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出産・育児を経てエンジニアを目指す元プロマネの転職

対象システムの領域を拡大させる三菱スペース・ソフトウエアへ

1962年に設立された三菱スペース・ソフトウエアは、宇宙・防衛システムの分野で画期的な研究・開発実績を残してきた。今日では、先端科学技術で培った情報システムのノウハウをもとに、さまざまなシステム分野へ展開している。今回は、そんな同社へ応募した元プロジェクトマネジャーの面接をリポートする。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:06.04.19
三菱スペース・ソフトウエア
応募したエンジニア 企業の面接担当者
木村由布子さん
木村由布子さん
(当時32歳)
鷲尾十郎氏
東京事業部
ネットワーク・セキュリティ技術部 部長
鷲尾十郎氏
当時の職種
在宅翻訳者
募集職種
SE(ネットワーク・セキュリティ分野)
業務内容
翻訳請負会社から依頼される英文書の翻訳。
仕事内容
情報セキュリティー製品の提案・開発。同分野におけるプロジェクトマネジャー候補。
職務経歴
外国語大学卒。ソフトベンダーに4年。米国本社で1年強。親会社のハードメーカーへ転籍して1年半。主にソフトウェアのローカライズ(日本語化)とそのPMを担当。
応募資格
大卒以上。C、C++、Perl、SQLでのプログラミング経験。Linux、UNIX、Windowsでのソフトウェア設計経験など。
志望動機
2年3カ月の出産・育児後、SEとして社会に復帰したい。
募集背景
製品カスタマイズ案件が増加するとともに、新製品開発要員の増強も必要なため。
面接の流れ
人事グループと技術部門で選考する。
技術部門の部長2人、人事グループの採用担当者1人で面接。所要時間は30〜40分。
1次面接とは別の日に実施。所要時間は1時間30分。2次面接の判断材料とする。
人事部長と人事部次長が面接。所要時間は30〜40分。面接の直前に30分間の小論文テストがある。
2次面接から1週間以内に書面で通知する。
【通過率:約3割】

【通過率:10割】

【通過率:約5割】

Part1
自己紹介と志望理由
プロマネとして各国のマネジャーと折衝
鷲尾:
 本日はご足労いただき、ありがとうございます。【Point1】早速ですが、自己紹介をお願いします
木村:
 はい。木村由布子と申します。本日は面接にお呼びいただき、ありがとうございます。私は大学卒業後、○○○(外資系ソフトベンダー)に入社し、日本で4年間、ソフトウェアやドキュメントのローカライズを担当しました。主に英語で作成されたソフトウェアの画面やマニュアルを、日本市場向けに変更する仕事です。
 そのあと、○○○の米国本社へ移り、プロジェクトマネジャーとして各国のマネジャーをまとめる立場になりました。具体的には、オンラインのラーニングソフトをローカライズするプロジェクトで、中国語、台湾中国語、韓国語、日本語、ヨーロッパの各国言語に翻訳するそれぞれの国のマネジャーをコントロールする仕事です。

 日本へ戻ってからは○○○の親会社にあたる×××(外資系ハードベンダー)へ転籍になり、2003年5月に退職しました。出産と育児のためです。以来2年強が過ぎましたが、現在は在宅で英語の翻訳をしています。子育ての傍ら自宅でできる仕事ということで始めました。
鷲尾:
 在宅勤務ではない形態で仕事をしたいということですか?
木村:
 はい、そうです。育児の手がかからなくなってきましたから、改めてキャリアを積み上げたいと考えています。
外語大からIT業界、そしてエンジニアへ
鷲尾:
 それでは、どうして当社のセキュリティー分野を選んだのでしょうか? 志望理由を聞かせてください。
木村:
 リクナビNEXTの「スカウト登録」をしておきましたところ、御社から応募のオファーが届き、セキュリティー製品の開発ができそうだと判断して応募いたしました。【Point2】再就職にあたって私が最も重視しているのは、ソフトづくりができるかどうかです。顧客ごとのカスタマイズにも、新製品の開発にも魅力を感じます。
鷲尾:
 【Point3】外国語大学を出てIT業界へ入ったのはどうしてですか?
木村:
 私が英語を勉強したのは、理系の科目が嫌いだったからではなく、英語を使って国際的な仕事をしたかったからです。高校時代は数学も化学も好きでした。文系大学の出身ですが、私の中では理系の素養がベースだと思っています。ですから、就職のときには、迷わず外資系のIT企業を選んだわけです。

 私の業務経歴をご覧になって、ソフト技術のバックグラウンドが危ういのではないかと懸念されるかもしれませんが、自分なりに独学はしてきました。米国在住中にはハーバード大学大学院に通い、Javaの正規の授業を修了しましたし、ソフトのローカライズではスクリプト言語を実務で使用していました。根拠なくプログラミングを志望しているのではありません。
Point1
[面接官]応募者の自己紹介で注目するのは、経歴の内容もさることながら、話し方や伝えたいポイントの押さえ方といった基礎能力です。面接時間は短いので、第一印象は重要です。
[応募者]面接の冒頭で自己紹介を求められることは予想していました。実は、前職を辞めるとき、再就職支援会社のサービスを受けられる権利がついていたので、就職活動を始める前に指導を受けたのです。自分なりにベストの状態で準備したつもりです。
Point2
[面接官]この志望動機には少し首をかしげました。IT業界でそれなりのキャリアをもちながら、実務経験のないプログラマを志望しているからです。この点は面接の後半で深く尋ねることになります。
Point3
[面接官]文系出身者がIT業界に入った場合、いろいろなギャップを感じるはず。苦労するといってもいいでしょう。そういった課題の克服法を知るための呼び水として、この質問をしました。
[応募者]この質問も出るかなと思っていましたが、答えは準備していませんでした。実際の面接でも正直に答えました。
Part2
プロジェクトマネジメント力・文書作成能力

マネジメント上のリスクを管理
鷲尾:
 最初にソフトウェアのローカライズをしていたとのこと。具体的にはどんな業務内容ですか?
木村:
 表計算ソフトのユーザインターフェース(UI)、関数ヘルプの日本語化、インストーラの日本語化、グループウェアの開発者向けバージョンのUI、オンラインヘルプの日本語化や、アプリケーションの開発、マニュアルと製品の整合性を確かめるテストなどを行いました。
鷲尾:
 米国では各国のスタッフを使ってソフトのローカライズ・プロジェクトを推進したということですが、具体的にはどんなマネジメントをしてきましたか?
木村:
 私は米国の拠点にいて、各国語のマネジャーはそれぞれの国にいました。全員が対応できる時間帯、米国ですと早朝か夜遅くを設定して定例の電話会議を行い、それ以外はメール、あるいは別個に電話を用いました。そういった方法で仕様決め、作業内容の確認、課題の解決、人員の配置、スケジューリングなどをコントロールしました。
鷲尾:
 【Point4】その仕事で最も困ったのはどんなときでしたか?
木村:
 ヨーロッパのマネジャーに電話を切られてしまったときです。私は米国のエンジニアと各国のマネジャーの中間に立って、双方を尊重しながら調整を図らねばならない立場です。ただ、マネジャーにはそれぞれ自国の事情があります。
 あるときに折り合いがつかず、一方的に電話を切られてしまいました。そのときは会議が頓挫してしまったのです。結局、上司に相談して、会議のテーマとはまったく別の点から話を進めることにしました。そうやって徐々に仲直りをしていき、問題になったところまで話を進めて解決を図りました。
鷲尾:
 そのプロジェクトでは予算にまでタッチしていたのですか?
木村:
 いえ、損益管理にはかかわっていませんでした。
鷲尾:
 プロジェクトを動かす際、どんな点に気をつけていましたか?
木村:
 常にリスクを想定していました。例えば、ある作業をこの人数で行えば何日でできるとわかっていても、もしボトルネックが通らなかったり、バグが出たりしたときには、次の工程に影響します。ですから、必ず予備日数を計画に含めるようにしていました。
鷲尾:
 予備日数を算出する基準は何ですか?
木村:
 それは経験則によるとしか申し上げられません。ケースごとに異なると思います。
培ってきたドキュメントの作成スキル
鷲尾:
 話が前後しますが、米国本社へ行く前、ローカライズではドキュメントを作成していたとのこと。【Point5】具体的には何のドキュメント化ですか?
木村:
 エンドユーザー向けの製品マニュアルや仕様書、オンラインや紙による開発者向けの技術マニュアル、レファレンス系のマニュアルなどです。オンラインヘルプはコンパイルや試験も行いました。英語の直訳ではなく、実際の製品やその仕様を確認しながら、読み手の立場に立った日本向けの文書作成を心掛けました。
鷲尾:
 ドキュメントの書き方や表記法は、研修などで習得したのですか?
木村:
 ○○○と×××には、UIやドキュメントのスタイル規準書というものがあります。それに従って作成します。私はその規準書の編さんにも加わりました。
Point4
[面接官]人を束ねるときには摩擦がつきものです。この質問では、困った事例を挙げてもらい、そのときにどう考え、どう対処したのかを知りたい。つまり、その人のマネジメントスタイルです。それを聞くことで、実際に行ったマネジメントのレベルがわかりますが、木村さんの場合はまずまずの仕事ができると判断しました。
[応募者]この質問の意図はすぐにわかりました。ただ、その切り返し方がこの会社にマッチするかどうかまではわかりませんでした。
Point5
[面接官]ソフトウェア開発では、ドキュメント作成のスキルは非常に重要です。また、製品開発を行う当部では製品の取扱説明書などを作成する必要があり、このスキルはとても有用です。どんなドキュメントを多く手がけたのかが知りたくて尋ねました。
Part3
志向の確認・育児との両立
入社後に始めるプログラミングの実務
鷲尾:
 【Point6】当社へ入社したら、製品開発なりカスタマイズなり、プログラミングから始めたいという希望ですが、それは本気と受け取っていいんですね?
木村:
 はい、そのとおりです。ただ、絶対にプログラミングでなければ嫌だと申し上げているのではありません。あくまでも理想のステップと考えています。
鷲尾:
 米国の大学院でJavaを勉強したときには、どんなプログラムを組みましたか?
木村:
 【Point7】POP3メールのクライアントソフトです。それを期末の提出物としました。
鷲尾:
 【Point8】そのころの仕事でとんでもないミスをしたとか、修羅場になったとか、そんな経験があれば話していただけますか?
木村:
 入社してすぐのころだったのですが、バックアップのないデータを私のミスで消去してしまったことがありました。それで、私と上司とで一晩かけて打ち込み直したという苦い思い出があります。
鷲尾:
 開発実務は泥臭い作業の連続です。それでも、今から本当に取り組んでみたいのですか?
木村:
 私は米国で仕事をしているので、華やかなところを歩んできたかのように感じられるかもしれません。ですが、実際に行ってきた仕事はプログラミングと同じように泥臭いものでした。
 また、私は自分自身のホームページ作成が趣味なので、ずっとCGIやHTML、CSS等はテキストエディタを使って作成しています。日々、コードを書くイメージはできているつもりです。
企業への貢献度は十分にある
鷲尾:
 では、木村さんが当社へ入ったとしたら、どんな点で貢献できると思いますか?
木村:
 ご心配なさるようにプログラミングの力は足りないでしょうが、それをカバーするに十分な向上心がありますし、必ず努力して不足を埋めていけるはずです。また、プロジェクトマネジメントの経験は積んでいますから、その点ではお役に立てると確信しています。
鷲尾:
 わかりました。では、最後にうかがいます。【Point9】仕事と育児との両立の点で問題はありませんか? 弊社への要望があればおっしゃってください。
木村:
 私は長く働ける会社を真剣に探しています。就職活動の期間が長引いているのもそのせいです。お尋ねの育児についてですが、手のかかる時期は過ぎていて、残業も一般的な程度ならば問題ありません。保育園には延長保育を申し込んでありますし、市のほうでの預かりサポート制度も利用できます。十分に御社に貢献できると思います。
(このあと、鷲尾氏は木村さんのほうからの質問を促した)
Point6
[面接官]木村さんの最大の評価はプロジェクトマネジメント能力ですが、開発プロジェクトのマネジメントをするには、そのベースにある程度のプログラミング実務経験が必要です。入社後に勉強してもらわなくてはならない。それが彼女の望みでもあるのですが、ここで改めて念押しをしました。
Point7
[面接官]メールソフトと後で話してもらうホームページは、当社で扱っている製品と深い関係があります。この分野の知識が多少はあるだろうと、若干のプラス評価をしました。
[応募者]実務でのプログラム経験のなさを補うために、自ら独学する向学心のある点を伝えようと思いました。
Point8
[面接官]この業界では、納期間際に徹夜になることもあります。若いときにツラいことを体験すると、プロ根性が育ちやすい。そのあたりを探ってみました。同時にプログラム開発を行っていける人材なのかの、最終確認をしています。
[応募者]「IT業界の開発現場はそれほど楽じゃない。うちの会社も同じだよ」というメッセージが込められた質問なのかなと思いました。
Point9
[面接官]木村さんの場合には、このことをどうしても確認しなければなりませんでした。現実的な問題ですから。
[応募者]この質問はもちろん、絶対にあると思っていました。納得してもらえる答えを用意する必要がありましたし、働ける態勢になっていなければ私自身が困ります。
 
面接官はココを見た!
●抜きん出たスキルがあるか。
●チームで仕事ができるか。
●お客の気持ちをくんで、それに沿えるか。
 スキルは2つの点から即戦力性をチェックする。ひとつは技術スキル。オープン系のプログラミング経験、ソフト設計経験の有無とレベル。ネットワークやセキュリティーの知識があればなおよい。もうひとつのチェック点はプロジェクトマネジメントの経験と内容だ。一方、ヒューマンスキルは、最低で4〜5人以上のチームで仕事をするために協調性を重視する。そのほか、ユーザーに対する気配りや想像力を発揮できるかどうかを探る。
木村さんはコレで決めた!
「私にも本当にコーディングをさせてもらえそうだ。
そういう感触がもてた面接でした。
いちばんの希望が満たされるとわかり、入社の意欲が強まりました」
 2回の面接を通じて感じたのは、ゴリゴリとしたコーディングを実際にさせてもらえそうだということでした。ソフト開発の現場でキャリアを再構築するのが私の大きな希望でしたから、この点が満たされそうだという感触がもてたのは大きかったです。それと同時に、リクナビNEXTのメールを拝見し、1次面接でお会いした鷲尾部長が上司になるということで、この方となら一緒にぜひ働きたいと思いました。上司との相性は入社を決めるうえで重要だと思います。
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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女性の場合、出産と育児でキャリアが中断してしまうことがあります。しかし、わずか数年のことです。木村さんに限らず、意欲のある方々にはぜひもう一度仕事に戻ってほしいと思います。理由は単純で、こうした人材を逸してしまうのは非常にもったいないからです。女性のエンジニアってシャープな方が多いですよ。絶対に必要な戦力だと思います。
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