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楽天市場の巨大化、ポータル事業の拡大、米韓中への海外展開 2006年 楽天のエンジニア大量採用計画の全貌
楽天市場やInfoseekなどのインターネット事業を手がけ、他業種にも積極的にM&Aを仕掛ける楽天が、エンジニアを切実に欲している。各事業が成長し、プロジェクトがいくつも立ち上がるというのに、その担い手が足りないというのだ。エンジニアにとってはまたとないチャンス。大量採用の背景を取材した。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ)作成日:06.06.21
Part1 「世界一」を目指した成長が止まらず事業が増加中
 楽天のイメージは?と聞かれて何と答えるだろう。日本最大のショッピングサイト、成功したネットベンチャー、Webでの多様なサービス……。開発本部長の安武氏は、「楽天はサービス企業であり、楽天での開発はインターネット上での商品開発」と語る。つまり、新しい商品を自社でつくり続けて収益を上げていく、モノづくり型の企業なのだ。
増殖を続ける楽天、そのシステム投資は2005年で数十億円
 開発本部長の安武弘晃氏は、楽天市場を中心とするEC事業カンパニーとInfoseekを中心とするポータル事業カンパニー、楽天グループ共通で使う会員システム・ポイントシステムなどの共通機能などの技術開発、そして、それを運用するインフラ構築・管理を取りまとめる。
「皆さんは楽天市場が毎日稼働しているのを当たり前だと思うでしょうが、膨張し続けるシステムを安定運用させるのは、並大抵のことではありません。これほどの規模のシステムはそこらへんにはないので、技術を真似してコピーするだけでは実現できません。自分たちで試行錯誤しながら構築するしかない。機能変更やバージョンアップを繰り返し、アプリケーションの開発を行い、そこに新しい技術を盛り込む。これを毎日行うのが、弊社のエンジニアたちです」  

 楽天を支える技術は容易なものではない。例えば、楽天ではデータセンターの配線設計から自社で行っているが、その設計は専門家に「ここまでの規模で将来的な拡張を予定して設計する企業は少ない」と言わしめたほど。また、1日で約200台以上のサーバーが運び込まれることもあるという。本業の開発業務もそうだが、ここまで自社で行うインターネット系企業も少ない。
安武弘晃氏
執行役員 開発本部長
安武弘晃氏
「世界一」を目指して広がるサービスと海外事業
 楽天は世界一を目指して多種多様なサービスを展開している。例えば、ポータル事業カンパニーでは、ポータルサイトのInfoseekや東北楽天ゴールデンイーグルスの動画配信などを行う「メディア事業本部」、検索エンジン、楽天リサーチ、RSS、乗り換え案内などを開発する「ツール事業本部」、SNSやブログなどを含む楽天広場を主とした「コミュニティ事業本部」などがある。
  こうした事業が急拡大する一方、楽天証券、楽天トラベル、楽天KC(クレジットカード会社)などM&Aにより楽天グループ入りしたサービスも好調。多様に展開するサービスをより便利に提供していくために、技術部隊の仕事範囲は広がる一方なのだ。

  楽天の進撃はここで終わらない。「企業グループの流通総額一兆円」を目指す楽天は、海外展開も仕掛けている。中国と韓国では既に楽天トラベルと楽天リサーチを運営中。米国では昨年、アフェリエイトサービスを行うリンクシェアという米国企業を買収した。
「世界一に向けた足がかりです。日本と現地との人材交流は頻繁ですし、テレビ会議も行っています。ただし、海外であっても主業務がインターネットサービスであることは変わりません。主な技術職はソフト開発、システム構築、インフラの開発・運用になります」
数年後には現500人のエンジニアを2倍、3倍に
 安武氏の語る技術職種はインターネット系企業でおなじみのもの。しかし、楽天の場合は業務の範囲が幅広い。
 ソフト開発はWebアプリがメインとなるが、技術開発にとどまらず、サービスの企画からかかわり、プロジェクトを管理して、実際の稼働までを担当する。自前でネットワークを構築するシステムやインフラ系職種なら、購入機器の契約や予算の管理まで行う。その規模の大きさから各種ベンダーが数多く訪れるが、その交渉までを任せたいと言うのだ。
「われわれのクライアントはコンシューマーです。受注した要件でシステムをつくるのではなく、要件は自分で生み出すもの。だから、サービスを創る発想力、何かを始めたいという意思、これらが技術の上に乗っかっているエンジニアに来てほしい」

  楽天のエンジニアの数は、現在約500人。上記のような多種多様な事業がここ数年でスタートし、昨年の6月からエンジニアの大量採用に大きく舵を切った。
「1年たちましたがまだまだ足りません。今後の1年で150人は採用したいですし、将来的には1000人を超える体制になると思います。そうしないと市場を先取りできませんから」
 安武氏は「コンビニを使ったことのない人はかなり少ないだろうが、楽天を使ったことのない人は多い。伸びしろは大きい」と語る。楽天の成長が止まることは当分考えられない。
楽天ほどの大規模案件に携われるエンジニアはまずいない
「ユーザーの反応をビンビン感じます。トラフィックはものすごい量だし、リリースするとアクセス数がガンと上がったりする。楽天で買い物をして喜んでいただいた声を直接聞いたこともあります。『世の中を動かすモノに携わっている』という実感が最高です」(安武氏)
楽天の事業系統図
Part2 自分が主役。新しいサービスを生み出せるのが楽天
 2001年5月に入社した越川さん。前職でのポータルサイト構築やシステムのアプリ開発を生かした転職を希望。楽天入社後は一貫してメール配信業務を担当する。メール配信にこだわった理由を、「自分のつくったものは息子や娘のようなもの。愛着がありましたから」と語る。
ミスの許されないメール配信業務を5年間担当
 5年間勤めた前社の後半で、会員向けのコミュニティーポータルサイト構築や、Webシステムのアプリ開発を経験した越川さん。その技術を伸ばしたいと、ポータル系IT企業を狙って転職活動を開始した。いくつかの企業に応募したが、当時は楽天を知らなかったという。
「前社での知人が大手ポータルサイトに転職したのですが、その彼が『うちの会社は打倒楽天を掲げている』と言うんです。えっ、あのナンバーワン企業でも勝てない相手があるのかと驚いて、初めて楽天を知りました。その強い興味が応募のきっかけです」
  入社後は、「楽天のメルマガ」のメール配信業務に従事。彼を含めた全4人でプロジェクトを担当し、昨年まで4年間続けることになる。また、途中から並行して加入店舗向けのメール配信システム「R-Mail」にも携わる。楽天独自のRMS機能をもつ配信システムで、彼は立ち上げ段階から参加。当初の月次配信数は約2億通だったが、現在の配信数は20億通に達しているという。こちらも1年前に担当を離れ、昨年4月にツール事業部に移った。

 楽天での技術の難しさを越川氏は、アプリを書くうえで通常は意識しないところに触っていくこと、と語る。例えば「送信ボタンをクリックするとメールが送られる」というのはごく当たり前のイメージだが、中の仕組みまで知らないときちんと書けないなどだ。
「それとプレッシャーがすごいんです。サイトの間違いは気づいてすぐ修正できますが、メールは配信後の変更がききません。相手が億単位なのでなおさら気が抜けませんね。ただ、ここと同規模のサーバーはほかで見かけず、構築するのも自分たちが初めてですから、その分だけ充実感もあります」
越川直紀氏
ポータル・メディア事業カンパニー
ツール事業本部
ツール事業部門
ツール事業部
越川直紀氏(30歳)

技術系専門学校を卒業後、インターネット系IT企業に入社。パソコン通信やISPのシステム構築、アプリケーション開発などを担当する。5年間勤務の後、2001年に楽天に転職。主にメール配信事業にかかわり、昨年4月よりツール事業本部に異動。
今後はネットワーク業務にもチャレンジしたい
 楽天では部署の異動を希望することができる。新しいサービスや事業が次々と展開される同社では、別の業務や未知の技術に携わりたいと考えるエンジニアも多く、事業間や部署間の異動は珍しいことではない。しかし、越川氏は入社以来ずっとメール配信にこだわってきた。
「う〜ん。執着というより愛着です。開発したものって、自分の子供のように感じてしまいますからね。ただ、そろそろ新しい分野も考え始めました。有力候補はネットワーク。前の会社ではインフラ回りもやっていましたが、楽天ではWebアプリだけ。もう一度、ネットワークの知識を根幹から吸収したいと思っています」
 楽天でのプログラム言語はPHPとJavaが標準。PHPは知っていたがJavaは趣味程度でほぼ未経験だった越川氏は、「覚えられるものですよ。ただ、何冊もの本を読んで必死に勉強はしましたけど」と笑う。別の分野への挑戦に彼が臆するはずもない。

 楽天の魅力を、「自分が主役でサービスに携われること」と語る。大企業と呼ばれる現在、仕事は歯車の一部と見られることもあるそうだが、それは違うという。 「個人の責任は重いですが、仕事を任せてもらえるし、意見も尊重してくれます。会社が大きくなってよかったのは、親に勤め先をわかってもらったことですね。ネットをしないので入社当時は楽天と聞いても『?』でしたが、今ではさすがに知ってます(笑)」。
楽天のエンジニアは「体育会系」ではありませんよ
 越川氏の現在の主な業務は「Infoseek エリア」と「Infoseek ポイントメール」のメール配信業務。ツール事業部に配属後は「Infoseek エリア」のスタートから参加し、次に「Infoseek ポイントメール」でユーザー側と社内側のシステム構築を担当した。ほかに翻訳サービスなどを複数の業務と、業務委託したプログラマのマネジメントも行っている。
「なぜか楽天のエンジニアは『忙しい体育会系』と思われているようです。そんなことないですよ。私が保証します(笑)」
「Infoseek エリア」のトップ画面
「Infoseek エリア」のトップ画面
「Infoseek ポイントメール」のトップ画面
「Infoseek ポイントメール」のトップ画面
Part3 ぜひ採用したいのは「やりたい何か」をもつエンジニア
 楽天が採用したいエンジニアは、「やりたい何かをもっていて、それを実現するためのアイデアが出せる人」。もちろん基礎となる技術は必要だが、さほど重視はしないという。みずからも転職者である盛氏は、「予想していない事業やサービスが起こるので、キャッチアップも大変」と笑う。
技術力よりむしろ「きちんと語れること」を重視
 楽天は昨年6月から大量採用に大きくシフトした。その背景は全社的な事業規模の拡大、とりわけ楽天市場の成長にある。また、急速に進むインターネット業界の流れより速いスピードで進みたいという経営方針もある。
「1カ月に10人はエンジニアを採用したいです。ただ、これまでの不足分もあり、月に15人くらいでもいいくらい。決済業務や在庫管理などのシステム開発に携わった方、何らかのWebアプリ開発を経験した方、UNIXやLinuxサーバーの構築・運用経験のある方など、全方位的にソフトウェアエンジニアを求めています」

  Part2でも説明したが、標準言語はJavaとPHP。ただこれは一般的な開発で使用されるシェアの大きさが主な理由。C++でもCOBOLでも、何らかの言語を習得していれば「技術の根っこ」はあるはず。ならば採否の問題にはならないと盛氏は語る。
「基礎的な技術力は前提ですが、あえて言えば技術力はさほど重視していません。見るのは『今まで何をやってきたか』をきちんと語れる人かどうかです。経歴が技術力の判断材料になるというよりも、これまでの実績を整理して、相手にうまく伝えられる点がポイントなのです」
  仕事の規模の大きさや、技術レベルの高さではなく、コミュニケーション能力が問われるというわけだ。こうした採用方針のためか、社内ではエンジニア同士のコミュニティーが活発で、転職者でもすぐになじむそうだ。
盛 真希氏
ぴーぷる部
盛 真希氏
次々立ち上がるプロジェクトが背中を押す会社
 採用でもうひとつ大切な点は、「新しいサービスを提供したい」「プロジェクトをまとめて形にしたい」といった意志の強さ。技術オリエンテッドな没頭型エンジニアではなく、主体となって事業やプロジェクトのアイデアを出すクリエイタータイプだ。 「エンジニアの世界では個人に依存する傾向が強いと思うんです。この人でないとわからないから、多少の弊害は目をつぶっても仕事を任せるなどです。これは楽天の社風ではありません。ならば必要な技術を身につけて、自分がその人に代わり、もっと効率的に仕事を回そうとするのが楽天のエンジニアです」
 自らが動いて事業を起こす。そのためには関係者に気持ちを伝えて理解してもらい、逆に相手の意図をくみ取らなくては事が進まない。ここで発揮されるのがコミュニケーション能力というわけだ。
 盛氏も転職者で、2005年1月に入社した。振り返るとあっという間だったという。
「考えなければいけないこと、実行しなければいけないことが山のようにある会社です。課題も多いのですが、得るものはとても大きいです。だから、受け身でいると面白くない会社ですし、『言われたことだけやればいい』と考える人には不向きだと思います。楽天だけでもさまざまな事業が存在し、サービスの異なったグループ会社もありますので、予想しないプロジェクトやサービスが次々と立ち上がります。自然と『やらなきゃ!』と背中を押されます」
グループシナジーで多様な技術と実務経験が磨ける
 楽天におけるエンジニアの担当は「買い物カゴ」や「RMS」などプロダクト単位となる。採用段階で転職者の希望職種と適性を判断して配属が決まる。ただ、配属後も別部署への異動も多く、EC事業からポータル事業へ、またはプロデューサーからサーバーエンジニアへなど、担当業務から職種の変更まで幅広い。これはグループ間のシナジー効果を狙ったもの。EC、ポータル、インフラのほか、楽天証券や楽天トラベルなど多くの事業に横断的にかかわることで、社員の経験を共有ノウハウとして、「やりたいこと」への創造力を高めてもらうことが目的だ。
「楽天市場」のトップ画面
「楽天市場」のトップ画面
「Infoseek」のトップ画面
「Infoseek」のトップ画面
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よく旅行に行くので「楽天トラベル」を使います。「楽天市場」も「楽天証券」も「楽天イーグルス」も知っています。しかし、楽天さんの事業がこれだけ拡大し、成長し続けているとは……。そうそう、毎月「楽天賞」が三木谷社長より表彰されるそうですが、MVP賞を取ると「楽天ポイント1万5000点」がもらえるとか。う〜ん。ほしいかも。
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