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到達時間がわかる地震ナビ、世界最大の3次元震動台etc. エンジニアが巨大地震から人間を守る

犠牲者約30万人といわれる昨年末のスマトラ沖大地震、豪雪地域での避難が続く新潟中越地震、仮設住宅での孤独死など現在でも被災が尾を引く阪神・淡路大震災。巨大地震は人間の生命や日常を一瞬にして奪い、長期間に及ぶ苦痛を強い続ける。しかし、エンジニアが優れた技術を駆使すれば、被害は必ず軽減できる。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/酒井龍弘、岩見一太)作成日:05.03.23
Part1 国連防災世界会議で「世界の防災」はどう変わる
 2005年の1月18日〜22日に神戸市で行われ、168カ国が参加した国連防災世界会議。最終的には「兵庫宣言」と「兵庫行動枠組」が採択され、各国の協力によるインド洋警報システムも動き始めた。その一方では、具体的な数値目標が盛り込まれないなどの問題点も指摘されている。
インド洋津波警報システムは今後の課題に
合計で4,000人以上が参加した国連防災世界会議
合計で4000人以上が参加した国連防災世界会議
168カ国参加の世界会議で採択された 兵庫行動枠組(2005〜2015年の優先行動)
 国連防災世界会議の当初の目的は、1994年に横浜で行われた前会議の検証と次の目標設定。それがスマトラ沖大津波の発生で、インド洋での津波警報システムづくりが主題となった。
 しかし、米国は太平洋をカバーする津波監視システムの拡張を、日本は米国に協力して気象庁のデータ提供を、被災国のインドネシアやタイは独自運用のための資金供与を、インドは自国中心のシステム構築を、ドイツは人工衛星の利用を主張するなど、各国の足並みは必ずしもそろわなかった。
 最終的にはインド洋警報システムの内容は兵庫宣言に盛り込まれなかったが、国連を中心にこの半年で暫定運用を始め、2、3年後には本格運用を目指すことが決定した。

政治が終わり、これからは技術が動き出す
 防災世界会議の成果はほかにもある。災害発生時の国際間での協力の確認、NGO161団体が参加した草の根レベルの世界交流、各国の経験を収集して災害復興時に役立てる「国際復興支援機構」の神戸市への設置、警報を受けた住民が避難するまでの教育・啓蒙活動の実施などである。
 そして、兵庫宣言と兵庫行動枠組が採択された。兵庫宣言では、災害の被害軽減は国際社会の最重要課題である、すべての国は国民と財産を災害から守る第一義的な責任をもつなどが明記され、具体的な行動内容として行動枠組が発表された。
 しかし、各国のインフラ事情に大きな差があることから、具体的な数値目標は設定されなかった。積極的な指導が内政干渉となる、国家間の憂慮も背景にあるようだ。それでも、国連主導で自然災害への取り組みが始まったことは間違いない。これからは、世界中のエンジニアが動き出す。
Part2 阪神・淡路大震災の教訓が磨いた2つの技術力
 阪神・淡路大震災から10年。各分野の技術を駆使して、地震災害から人間を守る装置やシステムが開発されている。ここではインターネットを利用した「緊急地震速報通報装置」と、世界最大級の3次元震動台「E−ディフェンス」を紹介する。
地震の到達時間と予測震度を伝える「地震ナビ」
今から何秒後に地震が起こるか警告する通報装置
八木辰男氏
アペクセラ株式会社
ホームコミュニケーション&eコマースカンパニー
第二研究開発部

八木辰男氏 
 気象庁と社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が協力して、一般家庭に「地震の到達時間」をネット配信する実証実験が始まる。期間は今年4月からの1年間で、対象は首都圏、関西圏などの300戸。来年度内に実用化モデルの完成を目指す。このプロジェクトで中心的な役割を果たす装置が、アペクセラの「緊急地震速報通報装置」(製品名:地震ナビ)だ。

「地震には伝播速度が速い縦揺れの『P波』(初期微動)と、伝播速度は遅いが大きく揺れる横揺れの『S波』(主要動)があります。地震被害の多くはS波の到着後に起こります。そこで、気象庁が全国に設置したセンサーで震源近くのP波を検知し、JEITAがインターネットで情報を配信し、受信した地震ナビが演算をして、S波の到着時間と予想震度を割り出すのです。設置住宅には緯度経度や地盤などの情報が登録されています」(八木氏)

 情報が届くと、「緊急地震速報!震度6の地震が20秒後に発生」などと画面に表示され、同時に音声でも読み上げて警告する。昨年9月に発生した和歌山沖地震のケースでは、阪神地区の住宅であれば、地震発生35秒前に時刻や震度を知ることができたという。
「とにかくスピード。通信速度は上げられないので、1秒でも速く受信し、1秒でも速く演算し、1秒でも速く通報する。特に演算速度と、自動的に熱源の遮断や玄関ドアの開錠を行うホームコントローラーへの制御信号速度。このスピードを上げるのが大変でした」
エンジニアはすべて阪神・淡路大震災の被災者
 八木氏は関西出身、阪神・淡路大震災で被災した。マンションの9階に住んでいた彼は大きな被害はなかったが、当時一緒に働いていた仲間には家族を失った者も多い。そんな仲間のひとりから昨年、「開発を助けてくれ」と電話が入った。
「話を聞くと、被災を経験したエンジニアが集まって、地震の速報装置をつくるというのです。私は汎用機からC/Sまで担当したプログラマの出身で、当時は従業員10人ほどのソフトハウスを経営していましたが、どうしてもほっておけなかった。電話の友人は、震災で両親と祖母を亡くした男なのですから」

 八木氏がプロジェクトリーダーとなり、昨年8月から「地震ナビ」の開発がスタートした。4、5人のコアメンバーは全員が被災者。「なぜ技術で肉親を救えなかったのか」という悔恨を胸に開発を続けたという。細部の設計は数社の企業に発注して、地震ナビは12月29日にようやく完成。しかし、トラブルでダウン。プレス発表(1月14日)の2日前に本当の完成を見た。

「人命を救う装置だから、技術者としてのスキルのベクトルが上がる。これ以上やりがいのある仕事はありません。ただ、自分の会社は解散してしまいましたけど(笑)」
 地震ナビは消防署、学校、ハウスメーカーなどのほか、各国からも引き合いが続いているという。アペクセラに入社した八木氏は現在東京に住み、商品化に向けた開発の真っ最中だ。
緊急地震速報通報装置(地震ナビ)
緊急地震速報通報装置(地震ナビ)前面 緊急地震速報通報装置(地震ナビ)背面
地震ナビの背面:地震速報を衛星放送やFM放送などで受信したり、防災機器の制御や救助の要請などもできる
地震ナビの前面:インターネット経由で地震P波を検知して演算を行い、画面と音声(スピーカーは左下)で警報を発する
世界最大級の3次元震動破壊実験施設「E―ディフェンス」
巨大地震を起こしてビルや木造家屋を破壊する震動台
井上貴仁氏
独立行政法人防災科学技術研究所
兵庫耐震工学研究センター
企画室長 特別研究員
井上貴仁氏
 阪神・淡路大震災で亡くなった方は約6500人。その死因の80%以上が、建物の倒壊による圧死や窒息死だとされている。そこで課題となるのが建造物の耐震・免震構造だが、同じ震度であっても地震の揺れは一様でないため、詳細に設計された実物大の震動破壊実験が必要となる。
 その世界最大規模の実験施設が、今年10月から本格運用を始める「実大三次元振動破壊実験施設」(E―ディフェンス)である。

「阪神・淡路大震災の直後から計画が始まり、2000年に着工、2004年に完成しました。9月までは鉄骨の建造物をのせた性能試験を行い、10月から木造建物2棟、12月は6階建て鉄筋コンクリート建物の、震動破壊実験を行う予定です。また、来年2月には18m×4m×4.5mの巨大な水槽に水と砂を入れた、地盤の液状化実験を行います」(井上氏)

 E―ディフェンスはとにかく大きい。震動台の大きさは20m×15mで高さは5.5m、最大1200tの建造物を搭載可能だ。水平方向10本、垂直方向14本の加振機を用いて、震度7までの3次元震動を発生できる。震動台が置かれた実験棟のほか、加振機を動かす油圧ポンプユニットなどが設置された油圧源棟、実験準備棟、計測制御棟などが、兵庫県三木市の広大な敷地内に建つ。総工費は約450億円だ。

油圧で巨大ピストンを1秒間に2m動かす
 E―ディフェンスは独立行政法人の防災科学技術研究所が開発。常勤の開発スタッフ約10人に、土木、建築、油圧、機械など各分野のエキスパート延べ100人が協力した。井上氏も耐震工学のエキスパートである。
 3次元の装置は世界に20〜30あるといわれているが、E―ディフェンスの特徴はその巨大さに加えて、震動台の速度(200cm/sec)と変位(100cm)にある。どちらも世界最大値。直径約2mの加振機(水平)が、1秒間に震動台を最大2m動かすのだ。
「加振機の中をピストンが動き、その先の三次元継手が震動台を動かします。ただ、水平加振機はピストンの大ストロークのために全長が長くなり、たわみが生まれてしまいます。そのため、シリンダーの両端部に球面の軸受けを組み込んだり、1分間に1万5000リットルの油を流す弁を付けたりと、技術的な苦労は多かったですね」

 加振機はx、y、zの3方向にあるため、データを入力することでさまざまな震動を実現できる。阪神・淡路大震災の再現も可能だ。この性能を買われて、今年度から日米での共同研究もスタートする。
「準備研究段階を経て、2007年から実大実験の予定です。主な対象は橋脚や橋桁といった橋梁と、高層ビルなど鉄骨構造物の破壊メカニズムです。ただ、一般の人にも実際の実験を見て、防災の意識を高めていただきたいのです。それも私たちの仕事だと思いますから」
実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)
実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)震動台 実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)構造
構造:加振機は水平方向に10本(5×5)、垂直方向に14本。実験予定の鉄筋コンクリート建物は6層で幅15m×奥行き10m×高さ16m。構造物は2基の400tクレーンで移動させる
震動台:大きさは20m×15m。中ほどにいる2人との対比で大きさがわかる。1月の披露式では、右奥の住宅を使って震度7の実験を行った
実大三次元振動破壊実験施設(E―ディフェンス)水平加振機
水平加振機:全長約16m。ピストン(黒い部分)が油圧で加振機内を動き、その先の三次元継手が震動台を動かす
(提供:防災科学技術研究所、右上も同じ)
Part3 巨大地震と戦うエンジニアの仕事に終わりはない
巨大地震を含めた自然災害対策として、多くの分野の先端技術が、防災や復興支援に使われている。もちろん現在も技術開発中だ。ほんの一部ではあるが、いくつかの活用事例を紹介する。
R&Dが進むレスキューロボットと宇宙からのリモセン
 自然災害では、発生後の数十分、数時間が人命を救う境界線となる場合も多い。倒壊物の中で被災者を探索・救出する有効な手段が、レスキューロボットだ。キャタピラで移動して情報を集めたり、がれきを持ち上げて下敷きの人を助け出したり、ガスや一酸化炭素の濃度を測ったりと、さまざまなタイプがある。大学の研究室などで開発されるケースが多く、国連防災世界会議では国際レスキューシステム研究機構が実演を行った。

 人工衛星を使ったリモートセンシングも注目を浴びている。撮影した災害地域の画像を復興に役立てるだけでなく、気象や地表の変化を分析して災害発生を予測する試みもなされている。JAXA(宇宙航空研究開発機構)では、今年打ち上げ予定の観測衛星で撮影した被災画像と解析データを、他国に配信する計画を進めている。
情報の整理・共有に便利なGISと頼りになるモバイル機器
 GIS(地理情報システム)の活用は、2003年の米国カリフォルニア森林火災でも実証済みだ。電子地図上に住民、インフラ、各種設備などの情報を登録しておき、災害発生後の災害・被災状況と重ね合わせて現状を把握する手法。大人数での情報共有はもちろん、対策の拠点づくりや緊急対応の優先順位づけなどができる。新潟中越地震では、「新潟県中越地震復旧・復興GISプロジェクト」というWebサイトが立ち上がった。

 身近なところでは、大手通信キャリアによる災害情報の配信がある。KDDIでは今年度中に開始予定の携帯電話向け地上デジタル放送を使った、災害情報の提供やGPSを用いた避難誘導システムを計画している。  防災や災害復興に用いられる技術は、ここで紹介しきれないほど多種多様だ。そのすべての現場にはエンジニアがいる。人間の命や体、心の苦痛を救っているのは、そんな彼らの熱意だと思う。
災害で活用されているそのほかの技術
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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今回の記事づくりを通して、技術の素晴らしさを再認識しました。国連防災世界会議は中途半端に終わった感じもしますが、各プロジェクトがスタートすれば技術の現場はエンジニアのもの。八木さんのいう「ベクトルの角度が上がる仕事」に携わる人たちに期待します。
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