乗るだけ？作っちゃう？僕らを夢中にする趣味CARたち

世界市場を相手に何百万台と生産される自動車が優等生なら、エンジニアが個人の趣味を詰め込んでつくったクルマは、規格外れのやんちゃ坊主。だけど、最近少なくなったせいか、やんちゃな子供に会うとかわいくてたまらない。きっと、そんなエンジニアが開発したからだ。

（取材・文／総研スタッフ　高橋マサシ　撮影／大隈孝之）　作成日:06.01.18

「大手完成車メーカーで9年CVTをつくっていたんだけど、希望した本体の設計はやらせてくれなかった。嫌になって光岡に電話したら、『何でもできるからおいで』って社長が言うんだ。それで来たら、いきなりエンジンの開発。経験なかったけど、他社製品を分解しながら勉強して完成させた。もう、必死でした」（寺尾氏）

「フェラーリみたいなつるっとしたのでなく、存在感のある“日本のスーパーカー”をつくりたかった。テーマは『ワル』。ヘビ革ファッションが好きだからヘビのイメージ。ボディーのカーブを出すのは鉄板じゃ無理でFRP。昨年の東京モーターショーでの評判がよくて、今年中に発売予定です。まずは私が公道で走らせたいね。ここ富山じゃないよ、六本木の交差点とかね（笑）。それと、こいつには曇天が似合うんです。だから、雨の日に来てもらって本当によかった」（青木氏）

「とにかく車高を低くしたかった。先代の『ZERO-1』よりもっとね。サイクルフェンダーだし、フロントスクリーンもほとんどないから、最高速度50km/hのくせにすごい体感速度ですよ。あとはスケール感を出すために、思い切りロングノーズに。だから後部のエンジンスペースが短くなって左ハンドルになった。ハンドルを右に置くと、すぐ後ろのエンジン熱でドライバーが危ないからね（笑）。昨年8月に限定200台で発売したら、即完売。最高です」（松浦氏）

「最初はガソリン車の『MC-１』をつくったんですよ。先輩と2人でエンジンからシャーシ、ハンドルやブレーキなどの部品と、ボディー以外の全部を担当です。いろんな50ccバイクのエンジンを分解して、一から勉強でした。次は電気自動車版の『MC-１ EV』。モーターも充電器も電気自体も初体験で、苦労したなあ。電気自動車なんて鉄道屋の仕事だと思って最初は好きじゃなかったけど、今は愛着の固まりです。かわいいでしょ」（寺尾氏）

		「最初から担当したクルマの3台目。開発期間は2000年～2002年で、私に電気の勉強を教えてくれたヤツです。特にコントローラーが大変で、最初は米国製を輸入したんですが、結局合わずに自社開発しました。予想以上に電流が流れて壊れたりして、制御が大変だったな。この後から『大蛇』のシャーシ開発に移るんですが、詳しいことは青木に聞いてください」（寺尾氏）




「これは2代目。もともと日産『マーチ』がベースの改造車ですが、マーチが新しくなったので13年ぶりにモデルチェンジ。昨年9月に発売しました。車体がひと回り大きくなったので、小さなクラシックカーから今風にどうアレンジするかで悩みましたね。メッキや装飾品を多くして品を出したつもりですが、どう思いますか？」（青木氏）


執行役員・開発部長　寺尾公伸氏	開発部　造形課主任　松浦巨英氏	開発部　青木孝憲氏

「電気自動車が普及しないのは、コストに比べると性能がイマイチだからです。研究対象ではあっても、実売となると難しいでしょう。それでも私がこだわって開発を続けているのは、環境に優しいからです。アスベストだって20年、30年たって社会問題化した。排ガスも今から考える必要があるんです」（武岡社長）

「最も苦労したのはコストダウン。20万円で中古車が買えるのに、電気自動車に100万円は出さないでしょう。そのためにブラシレスでなく、工夫したブラシモーターにしたけど、発売以来7年間で1回もモーター交換の連絡がこないんです。うれしいですね。電気系の勉強を始めたのは60代になってから。ですが、本もいっぱい出ているし、読めばわかりますよ。
そうそう、このオレンジのは、富山大学芸術文化学部の漆芸家の先生がデザインしてくれたもの。いいでしょう」（武岡社長）

「バイクで止まると足を着くでしょ。お年寄りだと不安定でよろよろする。だから4輪で走れる原付をつくったんです。雨に濡れないように屋根も付けてね。それから飛び出し防止機能。始動後にスイッチを入れないと電流が流れません。電動だからエンジン音がしない。だから、加減せずにアクセルを開けると急発進して飛び出しちゃう。お年寄りが交差点でやったら大事故ですからね」（武岡社長）

「アビーは会社を興して最初につくったクルマでね。ガソリン車なんだけど、少しでも環境に優しくしようと、エンジンを2サイクルから4サイクルに変えました。ブレーキもワイヤー式の機械ドラムから4輪油圧ドラムにしてね。これでも進化を続けています。外見がミリューと似てるって？　そりゃ同じボディーを使っているからね（笑）。コストを削減しないと価格にはね返っちゃうから」（武岡社長）




「これはスペイン製のクルマなんだけど、後部ドアを開閉させて、車イスの方が自力で乗降・運転できるようになっています。うちの電気自動車『フレンドリーエコ』と同じですね。ほら、さっき見せた、ライトが外れてたから写真に撮れなかったクルマ。欧州とは規格が違うので、日本仕様に合わせるように頼まれているんです。いろんな仕事が持ち込まれるからね」（武岡社長）


	代表取締役　武岡栄一氏		武岡社長と専務である息子の学氏

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ

光岡自動車さんの取材での移動中、ふと見ると車庫に黒い霊柩車がある。隣にいた寺尾さんに聞くと、「最初は皆でリムジンをつくろうとしてたんだけど、いつの間にか霊柩車になっちゃった」とのこと。ヘンでしょ。だって、リムジンもそうだけど、霊柩車のニーズなんてどこにもないんだから。気づいたらこれ、モデラーの感覚なんですよ。プラモデルと同じように、自分のつくりたいクルマを開発する。ゾクゾクするほどうらやましくなりませんか？