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キャリアの確立を目的に転職した受託開発会社のSE

デジカメ製品の拡充に開発体制を強化するニコンシステムへ

ニコンは今、デジタルカメラの売れ筋を厚くする製品ラインナップの拡充と一層の技術革新に、全グループで取り組んでいる。その中でファームウェアやアプリケーション、画像処理、電子回路などの設計開発を担うのがニコンシステムだ。今回は、ファームウェア開発を希望して応募した、若手SEの面接を再現する。
(取材・文/須田忠博 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:05.06.15
ニコンシステム
応募したエンジニア 企業の面接担当者
元吉修二さん
元吉修二さん
(当時27歳)
飯田 豊氏
第2システム本部
第1開発部 部長
飯田 豊氏
当時の職種
携帯端末ファームウェア・アプリ開発支援SE
募集職種
デジタルカメラの開発設計者
業務内容
海外向け携帯端末メディアプレーヤーの、フィールドテストにおける項目作成と実施。
仕事内容
デジカメのシステム設計(ファーム、アプリ、画像処理、回路など)および付随開発。
職務経歴
カメラメーカーで生産工程ソフトの開発を2年、受託開発会社で携帯端末アプリの仕様策定とテストを1年。
応募資格
高専・専門・短大卒以上でファームウェア設計または回路設計の経験がある方。組み込みソフトのプログラミング経験者はなお可。
志望動機
技術者としてのキャリアを確立したい。また、前職と同じカメラ業界へ戻りたい。
募集背景
機種増と短納期要求の両方にこたえるための、開発体制の増強。
面接の流れ

デジタルカメラ開発部門の部長2人で選考し、全応募者の書類に目を通す。人事部門の選考はない。

筆記試験を行い、同日に開発部長2人が面接する。システム本部長と開発部長の場合もある。所要時間は約1時間。
社長、管理本部長、システム本部長など役員2人以上で面接。所要時間は30分〜1時間。
2次面接の当日か翌日に通知する。
【通過率:1〜2割】
【通過率:9割以上】
Part1
職務経歴のプレゼンテーション
カメラメーカーと受託開発会社での実務経験
飯田:
 本日は技術面接ということでいろいろと質問させていただきます。
元吉:
 はい。よろしくお願いします。
飯田:
 ではまず、【Point1】経歴書に沿って担当業務の内容をご説明願えますか? その中で転職の理由や志望動機にも触れてください。
元吉:
 【Point2】私は大学卒業後、○○○(カメラメーカー)へ入社し、生産工程で用いるソフトの開発を2年間担当しました。CCDの出力チェックソフトやAFのフォーカスオフセット値をカメラ側に書き込むソフト、AF解像ソフトといった、レンズブロックのチェックソフトが中心です。開発言語はVC++でした。
 工場がフィリピンにあったため、現地での運用テストからワーカー指導まで行いました。対象はデジカメを数機種担当していました。
 その後、現勤務先の×××(受託開発会社)へ転職しました。製品開発に携わりたかったからです。携帯端末のマルチメディア機能開発を行っています。担当は仕様策定とアーキテクチャー設計、それにフィールドテストです。

 今回御社を志望する動機はいくつかあります。まず、現職では担当業務が約3カ月単位で次々変わってしまうため、専門性を確立できずに不安なのです。次に、受託開発会社の宿命なのか、今の会社は製品をよりよくする姿勢に欠けるところがあります。さらには、カメラ業界へ戻りたいと思っています。
 これらの点から御社へ応募させていただきました。
Point1
[面接官]私は冒頭で単に経歴説明を求めるのではなく、過去の転職理由や当社への志望動機まで含めて、まとめて話してもらうようにしています。得意なスキルや詳しい知識までアピールしてほしいと指定する場合もあります。なぜかというと、答えを組み立てる力や表現力、瞬間的な記憶力を見たいからです。
[応募者]これまでに何社か面接を受けてきましたが、最初にまとめて答えるように指定されるのは初めてでした。しかし、質問の答えは整理してあったので戸惑いませんでした。
Point2
[面接官]元吉さんの選考では、同業のカメラメーカーである前職の経験にウエートを置きました。デジカメ内部の機能をどのくらい理解し、当社へ入社後にファームウェア設計ができる基礎を習得したのかどうか。また、今の会社に転職したあとは、前職ではできなかったどんな経験をしているのか。そんな視点で面接に臨みました。
Part2
カメラメーカーで学んだキャリアの詳細

聞かれたくなかった前職での開発スタイル
飯田:
 前職の○○○での仕事について伺います。【Point3】特に苦労した点はどこですか?
元吉:
 新製品の発売日は決まっている。レンズブロックの生産開始日も決まっている。しかし、肝心の開発が遅れている。そうすると、しわ寄せがきます。製品開発がある程度遅れるのは仕方ないので、私のところでいかにして遅れを取り戻すかに最も苦労しました。
飯田:
 【Point4】そのときの開発仕様はどういう形でくるのですか?
元吉:
 口頭ベースでした。当時の○○○はデジカメの後発で、手探り状態に近かったのです。要求の追加や変更はしばしばでした。しかし、経験機種が増えるにつれて要求を先読みできるようになり、前もって機能を盛り込んでおくようにしました。
飯田:
 受け取った要求はどんなドキュメントに落としていたのですか?
元吉:
 シーケンス図のような形です。
飯田:
 その図はレンズブロックのチェックの仕方と流れを示したものですか?
元吉:
 そうです。
飯田:
 ということは、その図に沿っていきなりコーディングに入った?
元吉:
 はい。当時の○○○ではそうでした。
新人時代に手探りで積み重ねたスキル
飯田:
 開発したソフトの規模は?
元吉:
 【Point5】おおよそ1Kから2Kラインです.
飯田:
 MFCのフレームワークの中に2K分、自分のコードを追加する形ですね? 設計書がなくつくって、テストはどうしていたのですか?
元吉:
 ソフトのインプットとアウトプットを見るだけでした。プリプロダクトで10台ほどのデータを取るわけです。
飯田:
 2Kラインのソフトをそのようにつくって、不具合はどのくらい出ましたか?
元吉:
 新人当初はまったく動きませんでした(笑)。開発のモデル手法も知らないころでしたから、ひとつずつステップ実行をかけて不具合をつぶしました。
飯田:
 何人くらいのチームだったのですか?
元吉:
 生産工程用のソフトをつくるメンバーは常時3〜4人でした。レンズブロックはOEM製品も扱っていたので、合計で12〜13機種をそのメンバーで回す体制を取っていました。
デジカメに欠かせないUSBとCCDの知識レベル
飯田:
 【Point6】デジカメにはUSBが付いています。USBのプロファイルには詳しいですか?
元吉:
 USBのマスストレージを使っていたのですが、モジュールは開発側から提供されていました。そのインターフェースをたたく形での経験にとどまります。
飯田:
 USB自体についてはそう詳しくない?
元吉:
 はい、残念ながら。
飯田:
 CCDについてはどうですか?
元吉:
 ファームウェア側があっての生産工程ソフトですから、CCDに関してもRAWデータをバイトデータに変換し、Windowsのビットマップ形式に直して表示するといった扱いでの知識レベルです。
Point3
[面接官]ここでは直面した課題とその対応を見たい。指示された範囲を超えて取り組む姿勢が感じられるかどうかを探りたいのです。なおこの質問は、仕事内容を詳しく尋ねたあとに回す場合もあります。
Point4
[面接官]この質問の目的は、元吉さんが前職で身につけた「開発の作法」を知ることです。答えを聞くと、まるで放任状態。その中でソフト開発の手腕をどこまで発揮できたのか。それを探るためにいくつかの質問を重ねました。
[応募者]ここから始まる質問が、私にはいちばんつらかったです。前職での開発スタイルが一般的に通用しないことは、今の会社に転職して十分に知らされました。マイナス評価とは思いましたが、ウソはいえないので、ありのままを話しました。
Point5
[面接官]新人時代の2年間に未整備の環境で、しかも課題を抱えながら、このくらいのボリュームのソフトをひとりで数本完成させていた。そこそこのソフト開発経験といえます。
Point6
[面接官]USBもCCDもデジカメの要素技術として欠かせないものです。深く理解しているほど評価は高まりますが、採用の必須条件ではありません。
Part3
現職の具体的な仕事内容

マルチメディアプレーヤー開発を取りまとめた経験
飯田:
 次に、今の会社での仕事について伺います。【Point7】カメラから携帯端末へ移ったのはなぜですか?
元吉:
 携帯端末だから転職したのではなく、製品へ組み込むソフトの開発をしたかったからです。端的にモチベーションの問題です。
飯田:
 生産部門から開発部門への異動は?
元吉:
 【Point8】打診しましたが、難しいとの返答でした。
飯田:
 今の仕事は開発の上流工程とテスト工程ですね。上流工程の仕事ではシステム構成にかかわる部分もあるのですか?
元吉:
 いえ、それはありません。最上流のシステム構成が決まったあとで、私たちのところへ下りてきます。私の担当はマルチメディアプレーヤーの細かな仕様決めとアーキテクチャー設計で、ミドル層とアプリ開発は別の部署の担当です。ブラウザでもメーラーでも、それぞれこのように役割が分かれています。
飯田:
 【Point9】その海外向け携帯端末用のマルチメディアプレーヤー開発を、取りまとめた経験があるのですね?
元吉:
 はい。RFCの3GPTの勧告に従ってまとめました。
飯田:
 RFCの規格は英文で読んだのですか?
元吉:
 はい。辞書を引きながらですが。
飯田:
 【Point10】話すほうと書くほうの英語はどうですか?
元吉:
 日常会話程度です。前職では1機種につき2カ月くらいはフィリピン工場へ出張しましたし、最近も足掛け3カ月、イタリアでフィールドテストを行っていました。また、読むのはどうにかなりますが、書くのはちょっと苦手です。
仕事のボリュームとストリーミングの知識
飯田:
 話を戻します。アーキテクチャーの設計とは具体的にどんな仕事ですか?
元吉:
 API層と物理層のインターフェースを取るところが中心になります。例えば、メディアプレーヤーで再生機能を使うにはAPI層のどのインターフェースをたたくようにするとか、この仕様を満たすにはパラメータがもう1個必要だとか、このエラー信号を受け取って処理する機能を設けねばならないなどです。
飯田:
 そうすると、アプリのプロセス間の制御も含みますね? システム全体の基本仕様だけでも、ドキュメントはかなりのボリュームでは?
元吉:
 電子ファイルで受け取るのですが、相当な量です。インターフェースだけでも100個くらいあります。このインターフェースを使ってこの機能を実現するというアーキテクチャーをつくったら、開発部隊の確認をとります。同時に、ほかの機能を担当する部隊へレビューし、相互チェックを行います。
飯田:
 そのレビュードキュメントは1件当たりどのくらいの量ですか?
元吉:
 200〜300ページが普通です。
飯田:
 【Point11】ストリーミングの知識はどうですか? コーデックに詳しくなりましたか?
元吉:
 ストリーミングはアプリ層の下にエンジンがあって、DSPでデコードしているのですが、プロファイルの仕様との関係でいろいろと難しい点が出てきます。
(ここで元吉さんは、携帯端末のストリーミングの難しさを仕様上の制限と関連づけて説明した)
イタリアでの3カ月間のフィールドテスト
飯田:
 最後に、つい最近までイタリアで行っていたフィールドテストについて伺います。テスト項目も作成したのですね?
元吉:
 はい。200項目くらいありました。本来なら端末メーカーさんのテスト部隊が人を出すところなのですが、このマルチメディアプレーヤーに限っては、仕様にいちばん詳しい私が行くようにと。
飯田:
 完全な運用テストだったのですか?
元吉:
 最終テストの1つ前の段階のテストです。無線の状態が悪くなったとき、MPEG-4のビデオに不具合が出ないなどです。
飯田:
 どうしてイタリアまで行く必要があったのですか?
元吉:
 通信キャリアさん固有の疑似無線を発生させる実験環境が、日本になかったからです。
飯田:
 向こうでは忙しかったですか?
元吉:
 【Point12】かなりハードに働いていたと思います。海外での出張では、大体ハードになると思います。
(続けて飯田氏は、現地でのデバッグ作業が困難だった理由を尋ねた。そして、待遇面や入社可能時期などを質問して面接を終えた)
Point7
[面接官]前回の転職の背景にマイナス要因がないかと思い、この質問をしました。人によっては、一時的にカメラが嫌いになって携帯端末を望んだ可能性もあるでしょう。
Point8
[面接官]元吉さんは面接の冒頭で当社への志望動機を話してくれましたが、そのベクトルは前回の転職動機と食い違っていません。マイナス要因を隠したりはしていないと判断できるわけです。
Point9
[面接官]携帯端末の組み込みソフトは非常に規模が大きく、1つの機能ブロックだけでも大きな開発になります。元吉さんが担当したマルチメディアプレーヤー開発の取りまとめは、それだけで一種のシステム設計をしたのに等しい。これは採用の決め手のひとつになりました。さらにいえば、デジカメがマルチメディアへ乗り込む時代ですから、彼の知識をそっくり生かせる可能性があります。
Point10
[面接官]ソフト開発では今、海外の部品プロダクトを購入し、英文メールでやりとりしながらカスタマイズするケースが増えています。「英文のライティング力」を求める割合が高まっています。
Point11
[応募者]この質問はうれしかったです。ニコンシステムにはストリーミング技術を熟知する人は少ないはずなので、アピールポイントになるだろうと考えていたのです。
Point12
[面接官]この答えには少し驚き、そして心身ともにガッツがある方だと判断しました。また、転職後の短い期間で、それほどの困難を伴う仕事に対応できる能力を身につけたものだと感心しました。
面接官はココを見た!
●カメラの要素技術・撮影技術の知識があるか。
●比較的大きなシステムの構造設計ができるか。
●チームで実際にコードを書いた経験がどれほどあるか。
 自動焦点や自動露出、画像処理、ストロボ調光、USB、CCDなどカメラの要素技術について、経験に基づく知識があるか。あるいは、撮影技術に造詣が深いかを探る。ビデオや携帯端末などの開発経験者には、デジカメと共通する技術のレベルを見る。また、ソフト開発スキルに関しては2点をチェックする。ひとつはシステム設計の経験。これはファームウェア、アプリを問わない。もうひとつはチーム体制でのコーディング経験。両方あるのが望ましい。
元吉さんはコレで決めた!
「ソフト開発の上流から下流までを経験した、
デジカメ内部の機能も知る技術者が欲しいのだとわかりました。
この会社なら思い切りやれると期待が高まりました」
 面接を受けてみて、ソフト開発の上流工程から下流工程まで経験した人が必要なのだとわかりました。また、デジカメ内部の機能にかかわる知識も大切だと実感できました。私の経験はどちらの点にも合致していると思い、ぜひ働きたくなりました。さらに、飯田部長はマルチメディア機能にも関心を示しました。ニコンでも必要な技術になったのかと認識を新たにするのと同時に、2社目での習得技術まで生かせる、とうれしくなりました。
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タイトルの横にあるニコンの看板は歴史のあるもの。熱烈なニコンファンはここまで来て、看板と一緒に記念写真を撮っていくとのことです。改めて自分のキャリアの方向性を確認し、新しい一歩を踏み出した元吉さん。そんなニコンファンの熱い期待にこたえてくだい!
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