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“ヒーローエンジニア”を探せ!vol.4 マイクロソフトで日本発の開発ソフト実現! 「Windows Automotive」開発者の素顔とは
Tech総研編集部が前例・慣例にとらわれず活躍する日本全国のエンジニアを紹介する第4回!今回登場するのは、世界最大のソフトウェアの巨大企業マイクロソフトで、日本発の開発を手がける「Windows Automotive」の開発リーダーの一人だ。その一見華やかに見える開発の舞台裏とは?
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/三島タカユキ)作成日:06.09.27
マイクロソフト ディベロップメント株式会社 佐藤陽一さん
ITS戦略統括部 リードプログラムマネージャ

1966年、福島県生まれ。電気通信大学電気通信学部通信工学科卒。89年、新日本製鐵入社。工場用のFAコンピュータのソフトウェア開発に従事。98年、アルパイン入社。カーナビの組み込み系リアルタイムシステムの開発に従事。99年、マイクロソフトディベロップメント入社。当時、現在の部門は立ち上げたばかりで、3人だった。
マイクロソフト ディベロップメント
株式会社 ITS戦略統括部

世界最大のコンピュータソフトウェア会社、マイクロソフトの日本の技術部隊。 ITS戦略部は、カーナビや自動車メーカー向けのソフトウェアプラットフォーム「Windows Automotive」を展開。日本発の開発を手がけている部門として知られる。
日本発のソフトウェア「Windows Automotive」開発で中心的役割を果たす
 カーナビ端末用ソフトウェアプラットフォームとして2002年に製品化された「Windows Automotive」。リアルタイム性能、グラフィックチップに対応した地図描画プログラミングインターフェース、Windows CEから引き継ぐマルチメディア機能、ユーザーインタフェース構築支援キットなどを備え、多くの企業に採用されている。日本で開発され、2002年に世界市場投入されたこの画期的製品の開発で、中心的な役割を果たしてきたのが佐藤さん。現在はチューニングまわりの開発担当、取引先サポート担当として、30人規模の開発チームを牽引する一人である。
ようやく見つかった転職先で出合ったのがカーナビ
佐藤陽一さん
 マイクロソフトといえば、世界最大のソフトウェアの巨大企業。人材バンクから「受けてみませんか」と言われて最初に思ったのは、どんな人が働いているんだろう、という素朴な疑問で(笑)。自分が入社してどんな仕事をするかの前に、そっちに興味がありましたね。
 大学を卒業したのはバブル全盛期。就職先として選んだのは、製鉄メーカーでした。学部学科の順当な就職先は電機メーカーでしたが、想像できる未来より、新しい挑戦をしてみたいと思って。当時は、多くの会社が新規事業に取り組んでいて、就職先の会社も電気系の学生をたくさん集めていました。配属されたのは、工場用のFAコンピュータの開発部隊。鉄を作る工程はコンピュータで自動制御されていて、そこではハードウェアからコンピュータを作っていました。私はOSに近い部分のソフトウェア開発を担当。ファームウェアやデバイスドライバなどの開発担当でした。ところが、バブル崩壊で、新規事業部門は縮小。職場にも停滞感が漂うようになって。このままでは先行きはどうかな、と退職を決断したんです。
 ひとまず故郷の福島に帰って仕事を探しました。人材バンクに登録をして。ところが、なかなか見つからない。結局、半年近くかかって見つかったのが、福島に工場を持つカーナビメーカー。特にカーナビに興味があったわけではありません。たまたま前社で経験のあった組み込み系リアルタイムシステムの経験者を探していたのが、カーナビメーカーだったんです。ようやく見つかった仕事でした。
 ところが仕事を始めて見ると面白くて。配属になったのは、カーナビやラジオ、スピーカーなどの機器間をつなぐネットワークの開発。車載LANです。実は車って、コンピュータがたくさん入っているんです。当時は通信規格の標準化が行われようとしていたころ。まだ誰も使ったことのないものを作ることになる。面白い分野だと思いました。一方で、こういう世界もあるんだと知りました。車の中のコンピュータなんて、考えたこともなかったですから。  
 それから1年ほどして、人材バンクから声をかけられたんです。マイクロソフトは、カーナビにかかわるソフトウェア事業を立ち上げたところだった。やりたいことと、会社が求めているものが一致。それで、あっという間に入社が決まってしまった。ちょっと面接に行ってみるか、というつもりでしたから、本当にびっくりでした。
たいしたものは作れない、と最初は思っていた
 当時のマイクロソフトは、カーナビでもWindowsを、という模索を続けていました。私の入る3年ほど前からWindows CEを車載機器でも使えないかとアメリカ本社が考え、パッケージを開発。日本は世界有数のカーナビ先進国ですから、日本のカーナビメーカーにもそのソフトを展開することを考えていたわけですね。
 ところが正直に言いますが、私のような組み込み業界の人間から見れば、当時のWindowsはとても不安なOSだったんです。止まってリセットなんて、組み込みではありえない。私は正直、たいしたものは作れないだろうと思っていました。成功は難しい、と。だから当初の私が考えていたのは、もし失敗したら、マイクロソフトというネームバリューを使って転職を有利にしよう、ということで(笑)。いやほんと、真剣にそう思っていたんですよ。
 では、どうして今があるのかといえば、ものすごく地道な作業を一つひとつやってきたから。それに尽きます。まず最初に面白いと思ったのは、取引先の懐に飛び込んでいってしまうマイクロソフト独自のやり方でした。お客さまは「Windowsなんてとても使えない」と思っている。私はそれを知っていましたが、ならばどうすれば使ってもらえるのかを考えようというわけです。  
 私の部署のボス(上司)が考えたのが、お客さまを招いてのワークショップでした。カーナビ開発の課題を共有し、Windowsの問題点も教えてもらう。なるほど、こういう方法があるのか、と思いました。続いてもっと大きなフォーラムに移行。私もお客さまに参加要請をする役割を担当しました。お客さまのところに出向く。担当者に電話をする。招待状を出す。再び電話をして催促する。エンジニアなのになぁ、と思いながら(笑)。でも、熱意って通じるんだと思いました。最終的に30社近くが参加されたんです。
 一方、技術側としては、まずは動くものを見てもらうしかない。プロトタイプづくりです。解決策は、まさに愚直なものでした。お客さまとのやりとりで、出てきた問題を一つひとつつぶしていく。とにかくこれをやる。ただ、ここでいくつも画期的なアイデアがチーム内で生まれて。やっぱりマイクロソフトのエンジニアは優秀だと思いました(笑)。ただ、こうしたアイデアも、小さな課題に一つひとつ向いたからこそ、出てきたものだったと思うんです。
 運がよかった、といえるのは、ちょうどカーナビ開発が過渡期を迎えていたことでした。カーナビの機能がどんどん増えて、ゼロから組み込み系ソフトを作り込むことが難しくなっていました。お客さまとしても、今までとは違うやり方を模索する必要があった。そして入社から3年たって、何度も何度も改良して「Windows Automotive」が形になっていったんです。
佐藤陽一さん
お客さまのやりとりにこそ、信念を生む解はある
佐藤陽一さん
 「Windows Automotive」は日本発の開発製品です。しかし、最初からそうするつもりだったわけではないんですよね。アメリカ本社もそのつもりではなかったと思う。ただ、お客さまの声をどの部門よりも持っていたのが私たちだったと思うんです。そのお客さまの声と、アメリカ本社との考えとにギャップがあった。だから、アメリカとも相当にやりあいました、最初のころは。それこそ毎月のように出張していましたし、メールもずいぶん送りました。
 ただ正直に言うと、最終的には半ば強引に開発を進めてしまったんです(笑)。そうしないと、お客さまの声にこたえられなかったから。でも、結果としてそれでお客さまから支持をいただけた。実績を作ったわけですから、本社も納得するしかない。もちろんOS自体の開発は引き続き本社。バージョンアップも含めて、細かな連携を今も続けています。結果を出そう、信頼を得よう。その気持ちの強さが、最終的に日本発の開発につながったと私は思っています。
 仕事に必要なのは、やっぱり信念だと思いますね。自分がやっている仕事が正しいと信じられるかどうか。その正しさを説明できるか。そのための努力を続けられるか。だからお客さまとのやりとりが一番大事だと思うんです。正しいかどうかを知る最も近道だから。今も、トラブル時にはお客さまのところに泊まり込んだりします。一番危険なのは、相手不在で勝手に頭の中で仕事を巡らせてしまうこと。これでは、正しいものは絶対に見つからない。
 最初から辞めることまで考えていたマイクロソフトですが、結局、辞める機会を失ってしまって(笑)。でも、やっぱり中途半端は嫌いですから。マイクロソフトにいたというだけじゃなくて、マイクロソフトに対して自分が何をしたかを言えるまで、辞めるわけにはいかないですね。それにしても、自分がまさかマイクロソフトで仕事をするとは、夢にも思わなかったですね。きっかけになったのは、カーナビでした。最初の転職でカーナビメーカーに入ったことが、人生の大きな転機になった。それは間違いないと思います。
ヒーローの野望 カーナビ業界の未来に、どう貢献できるか
カーナビはものすごいスピードで進化しています。今は、「Windows Automotive」の次のバージョンのプラットフォームを作り、確立することが最大のテーマですが、やはり将来はもっと大きな夢がある仕事だと思っています。例えば、よくいわれるユビキタス。車とユビキタスの相性はかなりいいものがあります。コンピュータを意識しないで操作ができるユビキタス的なアプローチは、車の運転者には非常に大きな魅力になる。操作しなくても運転者のためになる、というのが、カーナビの究極の目標ですから。そうした理想の未来をきちんと見据えて、仕事をしていきたいですね。もっといいOSを、もっとお客さまに喜ばれるOSを作る。そしてそれだけでなく、マイクロソフトとしてカーナビ業界の未来にどう貢献できるか。そこまで考えた仕事を、ゆくゆくはしていきたいと思っています。
仲間の目 佐藤さんのどんなところがヒーローっぽいですか?
 きさくな性格ということもありますが、お客さまとうまく信頼関係を築けることが、佐藤さんの大きな特徴だと思います。厳しい状況の中でも、建設的に前向きに物事を解決できるというイメージが強いですね。会議を開いて、みんなで物事を決めるのが好きですし。また、とても技術力のある方。エンジニアは時にはプライドが邪魔して仕事のプライオリティを間違えることがありますが、佐藤さんはそれがまったくないんです。あと、イメージとして強いのは、「席にいない」かな(笑)。お客さまのところか、社内のどこかとか、いつも飛び回っている印象があります。
吉田さん
高橋さん
 お客さまの成功=我々の成功、という意識をもっている人です。だから、お客さまとのやりとりをすごく大事にしている印象が強いですね。開発に加えてサポートも担当していますから、時にはお客さまから、すぐには対応できないような厳しい要望がくることもありますが、中途半端な返事をしたりはしません。できること、できないことをはっきりさせながら、バランスよくソリューションに導いていく。そういうリーダーシップ、コミュニケーション力はとても勉強になります。あとは最後まであきらめない姿勢。トラブルがあっても、「必ず成功させる」という意識が伝わってきます。  
ヒーローを支えるフィールド 会議での活発な議論に驚いた入社当初。自由、が大きな特色
  実は佐藤さん、マイクロソフトに入社して真っ先に面食らったのは会議だったのだという。これまでの会社は先輩や上司を差し置いて、自分の意見を貫こうという猛者は少なかった。ところがマイクロソフトでは違った。最初に出たのは、たまたま新人から役員まで出そろう会議。そこでは若手社員も役員にひるむことなくどんどん意見を言っていた。活発な議論の一方で、自分にそんなことができるようになるのかとも感じたらしい(ちなみにWindowsに関する知識はほとんどなく、会議の内容はチンプンカンプンだったとか)。
 同時に、これは指示を待つのではなく自分から積極的に動いていかないとダメだ、とも感じたという。結果的に彼はそれを実現させたわけだが、成果を生んだ背景にあったのは、むしろその自由さだったのではあるまいか。会議での活発な議論もそうだが、情報はほとんどオープンにされる。だからこそ、自分で自由に判断し、自由に動けるようになるのだ。逆に、情報がオープンにならないままに自由に動けと言われても、エンジニアは萎縮してしまう。情報のオープンさと行動の自由さ。これは両輪なのである。
 だからこそ、自らの意思をどんどん仕事に反映させることができたのではないか。ちなみに、責任も重いだけに、もちろん重圧もある。つぶれてしまう社員はいないのかという質問に彼はこう答えてくれた。情報は自分からも発信する必要があるのだ、と。一人ひとりもやはりオープンなのである。社風は本当に心地いい、と佐藤さん。世界的企業の本当の力は、実はそのあたりに秘密があるのかもしれない、と感じた。
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  宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ  
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
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実は恥ずかしながら、この取材をするまでマイクロソフトの開発が日本でも行われていたということを知りませんでした。世界で最も優れたカーナビの開発技術をもち、最大シェアを誇る日本市場だからということ。それに加えて、まったくの異業界にいた佐藤さんの技術力、キャリアに加えて、この偶然ともいえる出合いがこの開発を成し遂げた成功要因の一つであることは、間違いありません。ぜひ、皆さんも自分のキャリア、技術力のニーズを測ってみませんか?
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