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30代、40代での技術・仕事への覚悟・選択・工夫・習慣
70代でも現場に生きる    “プラチナエンジニア”への道
シニア世代の活躍がマスコミを賑わすなど、世は“生涯現役”時代。とはいえ、エンジニアだと生涯現役は無理かな、と思っている人も多いかもしれない。そこで、進歩の速度が速いテクノロジーの世界で、エンジニアが生涯現役でいるためのキャリアデザインのコツをレポートする。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関洋子)作成日:06.07.26
“生涯現役エンジニア”は本当に可能なのか?
広がる“シニア”の人材ニーズ
 エンジニアも生涯現役でいたい!――少子化の進行や年金不安などの社会現象をみて、こう思っている読者の皆さんも決して少なくないはずだ。実際、各種世論調査でも、定年を超えて長く働きたいという人の割合は確実に増えている。また、少子化の急速な進行は将来、深刻な人手不足が発生するのは確実。60歳以上の“シニアな人たち”の活躍の場は、多くなることはあっても少なくなることはない。

テクノロジーのキャッチアップは十分可能
 生涯現役を考えるうえで気になるのは、技術革新がものすごいスピードで進む中、エンジニアはシニアになると通用しなくなってしまうのではないかということ。結論から言えば、それほど心配する必要はない。現在活躍しているシニアエンジニアは、技術革新の荒波にもまれてきた世代だが、若手にはこなすことができないような大きな仕事をやっているケースはいくらでもある。テクノロジーのキャッチアップは、考えられているほど難しいことではない。

起業からボランティアまでさまざまな活動形態
 生涯現役を貫く方法はさまざまある。今のところ、シニアエンジニアを対象とした企業の再雇用制度をはじめ、退職金を元手に企業を興す、企業のベンチャー支援制度を活用する、シニアエンジニアをメインとした派遣会社に登録する――といった道を選ぶ人が多い。この流れは今後も変わらないだろう。また、後進のエンジニアの育成や子供たちへの科学教育など、ボランティアのニーズも増えている。手に職のあるエンジニアにとって、生涯現役の展望はかなり明るいものなのだ。
企業は高年齢者雇用をどう考えているか
出典:厚生労働省


主な企業の動き
技術があるから生涯現役、2人のプラチナエンジニアの軌跡
 シニア世代の活躍は、既に珍しいことではなくなりつつある。団塊世代より上の世代、すなわち戦前、戦中世代のエンジニアが、退職後も現役として仕事を続けるケースが増えている。なかには研究開発の上流を担うスーパーエンジニアとして活躍している人も少なくない。現役バリバリで活躍している2人のプラチナエンジニアに話を聞いた。
CASE-1 同じ仕事でも面白いこと、新しいことはいくらでも見つかる──成宮正興さん(67歳)
フードシステム開発歴37年。その中身は常に進化してきた

 現在の仕事は、フードシステムの開発およびコンサルティングです。生産システムというのは、狭義では食品の生産を行う装置ですが、私はもっと広くとらえている。ある食品の原料の調達から加工・製造・流通・販売された食べ物が食卓に上がり、人の口に入るまでの過程全体をその食品のフードシステムとして見るべきだと思っています。
 私がフードシステムの仕事に37年間、携わっていられるのは、何と言っても食が好きだったから。普段から書店に立ち寄って、食に関係する本があると見境なく、つい買ってしまうんですよ。大学時代に専攻したのは漁業や生物ではなく食品。卒業後、共済団体に5年、広島の商社に3年勤めましたが、エンジニアリングに携わりたいという思いから、前川製作所に入社したのです。
 入社当初はセールスエンジニアとして保守を担当しながら、エンジニアリングを勉強し、その後にプラントエンジニアリング全体を手がけるようになりました。
 長期間同じことをやっているとだんだん飽きるのではないかと思うかもしれませんが、そんなことは全然ありません。なぜなら、同じフードシステムの開発であっても、経験が長くなるにつれて、その中身はどんどん変わってくるからです。新技術が出てくるというのももちろんですが、それ以上に仕事の中身を変えるのは、長年の経験の積み重ねによる発想力だと思います。

幅広い視点をもつこと。それが生涯現役エンジニアならではの発想力の源

 工夫することはとても楽しい。私は新しいことを見つけると、チャレンジせずにはいられない性格なので、プラントを構築するときも、各々異なる工夫をしてきました。冷凍パン生地や中華饅頭など、イーストを使う製品の案件を担当したこともありました。生き物であるイーストが最適な状態で活動できるためには、原料の仕込みから製品になるまで温度の影響が大きいことを教えられました。そして単なる「冷やす」・「凍らせる」・「温める」だけでなく一工夫した設備・生産ラインを納入したのです。そういう工夫が、一見関係ないような「解凍装置」といった次の工夫につながった。発想力というのは、こうやって培われるのだと思います。
 私は、エンジニアはシニアになっても現役で働けると思いますし、働いてみるべきだと思います。ただ、シニアになっても現役でいるためには、言われたことをきっちりやるというだけではダメ。自分で課題を探したり、モノを正面からだけでなく、上下左右さまざまな方向から見るといった視点の広さをもつようにして、自分を高めていく必要があります。今の若い世代のエンジニアは本当に優秀ですが、そういう創意工夫が若干、足りないようにも見えます。アイデアというのは、どれだけたくさんの視点をもてるかということによって生まれてくるのです。
 もうひとつは、リスクヘッジを取っておくこと。この方法で大丈夫だと思っても、100%トラブルが起こらないとはいえない。万が一のために複数の手を考えておくのです。これはやはり経験がモノをいう。当社では20代から40代は勉強の時期で、50代からが、はじめて技の仕事の妙味を見せることができる時期だと言われている。そのとおり、豊富な経験を得たシニアエンジニアの活躍の場は、いくらでもあるんですよ。

成宮正興さん
西日本食品の品質・味開発グループ
成宮正興さん
広島大学水産学部卒業後、団体職員、商社勤務を経て、68年に前川製作所に入社。以後、フードシステムの開発に従事。おいしいモノづくりのためのシステム考案に尽力してきた。現在、老人食の味、食感改革に関心を寄せている。

“生涯現役の基”となっているコアスキル

株式会社前川製作所 会社概要
1924年創業。フードシステム関連をはじめ各種プラントエンジニアリング、冷熱関連装置の製造販売、環境コンサルティング、レジャーシステム開発などを手がけるシステムエンジニアリング会社。プラントの設計、製造、設置からコンサルティングまでを一貫して受託できる数少ない企業として知られる。また生涯現役を提唱し、技術部門、間接部門ともシニア社員の再雇用を積極的に進めていることで有名。最高齢社員は92歳。
成宮さんの30代、40代、50代
CASE-2 ライオンやトラは、死ぬまでライオンやトラ。人間も死ぬまで引退はない――古賀康史さん(74歳)
60歳からが本当に“自分のため”の仕事ができる

 私が人材登録会社「プロテック」を立ち上げたのは、ちょうど10年前の96年でした。日立製作所の中央研究所で長年、研究開発に明け暮れる生活を送ってきましたが、自分が退職を迎えてみると、まだまだできることはいくらでもあると思ったんです。
 仕事から引退する気はさらさらありませんでしたね。中央研究所のシニア世代仲間3人と、引退後も技術者としての力を生かせる会社を設立したいというのが創業の契機でした。今では日立出身者をはじめ、80人以上のスタッフを要する技術者集団になりました。
 ウチの研究者はエレクトロニクス、半導体、情報通信、自動車、光学、高機能材料、ナノテクノロジーなど、多彩な経歴をもっています。理学・工学博士、技術士などの有資格者も多い(30人超)。
 40年〜50年という研究開発の経験を生かして、文献抄録(内外の技術論文の抄訳)やベンチャー投資案件の技術的評価、大学や公的研究機関の研究支援、企業の技術コンサルティングなどに従事しています。中にはウチを飛び出して、遺伝子研究のためのナノデバイス製造会社を立ち上げた人もいます。
 エンジニアが会社にいる間の仕事は、会社や国家への貢献、また家族を養うため、いわば“Must”の仕事です。60歳になって定年を迎えて、よく“俺はこれから何をしたらいいんだ”などという人がいますが、とんでもない。会社を退職してからが、本当の意味で自分の人生が始まるんです。ライオンは生涯狩りから引退なんかしない。死ぬ前日まで狩りをし続けるでしょう。人間も死ぬ前日まで、自分の目標に向かって進んでいくべきなんですよ。

人的ネットワークを構築すれば、生涯現役が可能になる

 少子化や年金支給繰り延べ、定年延長などの世相をみても、エンジニアは生涯現役を意識しておくべきだと思いますが、いろいろな人やプロジェクトを見てきた経験から、いくつかその秘けつを紹介しましょう。
 第一に自分に向いている仕事は何かなどとは考えないこと。私だって、50年間研究開発生活を続けてきましたが、磁性粉体、半導体、基礎物性の仕事が自分に合っていたかどうかなんて、今でもわかりません。私は一仕事10年だと考えている。そこまでしないと、本当にその仕事をしたとはいい得ません。そうすると、定年まで働いても、携われるのはせいぜい3〜4つぐらい。そのうち1つぐらい「面白い」というものに当たれば、ラッキーなことなんです。
 第二に、自分の専門以外の勉強をする時間を、1日30分つくること。『nature』や『Science』といった科学雑誌に目を通すんです。先端技術の世界で、何に注目が集まって、どのような成果が生まれているかを常にチェックしておくことは、本当に大切ですよ。最初は全然わからなくても、何年かすれば自然に読めるようになってしまいます。
 第三に、プロジェクトで知り合った仲間などを大事にすること。シニアエンジニアが研究開発の上流で活躍するための最大の資産は、人材ネットワークです。大きな仕事をやるときは、必ず人的ネットワークが役に立つ。それをエンジニア人生のなかで、常に構築しておくべきです。
 シニアエンジニアは、数々の成功と失敗の経験に裏打ちされた感性と人的ネットワークをもっていれば、必ず活躍の場があります。人生の終わりまで仕事を楽しめるよう、ぜひ日々の仕事にまい進してほしいですね。

古賀康史さん
社長・理学博士
古賀康史さん
1932年福岡生まれ。九州大学理学部博士課程を修了後、日立製作所に入社。日立中央研究所で半導体、非晶質など材料系、また通信用半導体の研究などに従事、研究開発の企画立案も手がけた。市村賞、IR-100などの受賞歴あり。退職後プロテックを創業、自らも技術者として活動中。

“生涯現役の基”となっているコアスキル

株式会社プロテック 会社概要
「技術をもって世の中に恩返しをする」というコンセプトのもと、96年設立。内外の文献抄録データベース作成、銀行やファンドなど投資家に向けたベンチャー案件の技術的評価、公的研究機関、大学の研究やTLOの支援、高度な測定機器、試作機器の運転支援、企業の技術コンサルティングなどを手がける。また大学向けの実務教育教材や実験プラン作成をはじめとする教育事業、自社における新事業創出なども進めている。06年4月時点で85人のシニアエンジニアが所属。
古賀さんの30代、40代、50代
生涯現役エンジニアになるための5カ条
 生涯現役を貫くためには何が必要なのか。そういうキャリアプランを描くには、何かコツはあるのか。シニアエンジニアの人材派遣業を営んでいるマイスター60・人材情報センター長の生島貫一郎氏に話を聞いた。
第1条 ラインではなく現場にいること
生島貫一郎氏
株式会社マイスター60
人材情報センター センター長
生島貫一郎氏

大手電機、大手鉄鋼加工会社などで役員を務めたのち、マイスター60に入社。同社に登録している500人以上のシニアエンジニアのマンパワーについて、ニーズとのマッチングを見極めながらの積極活用を手がけている。自身もシニア世代である。
シニアエンジニアは再就職に不利というのは俗説。エンジニアは手に職があるため、生涯現役には実は有利だ。もっとも、そのためには自分のキャリアの価値を常に上げていく努力も必要。注意しなければならないのはキャリアの継続性だという。「エンジニアで、途中で管理部門など研究開発の現場から離れてしまった人は意外に苦戦します。開発の最前線にいることが大切」(生島氏)。若い時代からシニアまで、まさに“生涯現役”が求められるわけだ。

 

第2条 コミュニケーション能力を磨く
「技術開発はごく一部のレアケースをのぞき、一人でやるわけではありません。常にみんなが協力し合ってやるものです。コミュニケーション能力はシニアエンジニアにとって非常に重要な素養です」と生島氏。協力を取り付けたり、自分の意思を他人に伝えたりといったことは、先端技術を学ぶことと同じか、それ以上に大切。自分の知らないことは知っている人にやってもらえばいい。そのための人の輪を作るのが、コミュニケーションなのだ。

 

第3条 プライドは控えめに
人間、年を取るとプライドが高くなり、ついつい横柄な態度を取ってしまうもの。が、生涯現役を貫くのに、この態度は命取りになる。「セカンドライフは大抵、定年前までとは違う環境で過ごすことになります。“オレは偉いんだ”といった態度を取るようでは、周囲の協力を得られるはずがない」(生島氏)。シニアエンジニアは長年の経験を生かしてのプロジェクトのとりまとめや若手の教育といった指導的案件にかかわるケースが多い。それだけに腰のほうはいっそう低くしておきたい。

 

第4条 資格取得は積極的に
「今後、生涯現役がスタンダードになるにつれて、ジョブスキルを公的に証明する各種資格が新設される可能性があります。そういう資格は積極的に取得しておいたほうがいいと思います」(生島氏)。エンジニアは自分のスキルのレベルの高さのほうを重視して、資格をあまり取らない傾向があるが、社会状況の変化に応じて、資格にも柔軟に対応すべきである。

 

第5条 健康であれ
長く現役でいるためには、資本である身体が健康でなければ話にならない。ある意味、当たり前のように思えるが、「健康は案外、大きな問題ですよ。特にエンジニアは徹夜続きなど、生活が不規則な人が多い。若いうちから健康には留意してほしいですね」(生島氏)。年を取ってから不摂生のツケが回って働けないということがないよう、エンジニアの皆さんは生涯現役を目指し、摂生を心がけよう。
 これらの5カ条の中には、若手のうちから、取り組んでおかなければならないことも多い。まずはマネジメント職を志向するのか、スペシャリストとして生きていくのか、早めにキャリアプランの大枠を描くこと。次にコミュニケーションを磨き、人的ネットワークを築くことだ。第三に一日最低でも30分は自分自身の勉強のための時間を確保したり、資格を取得したりするなど、日々のスキルアップを欠かさないこと。最後に健康に留意し、自らを振り返ることを怠らない。今日からこれらを実践することで、プラチナエンジニアへの道が開けるだろう。
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  関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ  
関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
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今回、取材したプラチナエンジニアは、まさに戦後の復興を支えてこられた方々です。40年にもわたる職務経歴がありながらも、今も技術についてキラキラと面白そうに語る姿に感動。「自分に合った仕事なんて、今でもわかりませんよ」という言葉は、締め切り続きで「こんな仕事、もういや」と思いかけていた私の心にぐさっと刺さりました。生涯現役でいられるのは、うらやましいことですよね。皆さんは、生涯現役でいたいと思っていますか?
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