ひげぽん＠MONA OSは、区民プールで今日も魚になる

編集部、というより私が「スゲェ！」と思ったプログラマの、趣味やハマりごとにフォーカスします。とてもクリエイティブで面白い仕事なのに、最近はなり手が減っているとか。だったら彼らの人間性も含めてその魅力を紹介したいと思います。サブタイトルはもちろん、「明日に向かって撃て！」のパクリです。

（取材・文／総研スタッフ　高橋マサシ　撮影／平山諭）作成日:06.10.18

2ちゃんねるのこのスレッドから、
ひげぽんのOS開発は始まった

MONA OS のロゴ
MONAの正式名称を本人に聞くと、
「う～ん、何だっけ！」

	―　こんにちは。いきなりですが、なぜ水泳を？

	ひ		水泳は、話しかけられたり電話が鳴ったりとかの外部割り込みのない、ひとりになれる時間。考えがまとまるんです。泳いでいると、MONAのことを2ちゃんにどう書こう、RSSリーダーの設計どうしよう、あのトラブルにどう対処しよう……って問題がすっきりと整理できます。それに、パソコンの前だととても思いつかない、いい感じのアイデアも出てくるんです。

	―　泳ぐときには何も考えないのだと思っていました。

	ひ		はい。ですから、「今日のお題はこれ」って、考えごとを決めてからプールに行くんです。そうしないと退屈になっちゃう。すぐビール飲みたくなるとか（笑）。

	―　1日にどのくらい泳ぐんですか？

	ひ		1kmくらいですかね。25ｍプールだから20往復とか。40分くらいかけてゆっくりと。不思議なのは、往路は楽なんですけど復路は息が苦しくなって、だんだん考えられなくなるんです。また泳ぎ始めるときにリセットされて、考えられるようになる。これを繰り返すうちに何かが浮かんできます。

	―　せっかく考えがまとまっても、水の中じゃメモできないのでは？

	ひ		こうするにはあれが必要、またそのために何が必要と考えを積んでいって、最後に解決したら、また戻ってくるじゃないですか。あれができたからこれしよう、次は何しようっていうふうに。プログラミングでいうスタックが深くなるので、記憶の容量が増えるみたいです。で、プールから上がって急いでメモします。

	―　水泳は昔からやっていた？

	ひ		全然。もともと運動嫌いで、コードを書いたり技術の勉強をするのは数時間集中できるのに、運動は少しやったらイヤになっちゃうんです。特に野球とかバレーとかの団体球技がダメ。できないと周りに迷惑がかかるから、人とかかわるスポーツは苦手です。でも、水泳は浮いていればいいかと思って、1～2年前から始めました。もともとやせてたんですけど、今は少しだけ筋肉がついてきました。週に2回ほど、会社帰りに行ってます。

	―　泳ぎ方はスポーツジムでイントラに習ったとか？

	ひ		ネットで「正しい泳ぎ方」とか調べて覚えました。人に聞いてないし、本も読んでいません。だからうまくなるのは遅かったでしょうね（笑）。初めのころは平泳ぎでしたが、最近はクロールが多いかな。通っているのは区民プールですから、1回数百円で安いですよ。

	―　2ちゃんねるに「OSをつくろう」というスレッドを立てたのは4年前ですね。なぜ2ちゃんに？

	ひ		就職したのが大手企業の系列子会社で、グループ企業向けのシステムやアプリケーションをつくっていました。会社の主な仕事はコーディングをする外注さんの管理でしたが、プログラマとしての技術力をつけたくて、無理を言って活発な開発チームに入れてもらったんです。でも数年たつと、社内では優秀な先輩でも世間的には平均レベルということがわかり、質問できる人が少なくなりました。身勝手にいろんなことを聞きたかったという気持ちもあり、スレッドを立てたんです。

	―　あえて聞きますが、プログラマ、SE、PMへと進むのが一般路線でしょ。　　管理業務は仕方がないという面もあるのでは？

	ひ		もちろん否定しません。ただ、PMというと調整役や取りまとめ役というイメージがあって、僕はそういう仕事にはあまり興味を感じませんでした。

	―　会社や自宅で勉強していたとはいえ、よく2ちゃんねるで長続きしたものですね。

	ひ		心がけていたのは、「常にその場所にいる」ことです。スレッドを立ててもすぐにいなくなってしまう人や、ハンドルネームを変えて書く人は珍しくないですから、僕は絶対に逃げませんでした。難しくて理解できない書き込みも多かったですが、とにかくわかろうと努力しました。やってやってどうしてもわからないときに、「ここまでやったんだけど誰か教えて」っていう質問の仕方です。

	―　望んでいたプログラマとしての勉強になった？

	ひ		すごいですよ。自分より10倍以上もレベルの高い人たちから、ヒントが少しずつ出てくるんです。それに関係が一対多でしょ。皆のおいしい知恵を、総和でもらってる感じでした。

	―　MONA OS開発はどんな状態ですか？

	ひ		エミュレータ上で起動していて、「結構動いてるね」という感じです。今はネットにつないだり、エディタが使えたり、実際に毎日使うには何をすればいいかを考えています。実用化はまだ先です。

	―　会社で開発はしていないんですか？

	ひ		前の職場もそうですが、今の職場でも仕事にしていません。帰宅後と週末で開発を進めています。アクティブメンバーは5～6人で、彼らも仕事とは関係ないですね。自由に使えるすべての時間をMONA OSに注いでいるという感じです。あ、水泳の時間は別ですけど（笑）。

	―　転職なさった会社はどうですか？

	ひ		めちゃくちゃレベルの高いエンジニアばかりです。技術力や知識が豊富で相談できることはもちろん、プログラマとしての志と姿勢が違うのに驚きました。でも、そういう人ほど怒ったりしない、常識人なんですね。仕事はRSSリーダーのディレクターなどをしていますが、構造から1カ月で開発し、現在では専任で手を動かすのは自分だけというスピード感です。

	―　月並みですが、最後に将来の夢を教えてください。

	ひ		やっぱりMONA OSを実用化して、世界中の人に使ってもらいたいです。それと、一生プログラマでいたい。勉強し続ければいつかはすごい人、リーナスとかビル・ゲイツみたいになれるという妄想があるんです。だから、なれるんじゃないかと（笑）。

今の愛読書である『計算機プログラムの構造と解釈』（ピアソンエデュケーション）。
内容がなかなかに難解とのこと


		1977年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、大手企業のシステム子会社に就職。本格的なプログラマを目指すが会社の方向性と合わず、「このままではオレの成長曲線は下がってしまう、そのロールモデルが目の前にいる！」と思う。 2002年にスレッド「OSをつくろう」を2ちゃんねるに立ち上げて、幅広くプログラミングのアドバイスを求め、OS開発をスタートさせる。2003年に自主制作のOS「Mona OS」のWikiを設立。2005年に株式会社はてなに転職。現在の肩書は、はてなRSSディレクタ。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ

連載の一発目って緊張するんです。ひげぽんさんには以前からお会いしたいと思っていましたが、趣味がわからない。取材依頼してから聞いたら水泳だという。取材をしたらただの趣味ではなく発想の源になっている。もう、最高でした。ちなみに、水着とキャップとゴーグルは無理を言ってもってきてもらいました。ひげぽんさん、ごめんなさい。