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Tech総研的★2006W杯記念(1)ドイツの技術事情編 ひと味違う“あったか”外資系!ドイツ企業の働き心地
6月9日からいよいよ、FIFAワールドカップTM(W杯)2006ドイツ大会が始まる。日増しにW杯への注目度も高まっている。そこで今回はW杯を記念し、その開催国・ドイツに焦点を当て、日本に進出しているドイツ系企業の魅力について探ってみた。
(総研スタッフ/関洋子)作成日:06.05.24
ドイツ技術系企業は本当に“カタイ”?
 日本とドイツとの技術的な交流は江戸時代から行われてきた。西洋医学はその代表例である。現代においても、欧州最大の貿易相手国として、また自動車や医療機器などのメーカーは日本でもポピュラーな存在であるように、日本産業にとってドイツは重要な国である。ドイツにとっても2004年度の対日投資額が114億円(全世界で11番目の投資国)というように、日本は重要な国として位置づけられている。

 また2005年4月4日から2006年3月31日まで「日本におけるドイツ2005/2006」と称して、画家、彫刻家による展覧会やダンス、演劇などの各種フェスティバルの開催や、学術、芸術、スポーツなどの交流が行われ、官民の結びつきも今さらに強まってきている。

このようにドイツと日本は直線距離にすると8000km以上も離れている遠い存在ながら、国同士で密接な関係にある。実際、現在日本に数百もの企業が進出しており、IT・メーカー系も少なくない。技術者にとっては、実際に自分の職場となる可能性だってあるのだ。しかし、直接接点のない人には「マジメ」「カタイ」という印象から、ドイツ企業の魅力に気づいていない人も多いのではないだろうか。

 そこで今回は、ドイツ技術系企業で働く日本人技術者の本音を通じて、エンジニアにとっての働き心地を探っていきたい。

ドイツの基本情報
日本語表記名:ドイツ連邦共和国
首都:ベルリン
面積:35万7000km2(日本とほぼ同じ)
人口:8254万人
GDP:2兆7511億ドル(2004年の名目GDP。世界第3位。ちなみに日本は世界2位)
地理的条件:欧州のほぼ真ん中に位置する。
主な産業:自動車、鉄鋼、化学、機械
盛んなスポーツ:サッカー
国別一人当たりのビール消費量:世界第3位(日本は32位)※キリンビールの調査による
ケースで見る技術系ドイツ企業の特徴、働き心地
Case1.シーメンスVDOオートモーティブ 明確に業務分掌された中で、裁量権をもって行動できることが最大の魅力
■系列を離れた開発部門で、日本のさまざまなメーカーと相手に
 シーメンスは1887年創業のドイツの老舗企業。もともと、通信機器メーカーとして発展し、現在は世界190カ国で事業を展開、医療機器や照明などの分野で大きな成果を上げている。シーメンスグループのカーエレクトロニクス部門を担当するのが、シーメンスVDOオートモーティブ(以下、シーメンスVDO)である。

 シーメンス同様、シーメンスVDOはグローバルサプライヤ。特にメーターに関しては世界でもトップクラスのシェアを誇る。

 そんな同社に2005年1月に転職した金子剛さんは現在、新しいメーターの製造に関して、日本のメーカーとドイツにある設計部門の間に入り、仕様を調整するという仕事に携わっている。

「前職で培ったメーターの製造技術の知識を生かせる職場を探していたところ、シーメンスVDOに出合いました。前職は某完成車メーカー系列のサプライヤだったため、顧客は某メーカーに限られていた。現在は複数の顧客を相手にしているので、その数だけのやり方や文化を吸収できる。そこが面白い。知識の幅の広がりを実感しています」
■自分の考えを実行に移せる環境と、生ビール29杯を空ける仲間たち
 前職でも4年間、英国で働いた経験のある金子さんは、同じ欧州系でもドイツ系企業は日本人になじみやすいという。
「開発部門とのやり取りや電話会議など、英語を使う機会も多いですが、双方ともネイティブではないので、英語を話すことに身構える必要はありません。また譲歩したり、折り合いをつけたりするなど、日本人的なメンタリティも持ち合わせている。この辺が比較的日本に近い、といわれるゆえんかもしれません」

 もちろん、前職との違いも実感している。最も大きな違いは、業務分掌が明確になっていることと裁量権の大きさだと金子さん。
「メーターに関しては納期や品質、物流に至るまですべて、私が顧客の窓口として対応するんです。前職では決まったことをこなしていくような仕事が多かったですが、現在は自分が『こうしよう』と決めて行動していかなければならない。責任は大きいですが、その分、やりがいも大きいですね」

 ドイツ企業(?)ならではの、こんなエピソードも披露してくれた。日本の顧客の新しいメーターの開発プロジェクトが発足すると、その期間中に4〜5回は、ドイツの設計部門から技術者が来日する。金子さんが、ある焼き肉チェーン店にドイツ人技術者3人を連れて行ったところ、生ビールを29杯飲んだという(ちなみに金子さんの分は含まず)。

「顧客は日本の完成車メーカーですが、工場はアジアや欧州など、世界各地にある。日本にいながら、ワールドワイドで仕事をしていると実感できるんです。これも、シーメンスVDOで働く魅力です」
金子剛さん
インテリア&インフォテインメント
プロジェクトマネージャー
金子剛さん
1995年3月機械制御工学科卒業後、大手自動車部品メーカーに就職。新しいメーターの試作など、生産技術に携わる。99年より英国の子会社に出向し、新工場立ち上げに参加。2003年に日本に戻り、分割子会社に出向。05年1月、現在の会社に転職。
シーメンスVDOのドイツ本社を上空から撮影
シーメンスVDOのドイツ本社を上空から撮影
本社の所在地
レーゲンスブルク。バイエルン州東部、ドナウ川とレーゲンス川の合流近辺に位置する古都。2000年の歴史があり、中世の歴史的建造物も多数、存在している。
W杯最寄りのスタジアム
フランケン・シュタディオン(ニュルンベルク)。
地元のサッカークラブ「1.FCニュルンベルク」のホームスタジアム。レーゲンスブルクからニュルンベルクまでは高速列車「Intercity Express」で約1時間。収容人数は4万1926人。
Case2.テュフズードジャパン 組織がフラットなので意思決定も早い、じっくり人を育てる風土が心地よい
■商品化には欠かせない「医療機器の安全性認証」を審査
 テュフズードグループはドイツで生まれた第三者試験・認証機関。同社が品質保証をした「テュフマーク」は、ドイツでは最もポピュラーなマークのひとつとして認知されている。その日本法人が、テュフズードジャパンである。

 2005年3月に同社に転職した大原昌幸さんの仕事は、ISO13485(ISO9000シリーズに医療機器を製造する事業所向けの要求事項を追加した品質システム)の審査員(オーディター)。さらに昨年度の薬事法の改正に伴い、第三者認証機関での認証が可能になった医療機器のクラスU(管理医療機器)の適合性審査も担当している。

「クラスUの適合性審査業務には2種類あって、工場の品質システムの審査と、それによって作られる製品自体の審査があります。その双方が認証されて初めて、医療機器メーカーは新製品として世に出すことができます。医療機器の開発が攻め(push)の技術だとすると、品質安全のオーディターは守る側の技術。実際に工場に行ってそのシステムや製品を審査するわけですから、求められる知識の幅も広い。医療機器の安全性・有効性を審査する仕事は、責任は重いが、その分やりがいもあります」
■年齢や役職も関係なし 審査員としては同格として扱われる
 前の職場との最大の違いは、組織が非常にフラットだということ。「例えば上司である部長も、60歳ぐらいの大ベテランの先輩もオーディターという意味では同じ立場です。従って専門分野によっては、私がリードオーディターとなり先輩たちを指揮することもある。年齢や役職によるコミュニケーションレスもなく、風通しもよい」と大原さん。

 またテュフズードジャパンは人材をじっくり育てる風土が感じられるという。「一般にドイツ企業には社員の自主性と意志を尊重する風土があり、それが労働者を大切にする印象となって表れます。それがテュフにも根付いているのでしょう。」

 テュフズードジャパンの社長はテュフオートモーティブ出身のドイツ人。大原さんの上司もドイツ人であり、同僚には他国籍の外国人もいる。日本にいながら国際的な職場環境だ。だからこそ、先のようなフラットで風通しのよい組織が実現しているのだろう。

 オーディターの研修はドイツ・ミュンヘンやシンガポールなどの海外拠点で行われることが多く、そこにワールドワイドの拠点から人材が集まり、いろいろな国の人たちと交流できる。それもテュフズードジャパンで働く魅力のひとつだ。

「オーディターの仕事は、新しい技術もどんどん出てくるうえに法規制も改正されるなど、マンネリのない仕事です。また工場の審査では、さまざまな製品の設計・製造プロセスを見ることもでき、エンジニアとしての知的好奇心も満足させられる。とにかく非常に刺激的で魅力的な仕事なんですよ」
大原昌幸さん
MHS部
ノーティファイドボディ&QMシステム主任審査員
大原昌幸さん
工学部電気工学科卒業後、計測機器メーカーに入社。約7年間、新規事業関連の部署でセンシング技術を利用した医療機器開発のプロジェクトに携わる。プロジェクトの閉鎖をきっかけに、医療機器への思いを貫きテュフズードジャパンに転職。
ドイツ・ミュンヘンにあるテュフズードグループの本社ビル
ドイツ・ミュンヘンにあるテュフズードグループの本社ビル
本社の所在地
ミュンヘン。バイエルン州の州都。人口130万人。ドイツ第三の大都市。ヴィッテルバッハ家の夏の居城であるニンフェンブルク宮殿をはじめ、中世バロック様式のレジデンツがある。
W杯最寄りのスタジアム
アリアンツ・アレナ(ミュンヘン)。
ドイツの名門チーム「バイエルン・ミュンヘン」のホームスタジアム。ミュンヘン中心のマリエン・プラッツ駅から、地下鉄6号線で約20分。収容人数は6万6016人。
他にもある在日ドイツ系企業
企業名 企業の概要 ドイツ本社の所在地
IDSシェアー・ジャパン アウグスト・ヴィルヘルム・シェアー博士によって設立されたコンサルティング・ソフトウェア開発会社 サールブリュッケン
SAPジャパン ERPパッケージ「R/3」を核とするITソリューションベンダー ウォルドルフ
イータス 自動車用ECUのライフサイクルを総合的にサポートする開発・診断ツールのソリューションベンダー シュツットガルト
インフィニオンテクノロジーズジャパン シーメンスの半導体部門が独立して設立された半導体メーカー ミュンヘン
カール ツァイス 150年以上の歴史をもつ光学機器メーカー オーバーコッヘン
シーメンス 国内のグループ会社のまとめ役。通信、搬送、発電・送配電、交通などの事業分野を担当 ベルリン、ミュンヘン
シーメンス旭メディテック シーメンスと旭化成との合弁会社。シーメンス製医療用機械の輸入、販売、メンテナンスまでトータルに提供
デグサ ジャパン 2004年度の年間総売上は112億ユーロを誇る世界有数のスペシャリティケミカル企業 デュッセルドルフ
ドイツテレコム 欧州最大の情報通信キャリア ボン
日本シエーリング 画像診断、ホルモン製剤などで業界をリードする外資系医薬品メーカー ベルリン
日本ベーリンガーインゲルハイム 医療用医薬品のほかコンシューマーヘルスケア製品、動物医薬などの分野を手掛ける製薬会社 インゲルハイム
ハイデルベルグ・ジャパン 150年の歴史をもつ印刷機器メーカー ハイデルベルグ
バイエル ヘルスケア、農薬関連、素材科学などの事業を展開するグローバル企業 レバークーゼン
ボッシュ 自動車機器、産業用機器、電動工具の開発、製造メーカー シュツットガルト
ドイツ系企業の特徴とその魅力
 ドイツ企業の特徴と魅力をさらに深く探るため、在日ドイツ商工会議所・広報部マネジャーのパスカル・グードルフ氏に話を伺った。 グードルフ氏は、母国であるドイツの大学で日本語を勉強。そのスキルを生かすために、現在の職に就いたという。現在は、流暢な日本語を話し、500社にもおよぶ在日ドイツ企業の支援を行っている。
パスカル・グードルフ氏
特徴1.“同期入社”は存在しない
 4月1日に入社式を行う──、こんな光景はドイツにはない。ドイツでは、新卒・中途という区別はなく、人材が必要になったとき、その要件を満たす人を採用するという方法を採っている。というのもドイツでは大学の卒業時の年齢は25〜26歳。ほとんどの学生が、在学中に2〜6カ月間のインターンシップを経験するため、日本の新卒のように社会経験がゼロという人がいないし、ゼネラリストの採用ということもない。
 もちろん日本に進出しているドイツ企業の中には、4月に新卒採用を行っている企業もあるが、基本的には通年採用が一般的である。従って、上司が年下である、という場面も珍しくない。また同期入社という概念も存在しない。
特徴2.長期休暇を取得するのが一般的
 日本ではなかなか取りにくい長期休暇。しかしドイツでは年2回ほど、長期休暇を取ってリフレッシュするのが一般的だ。グードルフ氏自身も、日本人の有給休暇に対する考え方に、いちばんの違いを感じたという。
 日本に進出しているドイツ系企業でも、上司がドイツ人であれば長期休暇を取る可能性が高いので、日本企業よりも取りやすくなるのではと考えられる。
特徴3.マニュアル・慣例という概念があまりない
 従業員の意見を大事にするところも、ドイツ企業の特徴である。例えば上司から「こういうふうにしよう」と言われたとしても、その意見を改善したほうがよいと思った場合は、地位や役職にかかわらず、だれもが意見を言え、その意見を聞き入れられる土壌が備わっているという。
 たとえマニュアルや慣例があったとしても、そのやり方がおかしいと意見をし、妥当であれば、すぐにそれを取り入れてくれるフレキシブルさも有している(グードルフ氏いわく、マニュアルという概念があまりない)。
■ドイツ技術系企業は“あったかい”
日本とドイツの似ているところは、ドイツも数年前まで終身雇用が一般的だったこと。「1社に長く勤めたいという考え方が定着している」という。外資系の代名詞でもある「ドラスティックな雰囲気」がドイツ系企業には感じられない。そこが“あったかい”と感じる理由だろう。

 ドイツが世界の中でコンペティターとしてとらえているのは日本だという。その日本の中でドイツ系企業が勝負を挑む背景にあるのが、日本の顧客(大企業)の存在。世界一うるさいともいわれる日本の顧客を満足させることができれば、世界中の顧客を満足させられると考えているからだ。つまり、ドイツ系企業にとって日本への進出は、自社技術のレベルアップのためであるともいえる。ドイツ系企業のエンジニアはその重要な役割を担う存在といえよう。

「“Made in Germany”は、正確さ、機能という点で世界的な信用がある。つまり技術レベルの高さの表れです。技術志向のエンジニアの働き場所として、面白いのではないでしょうか」(グードルフ氏)
 リクナビNEXT上でも、複数のドイツ系企業が募集をしている。この機会に少し、のぞいてみてはいかがだろう。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
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今回、グードルフ氏をはじめ、何人かのドイツ人の方にお会いしました。皆さん、身長は190cmを超えており、本当、背が高かったです(私の身長は153cm。自分の背の低さを実感しました)。ドイツでのW杯を目前にした盛り上がりについても聞いてみましたが、現在、ドイツチームの不調が伝えられているので、心配のほうが先に立っているとか……。日本チームもドイツチームも、頑張ってほしいです。
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