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新車開発期間を半分に短縮、エンジン部品コスト大幅削減etc 日産復活を担った現場エンジニアの有言実行力
カルロス・ゴ−ン氏の社長就任以来、奇跡のV字回復を遂げた日産自動車。多くのマスコミに販売台数の向上や財務状況の好転が伝えられた一方、現場の功績は十分に伝わってこなかった。今回は日産復活を支えた開発陣の変化をリポートする。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:05.03.30
はじめに:再検証、日産の大変化

再検証、日産の復活劇
 1999年10月、新たに提携先となった仏ルノー社から送り込まれたゴーン氏によって、「日産リバイバルプラン(NRP)」が発表された。その概要を要約すれば、資産・従業員のリストラクチャリング、意識改革による社内業務全般の合理化・効率化、車種の整理とデザインのてこ入れの、3つに分けられるだろう。こうしたドラスティックな施策により、約束の3年を待たずして、公約として掲げられた負債の圧縮や収支改善など、すべての到達目標が2年間でクリアされた。また、その後の2002年から2005年の中期計画「日産180」で示された3つの目標(NRP発表時と同様、ジャーナリストからはその高い目標の達成に懐疑的な見方が強かった)においても、「連結売上高営業利益率8%」「自動車事業実質有利子負債のゼロ化」の2つは初年度で達成するという快挙を成し遂げ、残るは「グローバルで100万台の増販」を残すのみとなっている。特に2003年度は売上高営業利益率が11.1%に達し、日産が世界で最も収益力の高い自動車メーカーのひとつとなったことを示した。
 その間、開発現場では何が起きていたのだろうか。

3人の現場エンジニアが語る「日産は変わった、それ以上に自分自身が変わった」
 リバイバルプラン発表直後の日産内部で、部門の壁を取り払い、社内横断的に意見交換するクロス・ファンクショナルチーム(CFT)が発足した。しかし、それも従来のタテ割りの組織と硬直化した体質を一掃しようとする活動の一つにすぎない。具体的には何が変わったのか。そこで、実際に変化を実行した3人のエンジニアに、現場におけるリバイバルプランを聞いた。
「同じ時間働くなら、頭を使っていたい」エンジン開発部門 花田さん
改革前、コスト軽視・エンジニアリング最優先だった

 花田さんは97年の新卒入社。だからリバイバルプランが実施されるまでは、新人として約2年半の期間を、新型エンジンの開発を取りまとめる部署で過ごした。エンジン開発は本体やバルブ回り、燃料噴射、点火、吸排気、冷却など、多数のパートから構成されるが、それら設計パートの調整と管理を担うセクションだ。

 新人であっても半年もすれば周囲のことが見えてくる。彼が最も首を傾げたのは、原価管理が、ほとんど機能していないことだったと言う。
「設計の段階ごと、パートごとに、原価目標は設定されます。ところが目標内に収まらなくても、開発工程がどんどん進められていくのです。よく言えば、技術優先。でもでき上がったエンジンは想定コストを大幅にオーバー。儲かるはずがありません。それに原価目標を達成していないのに次のステップに移行していく現場を見て、製造業である以上、これはちょっとおかしいのでは……と感じていました」

改革後、コスト意識が格段に高まり、知恵を絞るようになった

 2年後に花田さんは部品設計に配置転換され、エアクリーナーダクトの設計に着手。そのしばらく後にリバイバルプランが発表された。開発現場にも激震が走ったと語る。
「かつてない大幅な原価低減目標に、私も含めて周囲はかなり驚きました。しかも品質は落とすなという制約付き。無理に決まっている、できるはずがないという声が圧倒的でした。でも、グローバルで成功している他社の標準的な原価設定などさまざまなデータを見せられ、目標には裏付けがあることを示されました。それでも半信半疑でしたが、とにかくやってみようという雰囲気が芽生えていきました」
 1%削るだけでも厳しいといわれる原価低減。設定された高い目標値は、それまでの原価管理に疑念を抱いていた花田さんをも驚かせたらしい。

「それからは知恵を絞る毎日でした。コストのかからない設計や材質の追求。調達先の見直しと交渉。外部の情報のどん欲な収集など、お金をかけずに頭を使って良い製品をつくることに全力投球です。他部門や他社への関心も高まりました。すると新しいサプライヤーとのお付き合いで新たな知見が得られたり、視野を広げることで今までいかに自分たちの価値観だけで判断していたかが見えてきたりするのです。高いハードルでしたが、それだけに一つひとつクリアする度に達成感を得られます。こうして目標設定の大切さと強い達成意識が確実に浸透していきました。原価低減の目標値は1年で到達。品質はむしろ上がっているのではないでしょうか」
花田和久氏
日産自動車株式会社
パワートレイン開発本部エンジン第一先行開発部 新エンジン開発グループ
花田 和久氏

97年入社。入社後は、VQ30DET(セドリック)エンジン開発の取りまとめや、エアダクト部品設計・エンジン開発の品質向上(ムラーノ)を経験。現在は次期型エンジン開発のとりまとめを担当。

ムラーノ

ムラーノ
花田さんがエンジン開発を担当した「ムラーノ」
花田さんの有言実行力…一つひとつの部品に対するコスト意識を高め、知恵を絞って大幅な原価削減目標を達成
「高いハードルは意欲と技術共有化でクリアしました」…安全性能部門 伊藤さん
改革前、組織にスピード感がなく 何もかもあいまいだった

 伊藤さんは他社から日産に転職してきたキャリア採用組だ。転職の難易度が高いといわれる完成車メーカーだが、技術者派遣会社経由で自動車関係の3D-CADのオペレータとして活躍していたことが評価されたようだ。そんな伊藤さんだけに、「当時は強く感じていたわけではなく、今から振り返ってみれば……」と言いながらも、リバイバルプラン前の日産を客観的な目線で語ってくれた。

「まず、会社がシステム的ではありません。仕事の進め方の伝達、経営側の意思決定の通達、すべてにおいてスピード感がなく、はっきりと見えてこない風土のようでした。個人に落とされるはずの目標や役割もあいまいで、働きにくさを感じていました。さらに外部の情報に疎く、市場変化へのレスポンスも遅かったのではないでしょうか」

改革後、個人の役割が明確になり、部門横断で技術の共有化が進んだ

 伊藤さんは衝突安全性能の開発部門で、主に衝突時の乗員に対する衝撃伝達メカニズムの分析や開発車両ごとのシミュレーションを担当している。単なるオペレータではない。コンピュータ上で衝突時の乗員に与える危険性を検証し、そこで得たデータを基に、車体や内装・エアバッグの設計部門と材質の検討や形状の工夫を協議しながら安全性能を高めていくポジションである。リバイバルプラン後は、この安全性能の目標設定数値が格段に高められたという。

「JNCAPなど衝突安全の公的な審査機関から高い評価を得るという目標だけではありません。さらに、いかに安く、いかに軽くつくれるか。そうした多面的な指標も高いレベルで掲げられたのです。また、同時に個人の役割と目標が明確化されました。何とかクリアしなければならない課題が一挙に増えた感じです。さらに次々と動き出した新車開発で、業務負荷は激増しました。それでも技術力でカバーしようという気持ちはなえませんでした。理由は、個人の役割が明確化され、評価もそれに基づくようになったこと。そして他部門との連携強化です。クロス・ファンクショナルチームに倣い、車種横断で共通課題に取り組むチームができたり、最初から他部署を巻き込んだ企画や設計が盛んになったりしました。これで技術の共有化が進むとともに、工程のロスもかなり解消できたのです。日産が本来もっていた高い技術力を、存分に引き出せる組織になったのではないでしょうか」
伊藤博文氏
日産自動車株式会社
車両性能開発部 安全性能グループ
伊藤 博文氏

97年、技術者派遣会社から転職。以来、現在まで8年間、衝突安全性能開発に従事。現在は「フーガ」など、FR-Lプラットフォーム車種すべての側面衝突性能開発を担当

マーチ

マーチ
伊藤さんが衝突安全性能開発を担当した「マーチ」
(出典:独立行政法人 自動車事故対策機構 )
伊藤さんの有言実行力…他部署との活発な交流を通して、新型車両で高い衝突安全性を実現。JNCAP星6つの評価(最高評価)の技術を確立
「今はクルマづくりに強く関与している実感があります」…生産技術部門 矢嶌さん
改革前、他部門の仕事に口を挟める雰囲気ではなかった

 かつての日産車が好きで入社したという矢嶌さん。ところが入社するしばらく前から、日産のクルマづくりの魅力が薄くなっていることを感じていた。入社後、生産部門に配属されて思い当たる面をいくつか感じたと語る。

「仕事の進め方が硬直化していました。前例から逸脱しない。新たな挑戦の機会が少ない。そんな風土から出てくるクルマですから、ユーザーを感動させることはできないでしょう。実際、入社当時に担当した車種は、自社製品ながら魅力の面で疑問符がついていたことは否めません。試作車を見る度に、自分が好きだった日産車の魅力がスポイルされていてガッカリしていました」

改革後、社員が主体的にクルマづくりにかかわり始め、魅力的な車種が増えた

 矢嶌さんは新型車の生産を立ち上げるために、ラインの準備を行う仕事に就いている。製造手順の設計から、工作ロボットの配置や動作、各種治工具の手配、人員の配置計画まで、生産体制全体を組み上げる役割だ。新車開発の終了後に出番がくる立場に見えるが、リバイバルプラン後には、その仕事の中身が一変したそうだ。

「商品力をもった魅力的なクルマをつくるためには、立場や役割に関係なく意見が言える風土になったのが、リバイバルプラン後の大変化です。私も、企画や開発部門にどんどん意見を出していくようになりました。“ここを、このように設計してもらえば製造精度を上げられる”とか、“この部材を使えば、クオリティーが上がる”“その設計では設備改造コストがハネ上がるから、このように変更するのはどうだろう”といったような生産側の意見を生産の前段階で伝えることで、品質向上やコストセーブに貢献できるようになったのです。

 反対に開発側の意見や要望もダイレクトに聞けるようになりました。その象徴が、先ごろ発表された『ノート』です。このクルマは従来の半分の期間と半数のエンジニアで開発が進められました。生産プロセスをバーチャルに検証できる3次元モデルの採用が大きかったのですが、その導入効果を上げるため開発から生産まで一体となって意見を出し合った成果が、画期的な新車開発を実現したのだと思います」
矢嶌久道氏
日産自動車株式会社
生産技術本部 車両技術部 組立技術課
矢嶌 久道氏

96年入社。以来、「エクストレイル」「ムラーノ」「プレサージュ」「マキシマ」「ノート」の生産立ち上げを担当。現在は次期型SUV計画の取りまとめを担当している。

ムラーノ

ノート
矢嶌さんが新車生産立ち上げを担当した「ムラーノ」(上)と「ノート」(下)
矢嶌さんの有言実行力…部門を超えた提案と先端開発手法へ挑戦で、従来の半分の期間で新型車を開発投入

まとめ:開発で“変わった”日産で活躍できるエンジニアの条件とは?

 3人の話から、リバイバルプランが日産を根こそぎ変えたことが伝わってきた。やはり現場のエンジニアたちが日産復活の立役者なのだ。彼らの話を通して現在の日産でエンジニアに求められる資質も浮き彫りになった。
■日産で活躍できるエンジニアの条件
 リバイバルプランの本質は、エンジニアが本来もっていたスキルを引き出し、全社共有の技術力として活性化させたことにあるようだ。「今までいかに自分たちの価値観だけで判断していたかが見えてきた」(花田さん)。「車種横断で共通課題に取り組むチームができたり、最初から他部署を巻き込んだ企画や設計が盛んになった」(伊藤さん)。「立場や役割に関係なく意見が言える風土になった」(矢嶌さん)。命令系統が一方通行で硬直化した組織から、部門横断など横の交流が活発となることで、エンジニアたちの意欲がよみがえったのだ。今後、日産への転職を希望するなら、技術力は大前提としながらも、以上のような資質を今のうちから磨いておくことが肝要といえるだろう。
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  山田モーキン(総研スタッフ)からメッセージ  
山田モーキン(総研スタッフ)からメッセージ
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個人的な話ですが、私も日産の車(かなりの年代物ですが……)に乗っていて、そして今回の取材でも新型車に乗せてもらいました。もちろん乗り味やデザインなどあらゆる面で進化していて感心させられたのですが、それ以上に驚いたのは、「やっぱり日産のクルマだな」と実感させられたこと。その具体的な根拠を言葉にするのは難しいのですが、そう思わせる、日産の根底にある技術やエンジニアの思いは、きっと昔も今も変わらないのかもしれません。
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