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自動車エンジン開発の最前線に戻りたい!

“ブランク”を乗り越え転職を成功させたY・Sさん

新卒で入社した自動車メーカーでエンジン開発の部署に配属されたY・Sさん。開発だけでは視野が狭くなると思い、希望して配置転換。他部署で得た経験をいずれエンジンの開発に生かすつもりだったのだが、そのまま社内漂流。気がつくとエンジン開発に戻る道は転職しか残されていなかった……。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:05.2.23

キッカケ編
よかれと思ったことが裏目に出た

高度なエンジン設計に没頭した新人時代

 大学で自動車エンジンの研究を行い、学校の推薦枠を利用して希望どおり中堅自動車メーカーA社に入社できた。当初、このA社に決めたことに満足していた。世界的な大手メーカーと異なり、エンジン開発部門はそれほど巨大組織ではない。それゆえ、部品開発は無論のこと、各種試験や部品調達から何から、いろいろな業務を任された。多忙だったが、中身の濃い新人時代だった。実際、エンジンの開発は多項目にわたる。エンジンブロックやヘッド、ピストン、シリンダー、カム、クランクシャフトといった主要部品に加え、点火・制御関連や吸排気関連……。基本レイアウトの設計に加え、何百もの部品設計がある。新規の開発もあれば、従来の部品や汎用部品を用いることもある。こうした複雑な構成をもつエンジンだけに、幅広くエンジン開発に携われたのは、エンジニアとして幸せだった。

 そして6年がたち、自分でも実力がついてきたと思い始めたころ、さらに前向きな欲が出てきた。より良いエンジン開発のために、生産計画や製造技術等の部門を経験したいと思ったのだ。さっそく異動願を提出したところ、希望どおり生産計画の部門に配属された。この意欲が裏目に出ようとは、そのときはまったく想像もしていなかった。

元には戻れない道だと気づくのが遅かった

 エンジン開発部門から離れて、最初に配属されたのは生産計画を担当する部門だった。新車開発の長期スケジュールがあり、それに基づいてエンジンやシャーシ、ボディーといった構成ユニットの開発・生産計画が決められる。次に、目標性能や生産コスト、製造ライン、要員、調達などの具体的なアウトラインが決められていく。開発・製造全体を俯瞰(ふかん)することができ、エンジン開発のために貴重なスキルを得たと感じた。ただ、やはり自動車開発の華はエンジン、と再認識もした。各社が高出力・高燃費・低振動・低排出ガスのエンジン開発にしのぎを削っているのが、いったん現場を離れるとよく見えたのだった。

 そんなある日、製造技術部門への異動が申し渡された。これも、以前に希望していた業務である。高い精度が求められるエンジンには加工技術が大きくかかわってくる。製造技術を押さえておくのはエンジン開発において意義があると考えていたのだった。製造技術の部門でも見識の幅を広げることができたが、そろそろエンジン開発部門に戻りたいと思い、上司にそれとなく打診してみた。ところがどうも曖昧な返事。このとき、もしかしたら戻るイスがないのかと不安になった。程なく、今度はテスト部門に異動。もうエンジン開発からはかなり遠ざかってしまった。いよいよ当初の構想から大きく外れてしまったことを自覚して上司に強く異動を訴えたが、今さら戻すのは難しいとはっきり言われた。
 
PROFILE
自動車メーカー
エンジン開発エンジニア
Y・Sさん(31歳)

1993年に私立工大を卒業。専攻は自動車エンジンの研究。学校推薦で某自動車メーカーへの就職が決定。希望していたエンジン開発に携わることになった。
Y・Sさんの転職活動DATA
前勤務先 自動車メーカー
テスト担当エンジニア
転職した時期 2003年 12月
活動期間
(決意〜内定)
約6カ月
転職理由 エンジン開発に携わりたい
会社選びで優先したこと 仕事内容
実際に応募した社数 7社
内定社数 1社
落ちた社数 5社
辞退した社数 1社

応募からの日数
B社:トラックメーカー
C社:二輪車メーカー
D社:自動車メーカー
E社:自動車メーカー
F社:自動車メーカー
 
B社
C社
D社
E社
F社
書類
選考
7日
8日
11日
20日
30日
1次
面接
12日
 
13日
(辞退)
23日
35日
(内定)
2次
面接
19日
       
3次
面接
24日
       

 それからしばらくはショックで仕事に身が入らなかった。もう転職しかない。そう思うようになった。今までのキャリアを生かせるエンジン開発の仕事にきっと巡り合えるといった、妙な自信もあった。
転職準備編 
ネットを活用して情報収集

勢いでA社を退社。転職先候補の情報収集を開始

 理想をいえば在職中に次の会社を決めたいところだったが、会社との意見の食い違いでぎくしゃくしてしまわないうちに、退職することにした。お世話になった会社だけに、身の入らない業務を続けて迷惑をかけたくないという気持ちもあった。

 果たして自分のキャリアは評価されるのだろうか。機械設計エンジニアとしての実力には自信があったが、他社のエンジン開発部門は公募をしているのだろうか。そんなことを考えながらネットで情報収集を始めた。すると、多くのメーカーが採用活動を行っているようだ。乗用車メーカーだけでなく、二輪やトラックのメーカーまで対象を広げてアプローチすることにした。

エンジン開発+αの実績を訴求する経歴書を作成

 結局、7社に応募書類を送付した。職務経歴書はエンジン開発の実績をクローズアップしつつも、エンジン開発以外の経験も正直に書き加えた。さて、どんな返答がくるだろうか。
活動編 
中途半端なキャリアで苦労するも1社に合格

まず、書類審査で2社から不合格通知が届く

 最初にレスポンスがあったのは世界的な大企業2社からで、どちらも技術に定評がある企業だった。いずれも入社できるのであれば万々歳の企業なのだが、封書を開けると残念な内容だった。この2社の不合格通知は先行きに暗い影を落とした。どこも相手にしてくれないのではないかという不安が頭をよぎったのだ。

続けて3社から手ごたえ、しかしキャリア形成に問題が……

 書類を提出して2週間ほどたったころ、3社から相次いで色よい返事が届いた。面接の打診である。いよいよ本格的な転職活動が始まったのだと感じた。まずはトラックメーカーのB社を訪問した。適性検査の後、面接を受けた。任されていた仕事や、生産計画への配属理由を聞かれた。いずれも答えを用意していたので、スムーズに対応できた。

 次に、二輪車メーカーC社で面接。適性検査の後に面接を受けたが、翌々日に不合格通知が届いた。落ち込んでいる暇はない。すぐに大手のD社の面接に臨んだ。学力検査を受けて、面接段階に入ったのだが、何だか様子が違う。出席したのはエンジン部門の方ではなく、他部門の部長だった。話を進めると、トランスミッション部門での採用を進めたいらしい。もちろん希望と違う。それではA社を辞めた意味がない。失業中ではあるが、ここは初心を貫いて辞退することにした。

 すぐさま、B社の2次面接があった。学力テストを受け、前の面接と同じような質問に答えた。慎重な会社だ。数日後に再び面接の案内が届いた。何とか最終面接に進めることができたようだ。ところが、ここで落ちてしまう。何度も面接に呼びだして申し訳ないと思ったのだろうか、電話で落ちた理由を丁寧に教えられた。やはりエンジン開発から離れていたときのブランクに問題があったらしい。エンジン部門でずっと活躍していたのであれば、確実に採用したのだそうだ。

エンジン開発への思いを訴え、最後の最後で転職活動が実った

 まだまだ方向転換はしない。残り2社からも面接の案内が届いていたからだ。各社ごとの状況は違うはずだ。自分のキャリアと技術を買ってくれる企業があるはずだと自分に言い聞かせていた。

 まずは大手E 社の面接に臨んだ。ここでは単刀直入にシビアな質問が浴びせられた。「エンジン開発から離れた間のブランクを自分としてはどう考えているのか?」というものだった。うまく答えられないと採用対象から外れてしまうはずだ。何とか、「エンジン開発の最新動向はネットや専門誌でチェックしている。他部署の位置からもエンジン開発部門の動きを見ていた」と答えた。やはりブランクを気にしているらしい……。期待もむなしく、E社は1次面接で落ちてしまった。

 残されたのは中堅F社。もう後がない。ここで落ちるとエンジン開発にこだわっていられなくなる。最後の砦だ。ここでも他社と同じような内容で突っ込まれた。“ブランク”をどう挽回するか、最先端の開発についてこれるか、何度も聞かれた質問だ。今までは、何とか理路整然と答えようとしていた。だが、それは言い訳がましく聞こえるのではないかと反省し、今回の面接ではエンジンに対する思いと意欲、それに実績だけを訴えた。そのせいか、面接官と話が盛り上がった。今までにない流れである。そして面接を重ね、結果的にこのF社から合格通知をもらうことができた。A4の紙に合格した旨と、配属部署、待遇、入社手続き等が簡潔に書かれている。うれしさのあまり、この通知を読む手が震えていた。とうとうエンジン開発の最前線に戻れるのだ。ようやく無念さや焦り、不安などから開放される日がやってきたことを実感した。
転職活動考察

 自らまいた種が、このような回り道の原因になるとは考えもしなかった。今になって思えば、自動車のエンジン開発は、機械エンジニアのだれもが憧れる花形の職種なのだ。放っておいても優秀なエンジニアが集まる。自ら降りてはいけないステージだったのかもしれない。それにしてもギリギリの合格だった。無職の期間は3カ月にも及んだ。この間、不安や焦りと戦いながらも、面接を重ねるごとに自分のアピール内容や、質問に対する返答が的確なものになっていった。提出書類もブラッシュアップしていった。もともとが難関の職種。すぐに転職先が決まるはずはないのだ。反省材料があるとすれば、やはり在職しながらの転職活動が望ましいということか。それと、転職の原因となったキャリア形成の甘さだ。その時点での自分のスキルの見極め、市場価値、ニーズやタイミングを見誤ったから、思いどおりに行かなかったのだろう。次に、自らキャリア形成のために動く必要性を感じた時は、冷静かつ客観的な判断を持って挑もうと思う。
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