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半導体、計測、制御……活躍フィールドは未知数 5年後にモバイル標準装備!?燃料電池開発者が足りない
 環境技術の本命とされてきた燃料電池が、いよいよ商用化の段階を迎えている。すでに登場済みの家庭用コジェネレーション向けに加え、モバイル機器向けの商品開発も加速。エンジニアの人材ニーズが急上昇する可能性が高い分野のひとつだ。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関洋子) 作成日:05.06.08
2010年には本格普及する? 燃料電池開発の今
2010年には25倍の市場規模になる!?
 水素やメタノールから電気を取り出す燃料電池(FC)の商用化がいよいよ目前に迫ってきた。自動車、コジェネレーション向けのエネルギー源として脚光を浴びていたが、近年注目されているのはノート型パソコン、PDA、携帯電話、さらには携帯ゲーム機などモバイル機器向けの二次電池ユースだ。

 燃料電池開発情報センター常任理事の本間琢也氏は「連続駆動時間はニッケル水素やリチウムイオンといった既存の二次電池に比べ数倍から数十倍、さらに燃料カートリッジ交換方式により充電時間も不要というFCはモバイル向き。価格面でもモバイルの場合は二次電池が結構高価なこともあって、ある程度競争力がある」と語る。富士経済研究所はモバイル向けFCについて、2010年には207億円の市場を形成すると予測している。これはFC単体の数字であり、FCを電源にもつ機器全体の市場規模はさらに大きなものになる。

「普及が本格化するのは国際民間航空機関の審議を経て航空機内へのメタノール、水素の持ち込みが解禁される2007年」(本間氏)というように、それを見越した開発競争はすでに佳境に入っている。小型FCの登場により、FC業界のすそ野が広がるのは間違いないだろう。

本間琢也氏
燃料電池開発情報センター
常任理事
本間琢也氏
実用段階まできた燃料電池開発の種類と用途
種類 リン酸型燃料電池(PEFC) 溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC) 個体酸化物型燃料電池(SOFC) 固体高分子型燃料電池(PEFC)
特徴 低温型
(200℃)。商用化段階にあるがコスト競争力がないので普及が抑えられている
高温型
(650〜700℃)。大型の発電所向け。現在、愛知万博会場で実証実験中。コストが課題
高温型
(700〜1000℃)。小型から大容量発電までの可能性がある。研究〜実用段階にある
低温型
(常温〜90℃)。現在、主流で開発されている。家庭用、自動車、携帯などで実用化段階にある
用途 工業用・
業務用コージェネレーション
大規模・分散発電 大規模・分散発電 家庭用コージェネレーション、自動車、モバイル
燃料電池開発エンジニアの採用市場動向
 燃料電池の開発は弱電、自動車、エネルギーなど、多くの業界で手がけられてきている。これまでは先行開発の色彩が強かったため、求人もそれほど多くはなかった。「過去、FCにターゲットを絞った採用を行ってきたのは主に自動車、エネルギーなどで、モバイル向けは少数でした」(リクルートエイブリック・松井雅治キャリアアドバイザー)。先行開発の段階では、世間からの注目度が高い業界で開発に大きなリソースが投入され、求人も活発化する傾向にあるためだ。求人内容は水素製造、電 極、電解膜などの要素技術開発からシステム開発、評価や性能保証まで専門性の高いものが多かった。

 それに対して今後求人が増えると考えられるのがモバイル向けの小型FC。現在は官学産で規格と規制の両面から種々な検討がなされている一方、電機業界を中心とし てFCを搭載したモバイル機器の試作やデモンストレートが盛んに行われている。こうした商品開発はスピードが要求されるために、今後、多くの人材リソースが必要に なる可能性が高い注目分野といえる。求人の中身もFCの基礎技術はもちろんのこと、製法・実装などの量産を見据えたものまで多岐にわたるものと期待される。

松井雅治氏
リクルートエイブリック
第一ビジネスユニット
EMCカスタマーマーケット
キャリアアドバイザー
松井雅治氏
 それでは、実際に今、燃料電池関連でどのようなエンジニアが求められているのかを見ていきたい。
燃料電池関連企業の開発事情と求めるエンジニア像
Company1 未来の世界標準狙うノートPC用燃料電池の開発 カシオ計算機
超小型改質器による水素方式に挑戦
 一見何の変哲もない普通のB5サイズノートPC。その背面に装着されているのは、普通の二次電池ではなく、液体の入った透明なカプセルを含むケース。これがモバイル機器、時計などマイクロデバイスを得意とするカシオ計算機(以下、カシオ)が商品化を視野に入れて試作した燃料電池ユニットだ。燃料電池の開発に着手したのは1992年。当初はダイレクトメタノール方式(DMFC)も試していたが、試行錯誤のすえ、98年には現在の改質器方式でいくことに決めた。

 モバイル向け電源としてDMFCが有力視されている理由は簡単。改質器を使わずメタノールの直接供給によって発電できるため、システムを単純、小型化できるからだ。が、水素型に比べて効率が著しく低いという欠点ももつ。開発を担当した塩谷雅治氏は、
「DMFCがモバイルに使われる理由は、ひとえに小型化と燃料積載性向上が目的なんですが、効率的には水素方式が優れています。そこでわれわれはちょっと発想を変えて、改質器、FC本体、燃料カプセルを二次電池サイズにまとめるにはどうしたらいいかというアプローチで開発を進めました」
 と、いきさつを説明する。

マイクロデバイス、制御回路などさまざまなスキルのエンジニアが必要
 試作改質器は大きめのサイコロ程度と、まさに“超小型”。触媒を塗布した溝付きの板ガラスを幾層にも張り合わせ、そこにアルコールを通して水素に変換する。カシオは時計や電卓に使用する半導体のコア部品を自社で生産するが、その微細加工プロセス技術が超小型改質器の製作に生きたという。

「ほかにもカシオ独自の技術で役立ったものはたくさんある。例えばアルコールの漏れを防ぐのに、時計の防水に使う気密封止技術が役立ちました。マイクロデバイスのシール技術は、実は時計メーカー特有の技術のひとつで、一般に考えられているより珍しいものなんですよ」(塩谷氏)

 もっとも、量産のための研究はまだまだこれからだ。「北海道のような寒冷地、気圧の低い富士山頂、ナトリウムの多い海辺といったFCにとって過酷な条件下でも確実に動くようにしたい」(塩谷氏)といった製品自体の改良、コスト、生産性の改善などが求められる。

「モバイル向けFCの製品化の過程では、いろいろなスキルのエンジニアが必要になってきます。例えばモバイルの場合、周りを濡らさないよう発電で出た水蒸気を回収するんですが、これには化学プラントにおける水回収のスキルが必要。燃料供給に使う超小型ポンプなどの機構にはマイクロデバイスの経験が生きます。機器への実装では制御回路、電源などをFCの出力特性に最適化させるといった作業も出てくる。すべての業界のエンジニアにチャンスがあると言っても過言ではありません」(塩谷氏)。ちなみに同社で、キャリア採用を行っている。

 カシオの試作ノートPCは、駆動時間20時間。充電時間ゼロという特性と併せ、モバイラーにとっては夢のデバイスといえる。
「2010年ごろには家電店やコンビニで普通にメタノールカートリッジが手に入るような時代を目指して頑張っています」(塩谷氏)。FC時代の到来が、にわかに現実味を帯びてきた。
塩谷雅治氏
塩谷雅治氏
青梅事業所
要素技術統轄部
第三技術開発部 次長

大学時代は材料工学を専攻。1984年カシオ計算機入社後、パーソナルロボット、プリンティングデバイス、有機ELデバイスなどの研究開発を経て、98年に環境に優しい携帯機器を実現する要素技術、特に新エネルギー源の研究を立ち上げ、現在に至る。
電池ユニット
試作ノートPC
カシオが開発した燃料電池ユニット(上)。この試作ノートPC(下)での駆動時間は20時間と、現在の2次電池より圧倒的なパワーを有する。
Company2 技術者の創意工夫が支える燃料電池のコア技術 NOK
部品メーカーの自主開発能力がモノをいう
「NOKが売っているのは燃料電池向けの部品ですが、PEFCのスタックでの評価を行える体制で開発を行っています。それはFCスタックを販売するためではなく、技術開発のため。FCの世界では、部品メーカーがいい材料、構造、製法などを自主開発することが求められているんです」
 こう語るのはFC向け部品の開発を担当する黒木雄一氏。

 NOKは自動車向けオイルシール最大手だが、そのシール技術と高分子化学などのノウハウを生かし、FC分野に進出した。同社の提案技術は多岐に及んでいる。固体高分子型燃料電池(PEFC)のスタックを構成するセパレーターとシールを一体化し、性能、品質面の安定性を向上させるセルシール、FCのスタック内に安定した湿度を与える円筒形の加湿膜モジュール、高圧水素シールをはじめ、FC関連のありとあらゆる技術を手がけていると言っても過言ではないほどだ。

「FCは昨今のブームで手がける企業が増え、現在は100社ほどまで増えています。ですが、FCを組むのに欠かせないシールをつくっている企業は、NOKを含めて数社しかない。もともと技術的な強みを生かせる分野だったんです」(黒木氏)

 NOKの技術提案はFCのアセンブリーメーカーにとっても興味の的だ。東京モーターショー、燃料電池シンポジウムでも、毎年のように注目を浴びる。 「今日においては、工業製品の多くは一から開発したりしない。既存技術の改良が大半なんです。それに対してFCは、まだまだゼロからの開発。だからこそ創意工夫のしがいがある」(黒木氏)


FCの設計エンジニアはゼネラリストでなければならない
 NOKが燃料電池を手がけるようになったのは99年。当初は黒木氏を筆頭に4人だった開発部員も、今では30人にまで増えた。開発指揮のかたわら人材育成も手がけてきたが、その経験によれば、FC設計を手がけるには個別技術に関するスキルの高低より、幅広い技術の理解や開発スケジュール管理、顧客や要素技術の開発を行う部署とのコミュニケーションといったプロデュース能力のほうが問われるという。

「例えばFCの材料開発については、ものすごく高いレベルのスキルが必要です。が、設計屋は素材屋と同じスキルをもっている必要はない。材料を考えるのではなく、FCの性能向上のためにはどのようなスペックの部品が必要になるかといったことを、顧客や技術開発とのコミュニケーションの中で決めていくのが仕事なんですから」(黒木氏)

 NOKも必要に応じて中途採用を行うことがあるが、採用の基準は経歴より、発想の柔軟性や技術開発に関する思想のほうを重視するという。 「ことFCに関しては、経験がなくとも論文で基礎を勉強していれば十分。大切なのは創造性の源たるセンスです」(黒木氏)。

 もともと自動車用、コジェネレーション用など高出力FC向け部品を主としていたNOKだが、モバイル向けの伸びを見越して、昨年から小型FC向けにも参入。すぐにでも量産ベースに乗るというコジェネ用との二本柱となる見通しだという。
黒木雄一氏
黒木雄一氏
技術本部副本部長兼新商品開発部部長
大学時代は電気化学を専攻。1977年NOK入社後、一貫してオイルシール関連の開発に従事。99年新商品開発部の開設に伴い、その責任者となる。燃料電池関連部品の開発を指揮するかたわら、人材開発にもあたる。
セルシール
製品写真
NOKが開発している燃料電池部品、セルシール(上)。同社の持つ最先端のシール技術を駆使されている(下)。
燃料電池分野への参入は今がチャンス!?な理由
材料、設計から量産化まで幅広い人材ニーズ
 燃料電池関連の求人はまだ少ないが、人材ニーズとなると話は別。家庭用コジェネレーション用に加え、モバイル向けでも市販化が見えてきたことで、材料系にはじまり、設計、評価、さらに量産化と、さまざまなジャンルでエンジニアが必要となることが予想される。

 最も人材ニーズが高いのは材料系だが、スキル面のハードルもそれなりに高い。「モバイル向けFC本体では電極に展開可能な金属担持触媒、特に貴金属触媒や電解質膜スキル保有者は歓迎されるでしょう。補器類関連では樹脂パッキンやシーリング剤、水素吸蔵合金の合金組成制御などもコアスキルとして高評価されます」(リクルートエイブリック・松井氏)。

 FC本体の設計は、金属、樹脂加工などの経験があればある程度、チャンスが広がる。「CAD上の設計どおりになかなか動かないという特性上、シミュレーションや計測、解析といった評価システムの経験があると取っつきやすいと思います。量産化技術ではMEMS、フィルム、液晶膜、半導体といった材料、製法の点でFCと共通性のある分野の経験があると有利ですね」(松井氏)。

燃料電池分野の開発は、モノづくりも使い方の提案もエンジニア次第
 今後FC関連の求人の発生が予想されている業界としては、PC、PDA、携帯電話などを手がけるモバイル機器分野、電源のエキスパートであるバッテリーメーカー、家庭用コジェネレーションの実用化を進めている重電業界、FCEVの開発を継続している自動車業界などが挙げられる。もちろんゴム、化学、金属、窯業といった材料系企業でも人材需要は徐々に増えていくだろう。

 エンジニアにとって、FCの開発は狭い意味での技術開発にとどまらず、自分の創造性を発揮できるという点で、面白みに満ちた分野といえるだろう。FCは電池やエンジンといった既存のパワーソースの代替ユースとしてだけでなく、エネルギーの可搬性を生かしたさまざまな新商品を生み出せる潜在能力をもつテクノロジーである。技術開発に携わりながら、同時に商品開発的な発想力も生かすことができるのだ。顧客である電機、エネルギー、自動車などの業界に技術、製品の提案を行うことによって市場喚起、マーケット開発を行うフィジビリティスタディーの人材需要も出てくることだろう。

 FCの商用化への取り組みはまだ始まったばかり。パイオニア志向のエンジニアにとって、黎明期ならではのやりがいに満ちたFCは、見逃せない分野といえそうだ。
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  関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ  
関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
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出張の際、「重いから持っていくの、やめようかな」と思いながらも、いつもカバンに入れてしまうノートPC。でも付属のバッテリーだと、2時間駆動が関の山。大容量のバッテリーがほしいとは思うものの、重さを考えると二の足を踏んでしまう。軽くて大容量のバッテリーの実現。燃料電池には相当、期待しているんです。
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