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“ヒーローエンジニア”を探せ!vol.3 シェア最下位から世界トップへ 松下電器プラズマTV開発に社内公募からの挑戦
Tech総研編集部が日本全国から、前例にとらわれず、独創的発想で活躍している若手エンジニアを探し出してご紹介する連載第3回!今回登場するのは、世界シェアトップのプラズマテレビを手がける松下電器産業で、商品設計を手がけるエンジニアだ。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:06.08.30
松下電器産業株式会社 パナソニックAVCネットワークス社 山下 武さん
映像・ディスプレイデバイス事業グループ
PDPデバイスビジネスユニット PDPモジュール技術グループ
モジュール技術チーム 主任技師

1969年生まれ。熊本大学工学部電気情報工学科卒。同大学大学院修了。専攻は電子回路。94年、松下電器産業入社。テレビ事業部で評価・検証・量産を担当。97年、半導体開発本部に異動。2003年より現職。映像機器に興味を持っており、それが松下電器入社につながった。忙しい中でもバレーボールやゴルフなどのスポーツを楽しむ。
松下電器産業
PDPデバイスビジネスユニット

シェア最下位から、国内はもちろん世界でもシェアトップまで上り詰めた、松下電器のプラズマテレビ。PDPデバイスビジネスユニットでは、37V型から103V型まで幅広いラインナップを揃える『VIERA』(ビエラ)シリーズのディスプレイやパネルなどの商品設計を手がけている。
ディスプレイモジュールの信号処理とシステム開発でリーダーに
 プラズマテレビを構成するキーデバイスのひとつ、ベーシックな回路だけが付いた状態のディスプレイ「PDPモジュール」で、 画質向上のための信号処理とシステム開発を手がけるデジタルグループのリーダーが山下さん。若手20名のメンバーを引っ張る。新商品が次々と開発・投入され、激しい競争が繰り広げられているのが薄型大画面マーケット。37V型から103V型まで、全モデルのPDPモジュールを担当する山下さんが、トップシェアを実現した最前線の商品作りを語る。
世界4エリアの時間軸で10種類のモジュール開発を動かす……正直、厳しい
山下 武さん
 高画質というと画素数をイメージする人も多いかもしれませんが、実は単に画素数を多くするだけでは、プラズマディスプレイの画像はきれいにはならないんですね。そこで、信号処理でどう工夫し、階調を出すか、という役割が求められてきます。プラズマの特色であり魅力は、コントラストの高さ。そのポイントは、白はより白く輝き、黒は沈むこと。特にこの黒を沈ませるための処理が難しい。松下電器はコントラストで高い評価を得てきましたが、もちろんライバル会社さんも黙ってはいません。そこで、これまでを凌駕するものを作ろうと頑張っています。
 ただ、信号処理だけをうまくやっても、これまたダメなんです。パネルを駆動させるパネルチームはもちろん、プラズマが得意としている動画疑似輪郭の精度を上げるLSI開発チームなど、さまざまな部門とのコミュニケーションと連携のもとで画質向上に取り組む必要があります。
 37V型から103V型まで、基本的なデバイスとしては10種類のPDPモジュールを担当しますが、グレードは3つに分かれます。また、国内用、北米用、欧州用、業務用など、仕向け地も意識しなければなりません。最近では世界同時立ち上げが普通になってきていますが、すべて一斉にスタートすれば立ち上がるわけではなく、欧州などは早めに部材の準備を進める必要があります。さらに、現行モデルのフォロー、次のシーズンの立ち上げ、来年モデルの開発、再来年モデルのLSI開発の準備と、同時に4つの時間軸で仕事が走っていきます。
 デバイスの種類も多いし、スケジュールは複雑だし、と実は考えることはそれこそ本当に毎日、山のようにありまして(笑)。しかもプラズマの中というのはけっこう複雑で、あっという間にブラックボックスになってしまいますから、常に技術にアンテナを立て、関連部署との情報交換を密にしておく必要があります。そしてもちろん、コストダウンの意識も必須。正直、仕事はすごく忙しく、厳しいです(笑)。
長野五輪でみたガスで光る自発光デバイス。どんなものなのか、見てみたくなった
 入社後3年間、CRTテレビの評価の仕事をし、その後、希望してテレビの性能を決めるLSIの開発に異動しました。毎日、基板と格闘する日々から、いきなりワークステーションでプログラムを作る日々。想像はしていましたが、本当に畑違いで(笑)。ただ、要はやる気の問題だと思っていました。もともと負けず嫌いな性格なんです。他の人にできることが自分にできないわけはない、と。そして実際、なんとかなるわけでして。当時は、担当したことを中途半端にしないで徹底的にやることにこだわっていました。任されたことを人に負けない意識でやっていたら、スキルは自然に積み上がるだろうと。本当にそうでしたね。
 ただ、また5年たって、ふと考えたんです。開発の仕事で5年後、10年後の自分のビジョンが描けるか。それで満足しているか、と。よくよく考えてみると、テレビを作る仕事をしていて最も楽しかったのは、友達や家族、親戚から「あのテレビを作ったんだ、すごいね」「あのテレビ、きれいだね」と言われることだったんですよね。周りの声を聞けることが、達成感であり、満足感につながるということに気づいたんです。自分がやりたいのは、もっと商品寄り、セット寄りの仕事じゃないか、と。そんなとき、PDPの事業部が社内から人材を募っていると知って。松下電器には、スキルe‐チャレンジという部署異動の制度があり、その制度を使って手を挙げました。
 当時のプラズマは、出荷が数十万台と今の10分の1くらいの規模でした。ただ、目標はすごく大きくて、「こんなの本当に実現できるのか」と思ったのを覚えています。実際には、そのときの数字を上回る出荷台数になったんですけど。異動には不安がなかったといったら、嘘になります。半導体デバイスでも面白い仕事をさせてもらっていましたし。でも、ちょうど長野五輪で納入されていたPDPがすごくきれいで、興味があったんです。どうやってこんな高画質が実現されているのかなと。ガスで光る自発光デバイスって、どんなものなのか、見てみたかったんですよね。
山下 武さん
入社したときには想像もしていなかった仕事。今、なにより楽しい
山下 武さん
 デジタル系の基板なんてわからない、というところから始まった今の仕事でしたが、半年もすると、リーダーをやれと言われて。これはびっくりしました。当時はたしかに人数も少なかったんですが、本当に自分でいいのかと。ただ、職場の中で黙っていられないタイプなので、目立ってはいたかも(笑)。思っていたことはどんどん言ってたし、有言実行を宣言してたし。黙って実行するのがカッコイイのかもしれませんが、そういうタイプでもなくて(笑)。
 短期間にたくさんの種類のモジュールを開発する必要がありますから、今も大変さは感じます。でも、あきらめたくないんです。なんとかしたい。ちょっとでもいいものを作りたい。たとえ連日、徹夜に近い状態になったとしても。あ、これは大きな声では言えないですけどね。
 それでも苦しかったり、抜け出すことがなかなかできないときは、畑違いの部署の人とのコミュニケーションがいつもヒントになりました。ちょうど同期がいろんな部署にいまして。忙しいんですが、飲むのは好きなんですよね。ときには12時過ぎから飲みに行くこともあります。それで翌朝は元気に8時半出勤(笑)。
 リーダーになって1年くらいは、こなすのが精いっぱいで、メンバーの仕事の中身もスケジュールもガチガチに固めてやっていました。でも、これではメンバーが自分で考える意識が薄れてきちゃうんです。言われたことをこなすだけになってしまうことがわかった。全体のスキルアップも進まないし、スピードも遅くなる。それで、ある程度は任せるようにしていくことにしました。大きなスケジュールだけは共有して。これが今、とてもうまくいっています。実は私も上司にそうやって育てられていたんですよね。ものすごく自由だし、仕事は本当に任せてもらえますから。
 やはり世の中から高く評価される商品に携われているのが、何よりうれしいし、モチベーションアップにつながっていると思います。入社したときに、こんな仕事をしている自分は想像ができませんでした。でも、あのときの自分が見たら「頑張ってるな」と評価してくれると思います。実は、もともと残業なんてしたくない人間でしたから(笑)。それが率先して残業してるんですから、置かれた環境で人間って、変わるものなんですね。
ヒーローの野望 開発も量産も高いレベルでこなせるエンジニアになりたい
 私自身、趣味のひとつがホームシアターだったりします。現部署に異動する前に買ったので、家にあるのは液晶プロジェクターなんですが、100インチスクリーンです。毎週、映画を見たりして楽しんでいますが、やはり作りたいのは、自分が欲しい商品。しかも、値段に関係なくどうしても欲しい、と思えるような商品を作ってみたいですね。もうひとつ仕事で実現したいのは、開発も量産も両方、高いレベルで理解できるエンジニアです。ちょうど今の仕事は開発的な要素もあるし、生産・製造とのかかわりもある。そのどちらかに偏るのではなく、両方を追求したい。商品スペックもいいし、量産フェイズでも作りやすい。そんな商品を世の中に送り出すために貢献できるエンジニアになりたいです。
そのほうが、自分の手掛けた商品がもっと多くの人に評価される。これ以上うれしいことはないじゃないですか。
仲間の目 「できない」とは考えずに自ら進んでいろいろチャレンジする
  山下さんのどんなところがヒーローっぽいですか?
 プラズマテレビは次代の松下電器を支える重点商品。いいものを送り出さなければいけないというプレッシャーはみんなが持っています。しかも同時に、スピードも求められる。その意味では、仕事を与えられるのを待っていたのでは、間に合わないんです。彼はそこをしっかり認識して動いていますね。パネルチームとの連携にしても、スムーズな進捗とスピードの両方を見据えている。だから、動きが速い。難しい課題に直面しても、「できない」とは考えずに自ら進んでいろいろチャレンジしてきた。それが大きな力になっていると思います。
谷口さん
奥村さん
 私たちはPDPモジュールと連携して動くわけですが、彼はパイプ役として非常に貴重な役割を果たしてくれています。例えば大きな会議の前に、考えていることをちょっと事前に話してくれる。実はそれだけでも会議はスムーズになるんです。コミュニケーションがうまいんですね。昔からあった組織ではなくて、いろんな人たちが集まっているのが、今の組織。彼のようにフットワーク軽く動き回ってくれる存在は大きいです。もちろん自分の仕事をきっちりやることも大事ですが、組織、商品という全体最適を考えて動いている印象があります。  
ヒーローを支えるフィールド スピード、性能、価格、品質、すべてに妥協は許されない
 経営の重点分野としてプラズマに本格参入したとき、松下電器のシェアは最下位だったという。そこからトップに駆け上がったのは、わずか数年の間のことである。同じくシェアトップを誇るデジタルカメラもそうだが、プラズマテレビの組織も、社内公募などを通じて人材が増え、大きくなった。結果として、さまざまな部署の文化や風土が持ち込まれることになった。さらに経営トップから直接指示も飛んでくるという目標の高さと、先端商品ならではのスピード感がミックスされ、ダイナミックさが組織風土に加わる。今や「そんなことはできない」と考える前に、どうすればできるのか、やれるのかを、まずは懸命に考える組織になっているという。スピードが求められるだけに、立ち止まることはできない。

 そこで、自分で解決できないことはみんなで解決するという雰囲気も生まれた。今も誰かが職場で声を上げると、その場で自然発生的に人の輪ができる。「どうした?」「大丈夫か?」ベテランの解説を聞くために、若手も大勢集まるという。取材で印象的だったのは、松下に必要なのは「全部」という言葉。スピードだけではない。性能も価格も品質も、すべてに妥協は許されない。すべてトップでなければならない。そうした厳しい商品づくりへのこだわりと、新しいマーケットを切り開いてきたという自信、さらには松下電器の成長を支えているという自負が組織に満ちている。山下さんも言っていたが、こういう環境にいれば、エンジニアは相当に鍛えられるに違いない、と感じた。
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  宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ  
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社内人材募集という制度に非常に興味・関心を抱いています。花形部署や自身の適材部署に異動できるかもしれないというメリットに加えて、自分で選択した部署、仕事に対する愛情や責任感がより深いものになるのだろうなと感じるから。そして今回さらにうらやましいと感じたのは、「相手を信頼する」「助け合う」という職場風土。そこに山下さんのようなムードメーカーが触媒となりさらに強固なチームワークを生み出していくのでしょう。ヒット製品誕生の舞台裏を支える元気なエンジニアたちをこれからもどんどん紹介していきたいと思います。
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