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ネットとリアルの融合でITキャリアの新たな選択肢が生まれる 梅田望夫氏が提案する“2007年ITエンジニア進化論”
Web2.0の登場により、ITビジネスとネットの世界に大きな変化をもたらした2006年。果たして2007年はどう進化し、IT業界で活躍するエンジニアのワークスタイルはどう変わっていくのか?『ウェブ進化論』著者・梅田望夫氏に聞いてみた。
(取材・文 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/上原健嗣)作成日:07.01.17
2007年、ネット社会とITエンジニアのワークスタイルはどう変わる?
コンピュータの歴史は約50年、インターネットが登場して約10年。だが、今ほどこの歴史が大きく変化する時代はないだろうと語る梅田望夫氏。この2007年にはどのような変化が訪れるのか。そして次の10年、15年先のITビジネスやネット社会はどう進化していくのだろう。
梅田望夫氏(うめだ・もちお)
1960年生まれ。慶應義塾大学工学部卒業。東京大学大学院情報科学科修士課程修了。1994年よりシリコンバレー在住。1997年にコンサルティング会社、ミューズ・アソシエイツをシリコンバレーで創業。2000年には岡本行夫氏らとベンチャーキャピタル、パシフィカファンド設立。2005年3月より(株)はてな取締役。著書に『ウェブ進化論』(ちくま新書)、『シリコンバレー精神』(ちくま文庫)、『ウェブ人間論』(新潮新書)。
ウェブ進化論
米TIME誌が選んだ2006年の「今年の人」は「あなた」
 2006年は、日本ではSNSのミクシィの株式公開、アメリカでは動画のYouTube(ユーチューブ)がブレイクするなど、ネット社会にとって潮目が大きく変わった年でした。しかし、このような大きな変化は毎年訪れるものではありません。2007年は基本的には2006年の延長線上にあるでしょう。2006年はまさにWeb2.0幕開けの年だったといえます。

 それを象徴していたのが、アメリカの『TIME』という雑誌。毎年『TIME』誌は年間を通じて最も活躍した人物を決定する「Person of the Year(今年の人)」として選びます。2006年の「今年の人」として評価されたのは「You(あなた)」でした。つまり、SNSに参加する不特定多数の「あなた」であり、YouTubeに動画をあげる「あなた」。この不特定多数の人たちが、2006年にアメリカが、そして世界が選んだ「今年の人」だというわけです。これがまさにWeb2.0というのをそのまま表しています。この流れは、2007年、2008年としばらく続いていくでしょう。

 2007年は、団塊世代が大量定年を迎えはじめる年でもあります。定年退職後、この団塊世代の人たちはネットのユーザーになっていく可能性が高い。実は、ネットへの関心度というのは、リアルの世界でどれだけ充実しているかといった、日々の忙しさに反比例するものなんです。日本の団塊世代には第一線で仕事してきた人、本をたくさん読んで知識も教養もある人たちがたくさんいます。ネットで彼らのブログなんかを見ても、新聞なんかよりもずっと深く、すごいことを書いていたりします。

 団塊の世代は日本に約800万人、1%でも8万人です。彼らが今まで生きてきた知識、教養を発信してきた人はほんのわずかだった。でも、これからは自由に情報や言葉を発信するようになっていきます。ネットのサービス自体は2006年とそれほど変わらなくても、さらに多様な世代に広がっていくわけです。これが、『TIME』誌のいう「あなた」をすべて表しています。
Web2.0はネットとリアルを融合させていく
 ネットによる情報伝達が発達していくと、ニュースサイトやブログがあるから新聞を読まなくなるんじゃないか、ユーチューブがあるから誰もテレビを見なくなるんじゃないかなんていう議論を聞いたりします。テレビ局とか新聞社、広告代理店側の人たちがそんな危機感を持つのは健全です。確かに部分的に見ればそれらのビジネスの一部は破壊されるかもしれない。でも僕は両方共存していくと思ってます。なぜならWeb2.0のサービスは基本的には無料これまでのメディアを補完的に利用すれば、さらに利便性は高まっていきます。例えば新聞をとりながら、ネットでも情報を集めたりしてもよけいにお金がかかるわけじゃない。両方併用しても損になるようなことはありません。そう考える人たちがいなくなる未来は考えにくい。

 最近、ロングテールを提唱した人が、次のバズワード(buzzword)として挙げているのが、“Economy of Abundance”。資源が希少であるのを前提にするのではなく、資源が潤沢だとすれば何が起こるのかを考えてみようということです。「過剰の経済」とでもいいましょうか。特にIT業界周辺で強くいわれている言葉です。いろんなものが安くなったり、情報はタダで手に入る「チープ革命」がどんどん進んでいく世界を、ゼロベースから考えてみようということですね。

 先日、情報家電関連の仕事をしている人と話したときにも、「ユーチューブがもっと流行ったら大型の液晶テレビやその周辺の情報家電って売れなくなっちゃうんじゃないでしょうか」なんて心配していましたが、そんなシンプルな話じゃない。いくらユーチューブが面白くても、ワールドカップのゴールシーンを集めた映像がただで翌日に見られるからといって、生放送を誰も見なくなるかといえばそんなことはない。やはり生で映像が美しい大型画面のテレビでスポーツを見たいと思うでしょう。人は豊かになってくると、ちょっとでもおもしろいことがあればそこにお金を使う。全部手に入れようとする。だから、ネットサービスの浸透で情報家電が売れなくなるなんて単純な話ではないんです。

 もちろん、これがすべての人に当てはまるとは思っていません。ネットだけの情報で十分だという人も中にはいるでしょう。でも、ネットがリアルを侵食していったとしても、必ずどこかで均衡して止まるということです。マクロな視点で見ていれば、何事もだいたい正規分布しています。ネットとリアルはまったく別世界で、必ずしも一方が他方を置き換えるものと単純に考えないほうがいい。ネットとリアルの時間配分が半々というのがおそらく相当のヘビーユーザー。でも、なかなかそこまでいく人は少ないはずです。ネットだけの生活なんてあり得ない。リアル世界に楽しいこともたくさんあるんだから。

 Webの開発エンジニアたちに「君たちはネットの広告を踏むことはあるのか?」と尋ねたことがあります。無論ITリテラシーの高い彼らは、広告を広告だと瞬時に認知するから、わざわざ広告を踏むことはない。どうやったらそれらの広告を踏んでもらえるかを想像しながら開発しているわけです。ネット利用者のリテラシーも正規分布し続けることがすべての前提になっているわけです。むしろこれからは、ネットとリアルがもっと融合し、その境界領域にビジネスチャンスが生まれていくと考えています。
ネットとリアルの融合の先に、新たな仕事が生まれる
 ネットとリアルの二つの世界が少しずつ融合していくであろう2007年以降。ネットとリアルの境界領域には、これまでなかった新しい仕事がたくさん生まれます。だから、技術を駆使することができ、ITリテラシーの高いエンジニアたちには、もう少し視野を広げてみてほしいと思っています。

 僕はよくネットの世界を「もう一つの地球」というたとえで話をします。インターネットの歴史なんてたかだか10年くらいなんですが、10年20年先には、リアルの地球に対応するくらいの「もう一つの地球」ができてくると考えるべきでしょう。そこは知と情報の世界であって、住むこともコミュニケーションをとることもできる。つまり、知と情報に関してはまるで地球だと思えるくらい巨大な存在が作られていくわけです。

 では、そのもう一つの地球の中身とは一体何なのか。それはこれから作られていくものです。例えばグーグルもその一部を作っていくし、ヤフーも作っているし、はてなもミクシィも作っている。だから今はそのサービスを作る人たちが新しいWeb空間を作っている途上にある。だからその周辺には、これから新しい職業がたくさん生まれるはずなんです。

 例えば、リアルの世界の新聞社や雑誌社がWebサイトを立ち上げようとしたとします。Web 2.0っぽいことをしなくちゃと考えたとします。でもこういう会社には、ネット広告の詳細な知識に通じている人は誰もいない。ところが若いITエンジニアは、ITの知識やリテラシーがあって、ネットの世界がわかって、プログラミング能力もある。自分の目をもう少し広げてみると、今起きているもう一つの地球を作っているプロセスに積極的に参画できるかもしれない。その中を作っていくディープな仕事もあれば、リアルの世界とつなぐ仕事もあるし、その上で動いている新たなビジネスの仕事もある。

 このような多様な仕事が生まれる中で、どれを選ぶべきかといえば、自分が仕事していたのか、してなかったのかわからないくらいに面白く楽しくわくわく感じられる領域の仕事を見つけることしかない。もしそう感じられない、つまり今の仕事が過酷だと感じているのであれば、脱出しなきゃ。今活躍しているエンジニアには技術も知識や経験もあるわけだから、新しい知識やスキルをそれに加えて、これからは新しい領域にも踏み出すことが必要です。
既存の仕事と未知の仕事、二者択一をしてみる
 ITエンジニアは新しい職業か、古い職業かといえば、プログラマという職業は20年以上昔からあるし、かなり古い職業に入ります。人はきちんと定義されて安定した古い職業を選びがちになりますが、まずは、ITエンジニアという職業はこういうものという凝り固まった考えから抜け出すべきなのではないでしょうか。

 スタンフォード大学の航空宇宙工学科に元気のいい大学院生の知り合いがいるんですが、就職先があまりないんだそうです。いまや宇宙産業は決して華やかな新しい産業ではないのですが、彼にとっては憧れの職業です。古い職業の利点は、就職できればその就職先に同じ学科を卒業した先輩もいるし、10年20年先まで見通せてじっくりとキャリアを作っていくことができること。でも、同時に将来への停滞感、産業が縮小していくのではないかというような恐怖を感じたりします。

 ところが、その彼にまったく考えてもみなかった新しい職業の誘いがあったそうなんです。それはグーグルのバックエンドサーバーの熱処理を研究する仕事。もちろんそこには、航空宇宙工学科の先輩もいないし、これまでの知識を直接は使えない。でも彼が学び考え続けてきて蓄えた実力が全く新しいフィールドで生かされる。前例もない不連続への挑戦。その代わり新たな課題に挑むことは、自分への刺激にもなるし、これまでなかったキャリアの構築になります。

 もし、あなただったらNASAで宇宙開発という道に進みますか? それともグーグルで新たな仕事に挑みますか? 直感でいいんです。どっちが面白そうだと思いますか。どっちが自分に合っていると思いますか。もちろん、どちらが正解だとかはありません。でも、もし後者に魅力を感じたのだとしたら、自分の可能性を信じて、もう少し自身のこれからのキャリアを見つめ直すと、自分がエンジニアとして楽しめる本当の領域が見えてくるはずです。
エンジニアとしての今を楽しめていますか?
 僕は工学部出身でしたが、同級生の8割はあまり深く考えずに、研究者や、企業のエンジニアになっていきました。でも、企業でエンジニアとして現場にいられるのはだいたい10年くらいで、その後は管理職に就くことがほとんど。大組織に入って、自然とそういうキャリアステップを進みました。彼らがみんな理系卒業者として幸せだったかは別として、そうやってくることができたのが僕らの世代。でも、今は企業に自分の人生を投げ出すのではなく、それぞれがキャリアを身につけながら、自分が活躍できる場で生きていかなければいけない時代になってきました。

 僕自身にもハッカーとまではいかないけれど、一線でプログラマをやっていた時代がありました。でも、やっているうちに、同じようなことをやっている人たちってどんな人たちなんだろうと周りを見回しました。そうしたら、必死で頑張ったりしないのに、ただただ楽しそうにすごいものを作り出す人たちがたくさんいました。自分もそういうものを作れといわれれば、頑張ればできそうだ。でも片方は頑張る、片方は楽しんでいる。そういう競争を10年やったって、楽しんでいる人には絶対にかなわないなと気づいた。そのとき、僕は技術者からビジネスの世界に身を転じました。

 IT関連技術を習得し、エンジニアとしてのキャリアの構築をすることは、今の時代のアドバンテージです。絶対にマイナスになりません。ITエンジニアには大きく分けると、SI系の「こちら側」と、組み込みシステムやインフラ系のエンジニア、ネットのサービスを作る「あちら側」とあります。この三つのいずれも、仕事自身を楽しめないかぎり、過酷な世界だと思います。特にWebのサービスは24時間、365日休みなし。仕事が苦しいと思ったらできないでしょう。華やかに見えても、好きだと心から思えないとつらい仕事になってしまいます。

 だから、自分は「できるからこの仕事をやるんだ」という発想は、転換する必要があります。今こそ自分に問わなければいけない。「できる」ではなくて「したい」を探すことです。「自分が本当にやりたい仕事は何ですか」と。もし、この僕の話を読んでピンとこない人、何をバカなことをいってるんだろう、全然楽しいよと思える人は心配ない。エンジニアとして幸せな仕事をしているのだと思います。正直いってこの先10年、15年先がどういう変化がくるか読める人なんていません。だから、どの方向に進んだらおもしろそうか、楽しめそうかということを、仮説でもいいから考えてみることが必要なのではないでしょうか。そしてその中に、これから生まれる「新しい職業」への想像力も働かせてほしいと思うのです。
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
ネットとリアルが融合していく中で生まれる新しい仕事。梅田さんのお話はまさにネットの世界に足をつっこんでいる私にも非常に刺激的かつわくわくするものでした。2007年は、Web2.0のさらなる進化でITエンジニアの仕事、ワークスタイルにもどんな進化が起こるのか楽しみですね。本日1/17(水)にオープンしたITエンジニア向け転職サイト「リクナビNEXT ITキャリア」では、そんなIT経験者を求める企業の求人情報が満載です。ぜひ一度訪れてみてくださいね。

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