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厳選★転職の穴場業界 第9回 リサイクル技術 循環型社会を生み出す高性能フロン回収装置
地球に優しい循環型社会を目指す機運が、世界中で高まっている。環境、ゴミ、資源、エネルギーなど、解決困難とされるさまざまな課題をクリアすることこそが、新しい21世紀を創り出すからだ。その基幹技術として注目されているもののひとつに、リサイクルがある。
(取材・文/伊藤憲二 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:06.02.08
業界動向:政府・企業が熱い視線を送るリサイクル技術の将来性
 エコロジーが叫ばれ、使い捨ての大量消費社会から、無駄を省いた「循環型社会」への転換が世界で図られている。
 日本でも各業界や企業が自主的に進める一方、経済産業省は3R(Reduce:廃棄物発生抑制、Re-use:再利用、Recycle:再資源化)政策を打ち出し、新たな技術開発の支援に乗り出した。循環型社会の実現に向けた取り組みは、加速度的に進展している。

 現在、日本で特に重視されているのは、リユースとリサイクルだ。自動車、家電製品、パソコンなどのリサイクルを義務づけた法整備や、社会システムの枠組みがつくられる一方、空き缶やペットボトルなど資源ゴミのリサイクル技術でも世界に先行している。
 その方法も、溶解などによる工業製品の材料への加工だけでなく、資源物質の選択抽出によるリユースや廃プラスチックの燃料化など、近年では多様化が進んできた。昨年開催された愛・地球博におけるゴミ発電もその一例だろう。これらリユース、リサイクルの次世代技術開発はこれからが本番だ。

 環境省は環境ビジネスの市場規模について、2010年には約47兆円、2020年には約58兆円と予測している。
 新エネルギーや環境関連プラントなど、すべてのファクターを総計した数値ゆえ大きな数字となっているが、大規模案件の多いリサイクル関連は今後、エコビジネスの中核分野として、投資と技術開発の両面でますます活況を呈するのは確実だ。
 多くの企業にとってリサイクルは既に、ビジネスベースでの参入に値する業界となりつつある。
注目企業:フロン回収率95%を実現したオンリーワン町工場の中島自動車電装
 地球温暖化、オゾン層破壊といった環境問題の流れの中で、規制物質となったフロンガス。潤滑油と混合で使用されることから回収が難しいとされていたフロンを95%回収するという、世界トップレベルの画期的な回収装置「リサイクロン」。開発したのは北関東の田園地帯にある、自動車修理工場の経営者だ。
■フロンガス回収装置「リサイクロンNA-760」 ■中島式フロン回収装置のシステム
フロンガス回収装置「リサイクロンNA-760」 中島式フロン回収装置のシステム
世界標準が7割とされる中、実に95%以上の回収率を誇るリサイクロンシリーズ。全国の公営清掃センター約1300カ所中の1000カ所以上で使用され、家電リサイクル法に基づいて家電メーカーが設立した廃家電リサイクルプラントでも、メーカー自身の回収装置を押しのけて全国40カ所中38カ所で稼働している。大型処理プラント用のNA-760は、コンプレッサーとオイルユニットを2台ずつ備えた最新型。タイトル横の機種は小型の「N-730」。 他社システムが気化・分離したフロンガスを吸引するのに対し、潤滑油と混合状態にあるフロンを直接プラントの中に流し込む方式が特徴。オイルユニット(左写真前面の上下2つの青いタンク)内部に熱を帯びたフロンを通過させる配管を設置し、ヒートシンク代わりとした。コンプレッサー(写真上部の黒い装置)の熱と合わせて、寒冷時でも高効率でフロンを回収できる。冷媒をそのまま注入するという操作の簡単さも、大量処理のニーズにマッチ。

フロン再資源化というビジネスモデルをいち早く着想

 冷蔵庫、家庭・自動車用エアコンなどの冷媒として使われてきたフロンガス。今日では地球温暖化やオゾン層破壊の原因物質のひとつとされ、使用後は大気開放させず、回収することが義務づけられている。しかし、常温では気体であるフロンの回収には、さまざまな困難がつきまとう。

 大手重電やプラントメーカーが開発にてこずるのをしり目に、短時間で回収率95%という高性能フロン回収機を考案したのが、群馬県の自動車修理会社、中島自動車電装だ。
「フロンのリサイクルを思い立ったのは、フロンへの規制が盛り込まれたモントリオール議定書が採択された後のことでした」
 開発を手がけた中島朗社長はこう語る。カーエアコンや冷蔵庫などのフロンを使用する冷熱機器は、原則として冷媒であるフロンがないと機能しない。フロンの生産が規制されれば、ガスの補充ができなくなり、使用を継続できなくなる。
「フロンが規制されれば、既存のフロンは自動車の中古部品のように、再利用可能なパーツとして価値が出るのではないかと、ふと思ったんです」

 中島氏は高校を卒業後、自動車ディーラー勤務を経て独立し、中島自動車電装を立ち上げた。設立当初の本業は自動車の整備や修理。一方、冷媒に使われているフロンは通常、潤滑のためのオイルと混ぜ合わされており、分離回収するためには、いわば小型の化学プラントのような装置をつくらなければいけない。
「化学プラントはおろか、機械設計に関する知識もほとんどなかった」と中島氏は語るが、自動車用エアコンのパイピングなど、配管に関する知識だけで開発を始め、1992年に第1号機が完成。その後も改良を重ね、冷蔵庫の冷媒なら2〜3分で抜き取ることができるまでになった。

他社製回収装置の10倍という性能で市場を席巻

 フロンの回収力を高めるため、リサイクロンにはさまざまな工夫が盛り込まれている。既存の回収ユニットは、フロン混合液から気化したフロンを集めてから圧力をかけて液化するという手順を踏んでいた。そのため、装置内の温度が下がり、オイルとフロンが分離しにくい冬場などでは、効率が著しく低下するという欠点があった。

 既存のシステムを見た中島さんは、自然に分離したガスをトラップするのではなく、フロン混合オイルに熱を加えて、強制的に気化させることを考える。最初は装置自体をライトバンに車載し、ラジエーターの廃熱を利用して加熱した。その後、分離を行うためのタンク内に熱交換部を設け、熱をもった気体フロンを通すことで加熱するシステムを開発した。
 一見シンプルなアイデアだが、この方式の効果は大きく、冷蔵庫のフロンであれば2〜3分で処理できるようになった。95%の回収なら、所要時間は他社の同等製品に比べてわずか10分の1という性能だ。サイホン管付きの専用回収ボンベを使用することで、回収効率はさらに上がるという。

 中島氏はリサイクル、リユースなどのエコビジネスについて、人が何で困っているか、どんなものを欲しがっているかを、的確に把握することが大切だと語る。
「アイデアさえきちんともっていれば、必ずよいものを生み出すことができます。技術的な課題は専門家に相談すればいいんですよ。私は化学や機械の専門家ではありませんでしたが、高効率なフロン回収機をつくることができました。また、現在は4人の開発スタッフが装置の性能向上に取り組んでいますが、彼らはいずれも中学や高校卒で、専門的な教育を受けたわけではありません。しかし、論文を読むなどして技術情報を収集し、トップクラスの製品を生み出しています。アイデアやスキルのある人は、ぜひリサイクル技術の世界に飛び込んできてほしいですね」

中島朗氏
株式会社中島自動車電装
代表取締役

中島朗氏

1947年生まれ。自動車整備関連の専門学校を卒業後、自動車ディーラーで整備士を務める。その後独立し、現在の会社を設立。1992年にフロン回収機業に進出してシェア最大手に成長させた。ほかのエコ装置には下の「安心カンカン」のほか、ガスを抜かずに使い捨てライターを破砕するプラントを開発中。
使用済み缶処理機「安心カンカン」
スプレー缶やカセットボンベを安全・迅速に処理できる、使用済み缶処理機「安心カンカン」。リサイクロンと並ぶ主力商品。
穴場求人:機械・プラント系、マテリアル系など多くのスキルにニーズあり
 リサイクル業界のエンジニアのニーズは昨今、かなり高まってきている。リサイクルは既に努力目標ではなく、建設、家電、自動車などの諸リサイクル法によって具体的な数値目標が定められ、企業の対応が求められているからだ。
 リクナビNEXTでは「リサイクル」をキーワードに検索すれば求人情報をゲットできる。また自動車、化学、重工、重電、家電などの分野では、リサイクル対応やリサイクルプラント開発の案件が大量に発生しており、リサイクル分野の求人が頻繁に出てくる。求人の動きに常時チェックしておきたい。

 エンジニアに要求されるスキルは、大別してプラント系とマテリアル系がある。プラント系では機械設計の全般。廃材の破砕にはロボット制御やパワーモーターなどの重電系スキル、材料化された物質の搬送にはライン構築、また、液体の場合にはパイピングなどの化学プラント経験が生きる。
 フロン回収装置のように、リサイクルは冷熱関連とかかわりが深いことが多く、ボイラーなど高圧関連のスキルも転職に有利だ。

 マテリアル系は全分野といっても過言ではないほど。中でも工業用薬品、高分子、金属、流体、気体、超臨界流体など、リサイクルのコアテクノロジーに関する知識は、新たなリサイクル方法や装置の考案にも役立つ。多くの企業で歓迎されるスキルだ。
 なお、これらの基礎的なスキルがなくとも、リサイクルは発想力や創造力で勝負する要素がかなり強いため、積極的な姿勢があれば転職できる可能性は高い。興味をもったら、とにもかくにも自分から門戸をたたくべし。
リサイクル業界のエンジニアニーズ
・ リサイクルで最も大切なのはスキルよりモノづくりのアイデア
・ 大型案件も数多く、プラント系エンジニアへのニーズは高い
・ ハード開発では機械設計、制御、ロボット関連などのスキルも有用
・ ケミカルやマテリアルなど材料工学系の知識も生かされる
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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中島自動車電装さんでは自動車の修理も行っているため、一見すると修理車両とつなぎ姿が目立ち、ちょっと大きな町工場という雰囲気です。しかも、働くエンジニアは皆さん気さくで、撮影のお願いに気軽にフォークリフトを動かしてくれる。中島社長は自ら運転して、駅からの送り迎えをしてくれました。この場所から大手メーカー各社をしのぐフロン回収装置が生まれたことに、日本の技術力の確かさを感じました。
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