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材料、化学、プラント系エンジニアに電池業界が熱烈ラブコール! 家電もクルマも携帯も!次世代電池が常識を変える
今や生活と切っても切れない重要なデバイス、電池。その電池を巡って今、技術開発競争が活発に行われている。高電圧、長寿命、短時間充電を実現した次世代電池は、未来のライフスタイルをも一変する可能性をもつ。そんな次世代電池開発に携わる面白さと、そこで求められる人材を探る。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関洋子)作成日:06.06.07
国内1兆円も見えた!?次世代二次電池は“宝の山”
■開発合戦が繰り広げられる二次電池開発
 電気は人間が文化的な生活を送るにあたり、最も重要なライフラインだ。その電気をためて、使いたいときに使うことができる電池の重要性も、時代とともに赤丸急上昇。今では電池なしの生活など考えられないと言っても過言ではない。

 今、その電池を巡って、激しい開発競争が繰り広げられている。特にホットなのは、充電によって繰り返し使用できる二次電池だ。二次電池は便利だが、その性能はまだまだ一般ユーザーを満足させるだけのものになっていない。いい例は携帯電話で、数時間通話すると電池は空になり、数時間ほどかけて充電しなければならない。しかも製品寿命よりはるか前に、電池の寿命が尽きてしまう。言うなれば、あらゆる性能が欠点だらけというのが今の二次電池の状況なのである。それだけに、作り手にとって二次電池はまさに“宝の山”。それらの欠点を解消すれば、市場で即座に圧倒的優位に立つことができるからだ。

 電池工業会によれば、二次電池の市場規模は2004年時点で5200億円。富士経済研究所は、2010年にはハイブリッドカー、産業用機械、電力貯蔵といった大容量向けだけで6700億円に増大すると予想している。小型向けなどすべての品目をトータルすれば、1兆円をはるかに超えるようになるのでは、との声もある。なぜなら現時点での予測は、あくまで今電池が使われているものの品目を見てのもので、二次電池の性能が上がれば、コードレス化したほうがいいという製品が増える可能性があるからだ。
■電池開発は材料系・化学系エンジニアにとってフロンティア
 熱いのは二次電池だけではない。太陽電池の販売は年々拡大。燃料電池については、2010年以降にいよいよモバイル向けの小容量タイプが登場し、市場を形成していくと考えられている。代替エネルギーや環境という視点からも、電池開発はまだまだ盛り上がる産業なのだ。
二次電池と二次電池代替のエネルギー変換装置の種類
常識を変える!?エンジニアたち
 
 材料、物性から構造まで、一見シンプルながら、あらゆる部分がノウハウの塊という電池。その技術革新は決して簡単ではないが、エンジニアにとってはチャレンジする価値が大いにあるフロンティアだ。そのフロンティアに挑む、エンジニアの姿を紹介しよう。
Case1.触媒開発から転身し、次世代二次電池の技術革新に取り組む
■「リチウムイオンの祖」というプライドをもって技術の限界に挑戦
 90年代初頭、リチウムイオン電池の市販化にいち早く成功したソニー。現在もリチウムイオン電池市場ではトップグループの地位を維持している。リチウムイオン電池はエネルギー密度、出力密度とも量産型二次電池の中ではもっとも大きく、性能がいい。また、メモリー効果と呼ばれる劣化の度合いがほかの方式に比べて少ないというメリットがある。が、寿命、容量とも、ユーザーを満足させるにはまだまだ足りない。

「リチウムイオン電池でニッケル水素やニッカド全盛だった二次電池にくさびを打ち込んだソニーですから、次世代モデルについても既存のリチウムを超える革新的なリチウムイオン電池でなければと思っています」
 次世代リチウムイオン電池の開発を進めているエナジー事業本部の尾花良哲さんは語る。

 現在、尾花さんが手掛けているミッションは、平均3.7Vという現行のリチウムイオン電池の電圧を0.1〜0.2V引き上げるというもの。引き上げ幅は非常に小さく見えるが、簡単にできるものならとっくにどこかのメーカーがやっている。電池の世界ではセル単体の電圧引き上げは、きわめて大きな難問なのだ。
■専門の壁を打破してボトルネック解消を実現
 リチウムイオン技術では先行していたソニーにとっても、電圧引き上げは困難をきわめた。普通にやっていたのではダメだと考えた尾花さんは、単に膨大な試料のパターンをテストするというそれまでのやり方に見切りをつけ、基本に立ち返って、どこに問題があるのかを徹底追求した。

「電池は有機、無機その他、いろいろな分野の専門家が寄り集まって作るのですが、従来はそれぞれの専門家集団の中でしか問題検討がなされていなかった。そこで私は、専門分野の間で問題を共有化して、横断的に対策を見つけてみようと思い立ったんです」(尾花さん)

 尾花さんが専門分野を越えたコミュニケーションの取り持ち役を務め、時には専門家同士が直接討議をするようになった。すると、それまで個別技術では判明しなかった技術のボトルネックが次々に見つかり、セル単体の電圧上昇の見通しが立った。今後発売される新セルを用いたバッテリーは、現行品に比べて1割ほど長寿命化しているという。数字自体は小さいが、次世代二次電池の技術革新としては、まさに大きな一歩を踏み出したと言えよう。
尾花良哲さん
ソニー株式会社
コアコンポーネント事業グループ
エナジー事業本部
開発部門 第2開発部 3課 係長
尾花良哲さん

大学院では化学を専攻。石油化学メーカーで有機化学合成のための触媒開発に携わり、試作からプラントエンジニアリングまでを広く手がける。博士号を取得後、今まで培った技術を生かして、新たな電池を開発したいと思いソニーに入社。未経験ながら次世代リチウムイオン電池の開発をとりまとめてきた。
現行のリチウムイオン電池
現行のリチウムイオン電池。尾花さんはこの電圧を0.1〜0.2Vの引き上げに取り組んでいる
尾花さんが考える未来の電池
送電網が行き渡っている日本では、いつ充電したか意識しないでもすむくらいの特性の電池が主流になるでしょうね。将来的にやってみたいものとしては、常時充電されるような電池を作ること。例えば当社が研究している燃料電池と次世代リチウムイオン電池を合体させて無停電で電気を供給できるモジュールを作れば、送電網の発達していない発展途上国でも大規模なインフラ整備なしに電化できます。エネルギーの持ち運びは夢が広がりますよ
尾花さん
Case2.モバイルにも使える「超薄型」で燃料電池時代を開く
■昨年から進化。実用性能も備えるマイクロ改質器
 得意の微細加工技術を生かしてメタノール改質方式による燃料電池モジュール開発に力を入れているのは、電子機器メーカー大手のカシオ計算機(以下、カシオ)だ。昨年、ノートパソコンを駆動できる燃料電池モジュールのプロトタイプを発表し、将来的に市場に投入することを表明した。

 今年5月、今度はメタノールから燃料となる水素を取り出す超薄型、超小型の「マイクロ改質器」のプロトタイプを発表した。手のひらのたなどころに収まってしまうような、きわめて小さなデバイスである。
「デジカメなど、コンパクトな電子機器にも実装できるよう、超薄型にしてみました。また、モバイル用途を考慮して、改質の立ち上がりを早めました」というのは、開発を担当した寺崎努さん。

 マイクロ改質器という名前のとおり、改質器としてはきわめて小型である。改質を行う部分は1.5mm、0.7mm、0.6mmという極薄のガラス材料にアルコールの通り道となる溝を切り、半導体製造などで使う陽極接合によって張り合わせるという方法で作られている。また、改質部分は約280℃という高温になるため、真空ケースに封入して断熱。さらに輻射熱を抑えるために金をコーティングして熱対策を行い、モバイルユースに対応した。
■さらに小型化、将来は携帯電話にも積んでみせる
 燃料電池の改質器の原理は簡単だ。水メタノールを触媒にあて、水素、水、一酸化炭素、二酸化炭素に分離させるというものだ。が、原理は簡単でも、小型化は難しい。ましてや、マイクロ改質器クラスのサイズに縮小したうえで安定した改質を行うのは、大きな困難を伴う。

「真空断熱を行うため、わずかな気体のリークも許されない。そのような接合・封止を実現するのが非常に難しかったですね。さらに、複数のガラスを張り合わせた改質部は高温になりますが、熱応力を考えて作らないと簡単に割れてしまうんです」(寺崎さん)

 改質器は水素を取り出すための経路と燃料電池を傷める一酸化炭素(CO)を除去する経路があるが、温度はそれぞれ280度、120度と、かなりの差がある。シミュレーションにより最適な熱設計を行い、途中に熱伝導を制限するための穴を設けたことで、熱対策のメドをつけた。こうした経験と実測に裏打ちされた工夫が、この小さなデバイスに山のように盛り込まれているのである。

 カシオは2007年にも、この改質器のサンプル出荷も始める。が、寺崎さんの心は「携帯電話や小型デジカメにも実装できるくらいの1.5W級燃料電池モジュールに使う改質器を作れないかと試しているところです。ちょっと先になりそうですが」と、既に未来に飛んでいる。難しいと言われ続けてきた燃料電池だが、その時代は案外目の前にきているのかもしれない。
寺崎努さん
カシオ計算機株式会社
青梅事業所 第二工場
要素技術統轄部
第三技術開発部
第二開発グループ
寺崎努さん

大学院では低温下での物性物理学を専攻していたが、就職時はモノづくり志向で、身近な製品を作っていたという理由からカシオに入社。入社後は燃料電池モジュール開発チームに配属され、マイクロ改質器向けのガラス加工、接合技術などの開発に取り組んできた。
マイクロ改質機
寺崎さんが開発した、手のひらのたなどころにすっぽり収まる超小型・超薄型のマイクロ改質器
燃料電池モジュールの実用化、小型化に取り組んでいますが、将来的には電池なら何でも燃料電池に置き換えてみたいというのが夢です。メタノール改質型燃料電池は残量が一目でわかりますし、メタノールカートリッジの交換も簡単なので、最後まで安心して使い切ることができます。携帯電話に搭載可能なサイズに落とし込むには、途方もない苦労があると思いますが、既に実現できるという感触は持っています
寺崎さんが考える未来の電池
寺崎努さん
次世代電池開発で求められる人材とは?
■電池メーカーでは人材ニーズが高騰
 需要が急速に高まる一方で、技術革新の余地もたくさん残されている二次電池だけに、電池メーカーは各社とも研究開発に大いに力を入れており、人材ニーズも急増中だ。また、燃料電池、太陽電池といった、二次電池代替のエネルギー変換装置についてもしばしば求人が発生している。

 二次電池の構成要素はおおむね電極材料(分子構造含む)、電解液、構造設計などで、電気化学の知識がベースとなる。燃料電池は触媒材料、高分子材料、薄膜など、太陽電池はシリコン、アモルファスなどの材料系がメーンだ。また両者とも、MEMSなど微細加工技術の経験を生かすことができる。モジュール開発では、品質にばらつきのある複数のセルから効率よく出力を取り出すための出力安定装置など、電気工学的な知識も大いに活用できる。

 また、実際にはこれらの専門分野に限らず、さまざまなジャンルのエンジニアが電池メーカーへの転職に成功したり、社内で電池開発セクションに配属されたりしている。ソニーの尾花さんは中途採用だが、前職は石油化学メーカーで有機化学合成を担当していた。「電池はまったくの門外漢でしたが、面接のときには『既存の改良ではなく、斬新なアイデアを持ち込んでほしい』と言われました。“素人”だからこそできることもある」(尾花さん)。カシオの寺崎さんは低温環境での物性物理を専攻。入社時にはカシオが燃料電池モジュールの開発をやっていることすら知らなかったが、今では開発の中核を担っている。
■電気化学、材料工学がベースに。しかし本音は“経験より人間性”
 電池メーカー、エネルギー変換装置メーカーの開発関係者は、欲しい人材について専門スキルより先に「既成概念にとらわれない人、あきらめの悪い人、意見交換をしっかりできる人」といった、エンジニアの人間的な素養を挙げる。「電池の開発で重要なのは、課題を発見し、原因を特定すること。それができれば、問題は解決したも同然です。そういうスタンスで勉強や経験を積んできた人材なら大歓迎です」(電池メーカー関係者)

 問題解決のプロセスこそがいちばん大事という二次電池やエネルギー変換装置の開発は、モノづくりの根源的な面白さを味わうことができる分野。興味を抱いた人は、電池開発者への転身を考えてみてはいかがだろう。
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  関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ  
関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
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小学生の低学年のころ、私はよく、電池と豆電球で遊んでいた。ただ単純に豆電球がつくのが面白かったからだ。今回の取材では、その当時のことをふと、思い出した。彼らが開発する新しい電池によって、どんなふうにライフスタイルが変わっていくのか、楽しみだ。
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