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メカトロニクス、コンピュータ、通信……生かせるスキルの間口は広い 意外な技術を応用!?車載安全テクノロジー最新開発事情
今、自動車の安全技術がものすごい勢いで進化している。衝突安全は当たり前。事故を回避する技術、事故を未然に防ぐ技術の実現に向け、最新の電子技術を駆使したデバイス開発競争が世界で繰り広げられている。多くのジャンルの技術の集合体である車載安全技術。あなたのスキルも求められている?
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関洋子)作成日:06.03.22
クルマの安全技術、これまでの取り組み
 
  取り組みが早かったのは、事故発生時に乗員を守る2次安全技術
 
60年後半〜70年代
衝突安全技術
3点式シートベルト / 衝撃吸収車体構造 / エネルギー吸収バンパー
予防安全技術
ブレーキ油圧制御システム / ABS
80年代
衝突安全技術
高剛性車体構造 / 運転席エアバッグ
予防安全技術
電子制御サスペンション / 4WS / クリアランスソナー /
トラクションコントロール / アクティブサスペンション
90年代
衝突安全技術
サイドドアビーム / 助手席エアバッグ / シートベルトプリテンショナー /
衝突時アンチドアロック / サイドエアバッグ / チャイルドシート
新固定方式 / むち打ち防止ヘッドレスト / 自動通報システム
予防安全技術
スタビリティコントロール / オートクルーズコントロール / タイヤ空気圧
低下警報装置 / 緊急ブレーキアシスト装置 / ふらつき運転検知機能 /
ブラインドコーナーモニター / 電子制動力配分(EBD)
2000年〜
衝突安全技術
フロント・サイドモニター / 歩行者障害軽減車体構造
予防安全技術
横滑り防止システム / 赤外線暗視装置 / レーンキーピングアシスト /
電子制御ブレーキシステム
 
 自動車にとって、「安全」はもっとも重要なテーマである。自動車が発明されてから、世界の自動車メーカーは、「安全技術」の開発に力を入れてきた。

 安全技術には、乗員の疲労軽減や視界確保によって事故を防ぐ0次(予防)安全、事故を車の操作によって回避する1次、事故発生時に乗員を守る2次、歩行者や二輪車などの被害を軽減する3次の4種類がある。

 もっとも早くから技術が発達したのは2次安全。乗員をシートに拘束して被害を減らすシートベルト、ボディーをつぶして衝撃を吸収する衝撃吸収ボディーなど、多くの技術が1950年代〜60年代といった早い時期に、市販車にも採用された。80年にメルセデス・ベンツが発明し、現在は多くの乗用車に標準装備されているエアバッグもこのカテゴリーだ。

 その後、電子技術の発達に伴って1次安全についての技術開発が急進展する。78年に登場した自動車用ABSは、電子制御で急速に高度化された。また雨や雪など悪天候の中でも車の発進を安定させるトラクションコントロール、ブレーキの片利きを防ぐEBDなども1次安全技術である。現在もさまざまなデバイス開発に各社がしのぎを削っており、いちばんホットな分野といえるだろう。
  「安全技術」は自動車開発の生命線
 
 さらに、1次安全の思想を拡大し、事故を起こりにくくする0次安全も登場してきた。以前はドライバーの疲労軽減や視界確保に気を配って車を設計するという程度のものだったが、90年代後半にはテレビカメラで死角を映し出して事故を防止したり、カーナビの地図情報を利用して急カーブを警告したりといった技術も登場した。電子デバイスを駆使した0次安全技術の開発競争は、これからが本番である。

 これら安全技術は、自動車メーカーにとって環境技術と並ぶ大きな技術の柱であり、生命線とも言えるものだ。それだけに自動車メーカー各社の開発への熱の入れようはすさまじいものがある。電子技術の進歩と相まって、次々に新しい発想のものが登場しているのだ。

 ではどんな開発が行われているのか。デンソーの例を見てみよう。
車載安全技術の最新開発事情
  路上の白線を見つめ、そして考える“機械の目” 株式会社デンソー
 
予防安全のコアテクノロジー、画像センサー
 ドライバーの目をサポートして前方の道路状況をセンサーが監視し、事故の被害低減を目指した予防安全技術、トヨタ自動車の「プリクラッシュセイフティー」。人間の目では視界の確保が困難になる雨の日や夜間でも障害物や車線などを検知し、安全運転をサポートしてくれるという、まさにハイテク装備である。

 このプリクラッシュセイフティーの“目”となる部分、すなわちセンサーの開発を手がけているのは、自動車部品大手、デンソーだ。
「デンソーは光学式カメラ、ミリ波レーダー、レーザーの3種類のセンサー、すなわち前方を見るための目をもっています。それぞれ前を見る能力について異なる特性があり、これらを複眼的に使うことで、監視の精度を高めています」
 走行安全技術一部、第三技術室の大方浩司室長は、センサー開発について、このように語る。

 大方氏は90年代から前方監視用センサー技術や車間距離警報装置などに使用する車載用レーザー、ミリ波レーダーの開発に携わってきた。現在はデジタルカメラの技術を使った光学式「画像センサー」の改良に取り組んでいる。
過酷な使用条件にも耐える高性能
 現在、トヨタの高級車「マジェスタ」などに搭載されているデンソーの画像センサーは、撮影速度10FPSのモノクロデジタルカメラだ。撮像素子には30万画素のCMOSを使用。視野角は左右方向に約50度で、約40m先までの範囲を撮影している。レーンキープアシストシステムに使用され、主な目的は、車線からのはみ出しなどを検出するための、白線認識だ。

 デジタルカメラは今日、広く一般に普及している技術だが、それを画像センサーとして使うのは、実はかなり難しい。スペックの数字を見ると、平凡なカメラにも思えるが、そのカメラを生み出すには、大きな苦労があったという。

 普通のデジタルカメラは、光や温度などの条件が比較的整った環境下で、高い解像度の画像を撮影するのが狙いだが、自動車に搭載し、延々と連続撮影する必要がある画像センサーには、普通のデジカメとはまったく違った性能が要求される。

「画像センサーの場合、昼夜を問わず、常に撮影し続ける必要があるため、感度のダイナミックレンジの広さが要求されます。また、温度変化についても下はマイナス30度から上は60度までと、カメラにとってはかなり過酷な環境です。デジカメというと、最近は携帯電話にも性能の高いものが実装されていますが、それらとは別物です」(大方氏)

 カメラを使うには非常に厳しい環境においても、きちんと撮り続けられるものを作る必要があるのだ。現状で約10年という耐久性も、通常のカメラに比べて非常に長い。
撮るだけでなく「考える」カメラ
 さらに、白線認識への画像処理の最適化も要求される。
「撮影した映像の中で、どれが白線でどれが汚れやノイズなのかを見分けられるよう、車載コンピュータ側に送る画像信号を最適化する必要があります。そのためのカメラのコントロールアルゴリズムの開発にも苦労しました」(大方氏)

 画像センサーは、単に映像を撮るためのデジカメではなく、画像の中の白い部分が白線であるかどうかを動的に判断する、いわば「考えるカメラ」なのである。
 このように、高い認識性能を実現した画像センサーだが、今後も進化の余地は大いにあると大方氏は開発に意欲を燃やす。
「レーダーは距離を測定するのに向いていますが、モノの形を見ることができるのはカメラです。将来的には、前方の障害物をカメラによって認識できるようにしたい」(大方氏)

 また、コスト低減についても、
「今は耐久性のこともあって、高価なガラスレンズを使っていますが、これを何とかしてコストダウンしたい。低価格化できれば、衝突防止のデバイスを大衆車にも積むことができるようになります」(大方氏)
 と、意欲を見せる。

 これからも進化を遂げていく安全技術だが、その開発に際しては、どのような人材が求められているのだろうか。
「まずは車が好き、というのが大前提になりますね。好奇心あってこそ、さまざまな工夫が出てきます。光学センサーの場合は光学、電気回路、画像処理アルゴリズムなどのほか、車載コンピュータとの信号通信のスキルがあると役立ちますが、安全技術のすそ野はとても広いですから、だれでも自分のやれることを見つけられる分野だと思います」(大方氏)
 
画像センサー
デンソーが開発した、車線認識用「画像センサー」。30万画素のモノクロCMOSカメラに画像処理回路を組み合わせたもので、白線認識に最適化された情報を車載コンピュータに送る。マイナス30度〜60度の温度変化、1mの高さからの落下衝撃など、かなりタフな使用環境に耐えられる設計となっている。
画像センサー
「画像センサー」の視野角は約50度、撮影距離は最大約40m。画像センサーのスペックを近・中距離の撮影に特化させることで性能向上を図り、白線認識性能を向上させている。
大方浩司氏
走行安全技術一部
第三技術室 室長
大方浩司氏
1982年入社。当初は自動車用メーターを設計。その後営業技術を経て、センサー開発担当となる。96年にはトラックに搭載された車間距離警報装置用のレーザーセンサーを開発。その後、画像センサーやクルーズコントロール用ミリ波レーダーを手がけ、現在に至る。
車載安全技術エリアで求められる技術者像とは?
 
山下雄璽郎(ゆうじろう)氏
山下雄璽郎(ゆうじろう)氏
ジャーナリスト
日刊自動車新聞記者、自動車専門誌編集長などを経て独立。自動車行政から経営、ITSその他の技術動向などを幅広く取材し、自動車専門誌や自動車業界誌など、多くの媒体に寄稿している。著書に『「トヨタ」全速発進!』(インデックス・コミュニケーションズ)、『PL法事始め』(三一書房・共著)、『総力取材 どうなる自動車産業』(産能大学出版部・共著)などがある。
  識者は語る 〜車載安全装置は国家のインフラ構築にもかかわるキーテクノロジー〜
 
 自動車にとって、安全技術は最も重要な技術である。特に0次安全、1次安全についての技術開発は、まだまだ途中段階であり、現在、自動車メーカーから部品メーカー、さらには通信、電機、機械、半導体、光学など、自動車関連以外のメーカーも巻き込んで、開発競争が展開されている。

 要素技術そのものはかなり出そろってきている。予防安全については、人間の目に代わる赤外線暗視装置、車線認識システム、レーダーを使った車間保持装置や、カーナビを利用したコーナリング情報などは既に実用化されている。車車間通信を利用してお互いが位置情報を確認し合い、衝突を未然に防ぐというASV3(第3世代先進安全車)の技術も実用化がおぼろげながら見えてきている。

 車のロボット化も進んでいる。ABSやトラクションコントロールなどの普及が進む一方、EBD(電子制御制動力配分)、ESC(横滑り防止装置)、レーダークルーズコントロールと連動して衝突防止のためにブレーキを自動的にかける装置なども開発されている。

 自動車向けの安全技術は、要素技術は相当高度化しているが、実際にはこれからが技術開発の本番だ。カメラや角速度などの各種センサーを使った知覚システムで構成される0次安全技術と、自動車の動きを制御する1次安全技術は、本来は統合制御がなされるべきものだ。それを実現させるためには、車内通信、車車間通信、またITS情報を得るための路車間通信など、情報通信技術がいっそう大きな役割を果たすだろう。

 安全を単独の車両で確保するのは非効率であるため、ITSと車載安全装置のリンケージを模索していく必要がある。が、安全技術への貢献が期待されているITSについては、残念ながら国の政策が定まっていないため、動向が今後どう変化していくかは予測がつかない側面もある。

 安全技術は、国の交通インフラづくりにもかかわる、まさに国家の中核技術のひとつ。安全技術を手がけるエンジニアは、技術動向ばかりでなく、道路づくり、ひいては社会の動向にも関心をもつ必要がある
  パーツ別将来展望と求められる技術分野
  カメラ・レーダーカーナビ車両安定装置
  ECUブレーキ
  異業種のエンジニアにも広く門戸が開かれている安全技術開発
 
 自動車技術は、もともと多くの技術分野にまたがる複合技術である。なかでも車載安全技術はメカトロニクスからコンピュータ、通信、シミュレーションなど、技術の間口は非常に広い。異業種のエンジニアにとっても、自分のスキルを生かすことができる場は豊富に用意されている。

 要素技術ごとに求められるスキルの概略を紹介する。EBD、ESC、電動ブレーキなど、車両の運動制御を行うデバイスについては、まずメカトロニクス全般の知識。機構設計、モーター、ソレノイド、アクチュエーター、制御用アルゴリズム作成などの経験があると有利だ。また3DCADによる物理シミュレーションの経験なども役に立つ。

 光学センサーについては、ピックアップ部では光学、撮像素子など光学関連のスキルが、バックグラウンド部では画像処理技術の経験を生かすことができる。レーダー、レーザーについても、それぞれのセンサーに関する実務経験があれば、すんなり移行できるだろう。車載化には独特の難しさがつきまとうが、それは転職後の努力によって解決可能だ。

 ECUおよび通信技術は、安全技術の核。ハードウェアではデジタル・アナログ回路設計、OSの実装、通信アルゴリズムの設計など、コンピューティング関連のスキルを生かすことができる。ただ、安全性を求められる自動車では、デバッグの要求がほかの製品に比べてけた違いに厳しい。また、電磁波や混信への耐性が高い回路づくりも要求されるなど、ハードルは低くない。

 カーナビはITSを利用した安全技術の核となるデバイス。ECUと同様、回路設計や製品のパッケージング設計などハード、OS、アプリケーションなどソフトウェアの両方についてエンジニア需要があり、コンピューティング関連全般のエンジニアにとって転職しやすいジャンルだ。UWB、4Gなど次世代通信の経験も重宝される。

 多くの自動車メーカーの経営者やエンジニアは「事故を起こさない車を作りたい」と言う。その実現への道のりはまだまだ遠く、「開発はまだ緒についたばかり」(デンソー・大方浩司氏)と言う。その車載安全技術の開発にあたっては、どのようなスキルが求められているかを気にするのではなく、自分のスキルが安全技術をどう進化させうるのかというクリエーティブな発想が求められる。決して簡単ではないが、それだけに大いにやりがいのある仕事であることは間違いないだろう。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
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私の車は7年前に購入したもの。搭載されている安全技術としてはABSとエアバッグぐらい。購入当初はサイドエアバッグまで付いていることに感動したのですが……。最先端の安全技術の話を聞いて、ついつい、最新の車が欲しくなってしまいました。皆さんは車にどんな安全技術を求めますか? 私はぶつかっても何事もなく元に戻る、そんな技術があればいいなって思っています(って全然、ぶつけてないですよ!)
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