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フラッシュメモリの先駆者が戦略ベンチャーを設立! 舛岡富士雄教授が語る「私は日本発の三次元半導体で歴史を創る」
フラッシュメモリの開発者として知られる東北大学の舛岡富士雄氏が、次世代半導体デバイスの実現に向けて新会社を設立する。5年後に試作品を目指し、最終的なターゲットはクロック周波数で50GHzだ。実現すれば世界が変わる。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ) 作成日:05.03.16

はじめに
 三次元半導体「SGT」をご存知じだろうか。これまで平面だったチップを円柱形にして、占有面積を数分の1にするという画期的な次世代半導体だ。実現すれば低消費電力で低コスト、何より10倍以上の高速・高集積化が可能となる。目標値は50GHzのクロック周波数。「ムーアの法則」を覆し、産業と社会を大きく変えることは間違いない。
 この研究に取り組むのが、SGTの提案者でもあるフラッシュメモリの開発者・舛岡富士雄氏だ。その舛岡氏が外資系企業と提携して、SGTのためのベンチャー企業を立ち上げるという。日本発の世界標準MPUが生まれるかもしれない。
クロック周波数50GHzの次世代半導体を創る
――現在開発中のSGTについて聞かせてください。
 私が1989年に世界学会で発表したもので、SGTという名前も私が付けました。大きな特徴は、現在平面であるMOSトランジスタを、立体的な円柱形にする点です。シリコン、ソース、ゲート電極などの要素は従来のものと変わりませんが、このような形にすることで占有面積が数分の一になり、高速化と低消費電力化が格段に進みます。
 その性能を平面であるMOSトランジスタと比較した場合、MOSトランジスタでは最速のクロック周波数が2GHz程度ですが、SGTではこれが1桁上がります。つまり20GHzという計算になりますが、私の最終目標は50GHzです。
――昨年、インテルが4GHzのペンティアム4の開発を中止しました。50GHzとは夢のような話ですが、本当に実現できるのでしょうか?
  今の手法では半導体の集積化向上は難しいでしょうが、立体型で面積が少ないSGTなら可能です。ただ、すぐに実用化できるわけではありません。
 半導体産業の歴史は1950年代のバイポーラ、1970年代のDRAM、1990年代のフラッシュメモリと、20年単位で新しい波が起こっています。SGTが完成すれば、産業構造を変えるほどの第4の波になります。
 社会のあらゆる分野で使われている半導体が高集積化・高速化すれば、デジタル家電や通信機器、産業機器の様相がガラリと変わり、新しい社会、文化、ビジネスが起こるかもしれません。NAND型フラッシュメモリの現在の市場が1兆円とすれば、SGTの市場は数十兆円にも膨らむでしょう。私は5年後の2010年に試作を終えたいと思っています。
 原理的なSGTは既に完成していますが、これを作るとなると話は別。問題は山積しています。そして、そのために日本ユニサンティスエレクトロニクス(以下日本ユニサンティス)が設立されたのです。
舛岡富士雄氏
東北大学電気通信研究所教授
舛岡富士雄氏

1943年生まれ。71年に東北大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了。株式会社東芝へ入社。DRAM開発に携わりながら1980年にNOR型、86年にNAND型のフラッシュメモリを独自に開発。94年に東芝を退社して、東北大学大学院情報科学研究科の教授に就任。96年より現職。
三次元半導体「SGT」とは
 通常のMOSトランジスタは、金属のゲート(電導体)、酸化膜(絶縁体)、シリコン(半導体)で構成され、ゲート電極に電圧を加えて、絶縁膜下のドレイン・ソース間に流れる電流を制御する。ただし、平面的な形状なため、同一サイズで集積化を進めるには微細加工が必須となる。
 SGT(Surrounding Gate Transistor)はソース、ゲート、ドレインの電極を垂直に配置したことが特徴。シリコン柱にN型拡散層、酸化膜、金属を順に巻いていく、円柱形の構造となっている。舛岡教授によると、従来の平面型と比較した占有面積は数分の1になる。仮に10分の1になれば、平面型と同じ面積での集積度は10倍になる。
5年間で合計50人の半導体エンジニアが欲しい
――日本ユニサンティスについて教えてください。
 米国の経済誌『Forbes』に私の記事が掲載(2002年)されたのですが、その中でSGTに関するコメントを載せて、出資を募ったのです。その後、多くの方から連絡をいただきまして、最終的にケンブリッジ大学やダーラム大学と提携して多くの開発実績をもつ、ユニサンティスグループに決めました。私はCTO(最高技術責任者)の立場で、プロジェクトリーダーとして参加します。
 現在は一緒にSGTを研究する、半導体エンジニアを募集しているところです。まずは準備期間として、10人程度の人員でデバイスとプロセスのシミュレーションを行います。開発に向けた体制づくりで、10カ月程度をみています。
 その後、デバイス、プロセス、回路のシミュレーションを行い、試作、回路設計、集積化と進めますが、各プロセスにおいてエンジニアの増強をはかり、最終的には50人の体制になると思います。
――精鋭をそろえるにせよ、思ったより少ない人数ですね。
  人数は関係ありません。フラッシュメモリもそうでしたが、全く新しい構造のデバイスを生み出すのは個人だと思います。逆にいえばそんなエンジニアが欲しい。MOSトランジスタの動作原理、集積化手法、問題点などを理解している人。知っているだけではなく理解をしていて、その内容を自分の言葉で表現でき、新しいアイデアが出せる人です。
 インテルは半導体エンジニアが約5000人、年間予算が約5000億円と聞いています。対するわれわれは50人。だからこそ、「やってやろう」という人材に期待しています。
――SGTの研究はいつからスタートするのですか? また、世界中にSGTの研究者はどれほどいるのでしょうか?
  SGTの研究は、エンジニアが集まればすぐにでも始めたいですね。私はエンジニアの能力を見抜く目はもっているつもりですから。
 また、私の知る限りですが、SGTの研究を行っている大学、企業、研究機関などは皆無に近いと思います。少なくとも今回のように組織だって、本格的に研究に取り組むケースは初めてでしょう。


――それはなぜですか?

 わかりません(笑)。
できるエンジニアとできないエンジニアの差

――日本のエンジニアを見て思うことはありますか?
 現状に文句を言う人が多すぎると思います。会社の仕事を100%こなしたうえで自分の好きなことをやれと言いたいですね。与えられた仕事が満足にできない人は、新しいことなどできないと思います。
 私が東芝時代にフラッシュメモリを開発したのは、本来のDRAM開発を終えた後の、プライベートな時間を使ってのことです。SGTもそうでした。「オレは本当は優秀なエンジニアなのに、会社がダメだから能力が発揮できない」などという人は、そんな言葉をいった瞬間に本人がダメになります。そもそも、自分のやりたいことが会社でできるなど思わないほうがよい。
――なぜそのような仕組みができてしまったのでしょう?
  日本がアメリカの物まねばかりをしてきたからでしょう。その傾向は現在も変わっていません。例えば、インテルやサムソンのトップは、自分の言葉で技術が語れて、ビジネスに広げて、必要があれば即決できる。フラッシュメモリのときも、私が国際学会でフラッシュメモリを発表したら、インテルはすぐに500人のエンジニアを投入して製品化しました。そんな判断ができる管理職が、日本に何人いるでしょうか?
――最後になりますが、エンジニアの理想の働き方とはどのようなものだと思いますか?
  あくまで私の考えですが、社会や人を幸福にするような、技術や製品を開発することだと思います。単に好きなことをやっても仕方がない。そんなことに意味はない。
 私がSGTの研究を続けているのは、その実現が人間社会に役立つからです。これはDRAMでもフラッシュメモリでも同じでしたが、SGTの場合は日本発の次世代半導体デバイスが、世界標準のMPUとなるのです。
 人の役に立つ技術を開発する。エンジニアのモチベーションをこれ以上高めるものが、ほかにありますか?
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
一見温和に見える舛岡氏ですが、話す言葉が力強く、知らぬうちに何かに押されているような気持ちになりました。以前は日本のお家芸だった半導体。その栄光を取り戻すのがフラッシュメモリの舛岡氏率いるプロジェクトチームだなんて、今からワクワクしてしまいます。

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