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【hirax.net+Tech総研共同研究】マシンの排熱でもう暑いよ:エンジニア的超緻密計算☆ウォームビズって効果ある?
世間では、ウォームビズというとまず「セーターが売れて衣料品業界に××億円の経済効果」って話だ。でもエンジニアとしては、「¥」で測れる経済現象よりも、「W」=熱量や、「kg」「m3」=ガス排出量の変動が気になる。室内温度を20℃に下げれば、ホントに地球温暖化ガスは削減できるのか? hirax.netとの共同研究プロジェクトで、エンジニアらしく定量的な評価を試みた。
(文/平林純 総研スタッフ/根村かやの イラスト/工藤六助) 作成日:05.11.23
Part1 あなたのオフィスのCO2排出量を計算してみよう
クールビズからウォームビズへ?
今年の夏、「電気を使いすぎるとCO2(炭酸ガス)排出量が増加し、その結果として地球温暖化が生じるかもしれない。だから、オフィスでは涼しい格好をして冷房設定を28℃程度に抑え、冷房に使う電気量を削減しよう」という「クールビズ(COOL BIZ)」が行われた。その結果、7万9000t程度のCO2排出量を削減することができたという。
 暑い夏が冷房を使う季節なら、寒い冬はもちろん暖房を使う季節というわけで、この冬は「厚めに服を着ることで暖房設定温度を(21℃から)20℃にして、CO2排出量を削減しよう」という「ウォームビズ(WARM BIZ)」が始まった。
 ウォームビズをするといったいどのくらい効果が出るというのか、ここはひとつ、エンジニア的に「その効果のほど」を計算してみることにしたい。
ウォームビズで「CO2排出量が増加してしまう職場」もある!?
[図1]ウォームビズでCO2排出量が減る職場・増える職場
ウォームビズでCO2排出量374kg削減の「某編集部」
M = 50 CRT = 2 L = 20.9(m) TIN = 21(℃)
F = 45 LCD = 80 H = 2.5(m) MIN = 50(%)
WS = 5 CP = 0 TOUT = 10.3(℃) SM = 5(人)
PC = 95 LP = 0 MOUT = 58(%) LOSS = 6
LT = 15 FR = 3 暖房期間=180(日)
CO2排出量140kg増加!の「エンジニアの職場」
M = 45 CRT = 50 L = 20.9(m) TIN = 21(℃)
F = 5 LCD = 50 H = 2.5(m) MIN = 50(%)
WS = 50 CP = 3 TOUT = 10.3(℃) SM = 0(人)
PC =0 LP = 5 MOUT = 58(%)

LOSS = 2

LT = 40 FR = 3 暖房期間=180(日)
 まず一つめの例は、図1(上)のような様子の、某編集部オフィスだ(Tech総研編集部と似ているが、偶然の一致である)。
 男女ほぼ半々の約100人が、400u強の広さの職場で働いていて、人の出入りは多く、OA機器が少ない事務系のオフィスである。ヘビースモーカーが5人ほどいて、職場でタバコを吸っている!という時代錯誤的な部分もある仕事場だ。

 この編集部がある東京の真冬(12月)の日中平均気温は、10.3℃くらいだ。この外気温の日に、「職場内の温度をウォームビズ推奨温度より1℃だけ高い21℃に保つ」ためには、 おおよそ3.8kW(エアコンでなく電気ストーブなどの場合22kW)の電力で暖房をしてやらなければならない。
 ところが、この職場がもしウォームビズを実施したなら、つまり、服を重ねて着るなどの工夫で室内の温度を20℃まで下げたならば、必要な電気量は3.1kW(エアコン以外の場合18kW)ほどになる。つまり、ウォームビズによってエアコン電力を700Wほど削減することができるのだ。
 この電力削減量をもとに、初冬〜春先までの1シーズンのCO2排出削減量を計算してみると、およそ374kgになる。体積換算で206mほどのCO2の排出を防ぐことができた、ということだ。

 もう一つ違う職場で計算をしてみよう。例えば図1(下)は、同じく東京にある画像機器開発エンジニアの職場だ。
  男性中心のエンジニア50人が、ワークステーションやCRTを前に脂汗を浮かべながら働いていて、(喫煙が禁止された)400u強のオフィスには人の出入りはほとんどない。
  (OA機器がグォングォン熱を発生させまくっている)この職場の場合、室内温度を21℃にするには1.2kWの電力で冷房!!をかけなければならない。そして、室内温度をウォームビズの推奨温度20℃に「下げ」ようとすると、その「冷房」電力は1.4kWほどになってしまう……。つまりこの職場では、(何も考えずに)ウォームビズの設定温度を守ると、なんと200Wほど必要電力が増え、1シーズンで140kgほどCO2排出量が増えてしまう!!のだ。
「職場の冷暖房計算式」から「ウォームビズ・カリキュレータ」を開発!
 この二つの職場での「冷暖房に必要な電力計算」および「CO2排出量算出」のために使った「職場の冷暖房計算式」が、下の図2だ。
[図2] 職場の冷暖房計算式
 あなたの職場条件をこの式に入れて計算すれば、「あなたの職場でエアコンが必要とする電力」や、「ウォームビズを行った場合のCO2削減量」などを調べることができる。……といっても、この面倒な計算を喜び勇んでしたくなる人は一人もいないハズだ。そこで、この下に「ウォームビズCO2削減量カリキュレータ」を用意した。あなたの職場の条件を入れて、(あなたの職場が)ウォームビズを実施した場合のCO2排出削減量の計算をしてみよう(入力条件の詳しい説明はPart 2で)。
 あなたの職場の結果を振り返りながら、先の二つの「ウォームビズでCO2が削減できた職場」と「CO2排出量が増えてしまった職場」では何が違っていたのか、そして「職場の冷暖房計算式」はどんな計算をしているのかをPart 2で考えてみよう。
1) なお、CO2の増加が地球温暖化の原因ではない、という考え方も根強くあります。
2) http://www.team-6.jp/action/coolbiz/ (チーム・マイナス6%「クールビズとは」)
3) http://www.sankei.co.jp/news/050916/kei120.htm (Sankei Web 経済)
4) http://www.team-6.jp/action/warmbiz/ (チーム・マイナス6%「ウォームビズとは」)
5) エアコンの場合、エネルギー交換により暖房を行うので実質的な消費エネルギーは電気ストーブなどの場合の約1/6となります。
Part2 ウォームビズでCO2排出量が「減る職場」「増える職場」の分かれ道
「人海戦術的な体育会系職場」vs「OA機器ハイパワー職場」
「職場の冷暖房計算式」は、まず「職場で発生する熱量」を計算し、「室内から外へ逃げる(入ってくる)熱量」を見積もり、さらに室内の空気を新鮮にするために「換気に必要な冷暖房電力」を求めている。そして、さらに冷暖房に必要な総電力を計算するようにしてある。

「職場で発生する熱量」としては、まず「職場にいる人たち」が熱を発生する。体重・性別・年齢や筋肉量(体脂肪率)にもよるが、男性1人当たりおよそ100W弱、女性は80W程度の熱量だ。つまり、昔の「電球1個分」程度の熱さである。
  次に、CRTやPC、そして複写機といった各種OA機器がかなりの熱源になる。17インチCRTは70Wほどだが、同サイズのLCDなら20W程度ですむ。また、職場に冷蔵庫が置いてあれば170W程度の熱が発生する。
  そして、オフィスでは700lx程度の明るさが必要とされているので、そのための照明に必要な電力量(発生する熱量)をオフィス形状・壁の反射率や保守頻度などから計算する。

 これら「人・OA機器(冷蔵庫)・照明」などによる発生熱量の合計が「職場で発生する熱量」だ。
  例えば、先ほどの「画像機器開発エンジニアのオフィス」ではLCDを使わず(色再現がよい)CRTや高性能のワークステーションや大型複写機を多用しているため、OA機器による発熱が多く(下の[図3]「冷暖房計算式」の内訳を参照)、結果として冬でも冷房が必要になっていたわけだ。こんな「OA機器ハイパワー職場」では、実はウォームビズより先に、OA機器の省電力化を進めるべきなのである。
  その逆に、「某編集部」では液晶ディスプレイや省電力PCが多く、OA機器よりも人の発熱のほうが多い。言ってみれば「人海戦術的な体育会系職場」であることがわかる。こんな「ガテン系」オフィスでは、ウォームビズの効果は非常に大きいのだ。

  さらに、計算を続けると、「室内から外へ逃げる(入ってくる)熱量」がある。職場の出入り口や壁の隙間や窓から熱が外へ逃げたり、逆に外から入ってきたりする。人の出入りが多い職場ならばその量は大きくなるし、人がほとんど出入りしない職場ならその量は小さくなる。例えば「某編集部」では人の出入りが多いため、室内の熱が外へ逃げてしまっていることがわかる。
[図3]「冷暖房計算式」の内訳
 さらに、室内の空気を新鮮に保つため室内へ外気を導入してやらなければならない。職場内と屋外では温度や湿度が違う。だから、外気を室内に入れる際に冷暖房(や湿度調整)が必要となる。外から職場内に入れてやらなければならない空気量は、職場にいる人の数(職場面積)で決められている。
  また、喫煙が許されている時代錯誤的な職場の場合には、その喫煙量に比例して換気量を多くしてやらなければならなくなる。つまり、冷暖房電力がその分必要となってしまうのだ。「某編集部」の例で、20人に1人しか喫煙者がいないわりには、その影響が大きいことがわかるだろう。地球温暖化防止のためには「喫煙者が禁煙する」というのも効果的といえそうだ。

  最後に、以上の「職場で発生する熱量」「室内から外へ逃げる(入ってくる)熱量」「換気に必要な冷暖房電力」の合計から、その職場を「設定温度」に保つために必要な冷暖房電力を計算することができる、というわけだ。先の「某編集部」と「画像機器開発エンジニアのオフィス」の場合の、「冷暖房計算式」の内訳は、上の図3に示しておいた。
対決! ウォームビズvsクールビズ
[図4]東京の日中平均気温[図5]クールビズとウォームビズの効果比較
 さて、職場で「冷暖房に必要な電力」が計算できたら、さらに(冷房や暖房を使う)1シーズン当たりの使用電力を求めてみよう。計算は単純で、「(冷暖房の)必要電力」と「1シーズンの冷暖房稼働時間(稼働時間/日×稼働日数)」を掛ければよい。
 この計算に必要な「冷暖房が必要な期間」「その期間の室内外の温度差」を大ざっぱに知るために、東京の日中平均気温の年間変化グラフを一例として眺めてみよう(図4)。すると、室内を28℃(水色の線)に保つために冷房が必要な期間(青い点線の囲み内)は3カ月強で、室内外の温度差は平均すると3〜4℃程度であることがわかる。一方、室内を20℃(赤い線)に保つために、暖房が必要な期間(赤い点線の囲み内)は5カ月強で、室内外の温度差の平均は5〜6℃程度になることがわかる。
 ただし、冒頭に挙げた某編集部のような例では、いつも(気温が下がる)深夜遅くまで人が働いている。そのため、室外温度はこれより数度低いと想定する必要があるだろうし、同時に1日当たりの冷暖房稼働時間が長くなることも、(1シーズン当たりの使用電力を算出する際には)考慮しなければならないだろう。

 最後に、クールビズやウォームビズを行うことで「1シーズンに使用される冷暖房電力」がどれだけ削減されたかを計算し、その電力削減量に「火力平均CO2排出原単位=0.69(kg - CO2/kWh)」を掛けたものがCO2削減量ということになる

 ウォームビズの効果を知るために、「某編集部」がクールビズで室内温度を「27℃→28℃」にした場合とウォームビズで「21℃→20℃」にした場合の効果を図2の「職場の冷暖房計算式」を使って比べてみた(図5)。
 最初に計算したように、この職場がウォームビズをすると374kgほどのCO2排出量の削減を行うことができたわけだが、クールビズをした場合のCO2排出の削減量は280kgほどになる。つまり、クールビズよりもウォームビズのほうがCO2(電力)削減の効果が大きいのだ。つまり、クールビズ以上にウォームビズもやってみる価値がある、ということだ。
6) 「ウォームビズCO2排出削減量カリキュレータ」では、1シーズンの温度変化を三角形で近似することで、真冬の平均気温から各月の「室内外の平均温度差」を算出しています。
7) 火力平均CO2排出原単位とは、「その電力を火力発電所が発電する際にどれだけの量のCO2を発生させるか」を示す値です。ウォームビズやクールビズで削減できる冷暖房のような「年間中に使用量が変動する電力」は、火力発電により担われているので、この値を用います。
8) これは「冷房が必要な期間よりも、暖房が必要な期間の方が長い」ということによります。また、「冷房をかける時期の室内外の温度差よりも、暖房をかける時期の室内外の温度差のほうが大きいため、室内から逃げる(入ってくる)熱損失量は冬のほうが大きい」(ただし、内外の湿度にもよる)ということもあります。
共同研究を終えて:「見えないCO2」を「見える計算式」にしてみる
 ウォームビズをエンジニア的に調査しよう!ということで、ウォームビズによるCO2削減効果を計算してみた。地球温暖化の理由とされている大気中のCO2増加は、目に見えるわけではないから、実際のところあまり意識しないのが自然だろう。しかし、こんな計算をしてみることで、「CO2排出」という目に見えないものを自分の職場を通じて「眺める」ことができるようになるかもしれない。今回の計算が、そんなきっかけになることを願っている。
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  根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ  
根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
「人海戦術的な体育会系職場」と「OA機器ハイパワー職場」、エンジニアのオフィスにはどちらが多いのかが気になります。カリキュレータに入力してみた結果を発表してくださる方、いませんか?
 また、計算式の基本部分は超緻密ですが、採用を見送った変数もあり、「大ざっぱ」なところもあります。みなさんのご意見も入れて研究を進め、カリキュレータの精度を高めていければと考えています。

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