続く(パーセンテージが高いほどトップからの格差は小さい)。最も高い関東と最も低い九州との格差は113万円で、九州の平均年収はざっくり関東の2割弱ということがいえる。

 技術系の職種に限ってみると、「ソフトウェア・ネットワーク関連」「電気・電子・機械関連」がいずれも、関東がトップで、最下位は九州または北海道・東北という構造は変わらない。その最大格差は、76〜80%ほどになっている。「素材、食品、メディカル関係」のみ、トップは「北信越」の633万円となっているが、これは北信越の当職種のサンプル数が9件と極端に少ないための誤差が出ていると思われる。その場合も2位は東海の588万円で、技術系職種のなかでは唯一、関東がトップの座を譲り渡している。素材、食品、メディカルなどこの分野の企業集積が、北信越、東海地区に厚いということからも、ある程度はうなずける数字である。

 もちろんこうした平均年収格差が、そのまま生活の質の差と考えるのは早計だ。よく知られているように、住宅費や生鮮食料品などの基本生活物資にも地域間の物価差がある。給料が多少安くても、地方では、大都市圏よりも広い家に住めるなど、生活の質と平均年収の差は必ずしも一致しない。これは後述の年収満足度とも関係してくる話である。
DATA 1 トップは関東の523万円!地域別・職種別にみた平均年収格差
  ソフト・ネットワーク関連 電気・電子・機械関連 素材、食品、メディカル関連 クリエイティブ系 サービス、販売系 営業、事務、企画系 地域別平均
北海道・東北 427万円 466万円 482万円 320万円 327万円 390万円 413万円
10.0時間 10.1時間 10.3時間 9.5時間 9.4時間 10.4時間 9.9時間
関東 537万円 580万円 565万円 421万円 383万円 480万円 523万円
10.0時間 10.1時間 10.1時間 9.7時間 9.7時間 10.0時間 9.9時間
北信越 405万円 467万円 633万円 334万円 391万円 366万円 421万円
9.7時間 9.8時間 9.3時間 9.5時間 9.3時間 9.9時間 9.7時間
東海 510万円 557万円 588万円 348万円 361万円 437万円 503万円
9.9時間 10.1時間 9.7時間 9.6時間 9.7時間 10.0時間 9.9時間
関西 498万円 547万円 544万円 353万円 354万円 438万円 486万円
9.9時間 10.2時間 9.7時間 9.6時間 9.6時間 10.1時間 9.9時間
中国・四国 464万円 475万円 528万円 353万円 351万円 387万円 437万円
9.9時間 10.1時間 9.4時間 9.5時間 9.6時間 9.4時間 9.8時間
九州 422万円 489万円 479万円 324万円 304万円 364万円 410万円
10.0時間 10.1時間 10.0時間 9.3時間 9.7時間 10.1時間 9.9時間
職種別平均 510万円 546万円 553万円 390万円 361万円 441万円 493万円
9.9時間 10.1時間 10.0時間 9.6時間 9.6時間 10.0時間 9.9時間
※上段が平均年収、下段が一日の平均労働時間
※職種別に最高平均年収と、最低平均年収の欄を色づけ
年代を経るにつれて、地域間格差が広がる傾向
 地域格差を職種別・年代別に見てみたのが、DATA2だ。20代はほぼ企業の新卒初任給の差と比例しているものと考えることができる。それでも「ソフト・ネットワーク関連」が関東(最高):北信越(最低)で83%、「電気・電子・機械関連」でも関東:北海道・東北の間に84%という格差がある。全職種を平均した場合も、最低地域は最高地域の80%の年収という数字だ。

 これが30代になると、「ソフト・ネットワーク系」が関東:九州で75%、「ハード系」では関東:北海道・東北で80%と、最高と最低の格差はかなり開く傾向が見える(全職種平均では78%)。40代になっても「ソフト・ネットワーク」が関東:北信越で76%、「ハード」が同じく関東:北信越で75%となり、格差はけっして縮まることはない(全職種平均では78%)。

 20代の当初にあった平均年収の地域格差は、年代を経るごとに縮まるのではなく、むしろ開いていくという傾向をここでは指摘することができる。もちろん、これが永遠に固定的なものとは必ずしも断定できない。現在、大都市圏集中の産業分布が、地方に急速に拡散されていることや、またこれからの景気回復の地方への波及スピードが加速すれば、その構造は崩れていく可能性はある。
DATA 2 年代が上がると、年収格差も広がる!年代・地域別・職種別にみた平均年収格差
ソフト・ネットワーク関連
電気・電子・機械関連
素材、食品、メディカル関連
「首都圏から地方に移ると年収が下がる」は本当だった!?
 ただ、現時点で判断する限り、こうした格差の現状から次のような特徴が指摘できる。

1)地域間の年収格差は厳然としてあり、その最大差は2割程度
2)地域間年収格差は、年代を経るごとに少しずつ開く傾向がある
3)職種では、技術系は、他職種よりも相対的に平均年収が高い。

 この3つのポイントは今後の転職を考えるうでのヒントにもなるものだ。
つまり、年収アップを考えるのなら、第一に平均年収の高い地域への転職を検討すべきだということ。例えば、「電気・電子・機械系」では30代の九州の平均年収が489万円だから、九州の人が関東に移動すれば580万円と約100万円の年収アップが、理論上は期待できる。

 逆に、Uターン、Iターンなどでの関東から九州への転職は年収の100万円ダウンは避けられないということでもある。さらにいえば、技術系の人が販売系に転職した場合は、さらに年収ダウンとなる可能性が高い。

 こうした傾向は、これまでの転職ノウハウでもたびたび述べられてきたことだが、こうして数字によってある程度裏付けられると、けっして無視できないセオリーのようにも思えてくる。
年収満足度にも意外な地域格差が
 しかしながら、先ほども触れたように年収の多寡とそれへの満足度は、必ずしも一致しないものである。現状の年収を「仕事に見合っている」と考える人の割合は、北海道・東北で19%、中国・四国で16%であり、関東の32%、中部・東海の30%、関西の31%と比べると明らかに低い。ところが、九州地区に至っては「見合っている」と答える人の割合が32%と全国のなかでも最も高かった。また、中国・四国に至っては、「200万円程度高い」と回答している人が43%(実数51件)もいた。この結果には少々驚かざるをえない。

 もちろん、「仕事内容に比べて100万円程度安い」と考える人の割合が北海道・東北で40%に達するなど、相対的に平均年収の低い地域の人の不満を無視するわけではないが、こうした不満は、関東、関西、中部の高年収地域でも同様に発生している。

 つまり、年収への不満はどの地域でも存在するということ。たとえ平均年収がほかの地域よりも高くても、その分、物価や家賃が高かったり、労働時間が長かったりすれば、不満はけっして解消されないということなのではなかろうか。

 九州の人の「見合っている」(35%)や、中国・四国の人の「200万円程度高い」(43%)という回答をどう解釈するかは、なかなか難しいところではある。「物価も安くて住みやすいから、十分満足」なのか、「仕事が楽だから、まあこれぐらいで我慢するしかない」のか。あるいは、「ほかの業種に比べると地域のなかでは相対的に高いから、よしとする」のか。

 仕事の密度と生活の充実をバランスよく考える「ワーク─ライフバランス」という言葉が最近聞かれるようになったが、こうした観点から地域間年収格差を分析し直すと、あらためて興味深い結果が得られるかもしれない。
DATA 3 満足度に地域格差が!? 現在年収は仕事内容に見合ってる?
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
エンジニア読者から寄せられる給与系の情報に要望が高いのが、都心と地方の年収格差について。決して多いサンプル数ではないかもしれませんが、少しでも皆さんの参考になっていただけるとうれしいと思っています。この年収格差には、残業代も大きく影響があるのかと予測していたのですが、労働時間にはさほど差がみられなかったのが意外でした。もちろん生活環境などによって、年収満足度も変わってくると思いますが、皆さんのご意見はいかがでしょうか。ぜひお聞かせください。

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