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ボタンがないデジタル家電・エンジンが入らないクルマetc そんなの作れるか!ゴリ押しデザイナーに負けない技術
デザイナーは時としてエンジニアの対極にいる人種。考え方や性格なども真反対になることも。無論、衝突も必至。本特集ではそんな衝突を防ぐべく、エンジニアにとって未知の存在、デザイナーについて分析し、ゴリ押しの撃退法を考えてみた。
(取材・文/嵯峨やよ 総研スタッフ/山田モーキン イラスト/八重樫王明)作成日:06.03.29
その1 ありえない!? ゴリ押しデザイナーが提案してきたデザイン迷作選
 デザイン家電の好調な売れ行きやデザイナーズマンションの人気などに見られるように、今、さまざまな市場において、デザインが重視されつつある。それを示すかのように、今回Tech総研編集部が実施した100人のハード系職種エンジニアに対するアンケートによると、社内においてデザイナーの力が増してきていると感じるエンジニアは約4割にものぼる(右図参照)。

  このような背景を踏まえたうえで、ヒートアップするデザイナーVSエンジニアの攻防戦を以下に紹介したい。
図:社内でのデザイナーの力・存在感の変化
【ケース1 自動車にて】エンジンが入らないデザインって……(エンジニア:機械・機構設計・38歳)
エピソード
 いくらコンパクトな車体がウケているとはいえ、エンジンレイアウトが成立しないデザインじゃ、そもそもどうやったってつくることができない。その旨を部品工場責任者と一緒に何度も説明してデザインの変更を求めたが、デザイナーは受け入れない。よくよく話を聞いてみれば、デザイナーの加工技術の知識が圧倒的に不足しているせいだと判明。デザイン重視の風潮も手伝って、こういった知識不足でごう慢なデザイナーが増えていて困る。
その後・・・
 その新米デザイナーは自分の知識不足を棚にあげ、頑としてデザイン変更を受け入れないため、いつまでたっても計画が進まない。ラチがあかないので、結局、デザイン部の上司を交えて会議を開いた。その上司は加工技術に関して知識も豊富だったため、すぐに部下のデザインが実現不可能と理解した。結果、すんなりとデザインは変更の方向へ。
【ケース2 薄型テレビにて】いくらなんでもこの薄さは……(エンジニア:機械・機構設計・37歳)
エピソード
 薄型テレビの製作において、デザイナーが画面を薄くしすぎて要求スペックが満たされない。デザイナーは外観デザインの優先を主張するばかりで、基本設計をまるで考えていない。そのまま作業を進めると、やはり基本設計に無理が出てその先の実装段階で必ず行き詰まる。そうとわかっていても、当社ではデザイナーよりもエンジニアの立場が弱いため無理なデザインを受け入れるしかない。このままでは仕事に対する意欲がわいてこない。
その後・・・
 結局、しぶしぶデザイナーが提案してきたデザインどおりに設計したが、やはり予想どおり低スペックの商品しかできなかった。納得のいかないものを無理やりつくらされたことに、エンジニア側も腹の虫がおさまらず、デザイナーとエンジニア間のしこりがさらに大きくなってしまった。今も両者間には険悪な雰囲気が漂っている。
【ケース3 携帯電話にて】「エルゴノミクス」っていったい……(エンジニア:コンサル・34歳)
エピソード
 携帯電話の設計試作段階での折衝において、デザイナーはエルゴノミクスが大事だとか言って、強度も放熱も無視したデザインを提案してきた。デザイン部門は外部から集められた人が多いせいか、何かとことあるごとに先進性(例:ボタンの数が少ない、機体が小さいetc...)をアピールしてくる。しかし、そう言って提出されたデザインは、現実離れしていることが多く、実際につくることのできるものかというと疑わしいケースが多々あって、実際につくる側としては本当に困る。
その後・・・
 エンジニア側の努力によって、放熱に関しての問題はなんとかクリアできた。しかし、もうひとつの問題、強度ばかりは、どうにもならなくて、そのデザインはお蔵入りに……。
 結局、労力の無駄にしかならなかった。
【ケース4 デザイン家電にて】操作ボタンがないって……(エンジニア:回路・システム設計・32歳)
エピソード
 とある白物デジタル家電の試作段階にて、驚いたことにデザイナーが提案してきたデザインに操作ボタンらしきものが全く見当たらない。そのことを指摘すると「操作ボタンは全体のデザインを崩す根源だ」などと主張し、機能性のことなど毛頭ない様子で、あきれてしまった。
その後・・・
 機能の重要性を粘り強く説得して、再度試作してもらったが、やはりスイッチが少なくて、機能の割り当てに苦労させられた。
その2 エンジニア VS デザイナー それぞれの立場、相手をどう分析する?
 次に、エンジニア・デザイナー、それぞれの立場から、相手のことをどう考えているのか。実際に直接仕事で折衝する機会の多いエンジニア・デザイナー両者に行ったインタビューを基に探ってみたい。
エンジニア代表
Aさん
Aさん(44歳)
某電機メーカーで、電子回路のハードウェア設計開発を担当。
デザイナー代表
青木重光さん
青木重光さん
有限会社アオキデザイン代表

工業デザインおよびグラフィックデザインの企画・制作を柱に、「経営をサポートするデザイン」を提供することを基本コンセプトにしている
高橋昌之さん
ダンクラフト代表

自動車から家電・医療機器などあらゆるプロダクトデザインを担当
エンジニア→ デザイナー観 「現実的に生産可能なデザインを提案してくれ!でも明確なポリシーをもったデザインであれば歓迎」
納期とコストを邪魔するデザイン
Aさん:エンジニアにとって重要なのは、納期とコストだと思うんです。つまりモノをつくる際、技術側はいかに低コスト、かつ納期を守るためにいちばん早く開発できる方法を考えながら常に作業しています。
 ですから、デザインが凝れば凝るほど時間とコストのかかる設計になり、結果として開発の最短ルートからは遠ざかることに……。そういう意味でいえば、エンジニアにとってデザイナーは、いわば最短ルートをねじ曲げる“邪魔者”なんです(笑)。

  でもその一方、この“邪魔者”であるデザイナーがもしいなければ、デザイン志向に傾いている顧客ニーズに沿った製品をつくることができないと思いますし、仕事を進めるうえではやはり、デザイナーは重要なパートナーだと思っています。
“根拠のあるデザイン”を提案・説得できるデザイナーを求む!
Aさん:だから先述したように、ケースバイケースでデザイナーからの“奇抜な提案”による邪魔は歓迎しますよ。ただし、設計の知識もある程度兼ね備えたデザイナーによる、“根拠のある提案”に限りますけどね。
 つまり「なぜ、このデザインが売れると思うのか」という技術側からの問いに対して、納得のいく根拠を論理的に説明して、こちらを説得させてほしいんですよ。そこでいったん納得さえできれば、エンジニアの意地にかけて、そのデザインを形にするために尽力を惜しまないですね。
 エンジニアが自分の専門技術にこだわりやポリシーをもつのと同じように、自分のデザインに対して明確なポリシーと情熱があり、それを具現化するアイデアまで持ち併せたデザイナーとは、ぜひ一緒に仕事をしたいと強く思いますし、刺激を受けたいですね。
デザイナー→ エンジニア観 「現実だけでなく、将来を先読みするデザイナーの姿勢を理解してほしい」
現実的な視点による開発には限界が
青木さん:エンジニアの方は常にコスト削減や納期短縮という現実的な制約を考慮する必要がありますから、必然的に「今ある技術・今ある施設や部品でできる生産能力」といった、現実的な思考の中でものごとをジャッジする方が多いと感じます。

 でもそれは時として、モノづくりの可能性を制限してしまうんじゃないかな、と思うんです。「過去の経験から生み出せるデザイン」って結局、どこかで見たことがあるようなデザインなんですよね。それって手堅いかもしれないけど大ヒットは望めないし、大きな利益も生み出せないと思うんです。
「デザインの持つリスク」を理解して欲しい
青木さん:一方で僕らデザイナーは、技術や常識という従来の概念に縛られず、常に一歩先の未来を先読みしながら消費者のニーズを予測して、「まだ世の中に出ていない、より生活の助けとなる商品デザイン」を提案することが最大の任務と考えています。
「今までははやっていなかったかもしれないが、これからはやるかもしれない」。過去にもウォークマンやiPodなどのように、その読みが当たって新しい価値の創造に成功すれば、会社の得る利益は莫大なものになります。

 ただ未来を先読みするデザインの仕事は、どうしても不確実であいまいな部分を持ち併せているゆえ、失敗という常に大きなリスクと隣り合わせなんですね。
 なので「現実性」と「高いリスク」、そして「どこかで見たことがある」「だれも見たことがない」といったそれぞれの観点の違いから、エンジニアとデザイナーが衝突するケースが多いのも事実なんです。
 だから裏を返せば、そうした「デザインのもつリスク」に対して積極的に理解してもらえるエンジニアの方とはスムーズに仕事が進みますね。
エンジニア/デザイナー分析チェック
 また今回、アンケートで「エンジニアとデザイナー、どちらが社内的に優遇されている?」という質問を投げかけたところ、右図のように両者間の差異は特に見受けられなかった。
 このことからも、少なくとも現時点での評価は両者とも均等と考える企業が多く、衝突の原因は両者の基本的な仕事に対する考え方やスタンスの違いが生み出しているといえる。
 そのうえで「現実的な視点で考慮・判断することが多いエンジニア」と、「常識にとらわれない自由な発想が求められる性質の仕事を進めるデザイナー」が仕事上で衝突するのは、ある種当然のことといえるのかもしれない。
図:エンジニアとデザイナーの社内の立場関係
その3 ゴリ押しデザイナーに負けない交渉術って?
 今回実施したアンケート結果(右図)を見てもわかるように、約6割のエンジニアがデザイナーを「仕事のうえで必要不可欠なパートナー」と考えている。エンジニアも、できるならばデザイナーとよりよいパートナー関係を築きたいと思っているのだ。
  そこで、ゴリ押しデザイナーとでも、スムーズに仕事を進めることができるノウハウを探ってみた。
図:エンジニアにとってのデザイナーの存在
エンジニアAさんが実践する「対デザイナー交渉術」
物腰やわらかに説得→強気に反論
 困ったデザイナーがいたとして、自分の意見を通したい場合は、まず最初にデザイナーをおだてます。「●●さんのデザインはとてもいいと思うんだけれど、僕の方法だとコストをこんなに抑えることができるんだよ、納期にもばっちり間に合うしね」といった具合に、物腰やわらかに相手を説得しますね。
  それでも駄目な場合は、強気にでます。どうしてこのデザインじゃなくちゃならないんですか?と相手を問い詰め、技術論で打ち負かします。大抵、ここでデザイナーは引き下がりますね。
徹底的に議論し尽くした後に……
 でも、次の段階で僕は折れます。ここまでとことんデザイナーと議論すると、相手の信念やそのデザインにかける自信の程がわかるからです。昔、一緒に仕事をしたデザイナーさんに僕は折れたことがあります。彼の熱意に負けました。そこで、二人とも失敗したらクビのつもりで必死になって協力し合って、そのデザインを商品として世に送りだした。結果は大成功でした。
 あと、僕が常に心がけていることは、デザイナーと議論をしたあとに必ずフォローを忘れないということ。その人のタイプに応じて、食事に誘ったり、差し入れをしたりします。友好関係を普段から築いておくことは何よりも大事です。
デザイナーに聞いた「仕事のしやすいエンジニア」
デザイナーの言葉にも耳を傾けることのできる視野の広さ
 本来、仕事というのは完全に役割が分担されるものではなく、どこかオーバーラップしているはずです。そのため、自分の業務領域だけにとどまらず、デザイナーや経営者、クライアントの視点にも立ち、判断できるエンジニアが理想です。そういう人は、デザイナーに何をどれくらい期待するのか、期待値をしっかりともっていますので、支持もしてくれますし、期待にこたえないと厳しいこともあります。一度デザイナーの意見を消化し、全体にとって最適か判断してくれるから、こちらも納得できますしね。
未知のリスクに果敢に挑戦することも
 頭ごなしに「そんなものはできない!」とデザイナーの案を否定するのではなく、まずはちゃんとデザイナーと向き合って話し合いの場をもってほしいと思います。そこでとことん互いの意見を交換して議論し、一緒にいいものを作っていくんだというスタンスを示してくれる方が理想ですね。そして議論の結果、これならばかけてもいいと思えるデザインがあれば、そこでちゅうちょすることなく、今までの枠から飛び出す勇気をもつ情熱的なエンジニアさんと仕事をしたい! そういう方と出会うたびに私はハッピーだと思うんですよ。
まとめ ゴリ押しデザイナーに負けず、むしろ味方に
 デザイナーとエンジニア。仕事上、求められていることも違えば、性質もまるで違う者同士、衝突しないほうが無理といえば無理なのかもしれない。だが事前にデザイナーについての理解を深め、常に自分の業務範囲にとどまらず、広い視野でものを考えることによって、事前に回避できる衝突も多いはず。むしろ味方にすることで、自分の手がけた製品が思わぬ大ヒットをする可能性も秘めているのだ。
 今後、ますますデザイナーの存在感は高まるはず。「できるエンジニア」になるために、デザイナーという“よきパートナー”を真っ向から否定せずに、貴重な時間を割いてでも、まずは相手の意見、考えをじっくり聞くなどその価値を認めることから始めてみてはいかがだろう。
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ 山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
私も昔、少しだけデザインの勉強をしていた経験もあるので、デザイナーの方が提案される斬新なアイデアの数々に日々、刺激を受けています。ただそれを具現化するまでの道のりは、長く険しいのが現実。デザイン志向が強まっている市場ニーズを考えると、今後もエンジニアの方のご苦労は続きそうです。これからもそんな苦労を少しでも軽減するためのヒントを提案していければと考えています。

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