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鞄が重すぎるインターネットの第一人者と鞄職人が徹底討論! エンジニアがカッコよく見える鞄はないのか!
書類だけでなく、PCほか仕事の道具など、ついついかさばりがちな、エンジニアの鞄。そんな“重荷”を少しでも持ちやすくするには……。そのヒントを探るため、約10kgの重さにあえぐ日常から「鞄についてはひと言語りたい!」鞄王と、鞄の専門家に、鞄の機能、そして中身を減らす技術革新の両面から、語り合っていただいた。
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:06.05.31
Part1 「エンジニア鞄王」、大荷物の悩み・課題を語る
■10kgの鞄を持ち運ぶ理由
――本日は、通常で10kg、ちょっとした出張となれば20kgの鞄をさげている「エンジニア鞄王」、奈良先端科学技術大学院大学の砂原秀樹教授と、鞄の専門家として、松下ラゲッジ株式会社企画製造部の松下士朗さんにお越しいただいています。  まずは砂原教授から、「そもそもなぜそんなに荷物が重いのか」について釈明、いや、説明をお願いしたいと思います。10kgといえば2リットルのペットボトル5本分に相当するわけで……。
砂原: とにかく細々と入っているわけですが……大きく分けると、PC関係、頻繁に出し入れする小物の入ったポケット類、そのほか書類などの3つに大別できると思います。
  同じく大荷物に悩む仲間と話したことがあるのですが、「オフィスにいない率」と鞄の大きさは比例するということがいえるのではないかと思う。「移動時間=仕事時間」なので、そこで仕事ができるために、必要なものを持っていないといけない。
  私の場合、大学の部屋にいるよりも、各種の委員会やシンポジウム、研究会、さらに共同研究の相手のところと、国内外を飛び回っていることのほうが多いんです。そうやって出先で会議をするたびに、「前回の議事録」だ何だと紙の資料を渡されて、中身が増えていくこともよくあります。
 ただ、整理できない性格の問題もありそう(笑)。事前に周到な準備をして、そのとき必要な道具だけにすればもっと絞れるかもしれませんが、それができない。とにかく必要になりそうなものは全部入れておいて、例えば、急に「明日から海外出張だ」というときにもその鞄をそのまま持ち出せばいい、という状態にしておきたいわけです。
松下: 「想定される用事に常に対応できる道具を持っていたい」という気持ちはわかります。
(写真左)砂原秀樹
工学博士、奈良先端科学技術大学院大学・情報科学研究科教授。1984年、日本初の研究用インターネット「JUNET」を、慶應義塾大の村井純教授らとともにつくったインターネット研究の草分けのひとり。
(写真右)松下士朗
バッグの企画、製造、販売を行う松下ラゲッジ株式会社(東京オフィス)、企画製造部Aチームリーダー。サイト「百式」と共同で、“パソコンが入る理想のトートバック”の研究開発も手掛ける。
■いつも傾いて歩いている!?
砂原:去年、ショルダーストラップの金具が突然真っ二つに割れたときは、さすがに驚きました。
砂原: 紙の書類は極力すぐに電子化していますが、それができなくて、「これはいつの資料?」「最新の資料はどれ?」と満杯の鞄をしじゅうかき回している仲間も……。そんな悩みまで鞄屋さんに面倒を見てくれというのは、筋違いだとわかってはいるのですが。
 常に鞄は満杯状態で持って歩いているので、壊れるのも早いです。そんなこともあって、出張先で鞄屋があればのぞいてみるし、鞄に関する情報交換はよくしていますよ。
松下: 鞄の強度は「容量が何リットルだから、中身はほぼ何kg」という具合に、大きさで測って試験を行うんです。それを上回る中身を入れていると、やはりどうしても寿命は短くなりますね。
 しかし、これだけ重たいと、体に悪いんじゃないですか?
砂原: 確かに。それもひとつの悩みの種です。これだけの荷物をショルダーで担ぐとどうしても体が傾きますし、腰にくる。実際、同じ悩みをもつ仲間にはぎっくり腰になったのもいるし……。
  しかも鞄自体の寿命だけでなく、これを担いでいると、肩の部分でスーツが引っ張られるので、背中の縫い合わせがほつれてくるんですよ。
松下: それは……うーん、深刻ですね。
「鞄王」砂原秀樹教授の鞄の中身一式
 砂原教授が普段持ち歩いている鞄(写真(1)(2))と、その中身(写真(3)〜(5))。この日は「多少軽くて」10kgを少し切る重さだった。出張時には鞄のエキスパンド部に着替えなどが入る。
  とにかく「これでもか」とばかりに次々出てくる中身は、PC、携帯電話などの電子機器やその備品類が最も大きなウエートを占める。携帯電話が3つもある(写真(4))のは、仕事用と個人用を分けるため、およびキャリアーごとに違う機能を使うため。
  正体不明の道具も多いが、それぞれの用途、皆さんはわかりますか? ちなみに写真(5)上の細長い物体は携帯スキャナー。
「ネットワークによって便利になる(つまりは、荷物も軽くなる)」のが研究のテーマでありながら、それを実現するための過程として、自分自身の荷物はどんどん重くなるというジレンマに日々悩む……。
 
Part2 エンジニアのために、こんな鞄が欲しい!
■“持ちやすさ”だけでなく“カッコよさ”も欲しいし……
松下:だいたい5kg以上になったら、持ち上げて運ぶのはあきらめてキャリータイプにすることをお勧めします。
――と、日々重い荷物で苦しんでらっしゃる砂原教授ですが、鞄の専門家の松下さんから見て、「こんな鞄なら持ちやすいのでは」といったご意見は?
松下: ショルダーで片方の肩に掛けていると、重い荷物は体への負担も大きい。リュックタイプにしようというお考えはないんですか?
砂原: 今もこの大荷物は十分“カッコよくない”んですが(笑)、リュックタイプとなると、さらに、スーツに合うかどうかが引っかかるんです。
松下: では、キャスターの付いたキャリーバッグ/ピギーバッグはいかがですか。最近では「どうしても荷物が重い」という場合、このタイプを利用されている方も多いと思います。昔はトラベル用でしたが、最近はビジネス用に使えるデザインのものも増えてきましたし。
砂原: 転がすタイプは、確かに体に重さはかかりませんが、意外に不便という気がしています。バリアフリーが盛んにいわれている世の中ですが、あれを持って歩くと、「まだまだバリアフリーじゃないな」ということが実感できる。キャスターが引っかかる段差や、結局、手で抱えないと越えられないギャップや階段がいくらでもある。しかも、都内の駅のように混雑した場所だと、人に引っかかって危ない。
 転がす振動や、引っかかって荷物が転倒することを考えると、中に入れているPCの安全性にもかかわります。できれば両手は空けておきたいというのも、このタイプを持たない理由です。
 それともうひとつ。ベルトからゴムのズボンにはき替えるのと一緒で、さらに荷物の量に歯止めがかからなくなってしまいそうで……。
松下: なるほど……。やはり結局はショルダータイプに落ち着くというわけですね。
砂原: そうなんです。
■オーダーメードに挑戦!?
砂原: そこまで荷物を持つなら、鞄は自分でデザインしてオーダーしろよ、と言われることも多いんです。さすがにそこまではなぁ……と。
松下: 実際、「気に入った鞄がなくて……」とおっしゃる方は多いんですよ。既製品の鞄だと、どうしても大きさも普通の書類サイズに合わせて決まってしまいますし。
 鞄屋として言わせていただければ、サンプルとしてモノをひとつ作るのは、意外に簡単にできるんです。型代がものすごくかかる、というものではないので。プロのデザイナーとの間で鞄作りを進めるときも、サンプルを2、3回は作り直して具合を見ます。
 そんな感じですから、オーダーメードで鞄を作るのは、それほどハードルの高いことではないと思います。大まかに外の形があって、中の部屋がいくつ、外側のポケットがいくつと指定していただければ、オリジナルの鞄はそう難しくはありません。
砂原: もっと簡単にオリジナルの鞄を作れるように、例えば基本の大きさ、層の数など、イージーオーダー風に作れるといいなと思ったことはあります。
「鞄王」の仲間の「悲劇の鞄」
砂原教授同様、大荷物に悩む“同業者”の方の鞄の一例。中身がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、エキスパンド部も伸びっぱなしで、鞄の専門家・松下氏が悲惨な鞄の運命に思わず涙ぐんだ(?)逸品。
■合体変形鞄で臨機応変に!
松下:この10年ほどで、本革などの重い素材から、軽くて丈夫な合成素材に主流が移りました。鞄自体はもう十分軽いんです。
砂原: あとは、鞄それ自体をコンポーネント化するとか……。
松下: ポケットなどを多少取り外しできる鞄はありますが……。もっとそれを大胆にするわけですね。
砂原: ある程度分類した中身を入れたそれぞれのコンポーネントを、用途によって組み合わせてひとつの鞄にすると、そのときに不要なものは付けなければいいので、荷物のスリム化ができるかもしれない。これは以前から考えていたんです。具体的にどう分かれればいいのかといったことは考え中なんですが。
 いや、そうなったとしても結局何もかも付けてしまって、減らないということも考えられるんですが(笑)。合体ロボットじゃないですけれど、理系人間的には合体変形するだけでうれしいかもしれない(笑)。
 もうひとつは、体に対するフィット感をカスタマイズできる仕組みが欲しいですね。ショルダーストラップの肩に対する傾きとか、肩パッドのフィット感とか……。
松下: それは既に、肩にフィットするよう最初からパッド部分が曲がっているものは多いですし、ジェルのようなものを充填したパッドや、低反発ウレタン製のパッドもあります。
 市場ニーズ次第ですが、そうしたタイプのストラップが付け替え用として、もっと充実してくるといいですね。
55%が「鞄が重い!」 ――Tech総研「エンジニアの鞄実態」アンケート
 では、実際に日常、エンジニアはどの程度の荷物を持ち、「重さ」を問題視しているのか? Tech総研では300人のエンジニアにアンケート調査を行った。手ぶらに近い(1kg未満)のスリム派が2割強いる一方で、5kg以上は約7%。「鞄王」級の10kg以上もわずかながら存在した。多くは1〜5kg未満と常識的な範囲に収まったものの、「重い」と感じる人は、「仕方がない」「軽くしたい」を合わせて55%と、過半数に達した。
ふだん仕事で持ち歩く荷物(鞄)のおよその重さは? ご自分の荷物(鞄)の重さ/多さについてどう思いますか
荷物(鞄)の中身で、もっとも重さを占めているのは何ですか?(複数回答)
 以下は「今後、荷物が画期的に軽くなるとしたら?」という問いへの代表的な回答例。砂原教授と同様の方向性が多いのは、やはりエンジニアならでは?
パソコンの軽量化がポイント。主なところはキーボードと液晶画面だから、それが使うときには大型化。持ち運ぶときには小型軽量になるような技術が必要。
媒体を問わずすべてネット上に自分のデータを格納でき、どこからでもアクセスできるシステムの実現。
紙の資料を持ち歩くよりも軽いPC、プリンターが開発され、客先でも時間をかけずにプリントアウトできれば軽くなる!
Part3 エンジニアの鞄のために、技術はこうなってほしい
■ヘリウムガスで鞄を浮かす?
砂原:「インターネット社会が十分に成熟すれば、大荷物を持ち歩かなくてすむはず、カッコ悪いのも一時の辛抱」と、何年も前から思っているのですが……。
――鞄自体にいろいろ工夫できることもありますが、やはり「エンジニアの鞄」なのですから、そこは新しい技術を導入することで解決したい!……そんな提案はいかがでしょうか。
砂原: 同じように重い荷物を抱える仲間と話していて、「例えばヘリウムガスを入れて軽くすることはできないか?」なんて話になったこともあるんですよ。
 いや、ヘリウムガスは無理としても、これだけ技術の進歩した世の中、重い荷物を手にさげてヒィヒィ言っていていいわけがない! 楽に重い荷物を持ち運べる手段があっていいはずだ、と。
 と、そこで「ちょっと待てよ。それが“自動車”っていうものなんじゃないか」と思い至って皆で苦笑したり(笑)。
松下: 確かに(笑)。
 しかし、それだけ中身があると、例えば鞄自体1kgのものが劇的に軽くなって半分の500gになったとしても、結局トータルで10kgの鞄が9.5kgになるだけ。そもそも、日本のユーザーは鞄の質についてのニーズは厳しくて、縫製などもしっかりしていますし、海外のものより全般的に軽くできているんですよ。
 結局、鞄のほうで“持ちやすさ”の工夫はできても、“重さ”は中身で工夫していただかないとしかたがないですね。
砂原: やはりそうですか……。
 手近なところからいえば、まずはバッテリー、充電機器類です。機能としてはどれも基本的に変わりがないにもかかわらず、それぞれの専用のものを持って歩かないといけない。これが標準化されてひとつになれば、それだけでもだいぶ荷物は減りますねえ。
 しかし改めて考えると、私の荷物は、まずはPCを基準として、ほかのモノが決まっていく。というわけで、やはり根本的な解決があるとすれば、そこですね。
 PCの大きさは、画面の大きさに依存しています。でも、画面の広さというのは使い手にとっては麻薬のようなもので(笑)、一度広いものを使い始めると、なかなか元には戻れない。これがコンパクトに収納できるようになれば、だいぶ違うはずです。
■究極の解決は「どこでもコンピュータ」
松下: 画面を折り畳むといった技術的方向はないんですか?
砂原: それも考えられていますが、どうしても折り畳み部で画面が途切れてしまうのが問題ですね。ただ将来的には、フレキシブルなディスプレイで、丸めることができるといった方向性はあると思います。
 さらに根本的な解決策は「PCを持ち歩かない世界」の実現です。これだけネットワークが充実してきているわけですし、どこにでも……例えば電車の中にだってディスプレイはある。それがさらに進んで、データもアプリケーションもネットワークを通じて利用することができれば、荷物を劇的に減らせると思うんです。
松下: 自分のサーバー上にデータもソフトもあって、外からそれにつなぐわけですね。
砂原: ええ。PCの中で最も個人の好みに依存しているのはキーボードですから、最終的にはキーボードだけ持ち歩いて、使いたいときにネットに接続するだけでいい。究極のシン・クライアントですね。
松下: なるほど! しかし、砂原教授の場合、そうなったらなったで、また別の荷物が増えそうな……。
砂原: そ……そうかもしれない……。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ  
根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
最近の理系離れの一因に「エンジニアはカッコ悪い、泥くさい仕事」というイメージがあると砂原教授。重いショルダーバッグを肩にかけて、斜めになって歩いているのは、「カッコ悪い」「重荷を背負っている(文字どおり)」の象徴というわけです。松下さんも「これからますますエンジニアは必要なんでしょう? それは由々しき事態ですね」と心配顔。エンジニアの鞄をカッコよくできれば、日本の未来は明るい?

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